時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

カラヴァッジョ、セザンヌ、トゥエインを結ぶもの(1)

2012年05月14日 | 午後のティールーム


カラヴァッジョ『トランプ詐欺師』
Caravaggilangelo, Michelangelo Merisi da
The Cardsharps
c.1595, Oil on canvas
94.2 x 130.9 cm
Fortworth, Kimbell Art Museum


 カード(トランプ)ゲームは、画家にとってもながらく大変興味深い主題となってきた。13世紀頃から描かれてきたようだ。カラヴァッジョのこの『トランプ詐欺師』は、16世紀末に描かれたが、カラヴァジェスティの流れの中で、大きな影響を発揮してきた著名な作品だ(ちなみにこのブログでも記事にしたことがある)。

 作品はカラヴァッジョのパトロンであったデル・モンテ枢機卿が所蔵していたようだが、その後長い間行方不明のままであった。その後、発見されたのは新大陸アメリカであった。その間に、多数のコピー、ヴァージョンが生まれていた。

 カードゲームを描いた作品については、後期ルネサンスの頃からさまざまな寓意(アレゴリー)がこめられているともいわれてきた。たとえば、ギャンブルのいましめ、ライヴァル、詐欺、疑惑、裏切りなどである。

 カラヴァッジョのこの作品、一見シンプルで分かりやすいように見える。前景に、バックギャモンのボードなども描かれているが、見る人は直ちに画面の中に吸い込まれる。描かれている人物は3人。二人の若者がプレーをしており、背後にいる3人目の中年の男は、なにかの企みをしていることは、その容貌、のぞき込む姿勢などから明らかだ。もう一人の画面右手の若者と通じているようだ、盗んだ情報を知らせ、勝負の分け前を得ようという企みなのだろう。左手の若者の手の内を盗み見して、右の少年に知らせようとしている。それとなく三本指で相図している。伊達男のような派手な衣服を着込んではいるが、手袋の指に穴が空いているところを見ると、案外金に困っているのかもしれない。

 左の少年は勝負に自信があるのか、他の二人のことを気にかけることもなく、自分の切る札をどうするかに集中しているかに見える。相手がどんな手を打とうとも、自分のスキルに大きな自信をを持っているようでもある。手に持つカードのどれを切るか。戦術が頭の中をかけめぐっているのかもしれない。もしかすると、駆け出しの初心者ではなく、かなりの熟達者なのかもしれない。中年男が覗き込んでいようと、意に介さないほどの絶対の自信を持っているとも考えられる。すでにいかさま師の企みを読み込み済みで、次の瞬間、思いがけないカードを切るかもしれないのだ。

 さて、右手の若者も、まともではない。中年男と組んでいる。そして腰のベルトにひそかに挟んだ二枚のカードのいずれかを、男の合図に従って、切ろうとしている。この若者はカードの技量が低く、まともな勝負では勝ち目がないので、中年男と組んで、ゲームに勝とうとしているのか。すっかり男の手の内に取り込まれているかのように見える。それとも最初から悪巧みで左手の少年から掛け金を巻き上げるつもりなのか。中年のいかさま男を信じ込み、背中に隠したカードのいずれを切るか、ただそれだけに頭がいっぱいであるようだ。左手の持ち札のことは忘れて、無防備状態だ。自分のカードの手の内が見えている。

  この勝負、一見すると、いかさま師側が勝ちそうに見えるが、案外左側の少年のスキルが図抜けていて、勝利をものにするかもしれないのだ。そういえば、いかさま男もあまり頭が良さそうにみえない。さて、結末は。

 勝負を制するものは、プレーヤーの熟達したスキルか、いかさま、悪巧みか。一見、いかさま師に歩があるとみえた状況は、考えるほどに分からなくなる。画家カラヴァッジョは、単純にいかさま師と組んだ若者の勝ちを描いたのではないようだ。主題を熟慮した非凡な画家の才知が潜んでいる。

 カードに勝つのは、プレーヤーのスキル(技量)なのか、(悪巧みも含めて)運・ラックなのか。この一枚の絵はカードゲームの真髄を突いている。

 折しも、ある世界的に著名なギャンブラー、アマリリョ・スリム Amarillo Slimの死を告げる訃報 obitury が掲載されていた。この世界的に著名な雑誌の訃報は、しばしばわれわれが思い及ばないような人々の人生と最後を告げている。この世界に知られたギャンブラーは、ポーカーなどのゲームで抜群の勝負師だったらしい。彼が身につけたゲームに勝つための策略、スキルは超人的なものであったようだ。

 この勝負師の前に面と向かって座るようなことがあったら、一言も発することなく、ひたすら無言で座っているのがよいというのがアドヴァイスだ。それでいても、彼は「どうだい」、「元気にやっているか」など、あらゆる手で口を開かせようとしてくる。それに乗って、うっかりなにか応対でもしようものなら、この稀代のギャンブラーはあなたの上唇の湿り具合などから、こころの内を読み取ってしまうというのだ.

 さて、この記事の表題「
カラヴアッジョ、セザンヌ、(マーク・)トウェインを結ぶもの」を見て、あれかとすぐに気づかれた方は、驚くべき能力、洞察力をお持ちだ。ヒントはカード(トランプ)・ゲーム。偶然目にしたある雑誌記事から触発されてのやや長い話になる。少しずつ札を開いていこう。



Obitury
Amarillo Slim
The Economist May 12th 2012

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