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お楽しみはこれからだ❣️

本と映画とテレビと鉄道をこよなく愛するブログ

朝の連続ドラマ「花いちばん」

2023年04月10日 | テレビドラマ
朝の連続ドラマ第1作「花いちばん」(1986年4月〜9月)。月〜金25分✖️130本の多分、長さで言うと「ギネスブック」に載ってもおかしくない長さのドラマだ。

スタッフのほとんどが、大阪で17年ぶりの「ドラマ制作」である。各セクションの段取りも当然ではあるが拙い。撮影時間もかかる。

京都府の亀岡でクランクインして、和歌山県の梅干しで有名な南部町にロケ隊は移動する事になった。

スタッフのほとんどはロケバス始め、車両で移動する事になる。

しかし、ヒロインの池まり子さん、中村玉緒さん、南田洋子さん、大村崑さん、金田賢一さんほか俳優さん達は電車で移動する。

人手が足らないので、AP(アシスタントプロデューサー)の僕が俳優さんたちを列車で、亀岡から南部まで誘導する事になった。たった一人で。

山陰本線で京都駅まで出る。京都駅から新幹線で新大阪駅。

新大阪駅から天王寺駅まではタクシー2台に分乗して、スピード違反にならない範囲で思いっきりぶっ飛ばす。

天王寺駅発の特急「くろしお」の出発時間がギリギリなのである。

ドラマに参加するのが初めてなので、どの俳優さんを「グリーン車」に乗ってもらい、どの俳優さんを「普通車」に乗ってもらうか、かなり迷う。

全員の指定席も素早く取らなければならない。京都駅、天王寺駅で、俳優さん達をそれぞれの指定席に案内。

なおかつ、俳優さん達の昼食用の駅弁とお茶も両手に抱えきれないほど買う事も必要だ。

特急「くろしお」が紀伊田辺駅に到着した。

ここから、南部の国民宿舎まではまた2台のタクシーに分乗して、俳優さん達を連れて行く。

宿に着いたら、部屋割りだ。連日2〜3時間しか寝ていない僕。さすがにアタマがボーっとして来た。

現場でのクレームは全て、APの僕に来るからだ。

この国民宿舎には風呂付きの部屋が1部屋しか無い。

この部屋は封印する。俳優さんの誰かに振り分けると、他の俳優さんからクレームが出るからだ。

割り当てた部屋に入ってもらったら、俳優さんによって、反応が違った。

一般人が使う大浴場に堂々と入る人。

俳優なので、一般人に裸を見られる事を嫌がり、割り当てられた部屋でタオルをお湯に濡らして、体を拭く人。

それも嫌で隣町の紀伊田辺のビジネスホテルに移りたいと訴える人。

俳優さんの反応に全て対応する。

そうこうしているうちに、ロケ隊が次々と国民宿舎に到着した。明日のロケの打ち合わせが深夜まで続く。いちばん遅く寝て、いちばん早く起きるのがAPの鉄則。

翌日も朝早くからのロケ。南部町の千里浜でのロケは思いの他、蒸し暑い。クラクラして来た。

僕の役目は俳優さんの撮影現場への送り迎え。普通は「製作部」(ロケを仕切るセクション)がやる事だが、何せ、人手が足りない。

南部町でのそんな状態のロケが続く3日目、僕は倒れ、紀伊田辺の病院に救急車で運ばれた。過労だった。

プロデューサーの判断で、僕はロケ現場を離れ、自宅に戻り、静養する事になった。

僕の乗った特急「くろしお」が撮影が行われている南部町の千里浜の横を通過する。

撮影しているのがよく見えた。その時、僕は思った。

「これで、誰にも遠慮する事無く寝られる」と。

柔らかい布団に包まれて、ぬくぬくと何時間も寝ていたかった。そんな僕の思いを乗せて、特急「くろしお」は天王寺へと向かっていた。

そんな事があって、半月後、撮影現場に復帰した時、僕の考え方は変わっていた。

いろんな人からいろんな事を頼まれても、それに「重要度」の順番を付けて、その事を頼んで来た人全員にちゃんと説明するという事を心に誓った。

全てを引き受けてしまったら、また僕は潰れるという事を自覚出来る様になっていた。

この事が東京に出て来てからのドラマ作りにとっても役立った。

東京の様に「制作会社」に頼らない「局制作」を大阪の朝ドラで何度も経験した事が良かった。

その原点が朝の連続ドラマ第1作「花いちばん」にあった。僕のドラマ作りの出発点である。


生野慈朗さん逝去

2023年04月08日 | テレビドラマ
元TBSのドラマディレクター生野慈朗さんが73歳で亡くなった。

「3年B組金八先生」「男女7人夏物語」「愛しているといってくれ」「ビューティフルライフ」など、TBSの数々のヒットドラマの演出を手がけた。

僕も今、tvkテレビ神奈川で再放送している「男女7人夏物語」を毎週楽しみに観ている。

73歳とは若い。
最近、僕の憧れたテレビマンが次々と亡くなる。

コロナワクチンの副作用なのか。

生野さんの御冥福をお祈りします。

八月のラブソング

2023年04月07日 | テレビドラマ
「八月のラブソング」。僕の東京でのドラマプロデューサーデビュー作である。

制作協力は、「共同テレビ」。僕が尊敬するドラマプロデューサー中山和記さんとの共同プロデュースだった。

監督は早撮りで有名な星田良子さん。

APとしての最後の仕事、「オンリーユー 愛されて」の撮影の終わり頃から打ち合わせが始まった。

APとプロデューサーではプレッシャーのかかり方が全然違う。ドキドキしながら、僕は毎日を過ごしていた。

新しい東京制作局長の高橋進さんが日本テレビから読売テレビにやって来た。

ドラマの制作会社を、読売テレビが今まで「木曜ゴールデンドラマ」などで付き合って来た老舗の制作会社から新しい制作会社に変えようとした。

「オンリーユー 愛されて」の「イースト」とか「八月のラブソング」の「共同テレビ」とか。

僕は今までのAPに付いた連ドラ通り、八ヶ岳での「タイトルバック撮影」にも「美術打ち合わせ」にも顔を出した。

「タイトルバックの撮影」では途中、突然雨が降って来たので星田良子監督はAPだった時の経験を活かし、複数のロケ車の駐車整理なども彼女がやり、葉月里緒奈さんを待たせる事無く、10分足らずで葉月さん部分を撮り上げた。リハーサル無しのいきなり本番だった。

