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人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

いつまで続くか?ギリシャの現実

2010年08月26日 | 移民の情景

 
いつまで続くか:ギリシャの日々
 財政破綻でEUを震撼させたギリシャだが、今度は不法移民の入り口として新たな頭痛の種となっている。EUの加盟国増加に伴って、EUと域外を隔てる障壁は東や南へ向かって拡大してきた。周知の通りEU市民の域内の移動は自由だが、域外からEU諸国への移動は合法的な入国書類の提示などが要求される。

 不法移民はこれらの書類を提示しないか、所持することなく国境を越えて入国する。そして、入国してしまえば、その後はEU諸国内で仕事がありそうな場所へと移動する。しかし、合法的な入国書類などを保持していないために、良い仕事につける可能性は少なく、しばしば搾取の対象となったり、犯罪組織に巻き込まれたりする。あの名画「永遠と一日」(テオ・アンゲロプロス監督、1999年上映)をほうふつとさせるような殺伐とした光景が生まれている(映画はたまたま、8月26日BS2が再放映していた。映像の美しさと不法移民に突きつけられた苛酷な現実が衝撃的だ。映画の冒頭は、街路で一時停車中の車の窓を洗い、わずかな金をもらう不法移民の子供たちが警官に追われて逃げる光景だ。彼らは人身売買の形でアルバニアからギリシアへ送り込まれてきた。この状況は今もまったく変わらない。アテネなどのギリシャの都市は、アフリカ、アジア、中東などからの移民が増加し、治安上も危険になっている。

  これまではイタリア、スペインなどが不法移民がEUに入り込む地域として、大きな問題になっていた。しかし、近年これらの国では、国境管理体制の整備などもあって、不法入国者の数は減少してきた。EUへの表口からの入国ができない移民希望者は、国境監理の最も不備な地帯を探し求める。今は、経済が混乱しているギリシャがその対象になっている。

 2009年にEUへ不法入国し、国境などで拘束された106,200人のうち、4分の3はギリシャで摘発されている。2010年前半についての暫定統計では、不法移民の全体数は減少しているが、その80%近くがギリシアからEUへ入ろうとしていた。2007年では、半数に留まっていた。

 EU域内で発見された不法入国者は、最初入国した国へ送り戻されることになっている。そのため、最近でほとんどギリシャへ送還されてくることになる。しかし、彼らを出身国へ送り戻すまで拘留するセンターは、対応する人手も不足し、完全にパンク状態だ。さらにギリシャ国内には30万人近くの不法滞在者がいると推定され、失業や犯罪などの温床として、すでに大きな問題になっている。財政破綻したこの国には、対応しようにも資金がない。

 こうした事態に、ブラッセルも頭を痛め、ワルシャワにあるEUの域外からの進入を防ぐ機関Frontexの事務所を、ギリシャのピラウス港に設置し、なんとか対応しようと懸命だ。しかし、アフリカ、中東からの潜在的な不法入国者の流れに対応するには、きわめて弱体で、「大海の水一滴」とまでいわれている。それでもここに投入されている資金は、EU全体の米生産補助金の半分近くに当たる8800万ユーロという額に達している。
 
 これまでEUへの不法入国はスペイン、イタリア、そしてギリシャが多かったが、スペインがセネガル、モーリタニア、イタリアがリビヤと協定を結び、不法出入国を規制する措置を図ったこともあって、一挙にギリシアへ集中する形になっている。もちろん、ギリシャもトルコなどと同様な協定を締結する線で交渉中だ。EUの経済が回復し始めると、不法入国者の数も増加することが予想され、ギリシアは、財政危機と不法移民阻止という二つの難題克服に懸命だ。しかし、この国にとっては、あまりにも重い課題となった。EUが閉鎖性を強めるほど、不法入国を志す者は、残された狭い入り口を求めて、ギリシャのような国境警備の行き届かない地域へと集まってくる。



Reference
"Border burden" The Economist August 21st 2010

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