絵本の古本屋 【えほんやるすばんばんするかいしゃ】

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2冊目| 「いちにのさん」 きくちちき / 著

2020-10-31 | ●思うこと




2冊目 『いちにのさん』
著者|きくちちき
装幀・デザイン|サイトヲヒデユキ
発行日|2014年9月
発行所|えほんやるすばんばんするかいしゃ

※特装版・・・限定300部 / 手刷り木版画付き / サイン&ナンバー入り

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お店の10周年記念でちきさんに制作をお願いした絵本。
実際は、11周年も過ぎて完成しました。
通常版と特装版の2種類作りました。

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2013年7月。
お店は10周年を迎えました。
何周年だから何かしようとか、普段あんまり思わないのですが
10周年というのはなんとなくキリもいいし、
せっかくなので何かやってみようと思ったんじゃなかったかな。たしか。
たぶんこういうことは普通、10周年記念の日に合わせて前々から準備するものだと思うんですが
うちの場合は、その日が過ぎてから考え始めたので 日程の感覚は結構ぐだぐだでした。
出口さんにお願いしたり、他にもいろいろ企画を考えてたりしましたが
結局、実現したのは きくちちきさん作の「いちにのさん」のみ。
10周年ということで、1~10の数字の絵本を作って頂きました。
と言っても、完成したのは2014年9月だったので、11周年も過ぎたあとでした。

ところで、話が少し前後しますが
前作「つながる」には、ちきさんによる手彩色が一カ所、そしてサインがあります。
絵を描くのも構成もデザインも入稿も全部ちきさん。
つまり、印刷・製本以外はちきさんによるもの。

そうです。
「つながる」を作ったあと、ぼくは「ちきさん一人で全部できちゃう問題」に直面したのです。
これだったら、自分は要らないかも。版元ってなんだ?出版てなんだ?
反省という感じではないけれど、甘えてばかりじゃいけないな、と思えた出来事です。
なので今度やるときは、ちきさん一人ではできないことをやってみようと決心したのでした。
細かいことは端折りますが、本作りが動き出したのは、たしか2013年10月頃だったはず。
まずは自分たちに何が出来るのかいろいろ考えました。

10周年ということもあって、これまでのことを少し振り返ってみると
さんざんお世話になった古本たちのことが頭にぼんやりと浮かびました。
ちょっと大袈裟に言うと、たくさんの古本に教わったことを
これから作る本に反映させられないかという気持ちがあったのだと思います。
特に印刷については前々から感じていたことがあり、それを機会があれば試してみたいと思っていました。
イメージとしては、印刷で着地する感覚を忘れない本。
そんな本を作ってみたい。
(この感覚についてはまたいつか書けたら書いてみようと思います)

ちきさんには、1~10までの数字の絵本ということと
印刷方法のことをお伝えして制作に取り掛かって頂いてました。

と言っても、自分たちは何をしていいのかわからないので
まずは、好きな絵本の好きな印刷を探すところから始めてみようということに。
いいなと思う印刷があれば、奥付をチェックして気になる印刷所をリストアップしていく作業。
その中でもここは良さそう、というのを数社に絞りました。
すぐにアポイントを取り、純子さんと二人で話を聞きに行ってみました。
結局、伺ったのは2、3社くらいだったかな。
しっかり話を聞いて下さる印刷所もあり、それが妙に嬉しくってやりとりするようになりました。
何だかよくわからないけど、自分たちで何かやってる感じがして異常に楽しい。
ただ、そんな能天気なことが続くわけもなく、やりとりをしていく中で重大なことに気付き始めます。
自分たちの圧倒的な経験不足と知識不足。
なんか違うと思っても上手く言葉にできないのです。
何も提案ができないし、イメージはあってもそれを伝えられない。
いや、それよりなにより一番の問題は もしかしたら、うまく自分のイメージを伝えられて
その通りになったとしても”つまらない”ものになるんじゃないか、ということかもしれない。
それなのに、ああしたいこうしたい、を伝える。
何を言ってるんだ、何をしているんだ、自分は。
印刷会社の方々は、それを実現するべく対応してくれるのだけど
それが忠実に具現化されたところで、この本はたぶんなんか違う。
足りないのは、知識や経験なんかじゃない。
創造力なのかもしれない。
どうしよう。

いや、違う。
たぶん、どうもしなくていい。しないほうがいい。
例え、ここから何か急に創造力が増したとしても結局は自分の世界。
想像を超えられない。
ならば、自分で解決することを諦めればいいのかもしれない。

