アメリカの大統領選挙戦もいよいよ本格化し、これまではほとんど議論されなかった移民問題がいよいよ論点として浮上してきたことをABC・News* が伝えている。
共和党有力候補の一人、ジュリアーニ前ニューヨーク市長の個人的問題のあら捜しから火がついたようだ。ジュリアーニ氏のメイトン夫人がかつて市長の秘書であった頃、旅行の際に支出した費用負担が不明と、政敵の前マサチューセッツ州知事ロムニー候補が指摘。これに対して、ジュリアーニ氏はロムニー候補がハンガリーからの不法移民を家庭で使っていたとやり返した。ロムニー候補は、自分の家の壁や屋根の修理などのサービスを外部の会社に委託し、その会社から派遣されてきた労働者が不法移民だったという状況は、どこにもあることだと述べている。
これ自体は、今や日本の政界でも見慣れた光景になってしまった候補者個人の欠点探しの断片にしかすぎない。しかし、時にこうした一見些細なことから政治家の運命が決まるような展開になることも少なくない。政治家ご本人にとっては、怖いのだろう。とりわけ、投票日が近くなった段階では致命傷となることもある。
同じABCによると、ニュージャージー州で、中米ホンデュラス出身の不法滞在者リベラさんが、犬に咬まれて大怪我をし、その補償と犬の処分をめぐって世論が沸くという事件が注目を集めている。これもたまたま被害者が不法滞在者であったということが、問題を大きくすることになっている。
大統領選序盤の行方を決定するといわれるアイオワ州では、移民問題が選挙民の関心の第一位にランクされるまでになった。全体に保守党候補は移民に厳しくなっている。7年前、ブッシュ大統領が「思いやりある保守主義」を唱えて人気を得た状況とはすっかり様変わりしている。民主党候補の間では、まだ正面から取り上げられていない移民問題だが、選挙民に直接的に影響するテーマだけに各候補とも、慎重にならざるをえないのだろう。日本ではほとんど関心を集めないトピックスだけに、今後もウオッチを続けたい。
* ”Giuliani, Romney Spar on Immigration” ABC News: November 28, 2007
他方、すでに100万近い外国人労働者が合法・不法に働いている。事実上、なし崩し的な受け入れが進行。「隣人のことなどしらない」というサラダボウル化も進む。しかし、日本は「移民問題」はできるだけ触れたくないという風土。破綻してやっと問題に気づくのでは。
ちなみに、わたしは、「移民」の問題なら開放したらいい、一方で、「人口」問題なら、日本は座して、「世界でナンバー7」あたりまで後退する道を選ぶのが面白いと思っています。
コメント感謝。移民問題の難しさは「労働力」だけを切り離して受け入れることができず、「人間」が来ることですね。家族・親族の受け入れにつながり、教育、社会保障、地域、犯罪などへの対応が必要。移民も高齢化から免れず、すでに(無資格ですが)年金受給世代に達した日系人もいます。企業側は受け入れるからにはこうした面にもっと責任を持つ必要があるでしょう。人口問題と移民問題は密接不可分で、日本「国民」に準じた対応をどれだけできるかが、大きな検討課題では。
さきに「世界でナンバー7あたり」としたのはイタリアをイメージしてのこと。「持論」というほど「論」はないのですが、そう感じています。我が国も「イタリア」のあとを追えばいいのにと。アメリカは大好きですが、日本の「手本」ではないと信じます。イタリアに「移民問題」はあるのでしょうか。なお、つい最近、「第三のイタリア」という言葉を知りました。
「第3イタリア」は1984年に刊行されたMichael J.Piore and Charles E.Sabel. The Second Industrial Divide (邦訳:山之内靖他『第二の産業分水嶺』)で著名になった言葉ですが、いわば小企業(マイクロ企業)の集積でもってグローバル市場で大企業と対抗する新産地型の構図です。たとえば、プラートの毛織物、カントリーノの木工など。私もこの概念の紹介に一役買いましたが、現状は中国製品などの大量流入で苦境に立っている産地が増えています。
長くなりますが、日本は「経済大国」から「文化立国」へスタンス切り替えをしながら、中規模国として存在感を維持するのが生き残る道では。