ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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『死の十字路』

2022-10-21 22:42:57 | 映画

今日は、10月21日

江戸川乱歩降誕の日です。
ここ二年ほどは、この日付にあわせて乱歩関連の記事を書いてきました。今年もそれにならって、乱歩原作の映画について書こうと思います。

とりあげるのは、『死の十字路』。
三國連太郎主演で、1956年に公開された映画です。

 
原作は『十字路』。
『死の十字路』という作品もあるんですが、これは『十字路』をもとにして少年探偵団モノにリライトした作品で、映画は『十字路』をもとにしているということです。
ややこしいですが……そういう事情なので、小説の『死の十字路』には明智小五郎が出てくるものの、映画の『死の十字路』に明智探偵は登場しません。


映画を観た印象としては、なんだかあまり乱歩らしくないと感じられました。

話の筋としては、意図せず人を殺してしまった男がその殺人を隠蔽しようとして、思ってもいなかったトラブルに巻き込まれていくというもの。
その最初の殺人は、新興カルト宗教にはまってしまった妻に殺されかけて、もみあいの末に相手を殺してしまったというものです。やばいカルト宗教というのは、やはり昔もやばかったんだな、と……時節柄そんな感想も抱きます。

乱歩らしくないと感じるのは、あまり怪奇・猟奇要素がないところでしょうか。
その結末も含めて、どちらかといえば松本清張作品のような感じに思えました。
この作品が発表されたのは昭和30年頃で、清張が社会派推理作家として頭角をあらわしはじめるちょっと前のことですが、そこはさすがの大乱歩、時代の潮流を先取りしていたんでしょうか。

あるいは……社会そのものの変化の反映なのかもしれません。
『死の十字路』にかぎらず、戦後の乱歩作品にはあまり怪奇・猟奇要素がない――というようなレビューをネット上で見たんですが、いわれてみればたしかにそうも思えます。少年探偵団シリーズにはそういう要素が濃厚にありますが……もしかすると、戦前戦中のあれやこれやで乱歩の心境に変化があって、それが作品に反映されているのかとも思わされました。
思えば、乱歩にとって友でありライバルであった横溝正史も、晩年の作では怪奇趣味が後退している感があり……そうなってくると、乱歩や横溝の作品に描かれる闇は、実は、戦前の日本に潜んでいた闇そのものだったのではないでしょうか。


あと、私の個人的な注目点として、音楽を佐藤勝が手がけているということがあります。
佐藤勝という人の名前は、このブログで何度か出てきました。ゴジラ映画のいくつかで音楽を手がけ、ザ・ブロードサイド・フォー「若者たち」や美空ひばり「一本のえんぴつ」など、ポピュラー音楽においてもかなり大きな仕事を残している人です。こういうサスペンス映画もやっているのかとちょっと驚きました。