久しぶりにシェイクスピア劇を観た夜遅く、庭に降りると夜空いっぱいの星が次々と流れ落ちていた。中には明るい炎の尾を引いているものもある。
「願い事した?」
頭の中で声がしたので振り返ると、地面から2メートルほどの宙にざしき童子が浮いていた。
このごろなんだかヘンな登場の仕方をされますね。
「マイブームかな。」
相変わらずきれいな笑みだった。
願い事は特にないけれど、きみに留守にされると、いつ当家がまた傾くかもしれなくて、ひやひやものです。
あははは、とざしき童子は笑った。
本当に気分がいい時の彼女の笑い声は、まるでバンブーのドアチャイムがぶつかり合ったようにカラカラとよく響く。
「あなたは大丈夫じゃないけど大丈夫。」
なんですか、それは(苦笑)、「マクベス」の魔女みたいな。もうシェイクスピア千本ノックはゴメンですよ。
「あなたが何も信じない皮肉屋なのはよくわかっているけれど、せっかくのしし座流星群の夜なのだから、次に流れる星に願いをかけてね。今手掛けている私の人助けはもう少しかかりそうなの。」
わかりました。では、きみの留守の時間が短くなるようしっかり願います。
満足げな表情を浮かべ、ざしき童子はゆらゆらと消えた。
『きれいは汚い、汚いはきれい。さあ、飛んで行こう、霧のなか、汚れた空をかいくぐり。』か。