時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

画家と寿命

2007年05月25日 | ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの書棚

  

    職業と寿命の間には有意な関係があるのだろうか。画家は大変長生きな人が多いという記事をなにかで読んだ記憶がある。小倉遊亀(104歳)、奥村土牛(101歳)、横山大観(91歳)、葛飾北斎(90歳)など、幾人かの画家のことが頭に浮かぶ。高齢化時代の今日では、さほど珍しくないかもしれないが、こうした画家たちの同時代人との比較では、やはり驚くべき長寿といえる。

  その後、別に体系的に統計を調べたわけではないが、漠然とそう思わせる事例には数多く出会ってきた。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの家系を見ていると、まさにぴったりの事例である。ジョルジュの両親であるパン屋のジャンとシビルの間には、ジョルジュより1歳年上である長男のジャックをはじめとして男5人、女2人、計7人の子供が生まれた。その中で最も長生きしたのは画家の道を選んだジョルジュ(1593-1652、58歳)まさにその人だった。戦乱、悪疫蔓延のこの時代としてはかなり長寿なのだ。没年は正確には分かっていないが、これら7人の子供の中には、生まれてすぐに死んでしまった子供も多いようだ。乳幼児の死亡率は非常に高かった。

  そして、画家となったジョルジュとディアンヌ夫妻の間には、フィリップ(1619 -? ) をはじめとして、男6人、女4人計10人の子供が生まれた。その中でジョルジュとネールの両親よりも長生きした子供は、画家としていちおうジョルジュの後を継いだことになった次男のエティエンヌ(1621 - 1692、71歳)とクリスティーヌ(1626 – 1692頃)の二人だけである。クリスティーヌがいかなる人生を送ったかは不明である。

  親としては、子供たちに先立たれてしまうことほど悲しいことはないだろう。この時代の子沢山には、こうした時代に生きる防衛策の意味が暗に含まれていたと思われる。

  ラ・トゥールと並んでごひいきの画家レンブラント(1606-1669)にいたっては、最初の妻、再婚した妻にも先立たれ、ただ一人生き残った長男にまで先立たれてしまった大変気の毒な例である。

  レンブラントは製粉業を営んでいた父親と母親の間に8番目の子供として生まれている。最愛の妻であったサスキアとの間に2男2女が生まれるが、最初の3人は誕生後2-3ヶ月から1年以内に死亡している。次男のティトウスだけが成人するが、レンブラントが63歳で世を去る1年前に死去している。

  サスキア死去の後、内縁の妻であったヘンドリッキエとの間にできた娘も共にレンブラントよりも前に世を去った。

  ラ・トゥールの生涯を、その家系まで遡って探索しようとしたのが、今回紹介するアンネ・ランボルの労作である。遠い昔の人々が手書きで記した、変色して読みにくい古文書をたんねんにめくり、欄外に書かれたメモを判読したり、想像をめぐらす仕事はパズルか宝探しのような面もあるが、実際の作業の厳しさは想像を超える。この画家について、深く立ち入ってみてみたいと思う人は必読の文献*である。表紙の蝋燭は、図らずも人生の残り時間の短さを暗示しているようである。

 
Contents
Premiére partie Vic-sur-Seille: parentéles 1593-1619

Seconde partie Lunéville: le patronage du duc Henri II 1620-1624

Troisiéme partie Entre guerre et peste: Sous le signe de Sébastien 1625-1634

Quatrieme partie Le désastre de Lunéville: sous le signe de Job 1635-1638

Cinquieme partie L’expérience parisienne 1639-1641

Sixiéme partie La difficulté du retour 1624-1645

Septieme partie Une gloire ma l aimee 1646-1653

ANNEXES

* Anne Reinbold. Georges de La Tour. Fayard, 1991. pp.271.

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