今年発売されたアルバムの中で個人的に気になったものを勝手に10枚振り返ろうかと思います。
①DIR EN GREY 『DUM SPIRO SPERO』 8/3 Release
前作『UROBOROS』から約2年9か月の期間を経て発売された最新作。表題はラテン語で『息ある限り希望を捨てず』という意味ですが、ジャケットのアートワークは様々な宗教を混在させたような仏像が彩られているなど、非常に和風的なものになっています。インタビュー等では、ツアーを挟んでのアルバム制作の長期化に伴う意識の変化、震災による作業の中断、そして制作の継続を選択した5人それぞれの色々な意味での苦悩や葛藤等があった事を赤裸々に語っています。アルバムに関するレビューは今回かなり多くの雑誌で語ったり、アルバム発売に伴う特別雑誌「AMON」等も発売されており、ダイレクトに理解できるのではないでしょうか。そんなタイトルの作品とはいえ、実際には「狂骨の鳴り」から始まる暗く、重く、息苦しい雰囲気が蔓延しており、まったくタイトルの印象とは疎遠な楽曲達となっています。またその楽曲一つ一つが『UROBOROS』のように世界観を非常に重視しており、アレンジも緻密で拘りが感じられ、プログレッシブ的なアプローチも健在と、全体的に複雑な構成の曲が多いです。そういう意味では方法論は別として表現の形式としては、『UROBOROS』の延長ともいえるかもしれません。そして歌詞の世界観も圧倒的に暗い。光というものがむしろ無い。あったとしても一筋のという感じです。京氏がインタビューで言ってましたが、どことなく抽象的で絵画的な印象さえ覚えました。そしてその中で彼が歌おうとしているのは、表現の違いこそあれど、人間の根本な部分、「業」のようなものを歌っているように感じました。それでもメンバーは、聞きこむ内にタイトルのような気持ちを持ってもらえればという発言もしています。分かりやすい希望の歌を歌うのではなく、敢えて痛みを表現する事で、生きるという事に対して、凄く真剣になってほしいという。この方法論はもうずっと実は『VULGAR』位からやってはいると思うんですが、そういう意味では凄くメンバーって不器用だなって思います。普通に分かりやすく歌えばいいのに、自分にも音楽にも嘘をつけない、凄く彼らの不器用で真面目な人間性が出てるんじゃないのかな。だから過去最高に分かりやすいアルバムともいえると思います。初回限定盤はアルバムの世界観を表現したアートワーク付きのブックレット、アルバム曲とは別にライブの代表曲「羅刹国」のリアレンジ、アルバム曲の別Ver,各メンバーによるRemixが入ったボーナスディスク、さらにDVDとバラエティに富んだ内容となっています。またこのアルバムのタイトル候補として別途挙がっていたもう一つが「AGE QUOD AGIS」という言葉であり、ラテン語で『自分の本分を全うせよ』という意味で、今回のツアータイトルにもなっています。
②the GazettE 『TOXIC』 10/5 Release
前作『DIM』から約2年3カ月程の期間を経て発売されたthe GazettEの最新作。タイトルは『中毒、有毒』という意味です。シングル『SHIVER』『Red』『PLEDGE』と3部作を出した後に東京ドーム公演を行い、その中でRUKI自身が感じた『何故ここを目指したのか、何のためにバンドを始めたんだろう』という矛盾や葛藤が『VORTEX』へとつながり、このアルバムタイトルへと至るきっかけになったことをインタビューで語っています。先行として『REMEMBER THE URGE』というSgが出ましたが、その曲は収録はされませんでした。ただしタイトルである「衝動を思い出せ」という意味では、バンドの中で初期衝動にも似たものがまた起こってるんじゃないでしょうか。それが彼らの『中毒症状』かもしれません。僕自身はああやっとこういう感じの世界観を出してきたなと思いました。どストレートというか、『Filth in the beauty』や『LEECH』を出した時の感触に似ています。あと、アルバムがブックレットになっていて、ライナーレビューや関係者へのインタビューが収録されており、また楽曲の一つ一つにアートワークが付加されているんですが、これがまた過激ですね。一部はライブツアーでも映像に取り入れられていたので、理解の手がかりになっています。そして全体的に無機質で機械的な印象とドロップA+3音下げでヘビーさが混じった感を感じますが、でもとにかくなんというか理屈でどうこうじゃなくて、勢いみたいなものが感じるんですよ。とにかく自分達の表現したいものをやるんだという、凄くストレートでロックなアルバムだと思います。そしてキャッチ―ですね。ラストの『TOMORROW NEVER DIES』とか特に感じます。なのに最後の最後で『OMEGA』で意味不明に終わるところがこのアルバムらしいんじゃないんですかね。
③MERRY 『Beautiful Freaks』 7/27 Release
