時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

ローマ対ロマ

2008年05月28日 | 移民の情景

  5月27日、深夜に見たBS番組*が、現代のロマ人(ジプシー)の放浪の旅を伝えていた。予定していたわけでもなく、すでに番組の最終部分に近かったが、一見してロマ人と分かった。かつて仕事で2度ほど訪れたルーマニアが舞台で、見覚えのある光景だからだった。あのチャウシェスクまで映像に出てきた。最初、ブカレストへ行ったのは、チャウシェスクが独裁者として権勢を誇示していた時だった。カルダラリと呼ばれるロマ人は、ルーマニアだけで20万人はいるという。

 番組で取り上げていたのは、ヨーロッパを横断して旅するロマ人の一団である。17世紀、
カロの版画とほとんど同じ状況が今でも続いている。驚くべき光景だ。旅の途上で、村の結婚式で楽士をつとめたり、拾い集めた材料から鍋を作って売り歩いたり、したたかな振る舞いを見せる。民族の習性が変わらないことを実感させられる。ロマに対する他民族の差別も厳しい。旅の途上、宿泊のために村落へ入るのもかなり難しい。滞在を拒否され、村の外でみずぼらしいテントを張り、宿営する。結婚披露宴での演奏を頼まれても、客が望むまでは会場にも入れない。じっと屋外で深夜まで待っている。

 最近、EUでこのロマ人労働者に注目が集まっている。イタリアのベルルスコーニ新内閣のロマ人移民労働者への厳しい対応が焦点だ。ベルルスコーニが選挙活動で強調した点のひとつは、犯罪と移民へ強硬な対応だった。イタリアのメディアもかなりセンセーショナルに、移民、とりわけ不法移民と犯罪の関係を伝えていた。ベルルスコーニ大統領は、国内で犯罪にかかわる移民労働者には国外追放などの強い姿勢で臨むことを口にしてきた。

厳しい対応を見せるベルルスコーニ
 5月21日、新内閣の最初の閣議をわざわざナポリで開催したのは、いまや国外からも批判されるまでになってしまった同市のゴミ処理の不手際への対応とともに、不法移民に対する強硬姿勢をあっピールする意図があったとされる。しかし、事態は予期した方向とは違った方へ動き出したようだ。ベルルスコーニ内閣は自分たちの不法移民対策は、すでにブリテン、フランス、ドイツなどが実施している内容と変わらないとしている。たとえば、庇護申請をたやすく認めない。移民が家族を招き寄せることに厳しくあたるなどの政策だ。

 しかし、ベルルスコーニ内閣が注目され、非難されてもいるのは、警察力を使った規制である。不法移民のチェックが始まり、特にロマ人の居住地区で摘発が強化された。たとえばナポリでは、ロマ人女性による子供の誘拐の嫌疑で、ロマ人居住区の一部が強制撤去されるなどの事態が生まれた。ロマ出身の欧州議会委員モハクシ女史はイタリアのロマ人居住地域を視察し、ヨーロッパで最悪の状況だとイタリア政府を非難した。ロマ人側からも批判は高まり、欧州議会もイタリア政府のやり方を問題としている。

不法移民を必要とする分野
 イタリア政府は不法移民を犯罪行為として、漁船などでの入国を厳しく取り締まるとともに、すでに入国し滞在している外国人労働者の国外退去を目指している。他方、彼らはイタリア人が働きたがらない老人介護や家事労働に従事しており、犯罪者ではないという人権団体やメディア、教会なども盛んに活動している。だが、これだけでは、今まで何度となく繰り返され、見慣れてしまった光景だ。

 しかし、今回のイタリア政府の新たな対応は、欧州委員会との紛争を引き起こしかねないリスクを含んでいる。ひとつの問題は、犯罪を犯したとして国外追放されるEU構成国の市民にかかわる。もうひとつは、各地域の市長に、適切な所得と住宅がないEU市民には管轄地域内に居住を認めない権限を付与したことである。これらの措置は、犯罪の源と関連づけられることが多い。イタリア国内にいる推定5万人のロマ人を目標にしていることは歴然としている。

言動不一致?
 国外追放が規則通り行われることを政府は望んでいるとし、それはEUのルールとも合致するものだと述べている。しかし、EUのある国が他の国の国民を排除するという行動は、域内移動の自由に関する2004年のEU指令で厳しく制限されている。フラティニ大臣はかつては正義と国内問題に関するEUのコミッショナーをつとめた人物だ。

 ロマ人の問題は歴史も長く、容易には解決できない。長らく漂泊の旅に生きてきた民族だ。定住化政策の対象としても、きわめて難しい存在となっている。
フランスの「郊外」問題とも異なっている。この事態に実効ある政策が提示できるか、不法移民問題の試金石といえる。しばらく成り行きを注目したい。
 


Reference
"Rome v Roma" The Economist May 24th 2008

 ハイビジョンスペシャル−はるかなる音楽の道(1)− 「さすらいのバイオリン〜流浪の民・ロマの道」. 放送日時:: 5月26日(月) 23:40~1:40



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