坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

織田廣喜氏アトリエの思い出

2010年04月23日 | アーティスト
もう20年近く前になるので、フリーライターとして始めた頃のこと、『美術の窓』の一井社長から、技法講座でアトリエ訪問の記事をシリーズで書かせて頂いた。『美術の窓』というと若手から中堅まで前線で活躍する作家の技法公開に定評があり技法講座は人気シリーズである。私が訪問させていただいた方々は、野田弘志氏、島田章三氏、奥谷博氏ら日本美術を牽引してきた先生方ばかりで、今思えば、本当に有難い経験をさせて頂いた。その中で二科会のリーダー織田廣喜氏のご自宅の2階の和室をアトリエにした部屋での取材は、本当に印象深いものであった。パリの抒情、女性を描いて人気作家であるが、本当に気さくな笑顔がすてきな方である。画架の周辺に積み上げられた小作品に埋もれながら手を動かし「色彩は常にパレットでつくってなまな色を使わないように」というのは、あのノスタルジックな独特の夕映えに似た叙情的色調をつくりだした錬金術の賜物であろう。技法と表現は一体化して一つの世界をつくる。そして最後に画面の女性像の位置が動いた。その修正が早かったこと。練達の技そのものであった。




マン・レイ展と「写真とインテリア」のアートフェア

2010年04月23日 | 展覧会
20世紀初頭に巻き起こった世界的なダダの運動は絵画や彫刻、立体という既成の形式を軽々乗り越え横断した。マン・レイはその代表格であるが、写真のソラリゼーション技法とか絵画的なタッチを写真に応用したアーティストであった。7月14日から約2か月間、国立新美術館で開催される「マン・レイ」展は、彼の表現の思考の経路を紐解く展覧となりそうだ。絵画やグラフィック作品を制作するためにいかに写真を用いたか、多くの資料の展示によりその事実が示される。写真は現代において最も可能性のある表現媒体の一つである。6月に東京ビッグサイトで開催される「写真とインテリア」の新しいアートフェアも現代アートをぐっと身近に引き寄せる絶好の機会となりそうだ。

日常空間を楽しむためのアイデア

2010年04月22日 | アート全般
室内を自分の好きなアートで飾る、これは誰もが望むことだが、マティス、ピカソの版画、リトグラフといってもやはりある程度高額になる。そこで私が提案するのは、アメリカ戦後に活躍するポロック以後の抽象表現主義の画家たちのポスターだ。瞑想的な色彩派のマーク・ロスコ、、色彩のフィールドを開いたバーネット・ニューマンなど、固定的な抽象作品ではない自由な多様さが開放感を呼び起こしてくれる。そこから系列的にポストカードをインテリアに加えたりとちょっとした自分なりのギャラリー空間をつくってみるのをお勧めしたい。1点豪華主義もいいけど、そういったショップを歩きながら買い足してみるのも楽しみの一つだ。『Art Journal』(アートジャーナル社)で、〈戦後現代美術の流れ〉の連載をしていますので、それも参考にして頂きたい。つぎは、ニュー・ペインティングのサンドロ・キアを取り上げる予定。ところで今では各美術館のショップも充実しているので、そこで自分だけのお気に入りの1点を見つけることができるかも。

企業のアート戦略

2010年04月22日 | アート全般
企業のメセナ活動の一環として、若手作家の活動支援や新人発掘のコンクール展が勃発した時期があった。バブル崩壊の前でその部門の担当者に取材しシリーズで記事をまとめたことがある。キリンビールの幅広いメディアを扱った大賞展やシャチハタは発表の場を支援する活動、メルセデス・ベンツはフランスで滞在し制作するアーティスト・インレジデンスの支援であった。それはほんの一部であるが、現在まで続行し若手アーティストの登竜門的存在になっているコンクールもある。現在私が注目しているのは、企業の美術コレクションを基盤とした縦横な企画展の展開、積極的に文化力としてアートを活用しようとする企業のビジョンである。印象派、エミール・ガレ、ティファニーのコレクションで知られるポーラ・ホールディングスヤ三井文化財団、資生堂ギャラリーの活動は言うまでもなく、今春オープンした三菱一号館美術館はロートレックのコレクションを基軸に、明治当時の建物を復元することで、新たなアート戦略に踏み込んでいる。文化支援に各企業それぞれが潤沢な予算を組んでいるわけではない。厳しい経済状況の中で日本のトップ企業が次代に向けてアートによる活力を生み出そうとする視点が興味深い。スイスのある企業の財団コレクションの展覧会が数年前に森美術館で開催されたが、企業内美術教育にも一役買っているということだ。ヨーロッパ的循環型の価値基準がアートの面でも日本に新たな光を見出していけるのか、今後の取材テーマとして取り組んでいきたいと思っている。

金沢健一「音のかけら」の挑戦

2010年04月21日 | 展覧会
鉄の彫刻家、金沢健一氏は、初期には日本現代美術展などで、鉄柱を組み合わせた多様なインスタレーションで一躍前線に躍り出た。グリッド的に組み合わせた大掛かりではあるが、これまでの鉄のイメージを一変させる多面的な視覚の面白さを展開した。もう一つのライフワークとなっているのが「音のかけら」シリーズ、音響彫刻といわれるワークショップである。鉄の音叉やまさに鉄のかけらから響いてくる思いがけない音の軽やかさに、子どもたちが触れる機会をつくっている。この仕事も20年来となるが、パフォーマンスを取り入れたりとプログラミングを工夫しつつ、マニュアル化を進めている。昨年の夏は川越市美術館で実現した。今年も夏に、「音のかけら」パフォーミングが実践される予定だ。

