釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

あざみの歌

2016-08-18 19:11:11 | 文化
昨日は台風7号のせいで雨と風がいつもより強かったが、東北では常に勢いが弱くなっているので、四国で経験していた台風とはずいぶん印象が異なる。おかげで、被害も少なくて済む。過ぎ去った後も今朝は比較的雨が良く降った。一時は雷も鳴っていた。それも午前中には弱まり、最高気温も26度程度であった。職場の裏山を見ると、アザミが雨と風のせいで倒れかけていて、蕾をたくさん付けているのが見えた。近くを人がたくさん通るが、誰も気にしてはいない。アザミがあることすら気付いてはいないのだろう。山野にひっそりと咲く、このアザミが好きだ。そして、アザミを見ると、八洲秀章の作曲した「あざみの歌」を思い出す。八洲は他にも「さくら貝の歌」、「毬藻の唄」など名曲を作った。北海道にいた頃、阿寒湖の遊覧船に載ると、「毬藻の唄」が流れ、船上から見える阿寒湖と歌が重なって、その情景がいつまでも記憶に残った。八洲の作った多くの曲には文語体の歌詞が付く。戦後間もなくはいずれの歌にもこうした文語体の歌詞が付けられていた。しかし、高度経済成長とともに歌詞は次第に口語体へと変わって行った。現代の若者の歌はさらに口語体と言うよりも日常語と言っていいような歌詞に変わっている。歌は本来詩であった。詩はわずかな言葉の中に深い人の感情を表現したものだ。わずかな言葉でいかに深い感情を表すか。間接的な表現ほど感情は深くなる。現代の若者の歌はあまりに直接的で、かえって深みを失っているように思う。そして、直接的で、深みを失っているのは若者に限らず、現代人のすべてがそうなってしまったようだ。明治政府は言文一致を決めたが、それが浸透するのに100年を要した。しかし、それによって、詩や小説と言う言葉による表現手法の根幹を崩してしまった。詩や小説は人に想像力を働かせることを求めたが、今や、その想像力はわずかに求められるだけで、一律の解釈しか出来ないものになってしまっている。時代は多様性ではなく、同一性を強いる時代になってしまったようだ。
桔梗

71年目の「敗戦」記念日

2016-08-15 19:19:58 | 社会
今朝の気温は20度で、朝や夜にはもうすっかり秋の気配を感じる。日中は釜石では28度まで上がった。内陸は30度に達している。日中でも日陰だと風が吹き、涼しい。日中の部屋の中でもクーラーを使わないで過ごせるほどだった。今年の釜石での夏は例年より暑さが和らいでいるようだ。夏が短く、もう秋になって来ていることを肌で感じる。庭ではレンゲショウマや松虫草、紫陽花が咲いている。 今日は71年目の「敗戦」記念日だ。午前中には市の放送があり、正午に「終戦」記念のサイレンを鳴らすと報じられた。「敗戦」を「終戦」と表し、「占領軍」を「進駐軍」と表していることを指摘したのは亡くなった加藤周一氏である。海外での生活が長かった氏はそれゆえに日本をよく見ていた。日本人の過去の文化から、日本人は「部分」を重視し、空間的には「ここ」、時間的には「今」を重視することを芸術や俳句、短歌などを例示して明らかにされた。そうした精神構造とも関連し、曖昧な表現が多用される。氏はそれをユーフェミズム(Euphemism、婉曲表現)だとされる。直接的な表現を避け、曖昧な表現に変える。官僚や政治家だけでなく、世間一般でも同じような表現が使われる。曖昧さは責任の所在を不明瞭にし、無責任の連鎖をもたらす。「けじめ」がないために同じことが繰り返され、結果が良くなくとも誰も責任を負わない。福島第一原発事故もそれによる放射線被害も責任は曖昧にされ、そのために被害の救済もいい加減になる。けじめのない「終戦」のために今また同じ轍を踏もうとしている。さすがに天皇一人がその流れに抗しているように思える。
松虫草

