絵本の古本屋 【えほんやるすばんばんするかいしゃ】

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0冊目|「ちきばんにゃー」きくちちき著 2011年

2020-10-25 | ●思うこと



「ちきばんにゃー」
きくちちき / 著
2011年発行 / 私家版

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この本は、うちの出版物じゃないので書くかどうかものすごく迷いましたが
書かないと気持ちの辻褄が合わない部分があるのでやっぱり書いて残しておこうと思います。
というわけで、これはうちの出版ではなく、ちきさんによる手製本作品。
0冊目、ということにしておきます。

この本のことを書こう!と決めてから何度も書き直してましたが
結局、出だしに関しては当時自分が書いたブログが一番しっくり来たのでそれをコピペしておきます。

==== 2011年9月のブログから引用 ====

ちきさんと初めてお会いしたのは、2010年のはじめ。
お店に来てくれたのが最初だったと思います。
探している絵本があったようで、ずいぶんお話ししたような気がします。
その際に絵本を描いているということも知りました。
ただ、実際に絵と絵本を観たのは、それから数ヵ月後に行われた個展のときです。
いやあ、なんというか、とても嬉しかったです。
うまく表現できないのが非常にもどかしいのですが、
斬新とか衝撃とかそういう尖がった攻撃的な刺激ではなく
丸く澄んだ刺激というのでしょうか、刺激的な刺激じゃない感じの強い刺激を受けました。
それ以来会うたびに「なんかやりましょうよ」と言っていたのが
今回ようやくかたちになりそう、というわけなのです。

==== ここまで ====

当時うちのお店は、2階のみでギャラリースペースはなく、絵本のみを扱う古本屋でした。
もちろん、絵の展示なんてやったこともありませんでしたし、おまけに狭い。3坪しかありません。
本もぎゅうぎゅうに詰まっているし、展示なんてできる場所はないのに
「なんかやりましょう」なんて言ってたわけです。
たぶん当時は、とにかく気持ちを伝えたかったんだと思います。
それに対して、ちきさんはいつも「いいですよー、なんかやりましょう~」
と言ってくれて、毎度毎度いちいち嬉しかったのを覚えてます。
でもまあ、こんな感じなので特に進展もなく日々が過ぎていきました。

個展を観てから半年くらい経ったときだったかな。
ちょっとだけ進展がありました。
ぼくが突然、展覧会名を思いついてしまって、その勢いでメールしました。


==== 以下、その時の自分のメールのコピペ ====

何するかはまったく分かりませんが、名前が勝手に決まりました!
「チキチキ・ばんばん」展
いいでしょ、これ!
もう決定しちゃって申し訳ないですが、よろしくおねがいします!
でも何やるのか全然わからないのでビビッときたら
何でも良いのでおしえてください。

==== ここまで ====

こんな馴れ馴れしくも一方的なメールだったにもかかわらず、
ちきさんから好意的なお返事を頂き、開催が決定しました。
(うれしかったー)

何はともあれ、なんかよくわからないけど、こうやって始まったようです。

と言っても、しばらくはこんな感じで平和なやり取りが続くだけで
なにか具体的なことが進むわけではありません。
とりあえず、チキチキバンバンの映画くらいは観ておこうということになりました。

観たあとに会ったときの会話。
ぼく「どうでした?映画?」
ちき「おもしろかったですよ」
ぼく「え、そうですか。ぼくは苦手だなあ、あれ」

また、平和です。

でもこんな何気ないところから、少しずつやることが決まってきました。
敢えて書く必要もないと思いますが、「絵本を作る」ということが、この後、ようやく決まります。
やることがこれしかないのは、お互い最初っからわかってました。
展示する場所がないから踏み切れなかっただけなのです。
とにかく、踏み切った。えらい。
、、のはいいけど、本を作るのはちきさんなので、ぼくは特にやることがない。
一体なんだ?展示って。本を作るって。なんだ?  
(この問いを自身に問い続けていくことを、この先何年もやっていくことになるとは、このときは想像もしませんでした)


ちょっと話は逸れますが、ちきさんの作品を初めて観たときにすごく印象的に感じたことがありました。
「わ!この人、怖さをしらないのか、怖くないのか、痛覚がないだけなのかわからないけど、すごい!」
なんというか、間違うとか失敗とかそういうものを怖がらない線を描くなあと思ってびっくりしたのです。
そしてその線から生まれる余白も色彩も印象的で、ものすごく感動したのをいまでもはっきり覚えてます。
勢いや衝動とも違うし、技術ともちょっと違う。勇気とかでもないし、なんだろう。
人の評価なんかとは無縁な、限りなく素直な線というのでしょうか。うまく言えないけど。
まあ、実際はこんな切り離して感動しているわけではなくて、
全体で感動していたのだけれど、言葉にするとこうなってしまうことがもどかしいです。

