暑中お見舞い申し上げます。
日本は亜熱帯になったような異常な暑さ。それでなくとも間延びしてきたブログもさらに間が抜けて夏休み状態。
その中で庭の片隅に5年ほど前に植えた百合カサブランカは、いつも花屋や近隣の家々よりはかなり遅れたペースで、しかし前年よりも一段と大きく開花しました。時々水をやるくらいでほとんど世話をすることはないのに、自然の摂理はどこかでしっかりと働いています。今年の猛暑も、自然界の変化の大波の中では、小さな波なのかもしれません。見事な開花を見せた後は、本体は枯れて球根となり、地中で力をたくわえ、再び新たな輝きを見せる時を待ちます。
閑話休題
さて、あのラ・トゥールの『ヨブとその妻』 で、妻が着ている美しい衣装、当時としても普通の人が日常着ているものとは明らかに異なる感じがします。それまでは、ヨブの妻はしばしば年老いた女性、当然若い女性、美女とは異なり、美しくない 女性として描かれてきました。しかしデューラーやラ・トゥールは、美しい衣装をまとった不思議な雰囲気を秘めた女性として再登場させます。なにが、こうした変化をもたらしたのでしょう。
この絵に限らず、ラ・トゥールが残した数少ない作品は、一枚、一枚が深い謎や物語を背後に秘めており、その奥深さは今は亡きラ・トゥールの大研究者テュイリエ教授が東京展のカタログに残したように、フェルメールの比ではありません。
画家の生涯もまた文字通りドラマティックなものでした。この画家を理解するに欠かせない小さな特別展が、今夏、画家の生地ヴィック・シュル・セイユのジョルジュ・ド・ラ・トゥール美術館で開催中です。実際に訪れてみると、小さな、小さな美術館ですが、この画家のファンにとっては一度は訪れる価値があります。今回の催しのポスターに使われているとなったのは、あのレンヌの『生誕』です(前回ブログの最後に掲載)。この作品、見れば見るほど魅入られます。作品表題が『生誕』(聖誕)nativityに定まるについても議論は尽きませんでした。しかし、今は疑う人はありません。
このブログを開設するに当たり、この画家をご存知ない方のために、『生誕』が子守歌を集めたCDアルバムの表紙に使われている小さな本を取り上げました。長年、私の仕事場に掲げられたこの作品のポスター、もう私の命あるかぎり取り替えられることはないでしょう。
県立ジョルジュ・ド・ラ・トゥール美術館のロゴ。
モダーンなデザインの意味を考えてみてください。
いまや17世紀フランスを代表するラ・トゥールには、最近新たな関心が高まってきたような気がします。これについても、晩夏の時を待ちつつ、ゆっくりと考えてみましょう。