自然資源

2016-08-12 19:13:56 | 自然
各地で気温が上がる真夏だが、釜石は沿岸部にあることも手伝って、ここのところ、朝晩はとても涼しく、今朝は20度を切っていた。日中も今日は27度くらいで、夕方には23度まで下がっていた。お盆休みになって来ると、もう夜には虫たちの声を聴くようになった。日中は日射しが強く、セミたちが鳴くが、涼しい風が吹き、時には日陰だと半袖では肌寒さえ感じることもある。そんな時にも大きく青空の広がった空には夏の力強い積乱雲が見える。 1950年の世界人口は25.6億人であった。第二次大戦が終わって、各国が平和を享受し、人口は急速に増えて行き、1960年には増加率が最大となり30億人を超え、以後、増加率は次第に低下したが、新興国が出て来た1986年に一時的な増加率の小ピークを迎え、49.3億人となった。以後増加率は着実に低下しているものの今では73億人に達しており、1950年の3倍近い人口となった。現在の予想では2050年までに97億人になると言われる。一方で、地球上の自然資源は限られており、米国の、国際環境NPOグローバル・フットプリント・ネットワークGlobal Footprint Networkによると、地球が1年間で再生できる水や食料、清浄な空気などの自然資源がすでに8月8日で消費されてしまった、と言う。1年間で再生される量を1年間かけて消費すれば現在の自然環境を維持出来るが、それよりも年々早く消費されており、地球の自然資源が「蓄え」を枯渇させようとしている。1960年代には人類は1年間に再生される自然資源の4分の3しか1年間に消費していなかった。しかし、1970年代には急速に消費量が増し、1年よりも年々早く消費するようになってしまった。現在の消費スピードを維持するには地球が1.6個必要であり、世界が米国と同じような消費を行うと、地球が4.8個も必要になる。日本は少子高齢化で人口は少なくなって行くが、生活スタイルは大きくは変わらないだろうから、資源の消費は多い状態が続くだろう。消費率は先進国の方が圧倒的に高いので、先進国が率先して生活スタイルの変更に取り組んで行かなければ、まさに自然資源の枯渇が現実的になって来るだろう。温暖化を含めた地球環境の変化は先進国や新興国の資源消費を再考しない限り、止められないだろう。
バラ

中央銀行の異常さ

2016-08-10 19:18:10 | 経済
日本銀行は国債を高値で買い入れているだけでなく、株や不動産にまで手を付けている。日本銀行のHPの「指数連動型上場投資信託受益権(ETF)および不動産投資法人投資口(J-REIT)の買入結果」を見ると、8月だけでも株に1日12億円、2日359億円、3日359億円、4日719億円、8日12億円を投じ、不動産にも2日から5日まで連日12億円ずつを投じている。こうした買い入れは毎月行われている。もはや中央銀行ではなく、市中銀行となってしまっている。安倍政権の要請で総裁となった黒田氏はアベノミクスの失敗を覆い隠そうとなりふり構わない姿勢になっている。株式の維持と不動産価格の維持で景気の悪化をないものとしようとしている。しかし、こうした本来中央銀行が行ってはならない買い入れで、中央銀行に多大な負担を負わせてしまった。安倍政権下では歴代の首相が手を付けてはならないとして来たものに手を付け、黒田総裁にも中央銀行が手を付けてはならないとして来たことに手を付けさせてしまった。日本銀行による国債や株、不動産の買支えによる景気低迷の隠蔽はいずれ終わらせなければならなくなる。その時にはむしろ巨大な経済混乱をもたらすことになるだろう。中央銀行のこの危うさを知る人たちからは「出口なし」と囁かれている。やめるにやめられなくなった、まさに麻薬である。やめれば現状は崩れる。政治家と官僚はこれまで駆け引きをしながら、国を運営して来た。エリートである官僚は政治家の行き過ぎにはブレーキをかける役割を果たした。黒田総裁の出身母体である財務省は官僚の中の官僚と言われる超エリートだが、その財務省もが中央銀行の今のあり方を是認している。そうなると、すでに財務官僚までが、もはや日本の国家債務は正常なやり方では解決出来ないと考えているのかも知れない。あえてハイパーインフレに向かう道を進んでいるのかも知れない。それも一つの解決方法には違いないが、あまりに国民に対して無責任過ぎる。ハイパーインフレは国家には都合が良くても、それによって苦しめられるのは国民である。歴史は常に統治者の失敗を国民が負って来たことを示す。戦後地道に国を立て直した後に、うまく行き過ぎて、国の指導者たちが傲慢になり、はしゃぎ過ぎた。気が付けば、先進国中で最悪の債務を抱えてしまった。今また指導者たちは「自己責任」をとらず、国民に大きな負担をかけようとしているように見える。
むくげ

