絵本の古本屋 【えほんやるすばんばんするかいしゃ】

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1冊目| 「つながる」 きくちちき / 著

2020-10-31 | ●思うこと


1冊目 『つながる』
 
著者|きくちちき
デザイン|きくちちき
発行日|2013年3月
発行所|えほんやるすばんばんするかいしゃ

限定500部 / 一ヶ所手彩色 / サイン&ナンバー入り

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ようやく一冊目に辿り着きました。
この本は初めてうちの店から出版した本です。
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2011年「ちきばんにゃー」の展示のとき、展示方法にすっかり反省してしまって
もう二度とお店で展示はやらないでおこう、と思っていました。

ところが、2012年の末。
ひょんなことから店内を改装する計画が浮上し、お店の中を一旦空っぽにすることになりました。
自分で計画しておきながら「店内を空っぽにするのめんどくさー」なんて一瞬思ったりもしたけど
よくよく考えてみたら、これはいい機会かも、とすぐに気分を入れ替えました。
空っぽになった空間で ちきさんの展示がもう一度できるかもしれない。
というわけでさっそく、ちきさんに連絡。
快くOKを頂き、2度目の展覧会が決まりました。
(この頃は、ほんとにあっさりしてたなぁ)
「ちきばんにゃー」のときの反省を活かして、リベンジしたいという気持ちもやっぱりありました。

一年前の2012年1月、ちきさんは「しろねこくろねこ」(学研)で商業出版デビューしていて
うちで展示する2013年の3月には、計3冊の商業絵本が出版されてました。
聞くと、ほかの出版社からも依頼があって このあともいろいろ出るらしい。
その一連の出来事や流れが、なんだかとても嬉しい。

ただ、商業の絵本が出るようになってからは手製本は一冊も作っていない。
展覧会をやるなら、本があるといいな、となんとなく思っていたけど
どうやら、そんな悠長なことは言ってられなさそうだ。
手製本が無理なら、どうする?
うちで手製本をやってみるか。いやいや、作れるわけがない。
ということは、うちが版元になって本を出すか。
うーん、、、。時間もないし、ほかにいい方法も思い浮かばないし
どうやら、そうでもしないと本は作れなさそう。
でも、版元ってなんだ?出版ってなんだ?よくわからない。

よくわからないけど、印刷・製本は入稿さえすればなんとかなるんじゃないか。
手製本は無理だけど、少しでも手作業を入れれば手作りに近づくかもしれない。
そうだ、そうしよう。

それじゃあ、内容はどうしよう。
おそらく、これから商業出版の仕事はさらに増えていくだろう。
商業で出来ることをうちでやっても仕方がないし、
そういうことは商業出版の人たちに任せるのが一番いい。
商業ではやりにくいものをやれたらいいなと思っていろいろ考えてみるものの、いい案は思い浮かばない。
でもあるとき、個展のときにしか観られない描き下ろし絵(絵本の原画ではない絵)があるのを思い出しました。
絵本の絵とはまた違う魅力を放っていて、その存在は以前から気になってました。
本のために描かれた絵ではないものを集めた作品集的なものはどうだろう。
いまいちかな、、、。ま、考えるより、聞いてみよう。

ぼく「ちきさん、個展のときに展示した過去作品(売り絵)って手元にあったりデータって残ってたりしますか?」
ぼく「もしあれば、それらを集めた絵だけの本(画集・作品集のようなもの)を作れないかと思いまして」
ちき「ほとんどないですねぇ。それだったら新しく描いた方がいいので描きますよ」
ぼく「え、ほんとですか」
忙しいのに、描いてもらうというのが申し訳ないなと思いつつも
こちらにいい考えもないので、甘える形でお願いをしました。
最初は申し訳なさの方が大きかったけれど、
待っていると無責任なもので、だんだんと楽しみになってきました。

ところが数日後、ちきさんから電話がかかってきて
ちき「あのー、荒木さん。すみません。そういえば、ぼく お話がないと絵が描けないんでした」
ぼく「え、どういうことですか?」
ちき「頭の中にぼんやりとお話が浮かんで、それを絵にするんです」

一瞬、びっくりして戸惑いましたが、そのことがじわじわと嬉しさに変っていきました。
この人は、画家ではなく、素で絵本を描いちゃう人なのかもしれない。
そうか、そんな人もいるのか。なんておもしろい。
ぼくにとってこの出来事は、後々の本作りに影響を与えるものすごく大きな発見となりました。
(ものすごく見当違いなのかもしれないけれど)

ちき「なので、すこしお話があってもいいですか?」
ぼく「あ、はい。もちろんです。ぜひ、よろしくお願いします」

今回も内容については何も話し合いはしていません。
結局、デザインもちきさん自身にやって頂きました。
「ちきばんにゃー」のときと同じで、完成まで待つだけの時間でした。
これでいいのかよくわからず、そのときはあまり深く考えないようにしていたと思います。

展覧会の数日前、完成したのが「つながる」という作品でした。
その作品には、言葉はなく、色は白と黒だけ。
白黒の絵の羅列の中にぼんやりと物語が漂う。
「ああ、そういうことかあ」
ちきさん、すごいな。やさしいなあ。
こちらの言ったことをいろいろ汲み取ってくれていました。
さみしいお話だけど、なぜだか嬉しい気持ちになりました。
ちきさんによる手彩色を一ヶ所、そしてサインと番号も入れて頂きました。
タイトル部分は半透明の帯になっていて、それを一つずつ巻いて本は完成しました。

無理やり結び付けるような感じに聞こえるかもしれないですけど、
この本からいろんなことが「つながる」ことになるなんて、このときは思ってもみませんでした。
この本に教わったことがいっぱいあって、自分にとっていまもずっと大事な本です。

そんなわけで、これが当店発行の本の記念すべき第一号となりました。
ただ当時、「これから、どんどん本を作っていくぞ!」という意気込みはなく
ひとまずの手段として版元という立場を取っただけでした。
これはこれ。という考え方だったと思います。
だから、限定500部にしたんじゃなかったかな。
いま、奥付を見ると、じんわりとその様子がうかがえる。  

あと、商売的なことを言うと、3000冊以上の古本がぎゅうぎゅうしていた普段の店内より
空っぽの店内の方が、本が全然ないのに(ちきさんの本が数種類あるだけ)
本がたくさん売れたことにびっくりしました。
この体験と発見も自分にとってすごく大きな出来事でした。

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◎ 『つながる』 きくちちき / 著 ※現在、重版未定
https://rusuban.ocnk.net/product/5739




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