長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

ヒトの ナサケの サカヅキ

2019年05月23日 12時41分41秒 | お稽古
 先週の唄稽古のとき、マイ譜本が手元になかったので、稽古に使ったことがない唄本を取り出してみた。
 20世紀のうちに、大正生れの姉弟子から、頂戴したものである。
 和綴じで、日常使いするには憚られる美しさだったので、本棚に仕舞ってあったものだ。
 装丁や、文字の美しさを時折出して眺めるぐらいだったので、中身を吟味する、ということがなかった。

 唄っているうちに、勧進帳のひとふし、♪士卒を引き連れ 関守は 門のうちへと…の箇所に、「かどのうち」という歌詞に「もんのうち」とルビがふってあることに気がついた。あれっ? あれあれっ???

 不思議に思いながらも、唄い進めていくと、なんと、あの二上りの有名なうたいどころ、
 ♪…人の情けの盃を……が、♪人の情け「を」盃「に」と記述されている。


 奥付は、その本にはなかったので、同じ装丁の兄弟本の二冊を取り出して調べてみた。
(といっても、この手の唄本の和綴じ本は、一曲づつの唄本を個人がまとめて綴ったものであるので、本当にその年のものかは不明なのではあるが、参考にはなるだろう、と思いまして…)
 大正12年刊のものであった。


 これは、ひょっとすると、版元の校正の方が、日本語の文法に合わない歌詞である…と思い、詞章を直してしまったのだろうか、と思いめぐらせた。

 ちょっと気になるので、ほかの和綴じ本の勧進帳を探してみた。

 これは明治41年のもの。


 ポピュラーな歌扇録の、我が家で一番古い大正15年刊のものもご参考までに。




 表題の写真の奥付は安宅勧進帳のもので、本文はこちらです↓


 さて、そんなわけで……
 正しいことが必ずしも正しくないことは、世の中にたくさんある。
 
 
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風葉記・正

2019年05月19日 11時55分55秒 | 折々の情景
 新暦五月の尚武の勢いを駆ってか、光陰の一矢の恐ろしき事。
 今朝初めて気がついたのだが、食糧棚に寝かせていた長葱にネギボウズが生えていた。
 しかも既に開花していた。
 私はよく植物にトウを立てがちな性分なのだった。(本稿:塔が立つをご参照くださいませ)一昨年も切り取った大根のヘタから花を咲かせたのだが、写真をアップする間もなく時は流れた。建設的日々なのだ、と前向きに解釈しよう。
 こうなったらネギの種を採取するまで育てるしかあるまい。


 話のハナから余談になってしまった。
 令和元年五月一日。



 日が暮れ、また明けて、草木がすこやかに伸びゆく季節。








 わが庵のけなげな檸檬花に、なぜ蝶は訪うてはくれぬのかと気をもんで数日。 
 檸檬の新芽に、2ミリ程の、小さく細い黒い筋が付いているのを発見。

 ぉぉ、これは、ひょっとすると、蝶の幼虫ではあるまいか…!!
 鳥、昆虫、天然の生きとし生けるもの、人間の心なき振る舞いにて消失してゆく不憫なものどもの動向に、一喜一憂していたこの身の、雀躍すまいことか…!!!





 欣びが、確信となった、令和元年5月11日の、揚羽junior近影。

 三日見ぬ間の幼虫、という言葉をご存じありませんか?
 倍の大きさに育っておりました。

 さらに三日経った5月15日。

 3倍ほどにもなっておりましょうか。
 そして、別の葉にも育っているjunior、花を添えて…


 日々、発見する個体数が増え、ラグビーチームができそうな勢い。
 後姿が伸びやかな2~3齢のおちびちゃん。
 
 
 黒地の背に白いV字の紋章、揚羽蝶牧場と化した、わが檸檬の樹。
 朝、水をやると、彼らも目覚めたのでしょう、檸檬の花香が匂い立つのです。
 さて、食欲旺盛な食客を抱えて、当家の檸檬は主の酔狂をいかに感じているのでしょうか。

 終齢になったら昨年の悲劇の轍は踏まず、防御ネットを再び…と思いめぐらす、現代の今様堤中納言物語でした。

 
 
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これまでの風葉記

2019年05月18日 10時30分45秒 | 折々の情景
 トクオウは気が気ではなかった。
 今年も賤が家の軒下を彩るべく、忠義な檸檬が馥郁たる五弁の白花を咲かせたというのに、なんということであろう、蝶が来ないのだ。
 平成31年の晩春、百花はことごとくが早く開花し、藤でさえ4月中旬には花房を垂らしていたのに、令和元年を迎えた初夏、どういうわけかひらひらひらと、花に戯れ舞い遊ぶべき、胡蝶の姿が見当たらないのだった。
 シジミチョウが数羽、クロアゲハ一頭、モンシロチョウ二羽ほど…それがこの春以来、トクオウが見かけた蝶たちであった。