緒形拳さんの部分は雨で濡れない屋根の付いた古民家の縁側で急遽撮影。

「美術打ち合わせ」に参加すると、星田さんは僕に言った。
「最初の挨拶だけして下さい。後はこちらでやりますから」

多分フジテレビでやる時は、フジのプロデューサーは「美術打ち合わせ」には顔を見せず、監督中心で打ち合わせをするのだろう。

僕は「共同テレビのドラマに対する気概」を踏み躙った様だ。

「共同テレビ」のプロデューサー中山和記さんも「美術打ち合わせ」にも「収録」にも「編集」にも「MA(音楽などを付ける作業)」にも来なかった。監督を信頼していた。

ポスター撮影。加藤雅也さんが当時アメリカ・ロサンゼルス在住で、次に日本に帰って来られる時を待っていたら、ポスターの完成が間に合わない。

僕は宣伝の岡本潤一さんと二人でロスに飛んだ。

入社して今まで、仕事で海外に行ったのはこの時一回である。

撮影は昼間すぐ終わり、夜は豪華な夕食。そして、現地の日本商社や大手メーカーが接待で使うクラスの高級なクラブ。ホステスは日本人の留学生。

これは僕が想像するに、宣伝の岡本さんがコーディネーターに手配させたものだろう。宣伝の費用から捻出されるので、値段を心配する事無く、遊ばせて貰った。

今から数十年前、遠き、テレビ黄金期の話である。今はこんな事は出来ない。

撮影が始まった。星田良子監督は毎日数時間巻いた。(予定のスケジュールより収録が早く終わる事)

主演の葉月里緒奈さんも、その父親で中華料理店のシェフ役の緒形拳さんも気分良く演じている。

こんな事があった。いつもは事務所の女社長が運転し、その助手席に乗って来られる緒形拳さん。この日は違った。

女社長が用事でもあったのか、緒形拳さん御本人が車を運転してスタジオに来られたのである。

僕とAPの田中壽一がお出迎えする為に待っていると、車が駐車場にバックして来て、突然大きな衝撃音が聞こえた。

緒形拳さんが車を駐車場の柱に大きくぶつけたのだ。

「おはようございます!」

僕と田中は何事も無かったかの様に元気な声で、車から降りて来る緒形さんを迎えた。

緒形さんと僕と田中はエレベーターに乗る。緒形さんは素知らぬ顔でエレベーターの天井を見上げて、薄笑いを浮かべている。

車をぶつけたのを僕と田中に見られて、気恥ずかしいのだろう。僕らも神妙な面持ちで緒形さんを控室に御案内した。

連続ドラマ「八月のラブソング」は低視聴率だった。1996年7月スタートだったので、その年の7/1付人事異動で、僕がドラマ班から外れる事は無かった。

その後も何故か、僕はドラマ班に居続けた。

最後にプロデュースした連続ドラマ「天国への階段」で加藤雅也さんと再会した。僕の事を憶えていてくれていた。

「何で『八月のラブソング』がDVD化されないんでしょうねぇ。あんな良いドラマなのに」

加藤雅也さんはそう言ってくれた。

「八月のラブソング」、プロデューサーとして、本当に未熟な僕が関わった連続ドラマ。

いろんなトラブルが現場ではあった。その度に僕の心臓はバクバクしていた。

そんな僕を支えて下さった中山和記プロデューサー、星田良子監督、有難うございました。

そして、脚本を書かれた黒土三男さんも先日鬼籍に入られた。

車をぶつけて、照れていて笑顔を見せて下さった緒形拳さんももうこの世にいない。

光陰矢の如し。
どこかのメディアで、「八月のラブソング」が放送される事を祈って。


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101回目のプロポーズ

2023年04月01日 | テレビドラマ

BSフジで、「101回目のプロポーズ」の再放送を妻と一緒に観た。毎週放送日の金曜日を心待ちにしていた。

浅野温子と武田鉄矢が魅力的だ。浅野温子は限りなく美しく、武田鉄矢は限りなく鈍臭いが誠実だ。

脚本が素晴らしい。二人の対比をこれでもかと、時には繊細に時には大胆に描いていく。

大多亮プロデューサーが撮影現場まで頻繁に足を運び、主題歌「SAY YES」や劇伴の音楽をかけたという。ワンカットワンカット、音楽に合わせて映像を撮って貰う為に。

そんなエピソードもうなづけるくらい、映像と音楽がシンクロし、僕たち視聴者の心に「大きな波」の様に響く。

演出の光野道夫と石坂(宮本理江子・・・脚本家・山田太一の娘)も大胆で巧い。

BSフジの「名作アワー」も次何を放送するのかと問い合わせてみたら、もうドラマはやらないとの事。

「ひとつ屋根の下」「白線流し」「夏子の酒」「愛という名のもとに」とか観たかったのになぁーAmazon | ひとつ屋根の下 コンプリートBlu-ray BOX -TVドラマ




