時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

カラヴァッジョ、セザンヌ、トゥエインを結ぶもの(2)

2012年05月16日 | 午後のティールーム


ポウル・セザンヌ
『カード遊びをする人』
Cezanne, Paul
The Card Players (Les joueurs de cartes)
1890-1892
Oil on canvas
52 3/4 x 71 1/2 in. (134 x 181.5 cm)
The Barnes Foundation, Merion, Pennsylvania

 

 カラヴァッジョの『トランプ詐欺師』は、一見分かりやすい主題でありながら、描かれた人物の間の微妙な心理の糸を巧みに描きこんでみせた。いかさま師を含めて、プレーヤーのそれぞれが心の内に秘める秘密を、一場のドラマティックな画面に仕上げている。この作品は、たちまちその後の画壇に大きな影響を与えた。

 このブログを訪れてくださる方は、ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの『いかさま師』は、おなじみの作品である。ラ・トゥールの作品は、カラヴァッジョとは違ったプロットで、いかさまが進行する状況を華麗かつドラマティックに描いてみせている。これも、なにかの寓意を意図したものか、いかさまを指示しているかにみえる強力な印象を与える女性のモデルの正体を含めて、謎は深い。

 さらに、同時代のルナン兄弟の作品を思い浮かべる方もおられるだろう(子供たちがカードで遊んでいる作品を含め、数点はあるようだ)。実は、今回取り上げる後期印象派の巨匠ポール・セザンヌもカードゲームに惹かれた画家であった。異論もあるようだが、5点の連作の作品が確認されている。セザンヌはアトリエのあったエクス゠アン゠プロヴァンスの近くの美術館が所蔵するル・ナン兄弟の作品を見て、発想したと推定されている。しかし、ル・ナンのどの作品なのかは定かではない。



ル・ナン兄弟
『カード遊びをする人』


 ポール・セザンスは、画家の晩年に近い1890年代に5年近い年月をかけて、このシリーズを制作したようだ。そのためには周到かつ大量の試みを行っていることも知られている。それについては興味深い点も多々あるが、
ここでの話題は、カラヴァッジョ以来のカードゲーム、とりわけポピュラーなポーカー・ゲームの評価に関わる。

 画家にとってカードゲームが画題として、いかなる点で興味を惹くかは、画家それぞれに異なるようだ。そこには、ある種のスリルがあるからだともいわれる。その内容については、たとえば科学者がきわめて重要な発見をした場合のスリル、興奮は、ポーカー・プレーヤーがロイヤル・フラッシュを引き当てた場合に似てもいるともいわれる。ポーカーの勝利者あるいは歴史に残るような大きな発見をした科学者は、幸運とスキルのどちらに依存しているのだろうか。

セザンヌはなにを意図したか
 セザンヌの『カード遊びをする人たち』は、カラヴァッジョやラ・トゥールのようなドラマやストーリー性からは、距離を置いているようにみえる。セザンヌのこのシリーズの最初の作品(上掲図)といわれるものをみてみよう。そこには農民のような一見地味な服装の3人のプレーヤーが机を囲み、ゲームをしている。ワインや怪しげな女性の姿もない。プレーをしている人たちの背後には、2人の人物がプレーを眺めている。右側の人物はどうやら子供(少女)のようだ。興味深げに覗き込んでいる。左側に立っている大人は、パイプを加えて眺めているが、さほど熱心に見ているようには見えない。

 セザンヌのシリーズには、背後にいる人物が1人の場合、ただ2人の人物がカードをしている場合などのヴァリエーションがある。画家は、このシリーズでなにを試みようとしたのだろうか。



 セザンヌの作品は、サイズやスケールは異なるが、いずれもプレーヤーがひたすらゲームに熱中し、集中しているふんい気が画面に漂っている。しかし、カラヴァッジョやラ・トゥールのような、ドラマ性はほとんど感じられない。むしろ、この画家の主柱でもある静物画を人間に取り替えたような印象すら与える。セザンスにとつてはカードゲームは、なんらかの教訓やアレゴリーを意図したものではないようだ。プレーヤーはゲームにすっかり溶け込み、それぞれのスキルを発揮しようとプレイを楽しんでいるようだ。一体、この画家は何を目指して、この一連の作品制作に時間とエネルギーを費やしたのだろうか。

 

折しも「セザンヌ:パリとプロヴァンス展」が国立新美術館(6月11日まで)開催中である。残念ながら、「カードプレーヤー」シリーズは出展されていない。

 

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