二銭銅貨

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舟を編む

2013-05-20 | 邦画
舟を編む ☆☆
2013.04.13 松竹、アスミック・エース、カラー、横長サイズ
監督:石井裕也、脚本:渡辺謙作
出演:松田龍平、宮崎あおい、オダギリジョー
   加藤剛、八千草薫、渡辺美佐子

インターネット時代に辞書編纂をビジネスにするということは、大変に難しい困難な課題であると思われ、特に紙媒体としての辞書は絶滅危惧種になってしまうのではないかと思われるほどである。そんな厳しさの中で辞書編纂をしている人々を賞賛する意味での映画製作なのかと思われた。

今後は商業としての辞書・辞典編纂は難しくなって行くと思われるので、大学や研究機関での公的な活動としての辞書・辞典編纂の形に変わって行くと考えられる。wikiのようなスタイルが主流になるのかも知れないが、専門的なエキスパートによる信頼性の高い仕事も当然のことながら必要なはずである。

人間社会とか、人類、文化、文明とかの本質は、言葉の堆積そのものである。我々が見ている文明とは、言葉の堆積が物理的形態をとったものと考えることができる。言葉の堆積は、情報の断片の堆積と言っても良いし、知識の断片の堆積と言っても良い。この知識の断片の堆積は増殖淘汰を繰り返し、進化の過程を経て現在に至っている。その堆積は今でも進化を続けていて、地球表面のプレートのようにゆっくりと動いて変化を続けている。生きている。これが今、膨大な堆積物となってさらに物理的な形態をとることで、われわれの文明を築きあげているのである。

生命体の遺伝子が多量の増殖淘汰を経て現在の遺伝子にまで進化を遂げたように、知識の断片の堆積も多量の増殖淘汰によってここまで進化を遂げてきている。文明の本質が人ではなく知識の方にあるとすれば、人はそのキャリアにあたる。ちょうど、生命体が遺伝子のキャリアであるのと同様に、人間は知識の断片すなわち言葉や文のキャリアであると言える。このキャリアは知識の断片を他の人から受け取り、さらに編集加工して別の人に渡している。この作業は莫大な数の人々によって延々と続けられている。この莫大な作業を通して知識の断片の堆積は増殖淘汰を続け、進化しているのである。人が生きるとは、すなわちこの言葉の編集加工作業および伝達に他ならない。

この映画は、膨大な知識の断片の堆積、すなわち言葉や文の堆積を海にたとえている。そしてその言葉や文の編集加工作業を海の航海にたとえている。言葉の基準である辞書はこの航海に欠かせない船である。辞書の編纂は人々が海を渡るための船を作成する大切な作業である。海は生きているので、これは継続的な作業であり、人類が滅びるまで続けられる。

松田龍平は言語学を専攻した寡黙で自閉的な青年、宮崎あおいも寡黙な板前職人、オダギリジョーは軽い蝶のようなひらひらした感じのサラリーマン、加藤剛は職人的なちょっといってしまった感じの言語研究者、八千草薫は落ち着いた優しいその妻、渡辺美佐子は明るい下宿の婆さんで年に似合わず元気。

音楽は渡邊崇で、朴訥な登場人物に合わせた離散的でゆっくりとしたもの。あまりでしゃばらず、良く映像にアンサンブルしていた。ピアノの離散的な音が多かった。

13.05.04 シネコン映画館


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