電波ジャック

2023年03月30日 | テレビドラマ
その時、馬が暴れ出した。画面に映っていた石田ひかりさんと柳葉敏郎さんがそれを見て逃げた。一瞬の出来事だった。

僕はある日、ドラマのチーフ・プロデューサーである山本和夫さん(現在・ドラマデザイン社代表取締役)に呼ばれた。

「明日から北海道へ行ってくれ。電波ジャックのディレクターを任せる」と。

翌日が連続ドラマ「ナチュラル 愛のゆくえ」(1996年10〜12月)の初回放送だったのだ。

「電波ジャック」とは、ドラマのスタート日に、出演者が朝から各ワイドショーに出て、ドラマの宣伝をする事。

本来ならば、東京の日本テレビ内で完結する。

このドラマの場合、北海道浦河町を舞台にしているので、ロケ現場から中継を入れて、電波ジャックする事になった。

ドラマの宣伝担当と共にタクシーに揺られる事5時間、浦河町に着いたら夕方になっていた。辺りは既に薄暗い。

到着早々、翌朝の電波ジャックの打ち合わせを石田ひかりさん、柳葉敏郎さんとする。

何故か、僕の思い込みだったが、柳葉さんは「筋の通らない事は嫌い」という印象を勝手に持っていて、打ち合わせでとても緊張した。

しかしながら、石田さんと柳葉さんは僕の説明をよく理解して下さり、笑顔も見えていたので、ホッとしたのを憶えている。

午前4時起床。
札幌テレビがロケ現場に横付けした中継車に乗り込む。

「ズームイン!!朝!」の前の番組からいよいよ電波ジャックが始まった。

石田ひかりさんと柳葉敏郎さんの2ショット。生放送の進行は順調だ。

「ズームイン!!朝!」になると、札幌テレビのディレクターと交代。「ズームイン」のレギュラーのディレクターだ。

「ズームイン」が終わると、また僕にディレクター交代。「ルックルックこんにちは」(1979〜2001年)の電波ジャックがあるからだ。

「ルックルックこんにちは」東京・日本テレビのスタジオでは司会の岸部シローさんがトークを展開している。この頃の岸部さんはお元気だった。

北海道浦河町の生中継の現場では、電波ジャックの準備が着々と進む。電波ジャックの告知時間が長いので、真ん中に馬を入れ込み、左に石田ひかりさん、右に柳葉敏郎さんで囲んで貰った。

間もなく、生中継。

生中継の振りを日本テレビの岸部シローさんがして、映像が浦河町に切り替わる。

打ち合わせ通りの質問が石田さん柳葉さんに岸部シローから来て、掛け合いが始まる。

俳優さんは生放送のワイドショーに出られる事はほとんど無いので、掛け合いに慣れていない。その為、予め訊かれる質問を石田さん、柳葉さんに昨夜の打ち合わせで伝えておいたのだ。

順調に見えたその時、予期しない大変な事が起こった。

馬が暴れ出し、石田ひかりさんと柳葉敏郎さんは馬に蹴られない様に咄嗟に避難。馬もフレームから外れてしまう。

馬は元来とても神経質な生き物なのだ。生中継の異様に緊張した雰囲気に耐えられなかったのだろう。

そこに「ルックルックこんにちは」のエンドロールが流れる。画面は誰もいない牧場の風景を映し出していた。これではスタジオとのやり取りも無理だ。

岸部シローさんがスタジオで取り繕う中、生中継は終わった。

北海道から帰る飛行機の中で、僕は憂鬱だった。CPの山本和夫さんにこっ酷く怒られるのは目に見えていた。

東京支社のドアを開け、すごすごと僕は東京制作部のデスクに向かう。

山本さんの姿がそこにあった。すぐに電波ジャックの失敗を誤った。深々と頭を下げて。

山本さんは笑っていた。
「出演者も馬も逃げて、誰もいなくなった。生放送のハプニング面白かった。ドラマを印象漬ける事にも成功したと思うよ!」

「ナチュラル 愛のゆくえ」の電波ジャックから6年あまり、ドラマ「天国への階段」(2002年4〜6月)で浦河町に行く機会があった。

美術さんが「ナチュラル 愛のゆくえ」の牧場の岬の先端に植えた高さ20mは有ろうかという大木。ロケ現場の象徴だったその大木は大地に根付いて、より一層大きくなっていた。

根岸明美さん

2023年03月24日 | テレビドラマ
テレビ局に入って最初に見た芸能人は早見優さんだった。僕が入社してすぐ付いた桂三枝(現・文枝)さんの番組にゲストとして来たのだ。

デビュー曲「夏色のナンシー」を歌った。元気溢れるミニスカートで彼女は歌った。その肢体は眩しく輝いていた。アイドルと出会えた瞬間だった。

僕はテレビ局に入って良かったと単純に思っていた。

今は結婚してオーストラリア在住の河合奈保子さんにも局内で出会った。

そして、「11PM・おめでとう!全日本有線放送大賞」では新人賞を受賞した岡田有希子さんの姿もあった。フロアーディレクターをしていて、「胸が大きい子だなぁ」と思っていたのを未だに記憶している。

朝の連続ドラマでは、ミヤコ蝶々さん、中村玉緒さん、南田洋子さん、野際陽子さん、市原悦子さん、内藤剛志さん、ほか数々の大物俳優さんと出会った。皆さん、APの僕に本当に優しくしてくれた。

東京に出て来てからでも、鈴木京香さん、大沢たかおさん、緒形拳さん、佐藤浩市さん、室井滋さん、佐野史郎、中谷美紀さん、椎名桔平さん、渡部篤郎さん、石田ゆり子さんらとお仕事をさせて頂いた。中身の濃いお付き合いだった。