アートで生き生き

2010年04月21日 | アート全般
「アートで生き生き」というタイトルは、『月刊美術』の長期連載となっている日野原重明氏の好評エッセイから拝借したものだ。日野原先生の日々の人との出会いや美術や音楽にお詳しい先生ならではの、いかに豊かに人生を生きていくかというメッセージが含まれている。優しい語り口調にそれだけで癒されるが、ここには現代が抱え込む心の闇、経済効率優先の時代にあっていかに芸術が心のゆとり、支えとなっているか、感性が大切なことを語りかけてくれる。最近では有名美術評論家の現代アートで女性磨きなどという軽いタッチの本もでているが(内容は詳しく拝読していません)、美術は今はやりの脳トレには、鑑賞する側、表現する側の垣根をこえて効果絶大と考えている。日常空間からスリップして古代ローマの彫像の作品群に触れるも良し、バロックの歪んだ構成に首をひねって見るのも良し、「これ作品なの?」と思わせる、内藤礼さんのひそやかな、身近な素材を使って既成概念をずらしてみせる空間に浸るのも良し、1500円ほどの鑑賞券で時間制限のないアート食べ放題。本当の贅沢な時間だと思いませんか・・・。

オルセー美術館展2010「ポスト印象派」の見どころ

2010年04月20日 | 展覧会
今年はパリ、オルセー美術館の大規模な改修工事があり、コレクションの主要な作品群が海外に貸し出され、国立新美術館で開催される本展はこれまでにない大型の展覧会開催となりそうだ。会期は5月26日から約3ヵ月間である。オルセー美術館と言えばモネやルノワールを代表とする印象派をすぐ思い浮かべるが、本展は「ポスト印象派」を副題として、印象派以後の20世紀への架け橋となる多様な美術スタイルに焦点をあてる。ゴッホやゴーギャン、セザンヌが主体となるが10章からなるスタイルの展開の中で、私が興味を惹かれるのは第7章のボナールらナビ派や第8章の象徴主義のギュスターヴ・モローらを揃えている点である。世紀末へと続く20年ほどの間に魅惑的な絵画が次々と新展開を見せた。本展についてはさらに詳しく『アートマインド』(ジャパンアート社刊)の巻頭特集で書きましたので、展覧会鑑賞前にどうぞご覧頂ければ嬉しいです。

calm展の保井智貴作品

2010年04月20日 | 展覧会
保井智貴の新作展覧会-calm-を、フォトグラファーである泊昭雄氏がアートディレクターとして南青山に 新たにオープンしたBOOK GALLERY WALLにて開催した。 今回の展示では保井の「人物像」を中心に、「衣服」を昔ながらの行商スタイルにて服を発表している旅情派ファッションブランド STOREと、「音楽」をTVCMや映画などの音楽を制作しているサウンドデザイナーの小野雄紀が、それぞれ今回の展覧会-calm-にあわせて制作。(2月開催)

彫刻家・保井智貴氏との出会い

2010年04月19日 | アーティスト
伝統的仏像彫刻の技法である乾漆による女性像にレトロタッチの洋服、彩色や螺鈿などこまやかな装飾とシンプルなデザイン、琳派を思わせたり、正面性を重視する立ち姿にプリミティヴな詩情が・・・。MEGUMI OGITA GALLERYでの作品との出合いは、作家に会いたいと思わせた。インタビュー記事を申込み、Okを頂きアトリエへ。昨年の夏であった。そこは一軒家にアーティストが数人アトリエとして部屋を借りている。「物静かな好青年という感じ」これが第一印象だが、やはりどこか作品と共通する神秘的な雰囲気が。気鋭のアーティスト(30代半ばが多い)の年代より(少し)上の(世代が違うでしょう)私はすでに年上女性の目線で初対面。ほとんどシナリオを頭に描きながら聞くことが多いのだが、保井さんは話してくれるかなとちょっと不安も覗いた。でもその語り口調は丁寧で優しく本当に実直そのものだった。(こういうときジャーナリスト冥利に尽きるのだ)今年の2月には"calm"という展覧会をファッションデザイナーとサウンドデザイナーとのコラボで東京・青山のBOOK GALLERY WALLでにおいて開催した。今後の動向を見守りたいアーティストの一人だ。

「和展」ちぎり絵の魅力とは

2010年04月18日 | 展覧会
4月21日(水)から25日(日)まで、東京・上野の森美術館で第19回「和展」が開催される。主催は日本和紙ちぎり絵協会。全国の和紙ちぎり絵作家で構成されている公募展である。「日展」ならぬ「和展」とは、どんな内容の展覧会なの? と思われるはず。和紙と言えばある程度厚みのある手触り感のある肌合いを思われるだろうが、現在ではごく薄い和紙まで、絵の具ほどの色のバリエーションで揃えられている。この展覧会は、その絵の具替わりの和紙をさらに剥いで濃淡の調子をつくって重ねて、風景や人物画、静物画を描いた作品が並ぶ。「これが和紙で全部手で剥いだり、ちぎったりしてできた作品?」と初めて会場に訪れる方は、個々の作品に近寄ってじっくり鑑賞。大きさは30号、50号と広がっている。私は機関紙の編集と記事執筆を長年担当させて頂き、その優しい風合いは油彩や水彩とはまた異なる魅力があることを年々感じてきた。審査員のお1人である日展の日本画家の三谷青子氏は「貼っていく潔さ、大胆さに魅力があります。」とちぎり絵ならではの技法と素材に賛辞を送られている。控え目であるが、しっかりと立っている日本女性(今は懐かしい?)のような作品群に会いに来ませんか。