若年層の非正規雇用の拡大

2016-08-09 19:20:20 | 社会
総務省の労働力調査を見ると、1991年のバブル崩壊後から、それまで20%で推移していた非正規雇用の割合が増え続け、2015年には35%を超えた。特に若年層での非正規雇用が増加していることが問題だ。年収300万円未満の者が男性の20代では54.6%であり、男性の30代では20.4%になる。非正規雇用に限れば、20代男性では79.5%にもなり、30代でも62.4%になっている。こうした低収入は結婚とも相関し、年収300万円を境に既婚者が増えている。日本は長寿になったが、やはり、労働力は若い世代にかかっている。その若い世代が安定した生活が出来ない状況は社会に様々な影響を与える。少子化の改善が進まず、若い世代からの税収や社会保障保険料が減少し、年金や医療保険の維持がますます困難になる。さらには仮に結婚しても、晩婚化が増加し、晩婚化による子供への影響もある。女性の非正規雇用では年収は男性以上に少なく、年代に関係なく250万円未満となっている。同じ仕事をしていても正規雇用と非正規雇用では賃金が異なる。企業にとっては少しでも人件費が安い方がいい。しかし、長い目で見ると、実際には目先の安さよりも正規の安定した労働の方が、企業の発展を促す。1980年代に米国流の新自由主義の考えが入り、企業は目先の利益だけを考えるようになる。それにバブル崩壊が加わり、安易に調整可能な人件費の削減として、非正規雇用を拡大して行く。これによって、日本全体の労働者の賃金は低下し、消費が減退した。国の経済の成長の指標である国内総生産GDPの6割は消費が占めている。消費が減少すれば、物が売れず、企業も生産を縮小する。この悪循環が失われた20年、今や失われた30年に向かわせている。金利を調整すれば、あるいは貨幣を増刷すればインフレになると言う単純な社会構造にはなっていない。価格の形成の原則は需要と供給の関係である。需要、消費が旺盛であれば、価格は上昇し、インフレになる。そのためには将来ともに賃金の上昇がなければならない。一時的な所得であれば、現状ではむしろ貯蓄に回されてしまうだろう。新自由主義は企業に目先の利益を与えたが、長期的には需要を減退させたことで、景気の回復には結び付かず、デフレを長引かせただけである。安易な人件費の削減による企業利益は、企業経営者の質の低下をももたらせている。そして、また政治家や役人の質の低下にもつながっている。
ひまわり