とりわけ、日劇ダンシングチーム出身で、黒澤明監督作品の常連、女優・根岸明美さんとの或る一日の事は忘れられない想い出として、僕の脳裏に刻まれている。

ロケで琵琶湖西岸「近江舞子」に行く事になった。

根岸明美さんの出番は午後から。

僕は根岸さんに、後から大阪より電車に乗って来てもらい、ロケの最寄り駅からタクシーで午後イチ現場入りする事をお勧めした。

しかし、彼女は
「午後から行くのは心配なので、朝からスタッフとロケバスに乗って行きます」とおっしゃった。

それでは午後イチまで何時間も彼女をお待たせするので、申し訳ないと伝えたのだが、彼女の意思は固かった。

朝9時から近江舞子でのロケが始まる。

僕は狭い控室で根岸明美さんの話し相手になる事を決めた。

彼女の生い立ちの話から聴き始めた。彼女は楽しそうに僕に話してくれる。

昼のロケ弁当も二人っきりで食べた。

午後は根岸さんが日劇ダンシングチームに入った時の話からスタート。

ロケの方は押しに押している様だ。午後イチに撮影現場に呼ばれるはずの彼女。日が傾き始めても助監督は呼びに来ない。

引き続き、黒澤明監督作品に出た時の話を伺う。普通では聞けない黒澤明監督の貴重な裏話をたくさん聞く事が出来、僕は感動していた。

ロケ開始の朝9時からだから、根岸明美さんと8時間以上話していた計算になる。

夜の帳が下りる午後5時半過ぎ、やっと助監督が呼びに来た。根岸さんは落ち着いた優しい顔で撮影現場に入られた。

その姿を見届け、僕は心底ホッとしていた。長時間の緊張で、脱力感が身体全体を支配していた。

根岸さんの撮影シーンはあっという間に撮り終わった。

彼女は控室でメイクを落とし、行きと同じ様にロケバスに乗り込んだ。

ロケバスが局に着くと、僕はタクシーを呼んでリーガロイヤルホテルまで根岸明美さんを送リ出す。

「今日はお疲れ様!」

と明るく言って、彼女はタクシーのドアを閉めた。

僕はタクシーが見えなくなるまで、頭を深く下げ続けた。

根岸明美さん、本当にカラッとした気性で男っぽく、僕は彼女の事がいっぺんで好きになっていた。

あんなに長時間、俳優さんと一緒にいて、話し込んだ事は後にも先にもあの日だけだ。

ドラマ撮影の「忘れる」

2023年03月17日 | テレビドラマ
台本が上がって来て、早々にやる打ち合わせを「美打ち(美術打ち合わせ)」という。参加するのは、プロデューサー、監督、助監督、製作部(ロケ場所を探すセクション)、美術部、撮影部、照明部、録音部、記録などなど。

予算の事もあるので、シーン毎にプロデューサーが「ロケ」か「スタジオのセット」かを決める。

そして、監督に対して、いろんな質問が飛び交う。

例えば、劇中に出て来る「新聞の記事」「雑誌の表紙や記事」「パソコンの画面」のアップが映るかどうかなど。

映る場合は、助監督がその原稿を作成して、美術部に渡す。それを元に、美術部が本当の新聞や雑誌を作っていくのである。

助監督は原稿作成の際、実際に存在しない「新聞社名」「雑誌名」であるか、必ず確認する。かつては電話帳で。今はインターネットで。

ドラマの設定で、その新聞や雑誌が「悪い印象を与える記事」を載せた場合、現実にある新聞や雑誌の名前を使っていると、トラブルになる可能性があるからだ。

もちろん、記事の中の「写真」を撮るのも助監督の仕事。

記事や表紙を撮る場合はこの様な作業が派生するので、助監督は「美打ち」で、アップを撮るかどうかを監督に確認するのである。

パソコンの画面は助監督とドラマに特化したパソコン画面専門業者が打ち合わせをしつつ、作業を進める。

「美打ち」で話し合われるものに、「消え物」がある。

「消え物」とは、食事のシーンで出される料理の事。
俳優さん達が食べて、消えるので、「消え物」と言う。

「すき焼き」にするか、「刺身」にするか、「鍋」にするか。

「消え物」は、その役のキャラクターを決める重要な要素。
貧乏な家族のドラマなのに、ステーキを食べているのは、やっぱりおかしい。

「消え物」を作るのは、美術部の「小道具さん」。
彼らはドラマの度に「消え物」を作っているので、料理が得意で作った料理は美味い。

僕も助監督時代、その日の撮影が終わったら、缶ビールを持って「小道具さん」の所へ行き、「消え物」の残りをアテに、美術部と飲み明かしたものだ。

もちろん、大きな宴会のシーンが出て来た場合は、「小道具さん」が料亭などに発注して、持って来てもらい、スタジオのセットに並べる。

「監督、〇〇をどこで忘れますか?」

助監督が訊く。メイクさんが訊く事も。

「忘れる」も大事な撮影用語である。

〇〇に何が入るか?

いろんなものが入るが、例えば「俳優さんが喧嘩のシーンで負った傷」(傷を作るのはメイクさん)。或いは、「喧嘩のシーンで汚れた真っ白で裂けた服」(担当は衣裳さん)。

ドラマではなく、日常生活では「治るのに何週間もかかる傷」も、ドラマでは、数シーンで傷は治っている。

いつまでも、俳優さんの傷を残して、元々の顔に戻るのを遅らせる事は得策ではないからだ。

「シーン44で主人公の傷は『忘れましょう』」と監督は指示する。こういう風に「忘れる」は使う。

「えらい事やらかしました!」

セカンド助監督(衣裳担当)をやっていた時、衣裳さんが慌てて僕の所に駆け付けて来た。

ヒロインがエプロン姿で家の階段を駆け上がるシーン。一階のセットと二階のセットが別に建っていた。

一階の撮影の時にはエプロンをしていたヒロイン。
しかし、二階に駆け上がって来るシーンで、衣裳さんはヒロインにエプロンをつけ忘れたとの事。

そのシーン、監督も既にOKを出している。

記録さん(シーンとシーンの繋がりを記録する女性)に確認してみると、

「えっ、そうだっけ?」

三人で密かに撮影済みのVTRをチェック。確かに一階ではしていたエプロンが二階では無くなっている。これは非常にまずい。

もう、そのセットは撮影が終わって、取り壊されていた。
もう、そのセットが編集までに建つ事は無い。

僕は背筋が寒くなった。衣裳さんも記録さんも顔が真っ青だ。三人は呆然としていた。

「僕がこのシーンの編集をしている時、立ち会います。そのシーンが来たら、監督の気を逸らして、『繋がりミス』に気付かない様にします」

編集に立ち会うのは、ビクビクものだった。

「どうか監督が気付きません様に」
祈る様な気持ちだ。

この作戦は成功した。監督には申し訳ない思いでいっぱいだったが、反面、僕はホッとしていた。

そう。この時、衣裳さん、記録さん、僕。

僕ら三人はエプロンを「忘れた」。



製作担当者

2023年03月16日 | テレビドラマ
「鉄砲」。撮影用語である。「許可を得ずに撮影する事」。

東京で言えば、「渋谷のスクランブル交差点」、大阪で言えば、「ミナミのひっかけ橋(戎橋)」は絶対にドラマ撮影の許可は下りない。
どちらも撮影をすれば、大混乱になるのが見えているからだ。

