MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<10-1>キーワード(2):BATNA

2005-04-23 | 第二部:交渉ってどう考えたらいいの?
前回から交渉を考えるキーワード集をスタートしました。
前回のInterest(交渉で達成したい要素)に続き、今回はBATNAについて説明します。
「ハーバード流Yesと言わせる交渉術」で日本でもすっかり有名になったこの単語ですが、実際の交渉で上手に使いこなすには少し工夫がいるようです。

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交渉する際、最大の武器になるのは何でしょうか?

答えは簡単。「もうあんたと交渉しなくていいや」と言えることです。

恋愛よろしく、交渉も「惚れたほうが負け」で、その交渉の成否に依存する度合いが大きいほど、何とか交渉をまとめようと卑屈な姿勢になりがちです。
一方「交渉がまとまろうが破談になろうがどうでもいい」ヒトは、強気な要求にでることができます。
万一話が通れば儲けもの、拒否されてもどうせ大して困らないからです。

この最大の武器は、「交渉の他に持っている代替策」と言い換えることが出来ます。
他所できちんと自分の利益が確保される方法をもっているからこそ、交渉結果に依存せずにいられるからです。
そしてこうした代替案の中で自分にとって最善のものを、BATNA(Best Alternatives To a Negotiated Agreement)と呼びます。
もし交渉がまとまらなかったとき、代わりに取れる次善の策のことです。

以下、例を使って交渉でBATNAが実際にどんなものになるか考えて見ましょう。


<例1-2>

Aさんはマイホームを改築し三階建てにしようと考えています。
西隣のBさん宅の向こうにある富士山が綺麗に見られるようになる、と楽しみにしていました。
ところがBさんもAさん宅にさえぎられている日当たりを良くしようと同じく三階建てへの改築を考えていました。
設計が終わってからお互いの意図が明らかになり、二人は険悪な関係になってしまいます。

Aさんは何とかBさんとの交渉を有利に進めようと弁護士に相談してみます。
しかし法律上、AさんがBさん宅の改築を差し止める手立てはありません。
それどころか、最近県に出来た条例に従うと、逆にBさん側は日照権をたてにAさんの改築を差し止める権利があるというのです。
失意のAさんはやりきれない思いで今夜もお酒に逃げていくのでした…


このケースでのAさんのBATNAは何でしょうか?
BATNAとは交渉が成立しない場合の代替案で、その場合Bさん側は条例をたてにAさんの改築を差し止めてくるでしょうから、おそらく「改築自体をやめる」ことになるでしょう。
しかしこれではせっかくの計画が水の泡です。言い換えれば、AさんにとってBATNAはあまり魅力的ではありません。
勢い、このケースではAさんからすれば何とかしてBさんとの交渉をまとめようと一生懸命になるでしょう。

一方でBさんから見るとどうでしょうか?
Bさんには条例という味方がついているので、BさんのBATNAはおそらく「県に訴えてAさんの改築を止めさせ、自分は三階建てに改築する」ことでしょう。
このBATNAはBさんにとって非常に強力です。Aさんが交渉でなんと言おうと、気に入らなければ有無を言わさず自分の改築を強行できるからです。
Bさんからすれば、交渉でAさんに譲歩する気などしないし、そもそも交渉自体があまり重要でないように思えることでしょう。

このように、BATNAの強弱は交渉での力関係に大きく影響を及ぼします。
こうした「そんなに言うなら交渉をやめてもいいんだよ」というプレッシャーこそ、お互いの譲歩を引き出すカギになるのです。

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