ロック探偵のMY GENERATION

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映画『ロケットマン』

2024-07-23 22:56:50 | 映画


映画『ロケットマン』を観ました。

エルトン・ジョンを描く映画。

最近公開されたボブ・マーリィの映画が、二匹め三匹目のどじょうを狙っている感があると書きましたが、どじょうの一匹は、エルトン・ジョンでしょう。この映画がアマプラに入っていたので、視聴してみました。

映画『ロケットマン』本予告


この映画、ただのドキュメンタリーではなく、ミュージカル仕立てになっています。
突然登場人物たちが歌ったり踊ったりしはじめるというやつですね。エルトン・ジョンという人物には、こういう趣向があっているようにも感じられます。
使われる歌は、もちろんエルトン・ジョンの曲が多くを占めています。盟友バーニー・トーピンとの出会いから「僕の歌は君の歌」、エルトン・ジョンを一躍ロックスターにした「クロコダイル・ロック」、フーの『トミー』から「ピンボールの魔術師」、低迷期の中で再生の輝きをみせた「僕の瞳に小さな太陽」……これらの名曲のなかでも、とりわけ重要な役割を果たしているのが、Goodbye Yellow Brick Road でしょう。
エルトンが2年前にライブでこの曲を披露した動画がありました。

Elton John - Goodbye Yellow Brick Road (Live From Dodger Stadium, USA / 2022)

一応解説めいたことをいっておくと、この歌は『オズの魔法使い』に出てくる「黄色いレンガの道」がもとになっています。

カネや名誉といった虚栄の世界に別れを告げる歌……それが、まさにこの作品のテーマにつながっているということでしょう。この歌は、アレンジを変えながら作中で何度か歌われます。そんなふうに繰り返し歌われるのは(おそらく)この曲のみであり、映画における重要なモチーフとなっているのです。
成功によって身を持ちくずしたミュージシャンが本当の自分を取り戻す物語。そんなふうに考えると、クイーンを描いた『ボヘミアン・ラプソディ』に通ずるところもあります。
制作のタイミング的にいって、『ボヘミアン・ラプソディ』の影響を受けているとは考えにくいとも思いますが……しかし、エルトン・ジョンとフレディ・マーキュリーというこの二人の天才ミュージシャンには、どこか似ているところがあります。
類まれなる楽才を持っている一方、同性愛傾向があり、そのことで疎外感ももっている。その音楽でスターになったものの、金と名誉のなかで道を見失ってしまう……
フレディの場合は、不治の病に冒されたことがある意味で立ち直りのきっかけとなりましたが、エルトン・ジョンは生きています。生きて、虚栄の道である“黄色いレンガ路”を超えたところに自分の未来を見出したということでしょう。
だいぶ前にクイーンのThe Show Must Go On をエルトン・ジョンがカバーしている動画というのがありましたが、ある意味で、エルトン・ジョンは道化の仮面を脱ぎ捨てたともいえるでしょう。それがまさに、この映画で描かれているテーマです。
映画の冒頭、それこそ道化のような衣装で登場したエルトンは、自分の過去に向き合い、人生を語りながら、派手な衣装を少しずつはぎとっていきます。そして最後に、自分のたどりつくべき場所にたどりつくのです。

映画のしめくくりには、こんな歌が流れます。

Elton John - I'm Still Standing

私はまだ立っている。

ときに堕落や低迷があったとしても、数十年にわたって紡いできた軌跡には、誇るべきものがあるということでしょう。

ついでなので、最後にもう一つ動画を。
映画でエルトンの役を演じたタロン・エガートンが本人とステージで共演する動画があります。
映画祭でのパフォーマンスということで何曲かやっているようですが、その中から映画のタイトルにもなった「ロケットマン」です。

Elton John & Taron Egerton - Rocket Man (Cannes Film Festival 2019)