今日は「製作担当者」の話。
大阪で「朝の連続ドラマ」が始まった時、助監督は東京から呼んで来た。

しかし、「製作担当者」は東京から呼べないのである。

そもそも、「製作担当者」とは何者かと言う事になるが、簡単に言ってしまえば、「ロケの全てを取り仕切る総責任者」。

昔から、日本映画にも「製作担当者」というテロップが出て来る。

いちばん最初の朝ドラ「花いちばん」。スタッフ集めでいちばん苦労したのが、この「製作担当者」を見つける事だった。

ロケ場所を探して来るという仕事は、関西の地理に詳しい人で無いと出来ない。

当時、大阪でドラマをやっていたのは、NHKの「朝ドラ」、毎日放送の「昼の連ドラ」、そして朝日放送の「部長刑事」くらいだった。

考えた末、「花いちばん」の「製作担当者」には、大映京都撮影所のAさんに来て頂く事になった。

Aさんの話。大映映画の場合、プロデューサーではなく、Aさんに「ロケにかかる全ての予算」が会社から渡される。

映画の撮影現場には、何があっても大丈夫な様に、何千万という現金を持って行ったそうだ。今みたいに、銀行のATMとか無い時代の話。

自分の才覚で、この莫大なロケ費を余らせれば、「製作担当者」の取り分。時と場合によっては、家一軒建てられたと言う。

その代わり、Aさんは自分の命に関わる様な事もやった。

普通にロケ現場で、車止めをするのはもちろん、撮影に必要であれば、時には線路に寝転んで、「嵐電(京福電鉄嵐山線)」も止めた。

当然、警察が来る。モメる。モメている間に撮影を進め、撮影が無事終了になったら、警察署へ連行。ブタ箱に一夜泊まって、翌日釈放された。
「鉄砲」のロケだった。

「朝ドラ」。「中国残留孤児」が来日して、「清水寺」を訪れるシーンが台本に出て来た。

Aさんが「清水寺」とのロケ交渉にあたる。

「清水寺」は頑として、撮影を断って来る。昔、京都の撮影所が「清水の舞台」の上でチャンバラをやり、手摺や柱に刀疵を付けたので、それ以降、撮影隊に境内を貸していないとの事。

「絶対、お断りします!」

それでもAさんは毎日「清水寺」にお願いに通った。

そして、落ち着いた妥協点が
「境内にカメラを入れてもいいが、役者が芝居する『清水の舞台』での撮影はNG」。

つまり、境内から「清水の舞台」の情景だけの撮影のみOKという事。

京都からはるかに南下した所に位置する奈良の「長谷寺」。ここにも「清水寺」より小さいが、舞台がある。そこで、舞台上の芝居を撮った。

二つのお寺の映像を合成すると、ちゃんと「清水の舞台」のシーンが成り立っていた。

「製作担当者」のしんどさはこれだけじゃ無い。

台本が挙がって来て、「ソ連と満州国の国境辺り」とか、「フィリピンのジャングルの中」とか、「アメリカの街並み」とか、プロデューサーの意向に沿って、平気で出て来る。

もちろん、全て日本国内のロケで、場所を見つけなければならない。

そんな場合は監督と相談し、ロケ場所を飾り付ける美術部とも話し合い、撮影現場を探す。

さすがにプロ。こんな時でも、知恵を絞って、OAでは台本で指定された国に見える様にあっちこっち飛び回って、結局見つけて来る。

僕らが関西で「朝ドラ」をやっていた時、パラマウント映画「ブラックレイン」の撮影が大阪で行われた。

主演はマイケル・ダグラス。高倉健、松田優作も出ている。

出来上がった映画を観たら、「朝ドラ」では、「撮影許可申請書」を出しても絶対通らない場所でロケをやっていた。

大阪梅田・阪急百貨店横の通路でのマイケル・ダグラスがバイクに乗るシーン、阪神高速でのカーチェイス(もちろん「朝ドラ」でカーチェイスするシーンが出て来る事は無いのだが)。

何年も放送し、一年の内、八ヶ月間も大阪でロケしている「朝ドラ」。

全世界にパラマウント映画が配給する「ブラックレイン」。

影響力も規模も違うが、大阪府・大阪市・大阪府警など公共団体の「撮影に対する協力」の圧倒的な違いに打ちのめされた僕だった。

主要高速道路を全面立ち入り禁止にして、「ターミネーター2」を撮影出来るアメリカという国、アメリカ人の映像文化に対する思いや理解が羨ましかった。

それでも、今、この時間にも全国で厳しい条件の中、多くのドラマのロケ隊が撮影現場に向かうのである。

観て下さる人々に「夢」を与える為に。



撮影隊の集合場所

2023年03月15日 | テレビドラマ
ドラマのロケ。

スタッフの集合場所と言えば、「新宿・スバルビル前」「渋谷・パンテオン」「有楽町・マリオン前」「成城学園前・ミスタードーナツ前」などである。

この集合場所には、「テレビドラマ」「映画」「Vシネマ」「アダルトビデオ」など、撮影隊と呼ばれるロケバスとそれに関わる人たちが集まる。

「新宿・スバルビル前」。
新宿駅JR西口を出て、真向かいに
見える「スバルビル」。

その前が車線が幾つもあり、ロケバスが長時間止まっていても支障が無く、JR、私鉄、地下鉄各線からのアクセスも抜群。スタッフも集まりやすい。

そんな理由でここに決まったらしい。

「渋谷・パンテオン」。
渋谷駅東口を出た真向かいに「東急文化会館」というビルがあり、その中に「パンテオン」という映画館があった。

現在は、「東急文化会館」自体が取り壊され、別のビルになっている。

実は、渋谷の集合場所は正確に言うと、「渋谷・パンテオン、金王坂下」になる。

つまり、映画館「パンテオン」のあった裏側、国道246号線の「金王坂下」に撮影隊が集まるのである。

朝7時台、多くのロケバスがここに集まる。

過去に別のドラマで一緒に仕事をした助監督やその他のスタッフに会う事も珍しくない。そんな時は思い出話に花が咲く。

朝食は「ポパイ」という業者の「おにぎり2個とゆで卵」というメニューが一般的である。

冬などは、ロケの一際を取り仕切る「製作部」のいちばん下の「制作進行」が大きな声で「おはようございます!」と挨拶。

寒さで白くなった息を吐きながら、各車両にこの朝食を配っていく。

夏は汗を流しながら。

こうした集合場所に駐車するのは、「ロケバス」と「監督を乗せ、先発する「製作部」のワゴン車」。

「技術車」「照明車」「美術車」などの各パートの車は、それぞれの会社からロケ現場へ直行する事が多い。これらの車のドライバーにも、「製作部」が前日までにロケ現場の地図を配っている。

