海神奈川吹奏楽部愛好会ブログ

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古墳少女佑奈5 古墳vs弥生 その2

2007年05月31日 10時29分51秒 | 上月佑奈

第2章 楽しいドライブ



 11月23日の早朝、神奈川県海老名市大塚町の上月家の前に白いミニバンが止まる。長谷川茜の母 英子の車だ。後ろのドアが開き玄関前に出ていた上月佑奈に
「佑奈お姉様ぁーっ、おはようございますぅ!」
と長谷川茜が抱き付く。茜はよほど佑奈と旅行できるのが嬉しいらしい。英子と茜の実の姉 中学3年生の若葉も車から降りてくる。今日の茜はピンクのタートルネックのニットワンピースを着ているが、若葉もおそろいのミントグリーンのタートルネックのニットワンピースを着ている。佑奈はそれを見て中学生にもなって姉妹でおそろいなんて…と軽く引いた。茜の母 英子も白いジャケットに茶色のブラウス、花柄のロングスカートとばっちりおしゃれにファッション決まっていてこれからバカンスにゆきますという感じだ。それに引き換え佑奈は灰色のパーカー、黄色いちびT、デニムのハーフパンツといたって普段着で「うわーっ、失敗したぁーっ」と思ったが今更着替えに戻るわけにもゆかず困惑した。思えば毎朝上月家に茜が佑奈を起こしに来るけれど、茜の「一度お家に遊びにきて下さいの」という誘いを佑奈はずっと断っていて一度も行ったことがないから長谷川家の生活様式というものを全く知らなかったのだ。だから茜の実の姉 若葉とも一回しか話したことがない。その時の印象から佑奈は若葉には苦手意識を持っている。佑奈の母 順子と茜の母 英子は母親同士
「うちの佑奈がお世話を掛けます」
「いえいえうちの茜が佑奈ちゃんを無理言って誘ったそうで」
「とんでもない。いつも茜ちゃんが佑奈を起こしにきてくれるから佑奈が早く学校にゆくようになって本当に助かっているんですよ」
とよくありがちなやりとりの後順子は佑奈に向かい
「いい佑奈、長谷川さん家に迷惑掛けるようなことしないのよ。特に変な術は使わないようにね」
と釘を刺した。佑奈だってすき好んで術を使っているわけではないのだ。そう言われるとカチンとくる。佑奈は
「わかってます」
とふてくされたような返事をする。若葉が佑奈にそっと近付いてきて
「佑奈ちゃん、妹が無理を言ってごめんね。本当はいやいや付き合っているんだよね」
と耳元でささやいた。佑奈は核心をつかれて顔を引きつらせて黙り込むしかなかった。そしてそこまでわかっていたのなら茜に因果を含め言い聞かせ佑奈の参加を取り止めにしてほしかったと思った。若葉は佑奈に「無理して来なくてもいいよ」とは言ってくれず、佑奈は茜にせかされるようにして車に乗せられた。

