「二つ下の妹に言わせると、『兄さん以上の偏食のひとには会ったことがない』そうなのだが、確かに僕も同感だ。
でも、そもそも偏食の方々は学校給食で相当嫌な思いをしているから、目立たないようひっそりと暮らしていて、こちらが気がつかないだけなのかもしれない。
実際、僕は危険回避のため焼肉屋や寿司屋やサラダバーには近寄らない。
そうしていても、時々大ピンチに陥る。
田舎の宴会に主賓として呼ばれ、うっかりのこのこ出かけて行ったところが、ひとり上座に置かれて、こんなところですので何もありませんが、海の幸山の幸を取り揃えました、と目の前に刺身の大皿やかぶと焼き、すき焼きやしゃぶしゃぶなどを並べられ、やいのやいのと勧められた時は、どうやってここにいる50名の目から逃げ切るか、すき焼きの豆腐と糸こんだけつまみながら、ずっと考えを巡らせていたよ。
あの夜は悪酔いしたなあ。」