あまり集合場所として使われる頻度は少ないが、「成城学園前・ミスタードーナツ前」は、僕にとって思い出深い。

東京に異動して来て、最初に付いたドラマ「寝たふりしてる男たち」(1995年1〜3月)。
その監督ロケハン(ロケの下見)。

テレビ界の巨匠・鶴橋康夫監督と精鋭のスタッフとAP(アシスタントプロデューサー)の僕。

その朝、少し早めに集合場所の「成城学園前・ミスタードーナツ前」に着いた僕。少しだけ、「便意」を感じていた。

「ミスタードーナツ」で、トイレを借りようかどうか、かなり迷ったが、鶴橋監督始め、スタッフがどんどん集まって来て、トイレに行きたいとは言い出せなかった。

「監督車」が先に出発。それに遅れて、ドラマの主要スタッフと僕が二台目のワゴン車に乗り込む。

「成城学園前」を出発した時はさほど感じなかった「便意」だが、高速を走るにつれ、増していき、目的地・伊豆半島に向かう手前の小田原辺りで、お腹が聞こえるほどグルグル鳴り出した。

後部座席に座っていた僕。
腰を浮かせ、車の振動に必死で耐え、「便意」を散らそうとする。

「ここで漏らしたら、最悪や!」と悲壮感が漂う。

やがて、その努力も限界に達していた。

「巨匠・鶴橋康夫監督のロケハンでウンコ漏らした」
という伝説になってはと思うと、脂汗が出て来る。

「監督車」を待たす事は出来ない。
しかし。

「すいません!ト、ト、トイレに行きたいのですが・・・」

限界がきた。
まだ、会って間もないスタッフに、恥も外聞も無く、そう伝えた。

ワゴン車はサービスエリアに入ってくれ、僕は無事、用を足す事が出来た。

「監督車」に遅れる事、約10分。

携帯電話も無い時代。
「監督車」は、すぐ後ろを来ているはずの「僕たちの乗ったワゴン」が来ないので、待っていてくれた。

その結果、鶴橋康夫監督には、「寝たふりしてる男たち」の撮影が終わるまで、人に紹介される度に、

「コイツがウンコで監督を待たせたAPなんです」

と言い続けられた。
恥ずかしい。

早朝というより、夜。午前3時、僕たちスタッフは集合場所の「東名高速・用賀入口」にタクシーで向かっていた。

「オンリーユー 愛されて」(1996年1〜3月)の湘南ロケ。
大沢たかおさんと犬が海岸に座って、上ってくる朝日を見ているシーンの撮影だ。

カメラ、照明の準備もあるので、この時間に用賀に集合する事になった。

天気は晴れ。満天の星が降り注いで来る様だ。

太陽の光が水平線上に少しずつ現れる。その光が大沢たかおさんの顔と犬に柔らかに照りつける。

監督が優しい声で本番!

良いカットが撮れた。
今日も撮影は順調だ。

「永遠の仔」と中谷美紀さんのビール

2023年03月14日 | テレビドラマ

「ハイ!チーズ!」
キャスト・スタッフ・マネージャーが集まって、記念写真の撮影。
夕方、多摩川の河川敷。

中谷美紀さん、椎名桔平さん、渡部篤郎さん。そしてそれぞれの子供時代を演じた邑野未亜さん、浅利陽介さん、勝地涼さんも。

子役の撮影はオールアップしているのに、記念写真の為だけに駆け付けてくれた。

「永遠の仔」(2000年4〜6月)最終話の山場のシーンの撮影がこれから夜を徹して行われる。多分、200カット以上あっただろうか。

夜の撮影。照明さんの準備に時間がかかる。

太陽が西の空に沈む前からリハーサルを繰り返し、夜になるのを待ちかねて、第1カットの撮影が始まった。

ここまで小さなトラブルはいろいろあったが、最終話の撮影まで来るとプロデューサーの役割は少ない。本当に手持ちぶたさ。

ベースと呼ばれるカメラの映像と音声が見聞きできる場所の近くに陣取り、確認はしているが、基本監督にお任せする。

撮影時間が長いので、ベースと撮影現場を何度も行き来する。

僕は「多動症」である。それゆえ、1つの場所にずっといるのが苦手だ。

だから、スタジオやロケに行ける「番組制作」という仕事を選んだのかも知れない。

2022年大晦日から2023年元旦にかけて、「BSよしもと」で放送された「ワレワレハワラワレタイ・吉本芸人100人へのインタビュー」という映画で、大阪の漫才師・大木こだま・ひびきさんのこだまさんがこうコメントしていた。

あの「チ」というシールを貼った親指を出して、「チッチキチー」というギャグを言う芸人さんである。

「ワシ、いろんな職業に就きました。ガソリンスタンドの店員やら、飲食店の従業員、サラリーマンとか。でも、1日8時間、同じ事をしてる仕事は出来ませんねん。その点、芸人は15分の舞台が1日3回。あとは自由。これがよろしいんです。生まれ変わっても、芸人しか出来ません」

