What’s ノーマリゼーション?

福祉について考えるUMEMOTOのブログ

生活保護ケースワーカーの資質

2007-07-31 23:13:02 | ノーマリゼーション
北九州市が揺れている。
福祉行政においては、先進的な取り組みが注目されることの多い北九州市だが、昨年から生活保護については、批判の矢面に立つことが多くなっている。

7月10日にミイラ化した状態で見つかった男性(52歳)は、生活保護の辞退を強要された疑いが持たれている。それを裏付けるような男性の日記が、本日公開された。

(4月5日から5月25日の間)
せっかく頑張ろうと思った矢先 切りやがった。生活困窮者は、はよ死ねってことか

5月25日
小倉北の職員、これで満足か。人を信じる事を知っているのか。3月、家で聞いた言葉、忘れんど。市民のために仕事せんか。法律はかざりか。書かされ印まで押させ、自立指どう(導)したんか

その後、6月5日に「ハラ減った。オニギリ食いたーい」という言葉を最後に、男性は亡くなっている。市によると辞退届の提出は今年4月2日で、10日付けで保護を廃止。「(本人が)自発的に出した」と説明していた。

九州は旧産炭地が多く、生活困窮者が多い。当然、生活保護世帯の割合も多く、財政を圧迫しており大きな課題になっている。
だからといって、必要な人の生活保護を勝手に打ち切ってよいということにはならない。生活保護の締め付けはなかったのか。ケースワーカーにノルマのようなものを課していなかったのか。第三者委員会による検証に期待したい。

生活保護ケースワーカーは高い専門性が要求される職種である。しかし、行政の職員でどれだけの人が、専門性とモチベーションを持って取り組んでいるだろうか。
今回、問題になった男性は仕事ができる年齢とされ、自立指導の対象となる。一言で自立指導といっても、その人の能力、疾病、社会状況などさまざまな問題を複合して捉え、指導していく必要がある。そのためには高い専門性と経験、社会状況を見極める視点、自立までのマネジメント能力が必要になる。ただ「仕事をしろ」と言えばよいものではない。

全国にはまじめに日々努力しているケースワーカーが多くいる(と信じたい)。このようなことはもう二度とあってほしくはない。今はまだ専門性が不十分なケースワーカーでも、人間として当たり前の感覚だけは持っていてほしいと願うばかりである。

コムスンから始まる介護議論

2007-07-06 22:47:59 | 介護保険
コムスンの一連の不祥事、更新凍結がマスコミに取り上げられてから、介護サービスのあり方がクローズアップされ、今なお議論されている。
これまでの議論をみていると、その論拠は大きく二通りに分けられるようだ。介護保険を経営の側面から捉え、経営理念のあり方を論じるもの。そして、介護保険のあり方事態に課題があり、その課題を浮き彫りにしようというもの。
前者のほうでは、利用者(高齢者)を数字としか見ない経営者の姿と、そこで翻弄される利用者を対比させることによって、ノルマ達成を課す営業的な仕組みを批判している。
後者では、それらの原因は介護報酬を切り下げられ、安い報酬で働かざるを得ない現在の介護保険のあり方にあるとし、今後介護報酬の適正化を求める制度論を展開している。

どちらの側面もあり、問題はそれらが絡み合ったところに存在すると私は思う。介護を保険という仕組みにし、サービスを選択するという市場原理に載せてしまった以上、経営感覚抜きでは、サービス事業所の存続は難しい。福祉は救貧から始まった背景があり、経営よりも理念からスタートしている。しかし、保険というのは収入と給付のバランスからなっており、破綻することは許されない。
そして、介護市場に制限なく事業所を参入させたことで質の確保が難しくなり、その締め付けを行うこと、また保険を破綻させないようにと介護報酬の引き締めを行ったことが、質の低下の悪循環を生み出していると思われる。

発端はどうであれ、介護の問題が前面に出て議論されることは歓迎したい。介護保険制度成立前は、大きな社会問題になった介護も、それ以降は国民的な議論がないまま今に至っている。
コムスンから始まった議論も、介護を自分のこととして考えるきっかけになり、介護保険の制度のあり方に関する議論まで深まることを期待したい。

今月末には参議院選挙が開催される。「消えた年金問題」に象徴されるように、社会保障が選挙の争点になると言われている。しかし、年金だけが社会保障ではない。医療、福祉、年金が揃っての社会保障であり、全てのバランスがないと安心した老後を過ごすことは難しくなる。
福祉(介護)が不安定な状況にある今、もう少し広い視点から社会保障を考えてみたい。