絵を描くだけでなく、手製本の絵本をすでに何冊も作っていたことにも驚いたけど
そのどれもが素直に作られていることにびっくりしました。
このへんのことまで書くとほんとにキリがなくなるから書かないけど
製本やその販売方法まで全てが素直に思えました。
しかもまだ絵本を描き始めて2年くらいだと言うから、もうなんというか言葉が出ない。
いろんなことに感動して、よくわからなくって頭が追いつかなくなっていました。
初めて見た展示では、ほんとにたくさんのことに驚きました。


ものすごい的外れかもしれないと思いながら、自分なりの仮説を立ててみる。
「もしかしたら、この人は技術や経験をあまり使わずに何かを作っているのかもしれない」
もしそうだとしたら興味深い。
いやまて。そんなこと言ったって、誰だって何度も作っていけば手癖は出てきてしまうはず。
うーん、、。そうなったら、この人の作るものはどうなるんだろう?
気になるけど、まあ、それは今考えても仕方ないし、余計だし、
なによりこの仮説自体、かなり的外れかもしれないわけだし。そこは気にしなくていいか。
頭がぐるぐるするけど、いまはとにかく、この線から生まれるものが気になる。
この人の持っている、この線をさらに生かす方法はないか。

ふと気になったことがあって、確認をしてみる。

ぼく「ちきさん、木版画ってやったことあります?」
ちき「ないです」
ぼく「え!ほんとですか!興味あります?」
ちき「やってみたいです」
ぼく「え!そうですか!じゃ、木版画の絵本が見てみたいです」
ちき「じゃ今度、試しにやってみますねー」
(のちのち、気軽に頼み過ぎたなと反省する)

それから少し経って、一枚の絵を見せてくれました。それは、5色刷りの美しい木版画でした。
初めてとは思えない堂々とした絵なのに初めてだと思える良さが随所に滲み出ている絵。
不思議な魅力を放っていて、わくわくが抑えられませんでした。
(ちなみに、その絵はちきちきばんばん展のDMになりました)

迷うことなく、絵本は木版画で作ることに決まりました。
ぼくが本に関わった(と言えるのか?)のは、ここまで。

展覧会までの数か月、絵本に関しては待っているだけだったけどその時間も楽しかった。
ちきさんが、神保町で高級な彫刻刀を買って嬉しそうにしていたこと。
全32ページ、全て彫るんだということ。
彫るだけでなく刷るというのも難しいということ。
版画なのに一回しか刷れなかったこと。
お互い、知らないことばかりが起きて、なにもかも無邪気に楽しかった。
(ちきさんは、楽しいだけじゃなかったと思うけど、、、)

展覧会が近づくと、絵本も完成しました。

初めて見たとき、うわあっとなりました。
すごい、すごい、すごい。
タイトルが「ちきばんにゃー」なんて、わけわからないし、
ほんのりチキチキバンバンの映画も意識してくれてるし、
ねこ、かわいいし。描き方が変わっても、変わらないし。のびやかだし。
製本も素晴らしいし、お話もおもしろい。もう、全てがやさしい。ああ、すごい。
一瞬でその本のことが、大好きになりました。

素晴らしい本が出来たという嬉しさですっかり安心してしまってましたが
これから展示の設営をしなければなりません。
そうだ、そうだった。忘れてないけど、忘れてたふりをしてた。
展示スペースについて何も解決してません。
幸い?うちの店は三角屋根の高い天井だったので
空間があるとしたら、ここしかなさそう、、、ということで
ちきさんと話し合って、天井から吊るすことにしました。
数時間後、できた、、、のか?わからないけど、できたことにしよう。
思っているより高い位置で、首が、、、、疲れる。あまりよく見えない。
でも仕方ない、ここしかない。 ひとまず展示完了。

正直なところ、展示方法はたくさんの反省が残りました。
お世辞にもいい展示方法だったとは言えません。
それでも無責任なことを言ってよいのであれば、展覧会はものすごく楽しかったです。

お店にとって、初めての展覧会はとてもとてもあたたかな時間でした。
それぞれの知り合い(お客さん)が祝うように
お店はちきさんを紹介し、ちきさんはお店を紹介してくれました。

これが、お店にとって初めての展覧会です。  




※ちきさんが初めて刷った木版画(ちきちきばんばん展DM)

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