 去る平成31年の3月18日、いまだ檸檬の摘果を躊躇していたトクオウは、いつの間にか、実の付け根の枝に、ツンツンと尖った棘が育っていたのに気がついた。
 ぉぉ、母は強し、といにしへにも言うけれど、万物が、自分が守るべきものの生じたとき、何らかの防御策を講じ、頑強な物体へと変化していくものなのである…感慨に打たれた。
 それを観察日記にまとめようと考えていたのであるが、それも時の波に紛れ……


 「棘のある樹」という表題が果たせなかった、一葉の写真を添えて……

 そうこうしているうちの平成31年4月19日、摘果せぬまま、檸檬が蕾をもった。
 トクオウは焦った。1町ほども西へ行った庭園に、毎年たわわに実を成す、大きな柑橘の樹があるのだが(種類不明・夏蜜柑の様にもハッサクの様にも見える黄色い丸い実がなるので、散歩の都度羨ましげに眺めていたのであった)、鷹揚なのであろう、かの樹の主は、まだ摘果せぬのを指標として、トクオウも檸檬の収穫を計りかねていたのだった。
 採るなら今。



 そうして、やっと、檸檬花の開き初めた匂い、姿かたちをいつくしみ、心が安らいだのであるが…なんたること、蝶が来ないのである。
 鳥から実を守る防御ネットも取り外したというのに……



 令和元年5月1日。
 花は咲けどもてふてふの、身の一つだになきぞ、悲しき。

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サブカル懺悔1

2019年05月09日 22時33分44秒 | やたらと映画
 「もうそっちのほうに行くのはおよしなさいね」
 と、母が私に釘を刺したのは、入学式が済んで各種サークル勧誘のチラシが舞うキャンパスでのことだった。
 
 昭和50年代中頃中学生だった私は、高校受験間近いある年の共通テストで、全国で第3位という国語の成績を修めたのだったが、あまりにも神妙に受験勉強に勤しんだがゆえ、その反動で高校時代の三年間というもの、漫画研究からアニメーションや声優…という分野の藪に入れ込み、古文の先生を落胆させた。折しもテレビ版だった宇宙戦艦ヤマトがはじめて映画化され、小学生に交じって封切り館内売店のスチール写真グッズコーナーに並んだ私は、絵葉書のここからここまで、全カットくださいな、という大胆な行動に打って出た。初めての大人買いであった。
 同人誌や贔屓声優のファンクラブにも入り、声優が所属する劇団の芝居見物や、結成されたロックバンドのライブにも出かけた。学園祭で友人とコピーして歌った。コミックマーケットの前身の即売会にも出品したが、コスプレはやらなかった。当時上井草にあったスタジオサンライズへ見学に伺い、三文字のお名前になる前の富野喜幸氏にお目にかかった。急逝した長浜忠夫氏がとても紳士的で親切に案内してくださったことを覚えている。残念ながら、大学受験のための塾通いで、ガンダム一作目は1クールも見ていない。

 とはいうものの、冤罪事件に触発された多感な女子高生でもあった私は、無辜の民を悪官憲から救う弁護士になるべく法学部に進学し、当初は母の助言を守り、就活の助けともなる手に職を…ということで速記の通信教育や、社会悪を叩く新聞記者になるべく勉強を始めようと新聞学会なるサークルに入ったのだが、思惑が違った。その学会の主な活動は、当時まだ存在していた学生運動だった。一時の安保闘争からかなり下火になってはいたが、セクト争いで死者も出た時代だった。入会早々、軍靴の響き…という反戦の社説を書かせていただいたが、すぐに退部した。

 そんなわけで、五月病になる暇もなく、途方に暮れた私はつい、古巣に立ち寄ってしまった。
 アニメ研には、すでに漫画家に弟子入りしセミプロとして活躍している者や、制作会社でバイトしている者もいた。
 活動は当然、アニメーションの製作である。
 原始的なものではあるが、パラパラ漫画の延長線上にある企画で、各部員が同秒分を分担し、リレー方式で繋いでいくのだが、担当する頭のカットから全く別の物体であるお尻のカットまで、各自のアイデアのもとにメタモルフォーゼさせていくのだ。トレーシングペーパーに単色マジックで一枚ずつ動画を書き、一枚ずつ白黒の8ミリフィルムで撮影していく。
 …いや、エルモの16ミリだったろうか、渋谷区の16ミリ映写機操作講習会に私も参加し、資格を取った。
 
 そのアニメ研に特撮班なるものもあり、私はそこで戦隊ものの企画に誘われた。
 当時(アクリル絵の具が出回り始めたころだった)大人気イラストレーターだった生頼範義の筆致をまねるのが大層上手なМ君が、絵コンテを描きながら説明してくれた。どうやら私はトルネードクイーン(柏木たつみ)というヒロインのお役を頂戴できるらしい。
 やはり、当時カルト的人気を誇った、ジョン・カーペンター監督のザ・フォッグに似た恐怖映画テイストミックスの、若干のキッチュさを狙った特撮自主映画企画だった。

