このブログにも何回か登場した17世紀のフランス宮廷画家の代表ともいえるフィリップ・ド・シャンパーニュPhilippe de Champaigne (1602-74)の大回顧展がフランス、リールの美術館で開催されている。8月15日までであり、残念ながら見ることはできなかった。
シャンパーニュは、あのリシリュー枢機卿のごひいき画家であった。ブリュッセルで生まれ、19歳でパリに出る。その後、まもなくして1629年、フランスに帰化した。パリに出てきた時に、折りしもイタリアへ画業修業に赴こうとしていたニコラ・プッサンに出会った。シャンパーニュ自身は生涯イタリアへ行くことはなかったが、後年二人はパリ、ルーブル宮で宮廷画家として再会する。その経緯もブログに書いたことがある。
シャンパーニュは、ルイ13世の母親で摂政であったマリー・ド・メディシス、その後リシリュー枢機卿、ルイ13世の知遇を得て、宮廷画家として活躍した。プッサンと初めて会ったリュクサンブール宮殿の装飾なども担当した。シャンパーニュが描いたリシリュー枢機卿は、いずれもあの枢機卿の赤い帽子と衣裳が特徴だが、引き締まった威厳のある容姿で描かれており、実物以上?と思われる。このあたりが、お気に入りの理由だったのだろう。
フランドル絵画の緻密さと写実性を併せ持った作風は、冷徹な政治家リシリューのお好みであり、肖像画だけでも11点残っている(ルイ13世については2点)。ブルボン朝の華麗な肖像画家として知られるが、後半生は厳しい戒律で知られるジャンセニズムに傾倒し、宗教画を多く残した。「シャンパーニュのブルー」といわれる鮮やかな青が素晴らしい。この時代、青色の顔料はラピス・ラズリに代表されるように高価なものが多かったが、宮廷画家の地位にあれば画材の値段などは考えなくてもよかったのだろう。
シャンパーニュの名作としてよく知られている『二人の尼僧』(仮題)は、パリのポートロワイヤル修道院の尼僧であった妹が奇跡的に重病から回復したことを神に感謝して描いたものである。敬虔な祈りと喜びが画面に溢れている。
シャンパーニュはラ・トゥール同様に日本ではあまり知られていないが、17世紀中葉のフランス絵画界を代表する画家の一人であり、思想的には同時代のパスカル、デカルト、コルネイユなどと共鳴するところがある。ラ・トゥールとはお互い、ルイ13世に宮廷画家として任ぜられたこともあって、もちろんよく知っている間柄なのだが、ルーブル宮で会ったか否かは今のところ謎のままである。暑さしのぎに、時空を超えてタイムスリップしてみるのは楽しいかもしれない。