とある川岸に、「おかか先生」と呼ばれる野良猫が住んでいました。 | |
夏はうだるように暑く、冬は身を切られるように寒い、この川岸。 ここで暮すのは、大変なことです。 |
|
けれど、おかか先生は、不平も愚痴もいわず、毎日けなげに生きているのでした。 | |
さて、ある日のこと。 天上の極楽の蓮池のふちから、お釈迦様が下界を見おろして、おかか先生の姿を、つぶさにご覧になりました。 |
|
お釈迦様は、おかか先生をあわれと思し召して、一本のネコジャラシを、下界へとお下(おろ)しなさいました。 | |
このネコジャラシにつかまって、昇っていけば、天上の世界へと行くことができるのです。 「えっ! 極楽へ行けるのかい!?」 |
|
「よーし! も、もう少しだ!」 | |
「や、やった!」 | |
「つかまえたぞ!!」 | |
ところが、なにぶん猫のことですから、ネコジャラシにしっかりつかまる、ということができません。 | |
無意識のうちに、じゃれついてしまうのです。 | |
おかか先生は、極楽浄土のことなどすっかり忘れて、ネコジャラシ遊びに夢中になってしまいました。 | |
「わ~っはっは~! 楽しいなあ!」 | |
おかか先生が余りにも楽しそうなので、お釈迦様は猫の姿に身を変えて、下界へとお越しになりました。 | |
そして、ご自分で実際に、ネコジャラシ遊びを体験なさったのです。 | |
「う~ん楽しい! 猫として生きるのは、こんなにも楽しいものか!」 | |
お釈迦様は、猫の姿のままで、下界にとどまる決心をなさいました。 | |
そして ―― 二匹の猫は、今も毎日、仲良く幸せに暮しているのです。 |