長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

花には憂さをも打ち忘れ

2016年05月07日 09時11分13秒 | お知らせ
 「熊野、松風は米の飯」と、能楽のほうでは言うそうでありますが、長唄だと何になりましょうか、「道成寺、勧進帳は米の飯」かなぁ…。

 長唄で道成寺というと、有名な曲が二つありますが、安珍清姫伝説をそのまま題材にした「紀州道成寺」ではなく、それを踏まえた二次創作「京鹿子娘道成寺」を指すことが多いです。
 (紀州道成寺は、きしゅー、と呼びます。てんかとーる、の、落語とはまた別の話ですが)

 そういうことで、しょっちゅう娘道成寺を弾いているわけですが、ここ何年か、この曲を弾くたびに悲しくなってしまうのは、自分が歌舞伎にのめり込んだ原因でもあった傾国の美女、傾城たち…女形の姿が、記憶の中でしか反芻できなくなってしまったからであります。
 人の嗜好というものは、物心のつく育った時代とともにありますので、同時代性というのは重要なファクターだったりいたします。

 そしてまた、「春興鏡獅子」もそういった、演奏しながら曲自体の秀逸さ面白さに感嘆しながらも、悲しくなってしまう曲の一つだったりもします。
 今はもうこの地上のどこにもいないのだけれど、わが青春とともに歌舞伎座に在ったわざおぎの方々を想い出すからなのです。
 
 さて、来る5月8日日曜日、世間ではゴールデンウィークの最終日だそうですが、演奏会がございます。
 武蔵野邦楽連盟・邦楽春の会
 JR・井の頭線 吉祥寺駅 南口徒歩2分(マルイ東隣)武蔵野公会堂
 開演:午後1時  終演:午後4時半ごろ
 全自由席 入場無料

 箏曲、尺八、長唄など、古典曲・現代曲取り混ぜまして12番を上演いたします。
 当杵徳会は「羽根の禿」「鏡獅子(下の巻)」を出曲いたします。

 お時間が合いましたらぜひお越しくださいませ。

 では、明治26年(西暦1893年)春に、九代目市川團十郎が歌舞伎座にて初演し、大正4年(1915年)六代目尾上菊五郎が復活上演して以来大人気曲となり、平成28年(2016年)の現在も上演され続けている、
「春興鏡獅子」から、私の好きな歌詞をご紹介いたします。作詞は福地桜痴です。

 ♪…憎てらしほど可愛さの 朧月夜や時鳥(ほととぎす) 時しも今は牡丹の花の
  咲くや乱れて 散るは散るは散りくるは 散るは散るは散りくるは
  散りちりちり 散りかかるようで 面白うて寝られぬ 
  花見て明かそ 花見て明かそ 花には憂さをも打ち忘れ


 
 ※お芝居では、面白うて寝られぬ…を、お愛しうて寝られぬ…とも唄っていますね。

 
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