療養病床廃止の先に

2007-06-20 23:43:01 | シリーズ 医療制度改革
医療法人が特別養護老人ホームを運営できることになる。〈日本経済新聞〉

これまで厚労省の「介護施設等の在り方に関する委員会」において、療養病床の廃止、削減が検討されてきたが、その議論を受けて、厚労省は一定の方向性を示したことになる。
当初から、委員より療養病床を利用している人の多くが要介護重度者であることが指摘されており、介護老人保健施設での受け入れが可能なのかという議論があった。厚労省の方向性としては、住宅系に転換していきたいというのがあったが、実際に利用している人をどうするのかという問いには、答えを出せないでいた。
確かに、老人保健施設は中間施設という位置づけであり、平成18年度の介護報酬改正で、在宅復帰を支援するような改正を行ったばかりである。いくら医療的には対応が可能とはいえ、本来の施設のあり方からは離れてしまう。

ここにきて、医療法人に特別養護老人ホーム運営を認めるのは、それらの批判に対して答えるものであろう。
そもそも療養病床廃止の計画には、あまり期間がない。平成23年度までに目標数まで減らすとしているが、次回の介護報酬改正(平成21年)までには、具体的な数値として決定し示さなければ、具体的に転換作業には移ることができない。

5月末には、医療法人に「高齢者向け優良賃貸住宅」や地域密着型の特定入居者生活介護施設の運営が認められたところであり、選択の幅は広がっている状態である。
しかし、結局はその市町村の介護保険計画や整備計画あってのことであり、勝手に作ってよいというものでもない。
また、これまでの議論は、療養病床が廃止された後、利用者の受け皿をどうするのかという物理的な問題しか議論されておらず、質の問題は置き去りにされてしまっている。医療法人が特別養護老人ホームを運営すれば、受け皿の問題は解消されるかもしれないが、質が確保されることとイコールではない。
特に注意しなければならないのは、病院から転換した場合である。これまで医療として入院患者の生活を支えてきたものが、生活の場として対応しなければならなくなり、職員にも大きな意識転換が求められる。経営者の方針、理念がより重要になってくるだろう。
質を求める議論がなしでは、不安である。

事後規制を読み解く ~コムスン騒動から~

2007-06-13 22:01:12 | 介護保険
コムスンの新規・更新申請を2011年度末まで認めないという通知を厚労省が出してから、これまでの間事態は二転三転し、結局はグッドウィルグループ内への譲渡をあきらめ、事業全体を売却する方向になったようだ。
グループ会社への譲渡に関しては、厚労省は「法的には問題ない」という見解を出していたが、首長や業界内からも多くの反発があり、厚労省も「法的には問題ないが、望ましくない」という見解に変わっている。

今回の判断は介護保険法に基づいたものであるが、平成18年4月の改正により、『事後規制』のルールが整備され、コムスンに適用されることになった。その『事後規制』を読み解いていきたい。

これまで、過去に不祥事を起こし指定を取消された事業者が、他県で指定申請をしたり、別法人で指定申請をしてきた場合には、指定拒否が法律に明文化されておらず、要件さえ満たせば指定を拒否することができなかった。
そのため、指定の欠格事由・取消事由に人員基準や設備・運営基準のほかに、申請者や法人役員、管理者が以下の状態である時も取消の対象となることにした。
○禁錮以上の刑を受けて、その執行中であるとき
○介護保険法その他保健医療福祉に関する法律により罰金刑を受け、その執行中であるとき
○指定取消から5年を経過しない者であるとき
○5年以内に介護保険サービスに監視、不当又は著しく不正な行為をした者であるとき

また、一旦指定を受けると、指定の効力に期限がないため、サービスの質を確保するために定期的に確認をするような仕組みもなかった。
それに関しては、指定の有効期間(6年)が設けられ、適切な事業運営がされていない場合や、取消処分を受けた場合には、更新が受けられない可能性が出てくるようになった。

コムスンの場合は、株式会社のもと全国に事業所を展開していたが、そのうち1箇所でも指定取消処分を受けると、その他の全事業所が更新の際、更新を受けることができなくなってしまうことになる。そのため、不正が発覚すると、取消処分を受ける前に、自ら事業所を廃止していた。
さらに、子会社であった日本シルバーサービスとコムスンの役員が兼任していたため、事前に役員を分け欠格事由に当たらないようにし、譲渡を行いやすくしている。
サービスの質を確保するための事後規制のルールであったが、コムスンが見事に抜け穴を示したのである。

コムスンの売却が決定してから、介護事業を手がける大手株式会社が、それぞれの持論を展開し、買取に名乗りを上げている。
その様子は、まさに介護がビジネスであることを物語っている。経営感覚は否定しないが、福祉はそもそも施しから始まっている経緯がある。介護保険は福祉ではなく、保険サービスであるという言われ方もしているが、金儲けを前提にした福祉・介護は本来の役割・あるべき姿を曇らせてしまう。
「大儀」あってこその福祉や介護であるべきだ。