なるほど。
ひとり、勝手に腑に落ちる。
そうか、だからデザイナーという仕事があるのか。
そう思うと急に清々しい気持ちになり、デザインをお願いすることを考えました。
ありがたいことに「誰がいいだろう?」という迷いは一切ありませんでした。
少し前からイベントなどでお世話になっていた
デザイナーのサイトヲヒデユキさんのことがすぐに頭をよぎる。
サイトヲさんは、同じ高円寺で書肆サイコロというお店もやっていて
そこにはサイトヲさんが装幀・デザインを手がけて自身で出版している本たちが並んでいました。
そのどの本も美しく、お店に行く度、毎度毎度感動してました。
こんなお店とこんな人が近所にいるなんて恵まれすぎじゃないか。

すぐにお願いをして、サイトヲさんは快く引き受けてくれました。
そのお返事が嬉しかったのは言うまでもありませんが
一緒に本が作れるとういうことを想像するとわくわくしてしょうがありませんでした。
うん、たぶんこれでいい。これが楽しい。

サイトヲさんは楽しく案を出してくれました。
自分では思いもつかないことがどんどん出てくる。
イメージは伝えてるけど、いい意味でイメージ通りじゃない。
自分の言ってることをそのままやってもらいたいわけじゃないから、すごく嬉しい。楽しい。
言ってることと感じてることが矛盾だらけ。でも、しっくりくる。
この感じ、この感じ。

結局、やりとりしていた印刷所ではなく(こちらの力不足で申し訳なかった)
デザイナーのサイトヲさんの付き合いのある印刷所にお願いすることになりました。
そうすることで意思疎通が格段にスムーズになったのも興味深かった。

本はどんどん完成に近づいていった。


そんなとき、一報が入る。
7月の半ばくらいだったかな。
当時、うちの店は2階のみで1階は古着屋さんでした。
その古着屋さんが、お店を閉めるという。
うちの店はそのお店があるから、やってこれたようなところがあるので
びっくりだったし、なによりショックでした。
でも、意志は固いようで、こちらも腹を決める。
一緒に借りていた物件だったので、自動的にうちの店がその空間を借りることになりました。
わりと急な話で、古着屋さんが空っぽになるのが8月半ば。
本が完成するのが9月半ばの予定。9月から家賃が発生するらしい。
なにもしなければ、家賃が発生するだけ。
何をやるか。
2階のような本だらけ空間を拡張するつもりはありませんでした。
正直なところ、本の量を増やして数を売っていくことに限界を感じていた時期でもありました。
反射的に「つながる」の展示をやったときのことが頭をよぎる。
普段、古本を3000冊以上常設しているのに、空っぽの空間のときの方が本が売れた、
という事実が頭のどこかで引っかかっていたのかもしれません。
いま思えば、示唆的な出来事だったのだと思います。
とにかく、迷っている時間はない。
ギャラリーというよりも、展示をして本を売るという感覚で、本屋の延長線上にある空間をイメージしました。
2階が待ちの姿勢で本を売る場所だとしたら、1階は能動的な本の売り方にしていこうと思いました。
1階も2階も本屋だけど売り方が違う場所。
これならしっくりくる。うん。そうしよう、そうしよう。

1階が出来るまでのことは、当時のブログを見て頂けたら。
https://blog.goo.ne.jp/nabusuraynohe/e/8c3db571e0226044a8c09aa6ed8f3fd9

「いちにのさん」の原画は特殊なので展示するつもりはありませんでした。
(版画のような手法の原画で、色ごとに絵がバラバラになってて展示しにくい)
1階が出来たのはいいけど、展示するものがない。
と思っていたらほぼ同じ時期に、
思い入れ深い「ちきばんにゃー」が学研さんから刊行されることになり
その原画を飾らせてもらったりして、めでたく壁は埋まりました。

「いちにのさん」は、2階で地道に売っていくつもりだったのですが
ひょんなことから1階スペースが出来たため、賑やかな感じで販売することになりました。
いろんなあれこれがころころと転がっていき、ひとつにおさまった感覚がありました。
世の中、なにが起こるかわかりません。ほんとに不思議なものです。
10周年記念で作り始めた本は、11周年も過ぎてなんでもない日にぼんやり完成する予定でしたが
そのなんでもない日になるはずの9月11日は、とても特別な始まりの日になりました。

あ、ここまで書いて本が完成した時のこと書いてませんでした。
過去に何度か書いたこともあるし、まあ、よしとします。


あと、ここ数年、ちきさんとサイトヲさんがコンビのように
一緒に本を作っているのはなんだかうれしいです。



< 「いちにのさん」及び展覧会で試した印刷方法 >
・シルクスクリーン|本体表紙
・活版印刷|特装版外函
・手刷り木版画|特装版奥付
・オフセット印刷(特色5色)|本文4色、見返し1色
・オフセット印刷(プロセス4色) |販売用ポストカード
・リソグラフ印刷|販売用ポストカード
・オンデマンド印刷|展覧会DM
・箔押し|本体背表紙 ※正確には、印刷ではなく加工です。

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◎「いちにのさん」通常版
https://rusuban.ocnk.net/product/7506

◎「いちにのさん」特装版
https://rusuban.ocnk.net/product/7504





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