What’s ノーマリゼーション?

福祉について考えるUMEMOTOのブログ

認知症コーディネーター

2006-05-29 21:17:21 | 認知症
デンマークには、認知症コーディネーターと呼ばれる職業がある。

これは、認知症になってもできるだけ住み慣れた町で、安心して暮らし続けることができるようにするためのサポート体制の一役を担う職種である。

デンマークの福祉事情については、以前もエントリーしたので参照していただきたいが、認知症に限らず誰もが安心して暮らすことができるノーマリゼーションの国である。
デンマークの介護現場に従事する職員は、すべて専門教育を受けた専門職であり、その中から一定の経験年数を経た人が認知症コーディネーターの研修を受講する資格を得ることができる。

認知症コーディネーターを日本にある職業の中から分かりやすく言うと、ケアマネジャーとソーシャルワーカーと認知症ケアのスーパーバイザーをすべて混ぜ合わせたような知識と専門性を有した職種である。
経験ある専門職が100時間以上の講義を経て、認知症コーディネーターとなるのである。

認知症コーディネーターは、地域高齢者精神医療班という組織に属することになる。そこには他に、専門医、看護師がおり、認知症になった高齢者を地域で支えるべく、介護施設や介護職のサポートを行っていく。
また、介護職のサポートだけではなく、本人やその家族にまできめ細かいサポートを忘れない。

例えば、地域高齢者精神医療班に属する医師の役割として、相談があってから、①3日以内に訪問をし、②ホームドクター(かかりつけ医)へ投薬などの助言を行う。③身体状況(認知症と同様の症状を示すもの)の確認を行い、④認知症の診断を行うことになっている。
日本では、まだまだ専門医の診断を受けるためには、患者が病院に行かなければならないことが多く、医師のあり方ひとつとってみても大きな違いがある。

日本にも認知症介護指導者研修という認知症介護研究・研修センターで実施している研修制度はあるものの、その受講者が現場実践、特に地域において活躍をしているという現状はまだない。まだ、さまざまな研修の場での講師という役割のみである。
それだけ、日本の認知症ケアの専門性がまだ低いということが言えるのかもしれないが、ただの知識の伝達だけではもったない。
一人でも多くの認知症の人が、安心して暮らしていけるように、専門職が地域で活躍できる仕組みづくり急がれる。

広まれ!認知症の取り組み

2006-05-22 22:02:03 | 認知症
「たとえ認知症になっても、住み慣れた地域で安心して暮らしたい」

全国各地で取り組まれている認知症への取り組みは、この一言につきるのではないだろうか。
一昨年から始まった認知症になっても安心して暮らせる町づくり100人会議では、各地の取り組みを公募し、表彰を行っている。

あるグループホームを中心とした小さな地域での取り組みから、市・町単位の広域にわたる取り組みまでさまざまな取り組みが表彰されている。
どの取り組みも一本の揺るぎのない芯が通っている。決して賞を受けることが目的になってはならないが、このように世間に広く伝えることができる手段としては、表彰というのはよい考えである。

スウェーデンでは認知症ケアの先駆者・推進者を表彰するクロッカルゴーデン賞クロッカルゴーデン賞があり、日本でも同様に表彰式が毎年行われている。
また、各新聞社においても福祉に貢献した人の表彰が行われているのは、紙面上で目にしたことがあるかもしれない。

一見、福祉は表彰とは縁がないように思われるが(実際に表彰されたくて福祉の仕事をしている人はほとんどいないかもしれない)、時には大きくアピールすることも必要である。マスコミは表彰式などの絵になるものが好きだし、それを利用しない手はないだろう。
黙っていればなかなか広まらないことでも、大きな声を上げると、水面に波紋が広がるように、その取り組みが普及することがある。
最近で急速に広まった、ユニットケアやグループホームなどの小規模ケアや、宅老所などの小規模多機能と呼ばれる施設が代表的だ。

