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福祉について考えるUMEMOTOのブログ

シリーズ デンマークの教育⑥ 『教育の義務の後・・・高等教育』

2005-02-01 14:28:57 | 教育について
最近、教育に関する関心が改めて高まっている。メディアで取り上げる機会も多くなっているし、それぞれの独自の取り組みもみられている。行政特区における中高一貫教育であったり、1年を2学期制にする取り組みなどさまざまである。それぞれに対しては賛成、批判の意見が渦巻いているようで、それが議論を熱くしているのである。
このような動きの背景には、生徒・保護者の多様化、ニーズの多様化によりこれまでのシステムでは対応しきれなくなってきていることがあるのだという。さらに、これまでの上(教育委員会)から押さえつけられてきたことへの現場側の不満が爆発した結果なのだそうだ。
しかし、その取り組みもすぐに功を奏すわけはなく、時間がかかるものだろう。そもそも取り組み事態に批判の声が大きく、課題は山積みである。社会問題として、ニート 【NEET】 (Not in Employment, Education or Training)という若者の存在も取り上げられている今、教育の役割の見直しは急務である。

これまでシリーズで取り上げてきたデンマークの教育方法は、それらの問題を根本から変えうるだけのヒントが多く含まれているといえる。今回は、『教育の義務』を卒業した後の進路について紹介したい。
デンマークでの『教育の義務(日本で言う義務教育)』が9年間であることは前項までで説明したが、その後10年生クラスというものがある。10年生への継続は義務ではないが、その存在の意義は高等学校あるいは専門学校進学にあたって、まだ学力的にあるいは情緒的に不足していると自分で思う者が10年生へ継続し、その不足を補う。10年生へは全体の約50%が継続している。
つまり、目標も定まらないまま高校や職業専門学校(デンマークでは国民学校卒業後すぐに専門学校に進むことができる)に進むことが少なくなり、その時点で自分の目標をしっかりと決めることができるのである。また、それまでの間にそのような教育がされていることは言うまでもない。
高等学校進学率は、9年生・10年生を終えた者のうち40%ぐらいである。高等学校への入学試験というものはなく、そのかわり高等学校進学を希望する者は、国民学校卒業試験を通り高校が受け入れれば入学することができる。学力不足気味の者は、10年生に進んだ後、進路を決めればよいのである。
デンマークにおける高等学校への進学の意義は、高等学校教育を基礎にして、さらに上級学校へ進学しようとすることにある。

高等学校へ行かない者は、自分に合った能力と希望を受け入れられる専門学校が多く用意されていて、個々の個性を活かした高等教育が受けられる。この職業別専門学校はすべての職種に亘っており、その就業年限は約3年となっている。社会保健介護士養成学校等はこの専門学校と同列のところに位置している。
小さい時から自分の個性に合った教育を受けてきているので、自分は高等学校へ入れないなどという劣等感も持たないし、親も「高等学校ぐらいは出ておきなさい」などと高等学校教育を侮辱するようなことを言うこともない。

このようなシステムだと、日本のように勉強が嫌いだけど「皆が行くから」と高校に進学することもなく、何の目的もなく大学に進学することもない。また、基本的に入学試験がないため、受験勉強を必死でがんばる必要もなく、受験後燃え尽きてしまうこともないのである。
受験による弊害などは以前から叫ばれているものの、根本的な解決方法はいまだに示されていない。それは、根強い賛成論者がいるためだろうが、その賛成論者はうまく社会参加が出来ており、自身も高学歴のエリートであることが往々にしてある。うまく社会参加できない人たちを問題にするのであれば、その人たちの意見を直接反映させることが必要であるし、そもそもエリートが社会を動かしている現状では限界があるのではないだろうか。

参照:千葉忠夫「デンマークの教育調査 福祉国家デンマークの教育 ~日本の福祉教育への提言~」