昨年7月に出版された「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」(岩波新書・大木毅著)は12万部を突破する異例のベストセラーとなった。
僕らかつてのプラモ小僧はたいがい戦記やノンフィクションといった読み物を熟読し、内容を熟知しているのだが、本書はこれまでの独ソそれぞれの公式発表や生存者の回想をベースにはせず、ソ連崩壊後に公開された豊富な資料や知見から、まったく新しい視点で独ソ戦を解析しており、目から鱗が落ちる思いがした。
第二次世界大戦中、1941年6月のドイツ軍のソ連侵攻から45年5月のドイツの無条件降伏までの4年間に渡って続いた独ソ戦においては、「バルバロッサ作戦」(コードネーム)、「スターリングラードの戦い」、「クルスク大戦車戦」などがすでに有名だが、本書がベストセラーとなったのは、従来の読み物の範疇には入らない、軍事学の観点からの記述―戦略、作戦術などが、働き盛りのビジネスパーソンのニーズに合ったからだという。
実際、これまでソ連軍の作戦術が書かれた和書はなく、今回はそれだけで十分驚きだった。
このあとも本書について詳述したいところだが、あまり興味がない方も多いだろうからそれはまたいつかということにして、一つだけ自戒を込めて書いておきたい。
ドイツ軍の有名な戦術として「電撃戦」がある。
相手の油断を突いて突如戦闘の火ぶたを切り、戦車を中心とした機甲師団が一気に進撃して短期決戦で敵国を占領・降伏させる。
第二次大戦初期、ヨーロッパ各国に対しては絶大な戦果があったこの電撃戦が、広大な国土を持つソ連には通用しなかった。
行けども行けども同じ風景の中の悪路を進むうち、ドイツ軍は電撃戦からいつの間にか一般戦に変質し、その行く手には人海戦術のソ連軍と冬将軍が待ち構えていることになる。
このコロナ禍の中で目立っているのは、目覚ましい勢いで出店し、多店舗経営していた会社がいとも簡単に倒れてしまう事例だ。
出店攻勢は電撃戦でできるが、店舗の維持は別物。
ロジスティクス(兵たん=補給)の整備を怠ったものは敗れ去る。
未来が誰もわからないのなら、過去(歴史)から学ぶしかないのだ。
バルバロッサ作戦