海神奈川吹奏楽部愛好会ブログ

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古墳少女佑奈5 古墳vs弥生 その1

2007年05月31日 10時27分06秒 | 上月佑奈

プロローグ



 静岡県山奥村。そこは40年ほど前までは林業が盛んで遠州鉄道の支線も木材輸送のために乗り入れていた程であったのだが今はすたれ、とうの昔に鉄道も廃線になり日に数本遠州鉄道のバスが走るさびれた村だ。そんな山奥村唯一の村立山奥中学校2年生の関口弥生は中学校の帰りに林の中にキラッと光るものを見つけた。普段ならそんなものはまるで気にしないのだがどうゆうわけかものすごく弥生は気になってそれを見たくなった。弥生は茂みをかき分けてそれに近付いていった。茂みの奥には白銀に輝く銅鐸が半分土に埋まった状態であった。
「これって歴史の時間に習った銅鐸よね。なんでこんなところにあるのかしら?」
弥生はそう思った。弥生には考古学の趣味はなかったが、無性にそれを手にしたくなった。制服が汚れるのもかまわずに地面に両膝をつき犬のように手で周りの土を掘る。夢中で土を掘ったため紺のブレザー・ジャンパースカートに白い丸襟ブラウスの制服はもう泥だらけだ。そして弥生は高さおよそ20cmの銅鐸を手にした。その瞬間
「ギャーッ」
と弥生は絶叫する。手にした銅鐸から邪悪なものが腕を伝って弥生の中に入り込んでくる。弥生は銅鐸を投げ捨てようと思ったが手に吸い付いたみたいに放すことができない。邪悪なものは弥生の全身をなめ回すようにかけめぐると徐々に肉体と精神を乗っ取っていった。もう弥生は全身の自由を失い膝立ちになっていることもできず意識を失いバッタリと地面に倒れた。
 それから少ししてむくりと起き上がり顔が泥だらけなのにもかまわず
「ついに復活の時が来たり」
と別人の口調で言う弥生の顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。

 そもそも銅鐸なるものは魏誌倭人伝の記すところの邪馬台国の女王 卑弥呼が行っていたとされる鬼道の系譜を引く魔神具であり、古代においては雨を降らせ豊穣をもたらせたり、敵を滅ぼすための武器となったものだ。
 弥生時代が終り古墳時代に入り遠江の地を平定した大和朝廷が派遣した役人によりこの銅鐸は村外れに厳重に埋葬し封印された。古事記や日本書記に銅鐸の記事が一切出てこないのも蛮族と見ていた弥生人の魔神具であり、被征服民の抵抗と制御し難いそれを使うことを恐れ封印したからだ。それゆえ全国的に見ても銅鐸の出土数はたかがしれており、多くは集落から離れた寂しい山中などで発見されている。その後この銅鐸のことはこの地の住人たちにすっかり忘れ去られていたのだが、先日の大雨で土砂が流出し封印施設も破壊されたため銅鐸はおよそ2000年ぶりに日の目を見て銅鐸に宿る邪悪なる意思も目覚めたのだ。銅鐸それ自体は力を行使することができない。憑代(よりしろ)となる肉体を必要としそれらの人がシャーマンとしてムラやクニを治め銅鐸の魔力を行使する媒体として活動していたのだ。本来なら神主や巫女の血筋の者が最適なのだが、とりあえずの憑代として銅鐸は通りすがりの女子中学生を選んだ。