この発言をテレビで観た時、僕の身体に「ビビっと走るもの」があった。

じっと8時間、サラリーマンとして、デスクに座り続けているのはやはり、僕にも耐え難い事なのだ。

話はかなり脱線(笑)したが、撮影現場は大好き。だけど、一ヶ所でじっとしていられない。

痴呆がきた母親に銃を持たせ、渡部篤郎さんが自殺を図る。そこに駆け付ける中谷美紀さん扮するヒロインと椎名桔平さん演じる刑事。

河川敷にある古寺の境内での芝居が続いた。

徹夜で撮影しても、周りの民家に音が全く聞こえない場所。
良い場所を探して来たものだ。

夜はゆっくりと更けていく。漆黒の闇が辺りを支配する。
撮影現場以外は静寂が訪れている。

やがて、遠くから電車が多摩川の鉄橋を渡る轟音が響いて来る。

東急田園都市線の始発電車だ。
ロケ場所は「二子玉川駅」の多摩川を挟んで、斜め向かい側にある。

空が白み始めている。しかし、まだロケは終わらない。

昨日、夕方、記念写真を撮った時間から12時間が経過しようとしていた。

空が白み始めた。

本日、100カット超のラストカット。
「OK!オーライ!」
監督のかけ声で、撮影は朝になって無事終了した。

中谷美紀さん始め、キャストがベースに集まる。みんなお互い握手をしていて、すごく幸せそうだ。

「ビール飲もうよ!今P(僕の愛称)」

中谷さんがクーラーボックスから冷えたビールを二本取り出し、一本を僕に手渡してくれた。

椎名桔平さん、渡部篤郎さんと一緒に乾杯!中谷さんの笑顔がもの凄く眩しかった。

中谷美紀さんは、「永遠の仔」の撮影期間四ヶ月、実の父親から「性暴力」を受け続けたキャラクターを演じ続けていた。

それは「心」に「重い西洋の甲冑」を着て、演技し続ける事だった。彼女はそこまで役にのめり込んでいたのだ。消耗し切っていた。

「永遠の仔」。最終話のラストシーンだけ、原作とテレビドラマでは違う。原作者・天童荒太さんに許諾をもらい、ドラマ独自に足したシーン。

中谷美紀さん演じるヒロイン・優希が全てが終わって、とある小さな漁師町の診療所で看護師として働いている。

小さな子供が車に轢かれ、診療所に担ぎ込まれる。医師と共に必死で治療にあたる優希。子供は命を取りとめた。

漁港に佇む優希。その細い手が空に向かって上がり、真っ白な包帯が風にたなびく。

自分の中で忘れる事の出来ない「過去」を持ちつつも、彼女は希望を持って、「未来」への第一歩を踏み出す。

これがこの「永遠の仔」というドラマの本当のテーマだったのかも知れない。

それにしても、多摩川河川敷で朝陽の中、飲んだビールの味は一生忘れられない。


ドラマ「フレーフレー人生!」の秋田新幹線ロケ

2023年03月13日 | テレビドラマ
「何とかしてみましょう」
新宿ゴールデン街で知り合ったJR関係のKさんは僕にそう言ってくれた。

その頃、僕が関わっていたドラマが、松下由樹さん主演、遊川和彦さん企画・原案、横田理恵さん脚本の「フレーフレー人生!」(2001年7〜9月)だった。

第一話に、このドラマの内容を左右する重要なシークエンスが出て来る。

やもおえない事情から松下さん演じるヒロインが、赤の他人の子供三人を新幹線の車内に連れ込んでしまう。秋田駅での出来事。

途中、秋田新幹線「こまち」の中でも芝居があって、途中駅でも新幹線車内とホームでのシーンがある。最後は上野駅での撮影。

確か、Kさんの話ではこのドラマの撮影、いろんなところに話を通さなければならない。

秋田鉄道管理局、盛岡鉄道管理局、仙台鉄道管理局、東京鉄道管理局。(呼称が正確では無いかも知れない)

そして、撮影に使う秋田新幹線「こまち」は臨時列車。ダイアグラム(列車の運行を決める表)にも、新たに「線」を引いてもらわなければならない。その部署への連絡も必要だ。

通常の「こまち」は盛岡駅で、東北新幹線「はやぶさ」と連結され、東京へと向かう。

しかし、撮影用臨時列車「こまち」は、盛岡駅での連結無しで、単独で上野駅へ向かう事になっていた。

秋田新幹線「こまち」が単独で上野へ向かう事は無いので、「鉄道ファン」にとっては垂涎の出来事だったろう。誰も知る由は無いが。

秋田に前日入りしたロケ隊は万全の準備をして、撮影当日の朝を迎えた。夏とは言っても、北国の朝は寒い。

秋田駅には白い靄がかかっていた。撮影用「こまち」が定刻、静かに入線して来て、ゆっくり止まる。

JRの係員の方のOKを確認した上で、戦争の様な長い1日が始まった。

秋田駅でのホームと「こまち」の出入口のシーン。始まりは順調。

撮影終わりで、出演者・スタッフ、全ての機材、取材記者の皆さんが「こまち」に乗り込む。

続いては、動く車内での撮影。
秋田新幹線は、大曲駅で進行方向が変わるので、出演者の座り位置も反対側になる。

車内での撮影は、盛岡駅到着ギリギリまで続いた。

次は、「盛岡駅」という「テイ」で、「水上駅」でホームと列車、トイレ付近の撮影。「盛岡駅」は全ての列車が止まる主要駅なので使えないのである。

列車の停車時間は秒単位で決められているので、車内ロケよりキツい。他の列車のダイヤを乱さずに何とかロケ終了。

ここからは、宣伝部のパート。隣の車両に出演者が移動。高速で走っている列車内で、出演者を囲んでの「会見」が始まる。

新幹線の走行音で、「出演者と記者のやり取り」が聞こえ辛いところはあったものの、「動く列車の中での記者会見」、出演者も記者も少し興奮して、受け答えを続けてくれた。大成功!

最後は上野駅で松下由樹さんと三人の子供たちが新幹線を降りるシーンの撮影。

「こまち」の車内、上野駅のホームと階段を使う。

上野駅のこのシーンも撮影時間に制限がある。上野駅も東京駅に向かう新幹線の途中駅なので、停車時間も厳密に決められている。

撮影をその時間内に収める為、各セクションが必死になって、動き回る。何とか、撮れた。

一日の撮影が終わると、キャストもスタッフもグッタリしていた。
しかし、何ものにも代え難い達成感があった。

新宿ゴールデン街で親しくなったJR関係のKさんがいなければ、このロケは成立していなかった。

本当にKさんには感謝している。
新宿ゴールデン街で出会った人々。そこから、様々な縁が生まれ、ドラマが生まれたと思う。

ドラマ「silent」で一躍有名になった「小田急・世田谷代田駅」。

小田急はこれからも「使用料」を取って、ロケ隊を呼び込む体制を作っているとの事。

22年前の新幹線を使ったこのドラマ。

今、こんなロケを新幹線を使って出来るのだろうか?

後日談になるが、新幹線車内のロケ、実は撮り切れていなかった。

美術の箕田英二くんがスタジオの中に、秋田新幹線の車内、トイレから出入口付近のセットを再現してくれた。

使った素材は、JRに問い合わせて、全て本物を用意したという。

出来上がったセットに立ってみると、本当に「こまち」の車内に乗っている様な居心地だった。

ドラマを御覧になった視聴者の方で、新幹線の車内、ロケで撮影した部分とスタジオのセットで撮影した部分の違いが分かっただろうか?

