日本のドン・笹川良一・・・

　ノンフィクション作家の工藤美代子氏が１０月末に上梓した『悪名の棺　笹川良一伝』（幻冬舎）が話題を呼び、増刷を重ねて発行部数はたちまち６万部を超えたという。
　笹川良一についての私の知識といえば、右翼、また政財界の黒幕としても扱われ、「日本の首領（ドン）」と呼ばれた男というくらいか。それよりも、日本船舶振興会の支援を通してさまざまな慈善事業を推し進めていったことは有名で、特に、日本各地にある体育館等のスポーツ施設「B&G（Blue sea & Green land）海洋センター」のプールは私もよく利用させてもらった。

　現代ビジネスサイトの【賢者の知恵】に、“作家・工藤美代子氏が『悪名の棺』で明かした日本の黒幕・笹川良一「艶福家の私生活」”という見出しの「週刊現代」の記事がある。これを読むと、笹川良一という人物がいかにおもしろいか、その生き方が魅力的にさえ思えてくるから不思議である。よくも悪くも、これほどの大物はもう二度と現れることはないだろう。
　著書の中の次の一文がおもしろい。
　戦前、親交のあった山本五十六連合艦隊司令長官から「いったい女は何人いるのかね」と聞かれた笹川はこう答えたという。
　「決まっているだけで東京、大阪やな。ほかにもあるけど」
　さらにどうやって愛情を分配しているのかを質問されると、こう返した。
　「西へ行ったら浜松を境に東京の女は忘れる。西の女に愛のすべてをくれてやる。東京へ帰ってきたら、大阪のことはすべて忘れて東京の女に愛情を注ぐんや」

　色恋はすべからくこうでなければ…、これが笹川良一流の“愛の哲学”だったのだろう。すべての面で大物振りを発揮した笹川良一だが、今の時代に彼が生きていたら、さぞや窮屈であったろう。

　余談だが、衆議院議員を７期務めた笹川堯（たかし）は彼の次男で、いわゆる二世議員である。彼は、自由民主党を離党後、新進党の結党に参加。のちに自由民主党に復党という経歴の持ち主で、昨年８月３０日の衆議院議員総選挙で、民主党公認の石関貴史に敗れ落選し、政界引退を表明した。
　父親は確かに笹川良一あるが、彼はお妾さんの子どもだそうで、彼の幼少期は、戦中から戦後だからという面もあるが長屋に住む貧乏な部類の母子家庭だったという。当時の母子家庭は相当に後ろ指をさされる存在だったというから、金銭的にはともかく精神的には相当辛い思いをしたらしい。笹川姓を名乗ったのは１５歳のときで、良一氏の家に住み込み、飯炊き・洗濯・トイレ掃除までやった苦労人だとか。本人曰く、「母子家庭に育ち、明治大学を金銭的な問題から１年足らずで中退し、親からは１円の遺産も相続せず、政治活動も、実質的に世襲ではなく運転手からのスタートという、非常な苦労を強いられながら現在の地位まで登り詰めた」のだそうである。実際に、遺産の相続を放棄したというのは結構有名な話だという。性格は父親に似たところもあり、豪放磊落とでも言おうか、数々の問題発言でマスコミをにぎわしたことも少なくない。だが、他の二世議員同様、やはり父親を超えるような大物にはなれなかったようである。

　昔の政治家にもその道の豪傑はいた。藤山愛一郎と女優・細川ちか子との仲は公然の秘密で、２人の子どももいた。また、田中角栄は没後の遺産相続で非嫡出の男子がいた事が発覚。前総理の鳩山氏の父・鳩山威一郎も複数の愛人がいて、そこに子供もいたという。そして、東京都知事・石原慎太郎にも銀座の愛人との間に非嫡出男子がいるという。だが、一番驚いたのは経営の神様といわれたあの松下幸之助である。品行方正のお方かと思えば、なんと数人の愛人と隠し子がおり、認知した４人の非嫡出子にはそれぞれ数十億円単位の遺産が相続されたという。やはり、「英雄色を好む」くらいの人物でなければ大物にはなれないようである。