たとえば、オークションで1枚2000万ドル以上の高値がついたり、村上春樹のたいていの翻訳書のカバーに使われたりしているけれど、エドワード・ホッパーがこの日本で本当に有名なのかどうかはわからない。
なにせバブル時代にあれだけさまざまなものを買いあさったこの国に、ホッパーの絵は1枚もないのだそうだから。
僕がその名を知ったのは割と早く、1974、5年ころだった。
何度か書いているが、アイラ・レヴィンの推理小説「死の接吻」の中に、ヒロインが好きな画家として名前が挙げられていた。
インターネットがない時代に田舎の中学生がこんな時どうするかというと、図書館へ行き、百科事典で調べた。
あった。代表作「ナイトホークス(夜の散歩者)」の写真も添えられていた。
都会の中の孤独というものを僕はまだ知らなかったけれど、この絵にひどく胸打たれた。
そして自分もまた好きな画家としてホッパーの名を必ず挙げるようになった。
僕が知る限り、ホッパーの展覧会はこれまで1990年と2000年の二度しか開かれていない。
後者を福島県立美術館で観た。
Bunkamuraザ・ミュージアム発の大規模巡回展だったが、残念なことに代表作と言われるものはあまりなかった。
それでも、早朝、ひとり車で高速道を飛ばし、本物を初めて観た高揚は忘れられない。
今やすっかりやせ細ってしまったこの日本ではもう経験することがないのかと思うと、少し寂しく感じている。
当時の図録
書店で手に取って驚いた、好きな作家×好きな画家
好きな作家×「ナイトホークス」