Free-willに移籍してからの第一弾となるアルバム。こちらも前作『under-world』から約2年半ぶりとなります。Sg『The Cry Against...』で「DIR EN GREYを意識したのか」等と噂されていましたが、実際のところ極端な方向性を示したシングル曲を始め、元来彼らが持っていたレトロなサウンドも健在しており、それと『under-world』で示したパンク的な方向性等これまでのメリーのやってきた事がいたるところに感じられつつ、それらが上手く融合したように思います。そんなバラエティに富んだ多種多様な楽曲を配置しつつも、SEを配置する事により、アルバムの完成度がより増していて、じっくりと時間をかけて制作された事が感じられる作品だと思います。ブックレットが人形等をメインにしたもので、アートワークの中に「レトロ」と「あやしさ」を感じさせるものになっています。冒頭のDIR EN GREY的というのは、むしろ概念的な部分で感化された部分があったとは思います。ガラは京氏の後輩だし。またガラ氏曰く詩のテーマは「レクイエム」で、「終わりから始まる」という意味合いも込められているとのことです。それは亡くなった友人の事や、環境が変わって、自分達には後がないという危機感や、メリーをやっていくという覚悟などを込めたという背景があったことを語っています。また、タイトルの『Beautiful Freaks』は直訳すると『美しき異端児達』という意味であり、自分達のあるべき姿を指したものとのことです。結成10年を迎えた彼らの今後を楽しみにしています。またこのアルバムに伴う京氏との関係性については、雑誌『MASSIVE』で詳しく知ることができます。
④lynch. 『I BELIEVE IN ME』 6/1 Release
メジャーデビューを発表したlynch.のメジャー第一弾となるアルバムですが、メンバー的には『5枚目のアルバム』として見てほしいとのことです。このアルバムも前作から2年振りですね(笑)。インディーズ時代のSg『A GLEAM IN EYE』の中に載っていた『ねがい』という歌詞があるんですが、それが次のSg『JUDGEMENT』で『この詩はねがい』『自分の意思を曲げない』と綴られており、そしてこのアルバムのリードナンバーの『I BELIEVE IN ME』の中にも綴られていると、このバンドにしては珍しくストーリー的な意味合いをもったものになっています。またこのアルバムの2曲目『UNTIL I DIE』で「ねがいは未来に咲き誇る 泣いている雨は止むことなく」と歌い、最後のSg『A GLEAM IN EYE』はかなりアレンジし直されて「涙が溢れても 雨は止むことなく 突き刺すけれど 何度でも ねがいよ鮮やかに」と逆説的に表現されており、『ねがい』という言葉にかけて聴き比べると、新しい発見があるかもしれません。サウンド的にも「lynch.至上もっとも激しい」というメンバーの言葉通り、数曲を除いてすべてが激しい曲ばかりで構成されており、lynch.独特のメロディーと相まって、かなり異端的なロックアルバムになったと思います。
⑤SLIPKNOT 『IOWA 10TH ANNIVERSARY EDITION』 11/2 Release
2001年に発売された「IOWA」の発売10年を記念して制作された企画盤。本編DISCに変更はありませんが、このアルバムはメタルというものに、洋楽というものにはまるきっかけを作ってくれた特別なアルバムです。『PEOPLE=SHIT』の衝撃は今でも忘れていないです。また、『goat』と題されたDVDでは当時の状況を現在のメンバーがコメントするという内容になっており、メンバーの最新のコメントをすることができると言う意味ではかなり貴重な内容になっていると思います。ポール・グレイの死から1年を過ぎライブ活動は再会させつつも新作への話は未だノーアナウンスな彼ら。ポール・グレイの死を彼らが乗り越えた時を待つつもりです。
他色々箇条書きで列挙します。
⑥Dream Theater 『A Dramatic Turn of Events』 9/7 Release
なんとなんとマイク・ポーノトイが脱退してから完成されたニューアルバム。全体的にアルバムジャケットのようにヘヴィというよりは、クリアで解放感に満ちた作風となっています。ここからどうなっていくのかを楽しみにしています。
⑦大佑と黒の隠者達『漆黒の光』 4/24 Release
去年の7月に急逝したボーカリスト大佑がソロ音源で残して未発表であった音源を彼と親交の深いミュージシャン達が参加し完成させた追悼的なアルバム。このアルバムに伴うライブとして新木場STUDIO COASTでは追悼ライブも開催されました。彼の死を偲ぶ声は多く、DIR EN GREYの京氏の後輩であり、メリーのガラ氏、ムックの達廊氏とは同期的な間柄だったそうです。そんな彼らも参加しています。またガラ氏は『Beautiful Freaks』の中で『ザァーザァー』『SWAN』という曲の中でその事を歌っています。また京氏は明言は避けましたが、『DUM SPIRO SPERO』の『VANITAS』という曲は、彼への追悼なのではないかと感じています。
⑧Sadie『COLD BLOOD』 4/2 Release
前作『MASTER OF ROMANCE』からこれも2年振り(笑)となるアルバムです。直訳すると『冷血』という意味で、冷たくて暗く重く激しいイメージを求めたアルバムとなっています。それでも曲はそれぞれバラエティに富んでいる内容となっています。
⑨黒夢『Headache and Dub Real Inch.』 11/2 Release
前作『CORKSCREW』から約13年振りとなるアルバム。タイトルは『駄洒落以上の意味はない』という風に清春は述懐していますが、ある意味でそんな風に言える位に強いんじゃないかと思います。なんか大人のロックみたいな感じで、これまでの黒夢とは違う、まったく新しいアルバムになったんじゃないかと思います。
⑩Skoop On Somebody 『DISTANCE』 11/30 Release
S.O.S15周年記念として発売されたアルバムです。ゲストミュージシャンも多く、かなり盛り上げて作ったように感じられます。ベタなんじゃないかと思える位の歌詞やメロディの使いまわし、相変わらずS.O.Sはこういうムードを作りだすのは上手いなと思いました。
こんな感じで今年はなんとか聴きごたえのアルバムを色々聞く事が出来ました。来年も聞く事が出来ますよう...。