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流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

仮住まい

2020-12-01 | ノート
 事情があって住み慣れた家を離れ、この何か月か仮住まいを続けているこの街は、坂の多い土地だ。いずれ元の場所に戻ることが分かっているからとはいえ、いつまでもどこか居心地の悪さを感じてしまうのは何故だろうか。このことは、人がその土地に愛着を感じるのはいかなる理由によるのかという問いかけにも通じることだろう。
 元来私自身は根無し草であり、その土地で何代も前から住み暮らしてきたという家柄でもなく、これといった縁故もなく、子どもの頃から転居を繰り返して落ち着くということがなかった。それでも、時にはどうしようもなくそこが好きだという場所を見つけることがあるのだ。
 それが何故なのかと問われれば、その街の空気であり、音であり、街並みの光景であり、その土地に刻み込まれた歴史であり、記憶であり、そこに住む人々の醸し出す体温のようなものとでも言うしかないのだが、しかし、それらを身に纏ってその街を歩く時に、それがどれだけ違和感なく身体にしっくりくるかという感覚はとても重要だと感じるのだ。
 
  ゆっくりと歩いて行く道の向こうに陽が沈みかける。
  その刹那、夕陽は輝きを増したようで、ぎらつく光が僕の目を眩ませる。
  それは、少年の胸から放たれた恋の矢であり、
  老人の薄れかけた記憶の中でいつまでも燻りつづける妄執でもある。



  頭上の高速道路を走る車の音が耳をつんざく。
  見知らぬ誰かに突然声をかけられたように不意を突かれて、
  思わず空を見上げたのは、何ものかの視線を感じたからだ。
  出会っていたかも知れない人との交錯とすれ違い、
  永遠に交わることのない時間を冷ややかに見つめ続けるその眼差し。





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