真鶴 (文春文庫) | |
川上弘美 | |
文藝春秋 |
8月27日(土)
「ねっとり」と言いましょうか、湿度の高い作品でした。川上弘美さんというと、有名なのは「センセイの鞄」ですが、あれとは趣が違います。「竜宮」なんかに近いでしょうか。
京(けい)の夫、礼(れい)は12年前に失踪。当時3歳の娘百(もも)は高校生に。母、自分、娘、3人の暮らし、妻子もちの彼との逢瀬では埋められない喪失感。せつなくて、恋しいのです。
真鶴にはこの世とあの世なのか、現実と夢なのか、京にとっての何らかの境界線がある。気持ちと身体、あるいは他人とのバランスを保つために必要な時間と空間。
突然女が現れたりする。もちろん現じゃない。霊魂とか幽霊とも違う。川上さんはそういうのが非常にうまい。
誰かを恋しく思ったり、「いない」ことに対する喪失感、はたまた子どもが独り立ちしていく喪失感、なまなましい言葉でえぐられるようで、決して心地いいだけの文章ではない。
「でも、人は、そんなにかんたんに、人にふれさせてもらえないのよね。」
うーん、孤独だなあ。それを知ってこその温かさ。深い。やっぱり川上弘美は素晴らしい。
ところで、
私は図書館で借りたので、装丁が違います。リンゴとプラムだかの静物画で、とても素敵。白にオレンジ「真鶴」じゃ、新潮文庫の三島由紀夫みたいだわ。