日本犬

2016-08-08 19:17:56 | 自然
今日の釜石は朝は日射しが出ていたが、昼前には雲が多くなった。昼時には29度まで上がり、湿度も高いせいで、歩くと汗が出たが、午後には雨が降り、ちょうど水を打ったように涼しくなり、25度まで下がってくれた。昨日は各地で気温が上がり、1000人近い人が熱中症で倒れたようだ。秋田県でも一人が亡くなっている。関東以南に比べれば、夏の平均気温は低いが、それでも東北の内陸部の夏は気温が高く、東北とは思えない暑さになる。それに比べれば釜石は贅沢は言えないのかも知れない。家の庭では今、鬼百合と桔梗が咲いている。職場の裏山でも薊が蕾を出して来た。 我が家には来月で14歳になる老犬がいる。大型犬なので、長寿の方だろう。まだ元気で、走ることもあるが、やはり後ろ脚が少し弱って来ているように思う。父親が犬が好きで、いわゆる日本犬が子供の頃に家にいた。犬に慣れ親しんでいたためか、長じてからも犬を飼う衝動にかられ、何頭か主にシェパードを飼って来た。現在の犬も洋犬だが、日本犬と比べると、他人への接し方が違う。日本犬は頑固で、他人には慣れにくい傾向が強い。国の天然記念物に指定されている日本犬は現在、6犬種いる。大型犬では秋田犬、中型犬では北海道犬、甲斐犬、紀州犬、四国犬、小型犬の柴犬になる。これらの他も各地に地犬と呼ばれる日本犬がいる。秋田県や岩手県には絶滅寸前のマタギ犬である岩手犬(南部犬)もいる。犬は縄文時代草創期から人の生活の中に溶け込んでいた。縄文時代の遺跡からは埋葬された犬も見つかっている。発掘された犬の下顎骨の歯の損傷から、狩猟時の受傷と考えられ、この時代の犬は狩猟のために飼われていたようだ。面白いことに現在の北海道犬や琉球犬が日本犬の中でも最も縄文犬に近いと言う。北海道犬はアイヌ犬とも呼ばれ、アイヌの人たちが飼っていた。人でもアイヌの人たちや沖縄の人たちがやはり遺伝子的に縄文人に近い。ただ北海道犬、アイヌ犬は通説では東北の犬が人とともに北海道へ渡って生まれたものだとされている。この犬の伝わり方でも文化と同じく北上説が偏見としてあるように思う。確かに縄文時代には東北と北海道の交流はあったが。人も犬も現代では遺伝子解析が可能となっており、縄文時代の犬と現代の犬の遺伝子解析がさらに進めば、多くのことが明らかになる。中でも日本に存在するすべての地犬の関係にとても興味を魅かれる。
丘に咲いていたラベンダー

農業人口の減少

2016-08-06 19:16:48 | 社会
農林水産省によれば、昨年の日本の農業就業人口は209.7万人である。毎年減少しており、今年の予測はついに200万人を割り込み、192.2万人となっている。農業従事者の平均年齢は昨年で67.0歳である。1985年はに542万8000人にもいて、平均年齢も年々高齢化している。以前には女性就業者が半数以上を占めていたが、現在は逆転して、女性が46%に減少している。東北は北海道と並んで、農業が産業に占める割合が高い。にもかかわらず、こうした農業人口の減少は着実に起きている。就労主体がいなくなれば、産業としての農業も立ち行かなくなる。農地が放置されると、たちまち雑草に覆われてしまう。そうした荒廃した元農地を見かけることも多い。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は安い農産物の日本への流入をもたらすだろう。規模の小さい日本の農業ではとても対抗出来ない。農業の就業人口の減少は確実に加速するだろう。食料自給率はカロリーベースで39%、生産額ベースで64%である。いずれにしろ、自給率も減少傾向である。食べ物は毎日欠かせないものだ。それだけに自給率の低下は国に不安定な要素を持ち込むことにもなる。安価であっても安全性には不安が残り、安全性を重視すれば、輸入時の検査を厳格化せざるを得ない。しかし、TPPはそうした検査も不当なものとして、提訴される可能性もある。もう既にスーパーの食料品売り場には国外産の食料が多数並んでしまっている。産地が明示されているものもあるが、加工品や弁当のようなもになると食材がどこのものなのか分からなくなる。安価な食品は好ましいが、食品であるからこそ、本来、人の身体への影響がないものでなければならない。むろん、国内産だからと言って、手放しでは安全なものとも言い切れない。先日スーパーに並んだ桃を見たが、山梨産よりも福島産が安くなっていた。福島産はやはり安くしないと買ってもらえないようだ。農産物を育てるために大量の農薬が使われており、そうした農薬の人体への影響も無視出来ない。コーンや大豆では遺伝子組換えの有無が表示されている。遺伝子組換えは自然界では起こり得ない人為的な変異である。種を超えた遺伝子の転移とも言えるだろう。農業人口の減少と農業の衰退は今後ますます加速する。かっては農業大国であった日本が工業化され、サービス産業主体の先進国となったが、その国が今後健康を維持出来るかどうか、大きな岐路に立たされている。
クズの花も咲いて来た

