しまいびと

独立型ケアマネジャー兼、終活を専門とするファイナンシャルプランナーです。

ペット信託によりペットの命を守れるか(後編)

2022-11-26 | エンディングプラン
では次に、
『ペット信託』について説明します。

こちらも前回の記事の事例を使用します。

「Aさん(70歳男性)は一人暮らしですが、
知的障がいがありグループホームに入所している
息子のBさん(40歳)がいます。
妻とは死別し、その他の親族は甥のCさん(45歳)がいるだけです。
Aさん自身に病気や認知症はありません。」

この内容に、
「Aさんは愛犬モモを飼っている」ことを追加します。

『民事信託』の活用により、
賃貸マンションの収益を、
息子Bさんのために使えるよう準備できました。

次にAさんは、
自分に何かあったときの愛犬の世話を誰かに頼みたいと考えています。
Aさんは甥のCさんにそのことを相談しましたが、
さすがにCさんも、
愛犬モモの世話まで行う自信はないと消極的です。

自分が死んだ場合、
自分の残っている財産を愛犬モモに相続させて、
そのお金を元に誰かに世話を頼みたいと考えましたが、
相続の対象になるのは「自然人」と「法人・団体」だけであり、
「動産」扱いとなるペットにお金を残すことはできません。

一方、
誰かに自分の財産を遺贈する遺言書を書いて、
そのお金を元にモモの世話をしてもらうのはどうかと考えましたが、
遺言書では、
相続人がペットの世話を必ずしなければならないといった
法的拘束力はありません。
つまり最悪の場合、
お金だけ受け取られて、ペットの世話はしてもらえない、
という事態もあり得るわけです。

そこでAさんは『ペット信託』を活用することにしました。
Aさんは病気や認知症で愛犬の世話ができなくなった場合や、
自分が亡くなった場合に、
日頃から関わりのあった老犬ホームDにモモの世話を
お願いすることにしました。
その場合、
そのためのお金の管理や飼育費の支払い等の部分に関してだけは、
甥のCさんに頼んでお願いすることができました。

まとめると、
「委託者」⇒Aさん
「受託者」⇒Cさん
「受益者」⇒Aさん
「Aさんに何かあったときにモモの世話をする人」⇒老犬ホームD
「Aさん死亡時の第二受益者」⇒老犬ホームD
という信託契約を作成することになります。

細かい話になりますが、
『民事信託』では「受託者」=「受益者」という状態が1年間続くと
その信託契約は終了することになっています。

つまり、
モモの世話に消極的だったCさんを頼らず、
受託者(お金の管理する人)とモモの世話をする人を、
同じ老犬ホームDに頼んでしまうと、
Aさんが亡くなった場合に
「受託者」=「受益者」という状況が生じてしまいます。
要するに、
『ペット信託』を設定するためには、
少なくとも自分以外の2者が必要ということになります。

息子Bさんのことや愛犬モモのために
受託者を引き受けてくれたCさんには、
別途なんらかの形で財産の遺贈等を考えておくと良いかもしれません。

さて、
ここまで話をして最後に、
『ペット信託』のメリットやデメリットをお伝えしたいと思います。

【メリット】
〇遺言書や口約束と違って法的拘束力があるため、
 確実にペットの世話をしてもらうことができる。
〇ペットのために設定した信託財産は信託契約の範囲内でしか使用できない。
 また相続財産からも外れるため、
 自分が死亡したあとでもペット以外のことに使われることはない。

【デメリット】
〇信託契約時や信託財産等それなりの費用が必要になる。
 また、信託財産が適正に管理されているか、
 ペットの世話がきっちり行われているか等を確認してもらうため、
 「信託監督人」を設定することができるが、
 その場合、さらに監督人の報酬も必要となる。
〇「受託者」に負担が生じるので、引き受けてくれる人を探すことが難しい。
〇ペットの世話を引き継いでくれる人を探すのが難しい。

大切に飼われてきたペットは、
たとえ『ペット信託』で次に世話をしてくれる人が確保できたとしても、
どこでも良い誰でも良いわけではなく、
同じくらい大切に飼ってくれる人に引き継がれてもらいたいものです。
ですので、
『ペット信託』はとても有効な手段の一つではありますが、
ペットを飼う際には、
そのあたりのことも十分考慮してもらいたいと願います。

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