撮影はやはり、「人」である。
最近、痛切にその事を感じている。

オンリーユー 愛されて(その2)

2023年03月07日 | テレビドラマ
恋愛ドラマで重要なのは「音楽」。


ドラマ「silent」も、今BSフジで放送している「101回目のプロポーズ」も視聴者の気持ちを、より盛り上げる様に音楽が入っている。


「オンリーユー 愛されて」の主題歌はオリジナルラブの「プライマル」。そのインストバージョンもドラマの中で効果的に使われているが、もう一曲、大事な曲が使われている。


このドラマの制作会社イーストの会議室。


撮影の始まるずっと前に、音楽監督の近藤由紀夫さん、小西香葉さんがある曲をプロデューサーたちに聞かせてくれた。


チャールズ・チャップリンが映画「モダンタイムス」のエンディングの為に作曲した名曲「スマイル」である。


この曲を使いたいと二人は力説した。


「スマイル」がこのドラマにハマった。視聴者の心を昂らせた。


最終回のロケ。鈴木京香さんと大沢たかおさんが湘南の海の中にゆっくりと消えて行くシーン。


チャップリンの「スマイル」が静かに流れ始める。


このシーンはまず海の中に

入って行くところを実際の湘南海岸で撮る。


完全に水中になってからは、湯河原にある「ダイバーの訓練用、深さ9メートルのプール」の中で撮った。


海面から差し込む陽光をバック

に二人はゆっくり水中で揺蕩う。


それを水中撮影専門のカメラマンが撮影する。


無音の中でお互いの顔を見つめ合う二人。手が差し伸べられ、二人の手が繋がった。


二人の心が一つになった瞬間。

「スマイル」の優しい響きが消えて、静寂が訪れた。ほんの数秒。


湘南海岸の海。再び、手を繋いだ二人が海面に現れた。


「スマイル」が素晴らしいメロディーを奏で始める。その響きが最高に達して・・・


二人は一つになれた。二人の「恋」は成就したのだった。


この「スマイル」。DVD化の際には全て別の曲に差し替えられている。


チャップリンの著作権が残っており、その著作権料が高すぎて使えないからだ。


うちのドラマ、他局と一線を画す為に、外国曲を使ったものが少なからずある。


それゆえ、再放送出来なかったり、DVD化出来なかったりしている。


著作権はとても重要なものだが、一ドラマファンとしては、完全オリジナルで観たい。


それゆえ、最近のドラマはDVD化、海外番販、配信などの事を考えて、著作権を全てクリアにして、制作されている。


「オンリーユー 愛されて」、本放送の時に全話録画しておいたら良かったと後悔している。


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オンリーユー 愛されて (その1)

2023年03月07日 | テレビドラマ


連続ドラマ「オンリーユー 愛されて」(199613月放送)。僕がAPで付いたドラマ。

脚本は神山由美子さん、プロデューサーは山本和夫さん(現・ドラマデザイン社代表)。そして、演出は国本雅広さん他。


湘南を舞台に、鈴木京香さん演じるトップモデルと大沢たかおさん演じる知的障害を持った純粋な男の子が恋に落ちる物語。


冬、極寒の湘南に何度通った事だろう。まるで、連日冷凍庫の中で撮影している様だった。


第一話の完成が近づいて来ると、記者会見が行われる事になる。


当時の宣伝マンがいい加減な人だった。僕の、彼との打ち合わせにも甘かった点もあった。


主な出演者とプロデューサーの会見が終わり、「囲み取材」(出演者それぞれ、別のテーブルに一人ずつ座ってもらい、記者がその周りを囲んで取材する事)に移った。


100名以上の記者が「記者会見場」から「囲み会見」のテーブルに移動する。


ここで大きな問題が起きた。宣伝の担当者が、どのテーブルにどの出演者が座るか、全く決めていなかったのだ。


会場は大混乱。罵声が飛び、騒然となる。


「どうなってるんですか?どこに座ればいいんですか?」

出演者のマネージャーに詰め寄られる僕。


慌てて、近くにあったマイクを取り、

「出演者の皆さん、記者の皆さん、その場でお待ち下さい。すぐに、どのテーブルにどの俳優さんが座るかを決めます」


僕はプロデューサーに確認する間も無く、独断で出演者の座るテーブルを決め、速攻で記者の皆さんを誘導した。

本当に肝を冷やした。胸のドキドキが治らなかった。


このドラマ、ピュアな恋愛ドラマという事もあって、ロケ場所の問い合わせが非常に多かった。特に女性から。


まだ、インターネットが無い時代。問い合わせは電話と手紙。


ドラマ「silent」の「小田急・世田谷代田駅」周辺がドラマファンの聖地になっている様に。


凋落しかかっているトップモデル、障害を抱えつつもレストランの下働きで黙々と誠実に働く男の子。


二人の心の中に少しずつ、恋愛感情が目覚め始める。

(その2に続く)


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山田太一ドラマスペシャル

2023年02月23日 | テレビドラマ
昨夜BSフジで放送された「山田太一ドラマスペシャル よその歌わたしの唄」を観た。
さすが、山田太一さん。素晴らしい台詞と構成。テレビ誌で気付いて、録画しておいて本当に良かった。ドラマのラストは目から涙が溢れんばかりに出た。
久しぶりの山田太一ドラマ。至福の一刻だった。


伊藤沙莉、朝ドラヒロインに❣️

2023年02月22日 | テレビドラマ
伊藤沙莉、2024年度前期“朝ドラ”にて主演を務める 「ひよっこ」以来2度目の出演 (ザテレビジョン)

伊藤沙莉、2024年度前期“朝ドラ”にて主演を務める 「ひよっこ」以来2度目の出演(ザテレビジョン)

伊藤沙莉、2024年度前期“朝ドラ”にて主演を務める 「ひよっこ」以来2度目の出演(ザテレビジョン)

2月22日、伊藤沙莉が2024年前期連続テレビ小説にて主演を務めることが明らかになった。なお、タイトル、作品概要については今後発表される予定。この日、伊藤は自身のTwitte...

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伊藤沙莉という女優さんが大好きなので、この朝ドラには大注目!ホンマに放送が待ち遠しい。