大きな声を上げた人に対して、時に世間は冷たい視線を投げかけることもあるが、先駆者が道を切り開いたことの意味は大きなものがある。
私たちは、その切り開いた道を踏み固めて歩きやすくすることもできるし、道を広げ後から多くの人たちが通ることが出来るようにすることもできる。道端に花を植えることもできる。違う道を見つけることもできるかもしれない。

ただ、何もせずに道に唾を吐くのはやめよう。その道は私たちの通る道でもある。

増える介護事故裁判

2006-05-06 15:59:51 | 福祉雑記録
1:29:300

この割合は、ビジネスの世界でよく使われている『ハインリッヒの法則』と呼ばれるものである。

ハインリッヒの法則とは、米国のハインリッヒ氏が労働災害の発生確率を分析したもので、保険会社の経営に役立てられています。それによると1件の重大災害の裏には、29件のかすり傷程度の軽災害があり、その裏にはケガはないがひやっとした300件の体験があるというもの。
同じように、ビジネスにおける失敗発生率としても活用されており、例えば1件の大失敗の裏には29件の顧客から寄せられたクレーム、苦情で明らかになった失敗がある。さらにその裏には、300件の社員が「しまった」と思っているが外部の苦情がないため見逃しているケース、つまり認識された潜在的失敗が必ず存在するといえる。

あるデータでは、不満を持った顧客の96%は、企業に対して何も言わず、一般にクレームが1件あると、問題を抱えた顧客が他にも24人存在することになり、そのうち6件は深刻な問題だという。
その他にも、苦情を訴えた顧客は、たとえその問題が十分に解決されなかったとしても、苦情を訴えなかった顧客よりも、その企業と継続的にビジネスをしようとする傾向があり、苦情を訴えた顧客の54~70%は、問題が解決されれば再びその企業とビジネスしようとする。特に問題が速やかに解決されたと顧客が感じるときには、その数字は95%にまで上昇する。

不満をクレームという形で表すことができる顧客が大切なのである。苦情対応の結果次第では、その顧客は他の顧客に対してもよい宣伝効果があることが分かっている。逆の場合もしかりである。

これらのデータがそのまま福祉の世界に当てはまるかは疑問だが、福祉業界でも真剣に考える必要があるだろう。
すでに「ヒヤリハット」や「インシデント」という言葉で、300のヒヤリを現している事業者も多くある。しかし、私たちがよく考えておかなければいけないのは、この法則はサービス供給側からの視点が主であり、利用者視点ではないということ。つまり、供給側から見れば300のヒヤリでも、利用者やその家族から見れば、表面には出ない多くの不満が内在しているのである。
売り手市場の介護サービスにおいては、どれだけ多くの人が不満を飲み込み、耐えているのだろうか。
家族からの不満は、年老いた親への無関心という形で、表に出てきにくい面もあることを忘れてはいけない。

                   * * * * * * * * *

介護保険が施行され、サービスが契約に基づくものになってから、多くの事業所でもリスクマネジメントが取り組まれている。
それと比例するかのように、介護事故による裁判も各地で起こされている。
・転倒・転落による事故
・誤嚥による事故
・徘徊による事故
・急変を察知できなかったことによる事故  ・・・等
この中で最も多いのが、転倒・転落による事故で、死亡につながる例も少なくない。また、その他の事故で裁判になっているのは、すべて利用者の死亡という悲惨な結末になっている。

訴訟を起こされるということは、苦情対応の仕方を誤ってしまったことにも原因があるだろう。裁判になると大きな労力と費用がかかり、精神的にも辛いものである。それでも利用者や家族が裁判を起こそうと決断だけのやりきれない気持ちと、不十分な対応があったのだろう。
リスクマネジメントは、事故を未然に防ぐだけではなく、事故後の対応まで含めたものでなければならない。
企業や組織の本質は、危機的状況に直面したときに現れるものである。ぜひ、自分たちの働く事業所を見つめ直してもらいたい。そして、自分自身の意識も。