
以前家出したミーちゃんの場合は雌猫だったので、しかもまだ尾っぽの傷が癒えていない常態で、心配してあたりを探索した。住んでいるこの地域にはゲンゴロウ通り会があり、外灯代を年間3600円ほど各家庭が出し合っている住宅街だが、田舎のように班ごとに住民が協力しあうような体制ではない。毎春、一軒ごとに徴収係が回ってくる。アパートが三棟だろうか。20年近く住んでいるが、来年はこちらの担当かもしれない。外灯代金を徴収し口座に振り込むのが任務である。これまで一回だけ責務を果たした。その時にはじめてゲンゴロウ通り会界隈の方々にお会いした。
そのゲンゴロウ通りは出入り口が一つなので、シーバがそこから車の往来が多い車道まで出ていくのかどうか、どうもミーちゃんの家出の場合、そこまでは行った気配は感じられなかった。家出したシーバも表通りまでは行かないに違いないと思う。しかし通り会の人々の多くが車で移動しているゆえに、車による事故は決してないとは言えない。ただ猫は身軽で敏感、隣の家の後ろの石壁に登って歩いている姿を目撃したことがある。人間が感知する空間や場所とは異なる場所や空間認識のようなものを持っているようには思える。壁をひょいと飛び越えるのだから~。行き止まりになった境界も超えられる可能性はある。ヤブの中もひょっとしたら歩き回ることが可能なのだ。
頭の中では、他の野良猫と喧嘩して傷ついているのではないか。シーバは鍵しっぽ猫で可愛いので誰かが車で連れさったのではないか。自ら飛び出ていったのだから、すべてシーバが悪いのだけど、どんな結末でも運命と受け入れよう、などといろいろな考えが錯綜した。
今回、シーバが雄猫なので、しばらく家の周囲を懐中電灯を持って探したが、後は帰ってくることを念じていた。夜中の11時頃になっても戻ってこなかった。心配してうろうろとしている様子に同情したのか、ゆうくんがなぜか2階の部屋までついてきた。寝床につくと毛布と羽根布団の中に潜り込んできた。
足元に寝込んだゆうくんだったが朝起きてみたら顔のすぐ横で寝ていた。「ありがとうゆうちゃん」とつぶやいた。そういえばよーちゃんが里親に引き取られた時にもゆーちゃんはそばにいた。
さて心配していたシーバは、朝7時頃台所に降りていったら、ちょうどチキンを食べている最中だった。ガスコンロのグリルで焼いたチキン(むね肉)が好きな猫である。さすがその日、一日中、シーバはよく寝込んでいた。いったいどんな冒険をしてきたのだろうか。
家出少年は外の世界にあこがれ一晩の冒険して戻ってきた。まだ六ヶ月にならないシーバは何を追いかけたのだろうか。