蛙鳴(あめい) | |
莫言 | |
中央公論新社 |
10月31日(月)
今日で10月も終わり。滑り込みでなんとか10月中に読み終わりました「蛙鳴」。
村上春樹よりもノーベル文学賞に近いとも言われている莫言(モーイェン)。長編を読み切ったのは初めてですが、すごいなあ。実に面白い。
題材がすごい。中国の一人っ子政策に翻弄される人々。どこまでがノンフィクションかと考えると、空恐ろしくなる。が、笑える登場人物と、どこまでも滑稽な語りで、最後まで実に楽しい。
「堕ろせば命と希望が消える 産めば世界が必ず飢える」
帯のこの言葉。奇しくも今日は世界の人口が70億人を超えた日だそうだ。
主人公の(オタマジャクシ)劇作家が日本の恩師にあてた回想の手紙という形式で書かれている。(オタマジャクシ)の伯母であり産婦人科医が、数々の子どもをとりあげ、計画出産を遂行するために多くの胎児を葬る。国の政策はわかっていても、農村では跡継ぎの男児を欲しがり、隠れて妊娠した妊婦をどこまでも追いかける伯母。中盤のこのシーンは息を飲みます。こんなこと本当にあるの?
時代は変わって、約20年後。伯母とともに多くの堕胎手術を行った(ちびライオン)は、子宝に恵まれなかった。題名にもある「蛙」は中国語で「ウフ」。赤ん坊も「ウフ」。中国で蛙は命の誕生に深いつながりがある生き物なのでしょうか。長年計画出産にかかわった伯母は、最後に「死」を思い、死んでいった母親たちを思う。
中国の一人っ子政策は、様々な見方があるだろうが、現在人口増加率が安定しているのはこの政策のおかげ。世界に70億人。食料価格がじわじわ上がり、いつか食料をめぐる戦いが起こるかもしれない今日では、中国だけでなく世界中で取り組まなくてはいけない問題なのだろう。人口と食料、そして命と子孫繁栄を。