増え続けている癌

2016-08-05 19:16:12 | 科学
厚生労働省によれば、癌は1981年以降日本人の死因の第1位となっている。生涯で2人に1人が癌になる。国立がん研究センターの2013年のデータでは男性で62%、女性で46%となっている。また、同センターの「がん情報サービス」によれば、高齢化による年齢を調整しても、1990年代後半から癌による死亡は男女共減少しているが、癌になる人は1985年以降増え続けている。男性では食道、膵臓、前立腺、甲状腺、悪性リンパ腫が、女性では食道、膵臓、肺、乳房、子宮、子宮頸部、子宮体部、卵巣、甲状腺、悪性リンパ腫が増加している。これらの癌を見ていると、環境因子でもやはり口から体内に入るものが大きく影響しているように思われる。何らかのホルモン的な刺激があるのだろう。人間には60兆の細胞があり、分裂により体が支えられている。これだけの数の細胞があると、時には突然変異するものも出てくる。毎日5000個の癌細胞が生まれるとも言われる。人には体内の異物を排除する免疫システムが備わっていて、この仕組みによって、発生した癌細胞が攻撃され、消失するようになっている。しかし、何らかの原因で、その免疫システムが弱くなると、癌は消失しないで、増殖し始める。癌細胞には免疫に関わる細胞を抑える仕組みがあることも近年明らかとなって来た。細菌は抗生物質の攻撃を受けるようになると、その抗生物質に対抗できるように変異して、いわゆる耐性菌が生まれてくる。癌細胞も免疫による攻撃に耐えられるような仕組みを持っているのだ。太古から人類は自然界で生存して行くために免疫システムを身に付けて来た。しかし、それでも南アフリカでは、すでに170万年前の原人の左足の指の骨片から最古の悪性腫瘍である骨肉腫が見出されている。医療が進んだ現代でもこの癌には根本的には太刀打ちが出来ない。様々の抗癌剤なるものが作り出されているが、それらはいずれも効果は限られており、延命効果を期待出来る程度で、完治は困難だ。合成された化学物質は癌細胞だけでなく、正常な細胞にまで影響する。人には本来免疫システムが備わっていて、それによって癌から免れている。であれば、その免疫システムを強化することで、癌細胞を消失させられるはずである。30年前にはそうした考えは専門家の間では見向きもされなかった。しかし、その後、少しずつ欧米で免疫力に注目した研究が行われるようになり、今では癌が免疫細胞を抑えてしまう働きを妨害する試みが行われ、効果を発揮するものも現れている。癌の種類を問わず、副作用も既存の抗癌剤などと比べて少ないようだ。こうした研究がさらに進めば薬で癌を根治出来る日が早く訪れるのかも知れない。
職場の裏山の木々を覆うクズの葉