 長谷川家のミニバンは厚木インターチェンジから東名高速に乗り西へ向かった。途中足柄サービスエリアで休憩し、車窓に富士山が見えてくると3人の娘たちは
「うわー、富士山だぁ」
と盛り上がる。後ろの席に並んですわった茜は車内で佑奈にお茶お菓子を次々出してかいがいしくもてなす。佑奈はいい加減お腹一杯になってきて閉口気味だ。若葉は助手席にすわり何かの本を一心不乱に読んでいて妹が佑奈にしつこくしているのに気付かぬ様子。佑奈は助けを求めるべく
「若葉先輩」
と声を掛ける。振り向いた若葉はにっこりほほ笑んで
「『若葉お姉様』と呼んでいいわよ」
と答えると佑奈は青くなって首を左右にぶんぶん振った。その様子を見て若葉はくすくすと笑った。やっぱりこの姉妹と旅行にゆくこと自体が間違いだったと佑奈は激しく後悔して黙り込んだ。
 富士川サービスエリアでレストランに入りに早めの昼食。佑奈がハンバーグセットにすると茜もそれに倣う。若葉はビーフシチューセット、英子はローストチキンセットを注文した。
「それにして富士山が見えてよかったわねぇ」
と若葉がいうと茜は
「きっと佑奈お姉様の御利益ですの」
と意味不明なことを言う。名前を出された佑奈はギョッとする。
「お母様、佑奈お姉様にもこのワンピースを買って差し上げればよかったですの。そうすれば『3姉妹』でおそろいになったのですの」
「そうね、うっかりしていわた」
と言う茜と英子を見て佑奈は『3姉妹』という言葉に嫌そうな顔をした。佑奈まで色違いのニットワンピースを着ているのを大塚中学校の生徒に見られた日にはどんな風に言われるかわからない。親友には歩く口コミとでもいうべきおしゃべりの高田瑞穂もいるのだ。瑞穂はきっと、佑奈が『長谷川家の養女になった』くらいのことを言いふらすに違いない。それだけは願い下げだ。若葉はそんな佑奈の反応を見てナプキンで口元を押さえながらくすくすと忍び笑いをしている。
 食後3人の娘たちはおみやげコーナーをのぞき
「これかわいーっ」
などと言いながら見て回っているが、これから出かける途中ゆえ何も買わない。ふたたび走り出した車は吉田インターチェンジで東名高速を降りて県道を山のほうに向かう。お腹がいっぱいになり3人の娘たちはぐーすか寝入っている。

 不意に車がキキーっと急ブレーキを掛けて止まる。3人の娘たちは飛び起きて
「お母様、一体何ですの?」
と茜が言う。そこは山奥村の入口で佑奈が前を見ると白髪の老婆が前に立ちふさがっていた。この老婆は種村ナオといい、村の神社の神主のようなことをしている家の老婆だ。そしてナオは佑奈が乗っている右後方の席にくると佑奈を指差し
「この娘は呪われているぞよ。村に入れば厄災を振りまくことになる。とっととこの場を去るぞよ」
「何を言うのですの! 佑奈お姉様は疫病神じゃありませんの!」
茜がムキになって反論する。佑奈はまだ何の術も使っていないうちからこの様な扱いを受け腹が立ったが長谷川家の手前ぐっとこらえていた。
「この娘が村に入れば人死にが出るぞよ。どうしてもゆくというのならそれを覚悟するぞよ」
と言うとぷいと姿を消した。
「いったいあのお婆さんは何ですの。佑奈お姉様に言いがかりをつけるなんて許せませんの!」
茜がぶりぶり怒っているのに母の英子が
「きっと頭がボケちゃっているのよ。かわいそうに」
となだめる。
「でもボケてるようには見えなかったけどなぁ」
と若葉が言うと佑奈は
「あの若葉先輩」
「なーに? 我が妹よ」
佑奈は若葉のボケにかまわず
「まさかこんな遠くにまで古墳少女の名がとどろいていたりしませんよね?」
「神奈川県でも全県にわたって顔が知れ渡っているわけじゃないんだから佑奈ちゃんが古墳少女だとわかる人はこの辺にいないと思うんだけど」
「そーですよね」
「ただ…」
「『ただ』なんですか?」
「ううん、何でもない
「言いかけてやめるなんて気になるじゃないですか。先輩教えて下さいよ」
「なら言うけど、あの人巫女さんみたいな格好していたじゃない」
「はい」
「だから佑奈ちゃんの腕輪が放つ力を感じとったのではないかと思ったの」
「まさかぁ」
「若葉がお姉様すご~い。やっぱり佑奈お姉様は偉大なんですのぉ」
と茜が感心している。若葉は続ける。
「しかし、あのお婆さんはまだ佑奈ちゃんが村に入っていないうちから存在を感知して佑奈ちゃんが術使いの古墳少女だとおそらく見抜いていたのでしょうからただものではないと思うけど」
そう言われると鋭い若葉の推理に佑奈は反論できない。
「ともかくこの村で術を使わない方がいいわ」
「はい、そうします」
佑奈の母みたいなことを若葉にまで言われて佑奈はしゅんとなった。また、えらいところへ連れてこられたとため息をついた。