【注】銅鐸が弥生人の魔神具で大和朝廷が厳重に埋葬・封印したというのは筆者の学説である。

第1章 茜のお誘い



 11月中旬の海老名市立大塚中学校2年2組の教室に1年3組の長谷川茜は姉の佑奈を訪ねてきていた。
「佑奈お姉様、今度の連休は何かご予定ありますの?」
「えっ、何もないけど」
姉の上月佑奈は物憂げに答えた。女子中学生の姉妹で名字が違うのは本当の姉妹ではなく茜が佑奈の押しかけ妹になっているからだ。男でいえば兄弟分というところだろうか。二人は大塚中学校吹奏楽部でクラリネットを吹いており、茜には若葉という本当の姉もいるのだが佑奈を姉と慕っている。茜はそれを聞いて満足そうに笑みを浮かべた。この年は勤労感謝の日が金曜日に当たり三連休になっていた。吹奏楽部の顧問は家族サービスのため九州に旅行へ行くとかで三連休には吹奏楽部の練習が一切なく部員一同大喜びしていた。
「それはよかったですの」
「何が『よかった』のよ?」
「わたくしこの連休に家族で旅行に参りますの」
「そう、それはよかったわねぇ」
佑奈は素っ気なく答える。
「佑奈お姉様も来て下さいの」
「えーっ。なんであたしまであんたん家の家族旅行にゆくのわけぇ?」
「いいじゃありませんの。わたくしたち姉妹なんですから何の不思議もないですわ」
「いやよ、あたし行かないから」
「そんなぁ、ご一緒できると楽しみにしておりましたのにぃ…」
みるみる茜の目に涙がたまってゆきひっくひっくとしゃくり上げている。これ以上佑奈が何か言い返したら茜はびーびー大泣きするに違いない。こんな子妹にするんじゃなかったと佑奈は激しく後悔した。
「茜ちゃんかわいそうに」
「予定がないんなら付き合ってあげればいいのに」
「『佑奈お姉様』って薄情よねぇ」
「上月さんってあんな後輩に冷たい子だとは思わなかったわぁ」
「ほんと見損なったわね」
「予定がないんならあたしだったら行くなぁ」
2年2組の女子たちがヒソヒソ話しているのが佑奈の耳にも入ってくる。男子たちも
「上月ってやな女だな」
「あぁ、いつも朝あの子に起こしにきてもらっているってのに旅行を断るなんて」
「ひでーなー」
「普通かわいい妹に頼まれたら多少無理してもつきあうよなぁ」
「あぁ、俺だったら迷わず行くな」
「茜ちゃんかわいいもんなぁ」
「なんだお前そうゆうことだったのか」
「『佑奈お姉様』に代わって俺が旅行に行こうかなぁ」
「うわーっ、茜ちゃん最大のピンチじゃん」
「『先輩がいいことしてあげるよぉーっ』って」
「そんなことしたら上月に殺されるぞ」
「ひぇーっ、こぇーっ」
と下世話な話をしている。困り果てた佑奈が親友の泉崎礼香に目をやると礼香はくすくすと忍び笑いをしている。そして目で佑奈に「行ってあげなさいよ」と語っている。礼香ならこの窮地を脱するいい知恵があるはずと信じたのに礼香まで茜の味方をするなんて…と佑奈は思った。佑奈は旅行の誘いを断っているだけなのになんだかものすごく茜に対して極悪非道な真似をしているような気になってきた。
「わかったから、旅行にゆくから、泣かないの」
と佑奈がヤケになって叫ぶと茜はパッと顔を輝かせ
「佑奈お姉様、本当ですの?」
「うん」
「わーい、わーい、嬉しいですのぉ~」
と普段おしとやかな茜がピョンピョン跳びはねて喜んでいるから相当嬉しいのだろう。それを見て佑奈はハメられたと思った。

 その翌日、佑奈は吹奏楽部の練習のあと茜に
「あのさ、旅行のことだけど…」
「早くその日が来ないかとわたくしカレンダーに印を付けて楽しみにしておりますのぉ」
と茜はにこにこしながら答える。そんな茜の様子を前にして「やっぱ不参加」とは佑奈は言えなくなってしまった。佑奈は内心焦った。早く茜に断りを入れないと本当に長谷川家の家族旅行にゆくことになってしまう。佑奈としてはそれだけはなんとしても避けたい。今日こそは断るぞ!と佑奈はそれから毎日思っているのだけれど茜の楽しみな様子を前にすると何も言えなくなってしまう。そうして佑奈がぐずぐずしている間に旅行当日を迎えた。

その2につづく
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