自由経済には国境がない

2016-08-04 19:20:55 | 経済
日本銀行が株価指数連動型上場投資信託(FET)を連日347億円投入したにもかかわらず、円高株安となった。日本銀行がいくら株価を支えようとしても支えられていない。経済の一般的な常識では株価が上がれば、日本の通貨である「円」の価値も高まり、円高となるはずだ。ところが日本経済にはこの常識が当てはまらない。日本では株価が上昇した時には円安となり、株価が下がると円高になる。今や株もグローバル経済に組み込まれてしまっている。株式はすでにその本来の役割である市場を通じて資金を集めることよりも金が金を生み出す投機の対象でしかない。ゲームである。そしてそのゲームには日本人以外も参加するようになっている。6月20日の日本経済新聞によれば、外国人の株保有比率は2015年末で29.8%であると報じている。日本の株式の3割を外国人が保有する。そして、実際の株式の売買の6割もがこの外国人によって行われていることもある。今の株式の取引はまさに「博打」であり、手元に実際に持っている資金の25倍までの株式を購入することが可能だ。一時は400倍もの購入が可能であった。但し、そのためには「証拠金」を積まなければならない。日本の株式を購入しようとする外国人投資家は、「円」で証拠金を積んで、手元資金の何倍もの株式を購入する。しかし、その株価が下がると、証拠金の積み増しを要求される。そのためには「円」を買い増しせざるを得ない。この時点で、円が買われるから、円高に動く。つまり、株安の時には円高となる。外国人投資家の参加がこうした事象をもたらしている。株価が上がるとこの逆で、証拠金は少なくて済むようになり、不要な証拠金の円を売ることになるため、円安となる。現在の円高株安も実態経済とは無縁だ。実態経済は物が売れているかどうかだ。物価が上がらず、デフレから脱却出来ないでいる。物価が上がらないのは物が売れていないからだ。物が売れなければ、生産量も増やせない。物が売れないのは国民の所得が上がらないからだ。輸出大企業はアベノミクスによる株高円安の演出により、空前の利益を得たが、物が売れたからではなく、円安による為替の差益と株高で利益を得たに過ぎない。しかも空前の利益は大半が賃金ではなく、社内留保となった。その額はすでに国家予算の3倍を超えた。現政権は数々の前代未聞を見せつけてくれたが、財界に従業員の賃金を上げるよう働きかけたこともその一つだ。この事実自体がすでにアベノミクスが国民に行き渡っていないことを意味するだろう。日本銀行は同じく国家予算の3倍以上の国債を高値で買い取った。それだけの貨幣がともかくも市中に流れた。その流れが悪く、滞留してはいるが。いずれ、その分は急速なインフレの源になる可能性がある。
釜石で今なお咲く紫陽花

メディアの凋落

2016-08-03 19:12:18 | 社会
日本新聞協会によると、2015年には2000年に比べて、世帯数は増えているにもかかわらず全国での新聞の発行部数は年々減少し、1世帯あたり2000年の1.13から2015年の0.80までに低下している。新聞やテレビはインターネットやゲーム機器の普及で、役割が陰って来た。いずれも広告料が経営のためには必要であり、広告主の存在が無視出来ない。さらにはあろうことか、現政権は気に入らない報道があれば、メディアに直接圧力をかける。唯一国民から受信料を取るNHKに至っては、政権寄りの人物に会長職をすげ替えることまでしている。以後は当然番組にも大きく影響が出ている。一定の権力を持つ政官財からの情報をただ横流ししているだけではメディアとは言えない。国民に「事実」をどう伝えるかが問われる。どのメディアも同じように報じているのでは意味がない。独自の記事が重要になる。雑誌プレジデントが外国人記者の評価に基づいて「日本のマスコミ」 信頼度ランキングを実施している。それによれば、東京新聞が突出して高い評価を得ている。10点満点で、東京新聞8.2、産経新聞と朝日新聞が5.0、毎日新聞4.3、日本経済新聞2.8、読売新聞2.3、最下位がNHKの0.7だ。またジャーナリストの牧野洋氏が調べた独自記事の割合でも東京新聞はやはりトップとなった。独自記事の割合は東京新聞と毎日新聞がそれぞれ32%、産経新聞31%、日本経済新聞24%、読売新聞22%、朝日新聞21%となっていた。以前は各紙ともに独自記事が多かったように思う。しかし、広告料収入の低下に伴い、経営の合理化もあって、記事への経費を節減した結果でもあるのだろう。いずれにしろ、現在のメディアは本来の機能を果たさなくなってしまった。一部にはかってはメディアの代表のように言われ、今では政権の広報誌に成り下がったものさえある。外国人記者たちは、評価するにあたって、調査報道に取り組んでいるか、自由な価値観を持っているか、「メディアの役割は権力側の話をオウム返しに繰り返すのではなく、それを監視し批判することであるのを理解している」かなどを視点にしている。不偏不党を謳ったNHKの今の有り様はまさに0.7点にふさわしいだろう。もはやメディアの体をなしていない、とさえ言えるかもしれない。こうしたメディアの質の低下がヘイトスピーチの氾濫や世の保守化にも影響しているように思う。そして、それは一人日本だけの現象でもなさそうだが。
木槿(むくげ)