 昭和40年代を小学生で過ごした者たちにとって、円谷プロダクションは心の友…いや、なんと言ったらよいのだろう、友以上の、一種の信仰の対象ともいえるような存在であった。(小学生時代の私のイチ押しは何といってもセブンであった)
 М君の御父君のツテを最大限に活用し、さっそく、当時ウルトラマン❜80を撮影していた世田谷大蔵の東宝ビルトへ見学に行った。
 私は、特殊撮影の技法、という特集記事を父の本棚のカメラ雑誌から見つけ出し、レポートにまとめ、勉強会を開いた。

 しかし、その特撮映画も準備段階のまま、そうこうしているうちに、サークルの分派騒ぎというものが起き、1年足らずで私はアニメ研を退会し、大衆読み物研究会なるサークルへ移った。私のアニメ熱も1980年で終わり、フィルム映画…映像製作に対する情熱もついえた。
 その大衆読み物研究会・SF分会で出会ったのが、我が整いました、の心の友である。そこで子供時代のお笑い志向が本格再発し、大人の落語熱へと重症化していくのであるが、それはまた、のちの話。

 ここまでがざっと、長唄に出会う前の…長唄以前のこと、なのですが…

 …そんなことを想い出したのが、林家しん平師匠が4年半にわたる歳月を費やし、ほぼ一人で特撮部分を作成・完成させたという監督作「深海獣雷牙 対 溶岩獣王牙」の発表試写会でのことだった。
 昭和の終わりごろ寄席通いをしていた私は、一ツ木通りに在った今は亡きTBSホールの落語研究会にも行ったりして、当時新進気鋭だったしん平師匠のシュールな新作落語が好きだった。三角定規を頭に刺して自殺しようとして死にきれない男の噺とか、SF小説のショートショートのような趣きがあった。
 それから時代は下って21世紀になってから…10年ちょっと前でしたか、文化放送のかもめ寄席だったかで、新作の「鬼の面」を聴いたとき、その噺の完成度合いといい、独自性といい、高座っぷりといい、すごい技巧派になってらしたんだ…と感心したものだった。

 そんなこんな、あれやこれやで、終盤は怪獣同士の鉄火場の閃光と爆裂でよく分からなかったものの、映画作品が完パケに至るまでのなんと困難なことであることか、と、しん平監督の執念と情熱と不屈の魂をたたえるゲストの特撮界の巨匠お二方の監督のお話もあって、40年余りの長期的スパンで、林家しん平という落語家の来し方を、楳図かずおのおろちのようにそっと傍観してきた私も、不思議と何やら清々しい心持ちになった。
 人影もまばらな宵の冨士見町のアスファルト道路の真ん中で、旅笠道中を歌いながら、飛び跳ねて踵を打ち合わせたい…ふと、そんな気がした。


附:写真は、踊りの会の打合せのため、四十年ぶりで伺った西武新宿線・上井草駅頭(かつてサンライズを訪問したことは全く失念していた)にて遭遇した銅像。ガンダムは初放映時、4月から6月初旬までのみ視聴。
昭和の女子高生としては、前年度のダイターン3の、軽妙でコミカルなオシャレ感が好きでした。
銅像にたすき掛けをしてしまうという、モニュメントに対する侮辱的行為に対して苦情は出ないのでしょうか…
それとも……。
 
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初夏の和楽器ライブ

2019年05月05日 16時48分50秒 | お知らせ
 時移りまして、令和元年五月六日(明日です!)。
 なんとまぁ、明日は立夏でございます。

 例年、世間的にはゴールデンウィークなる連休の最終日に、東京は武蔵野市の吉祥寺駅南口にて、邦楽の演奏会を開催しております。
 駅のそばのマルイ百貨店(昔そう言っていました)、路地を挟んで東隣の武蔵野公会堂(パープルホール)。
 筝、三味線、尺八など、日本の伝統音楽を代表する和楽器の演奏を、無料でお楽しみいただけます。

 開演は午後1時。古典曲、現代邦楽とりまぜて、バラエティに富んだ番組仕立てとなっております。
 今回は、企画番組として、尺八の魅力についての講演(午後2時半ごろ)もございます。

 当杵徳社中は、朗読三絃「さるとかにのおはなし」、ご存知長唄「勧進帳」で御目文字仕ります。
 終演は午後4時40分ごろを予定しております(明日の今頃です!!)。

 5月といえば、歌舞伎座では團菊祭。今年は平成の三之助揃い踏みの「勧進帳」とか。
 お芝居の勧進帳と、素の演奏の勧進帳が、1か月のうちに愉しめるという、うれしい機会です。
 
 お時間叶いましたら、ぜひお運びくださいませ。
 公演時間内はお出入り自由です。
 


 
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