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流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

若者はなぜ「就職」できなくなったのか?

2011-11-03 | 文化政策
 先月16日、池袋にある「みらい館大明」で新たに始まった若者支援事業の記念シンポジウムが行われ、「若者はなぜ『就職』できなくなったのか? ~生き抜くために知っておくべきこと」の著者である法政大学キャリアデザイン学部の児美川孝一郎教授を基調講演者、パネリストとしてお招きし、お話を伺った。

 グローバル経済の進展のなか、1990年代後半以降、企業は新規学卒採用を大幅に縮小し、正社員を非正規雇用に置き換える取り組みが進んだ。もちろん政府による規制緩和という後押しがあってのことである。
 それは企業内教育への投資の縮小をも意味するが、同時に社会的には子育て・養育・教育を放棄する家庭の問題や、他方で、「教育家庭」でありすぎるがゆえに子どもをスポイルしてしまう家庭の問題もまた顕現化してきた。
 また、学校においては、高校進学率98%、大学進学率54%を達成するも、実質的な教育の空洞化が進み、若者にとってはいつの間にか生きづらい社会が出来上がっていたのである。
 これまでの制度や慣行の解体の影響をストレートに受け、未曾有の世界を生きる今の35歳以下の若者を取り巻く状況を児美川教授はいくつかのキーフレーズにまとめている。
 それは、新卒一括採用の縮小であり、日本的雇用の縮小・解体であり、セーフティネットの底抜け、貧困・格差、将来展望の閉塞、非婚・非産、リスクの個人化といったことである。
 これらに対し、親世代は、自らの時代の常識や標準を子世代に当てはめてしまう。その結果、子世代の意識や生きづらさを理解できないのだ。
 事実、私が読んだ中小企業化同友会のレポートにも、学校関係者の話として、学生にいわゆる中堅・中小企業への就職を紹介すると、親から学校にクレーム殺到するとあった。

 これらのことは、子どもや若者たちの大人への移行の長期化・複雑化とともに、不安定化、困難化をもたらし、彼らはますます個人化し、現在享楽志向や「親密圏」への退却を余儀なくされている。
 子どもと若者は社会の貴重な資源である。「宝」といってもよい。その彼らがまっとうに生活し、働いていく場を作れないのであれば、この私たちの社会に持続可能性などない。
 急務となる喫緊の課題は、「家庭・学校・企業(正社員)のトライアングル」からこぼれ落ちた層の支援であり、そこに地域社会(コミュニティ)の役割があるのではないかというのが児美川教授のお話であった。
 大人社会全体の責任として、家庭も学校も労働市場も企業もまた変わる必要があるのだ。では、どこから始めるか。

 「みらい館大明」では、若者支援の取り組みとして、地域社会を取り込みながら、生涯学習やアートの視点からアプローチする試みを始めようとしている。
 池袋という街は、もともと多様で雑多なもの、多くの若者たちを受け入れ、育んできた街だった。
 長崎アトリエ村、池袋モンパルナス、トキワ荘……。
 美術学校に通う学生、無名の芸術家、マンガ家、演劇人等々、若者たちはこの街をインキュベーター装置として自らの道を発見し、才能を磨き、刺激し合い、影響し合いながら育っていったのである。
 石ノ森章太郎、赤塚不二夫、藤子不二雄・・・、トキワ荘時代にはその誰もが20歳そこそこの若者だった。すでに大家だった手塚治虫ですらまだ20歳代の若者だったのだ。

 そうした芸術の道をめざす若者たちはもとより、あらゆる人々が自由に集まり、交流し、人生を豊かにすることについて語り、学び合うような場をつくりたい、というのが私の夢でもある。
 大切なのは、本当の問題を発見していく能力である。
 アートをとおして、本質を見つめ、物事の成り立ちや構造を発見し、再構築していく力を身につけることができるのではないか。
 
 これまで行政が取り組んできた就業支援施策の多くは、ハローワークと自治体が共同した企業との面接会やマッチングであり、さらにはセミナーを行い、自己アピールの仕方、履歴書の書き方、面接技法などを教えるといった取り組みである。そこでの成果指標としては、面接会への参加者数や実際の就業者数がカウントされる。
 だが、そのことが若者にとって本当の支援になっているのか、根本的課題解決、自立につながっているのか、ということを改めて考える必要があるのだろう。
 
 若者たちがいかにエンパワーメントを身につけ、多様な価値観や生き方を身につけることができるか、ということこそが問われるべきではないのか。
 生涯学習、アートを通して、新たな働き方や自分なりの生き方を発見してほしい、と思う。
 そのための場、学習の場であり、発表の場であり、交流の場を地域の様々な場所に展開し、それらが好循環を生み出しながら豊かな社会を創り出していく、そんな時代のくることを夢見たい、と思うのだ。



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