 車はその後何の妨害にも会わず英子の高校時代の友人夫婦が経営するペンション<パンプキン>に到着した。名前にちなんでカボチャのイラストが看板に描いてある。英子は友人の中尾恵子に再開でき
「恵子、久しぶりぃ~」
と再会を喜んでいた。ペンション<パンプキン>は中尾恵子と夫の貴史が脱サラして始めたものである。夏は大学のテニスサークルなどの合宿で忙しいが秋から冬にかけては比較的暇なのだ。一人娘の舞子(中学1年生)も出てきて
「若葉お姉ちゃん、茜ちゃんお久し振りです。その方は?」
と佑奈を見て言う。茜が
「わたくしの佑奈お姉様ですのぉ~」
と言うので舞子は「???」となった。若葉が舞子にかいつまんで佑奈と茜の関係を説明したので納得したようだ。
「そうゆうことでしたらあたしも佑奈お姉様と呼ばせていただきますわぁ」
と舞子ににっこりとほほ笑まれ佑奈は二人目の妹ができたようでギョッとした。

 部屋割りは英子と若葉が202号室、佑奈と茜が201号室とした。佑奈としては茜と同室は勘弁願いたかったが英子か若葉とよりはましという消去法で従った。ビジネスホテルではないからペンションにシングルルームはない。舞子に案内されて佑奈は201号室を開ける。木のぬくもりあふれるおしゃれな室内に佑奈は
「わー、かわいいーっ」
とはしゃいだ。茜はそれを満足げに見ながら
「佑奈お姉様、気に入っていただけましたか?」
「うん」
「わたくしたちは毎年2~3回はこちらに来ておりますの」
「へぇー」
「これからは佑奈お姉様も毎回ご一緒くださいの」
「えーっ、それはちょっと…」
佑奈は引き気味だ。
「そうですの、来年の吹奏楽部の合宿はこちらでしましょう。それがいいですの」
茜は勝手にそう決めたがこのペンションには海老名市立大塚中学校吹奏楽部が全員泊まれるだけの部屋がないし、第一練習場がない。
「それはちょっと無理でしょう。お部屋の数が少ないし、練習場がないわよ」
昨夏佑奈も参加した(今年の夏はアメリカに行っていたので佑奈は合宿に不参加)海老名市立大塚中学校吹奏楽部の合宿は宿泊棟のほかに体育館兼用の練習場がありそこに大型打楽器を設営して朝から晩まで練習に励んだのだ。
「それは残念ですの」
茜は自説をとりさげた。
「でも佑奈お姉様とお二人でクラリネットパート有志の合宿ということなら…」
佑奈は頭が痛くなってきた。

 それから舞子も含めた4人の娘たちは部屋で七ならべやババ抜きといったトランプをして楽しんだ。普段は舞子もペンション<パンプキン>の手伝いをしている。しかし、なんとも商売っ気がないことだが今日からの三連休は長谷川家の貸し切りということで茜たちと遊んでもよいのだ。
「佑奈お姉様と茜ちゃんは吹奏楽部なんですかぁ。あたしのクラスにも吹奏楽部の子がいるんです。会ってやってくれませんか?」
「それは素晴らしいですの」
と茜は乗り気だが佑奈は知らない子と交流するのは面倒な感じがしてあまりそそられなかった。しかし舞子は
「じゃあ、ちょっと電話で約束してきます」
と部屋を出ていった。それからしばらくして舞子は明日の午前中に吹奏楽部の練習を見学することで話をつけてきたのでなりゆきで佑奈も行く事になった。

その3につづく
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