在宅療養支援診療所がネット検索可能に

2007-05-12 22:36:54 | シリーズ 医療制度改革
24時間体制で往診可能な在宅療養支援診療所が、独立行政法人福祉医療機構のインターネットサイト『WAM NET(ワムネット)』で検索できるようになった。
全国にある診療所は平成19年5月12日現在で、9,504ヶ所。所在地からも検索が可能になっている。
在宅介護支援診療所は、制度化されてからも所在地などのリストが一般に公開されていないため、患者は退院時などに病院に聞くしかなく、「情報の壁がある」といった声が出ていた。

来年度からの医療計画は都道府県が作成することになり、その地域特性に合わせた形で医療施設の整備が行われることになる。
また、75歳以上の高齢者(後期高齢者)向けに、公的な「かかりつけ医」制度を2008年をめどに創設するように検討されている。08年からスタートする後期高齢者を対象にした新しい保険制度は、介護保険をベースにしており、外来の診療報酬も月額の定額制にすることが決まっている。
今後ますます増加する医療費の抑制のための制度改正であるのは間違いないが、ながれとしては、より在宅での医療を推進していく形になってくる。

かかりつけ医制度がスタートすると、他の医療機関もさることながら、訪問看護や介護サービス事業者、ケアマネジャー等との連携をより一層強化する必要が出てくる。
これまで医療という聖域に胡坐をかいていた医師には、価値観の変換が求められてくる。また、介護業界にとってみれば新たなラインから利用者が来ることになる。連携をとっていくためには、医師との共通言語をある程度持つ必要があるため、のんびりはしていられなそうだ。

憲法記念日に思うこと

2007-05-03 21:23:20 | ノーマリゼーション
憲法が制定されて60年が経過した。
安倍首相になってから、憲法改正論議が加速して、国民投票法案も衆議院で可決されてしまった。

私は2004年10月から『What's ノーマリゼーション(ノーマリゼーションとは何か?』を求めて、主に福祉や医療の動きや、それらについての私見を書いてきた。
いま、この憲法改正論議や集団的自衛権の範囲拡大の動きを見ていると、ノーマリゼーションを確立するためには、その根本にある『人権』や『平和』を見過ごすことはできないということを強く感じてしまう。

私は戦争を体験したこともなければ、1960年代の安保闘争も経験したことがない。日本国憲法は生まれたときから、そこに存在し、意識することがないまま生活をすることができた。
自衛隊も矛盾は感じながらも、憲法解釈を変えることで対応してきた経緯を見てきていることもあり、それがいま、憲法を改正すると言われても、あまり実感がないのが正直なところで、20代、30代の多くはそう感じているはずである。

ただ、憲法9条を中心に改正しようという流れは漠然と不安を感じるのである。振り返れば、日本が戦争をしていないのは、第二次世界大戦後からの60年強で、それ以前は戦争を繰り返してきた経緯がある。
世論調査で約8割の人が、平和に貢献してきたと感じる憲法9条を改正するということは、今後の日本が戦争を推進していく国家になっていくことが予想されてもおかしくはない。この60年あまりの平和は決して自然に発生したものではなく、人々が願い作り上げてきたものであることを、もう一度考える時期にきたのかもしれない。

憲法改正論者の中には、憲法9条だけでなく、環境権などさまざまな権利を盛り込んでいく必要があると唱えている人もいる。しかし、13条の幸福追求権がすべての権利を根拠になることは、憲法研究者の間でも言われており、他の権利を憲法に記載する緊急性は今はないと言える。

繰り返しになるが、『人権』と『平和』が保障されずしてノーマリゼーションはありえない。今の世の中は、そのどちらの実感も希薄で、さらには放棄しようとしているとしか思えない。
憲法が制定されてから60年という節目に、もう一度私たちは、今の平和な世の中がどのように作られてきたのか、思いをめぐらせ、何もせずにこの平和が続くことはありえないことを肝に銘じる必要があるのではないだろうか。

療養病床の行く末

2007-04-09 22:54:42 | シリーズ 医療制度改革
平成18年2月に、介護療養病床の廃止を盛り込んだ医療制度改革関連法案が国会に提出され、4月には診療報酬・介護報酬の改定、7月には医療療養病床に新たな診療報酬体系が導入された。
その間、最大38万2千あった療養病床が6千あまり減少している。

これは、診療報酬の改定により医療ニーズが軽い利用者が多いと、医療療養病床では大幅な減収になることと、国の示す今後の方針についていけないと判断した病院・診療所がいち早く行動に出た結果であると推測される。
一方、厚労省が医療機関に対して行った療養病床の削減についてのアンケート結果では、老人保健施設へ転換するとした病床数は全療養病床の8.5%にとどまっている。理由としては資金面が大きいようだ。
医療機関の意向としては、「介護型から医療方への転換、あるいは医療方のまま存続」という回答が49.6%と最も多くなっている。「未定」は30%。「一般病床に転換」が5.2%という順になっている。

療養病床の転換の課題はどこにあるのだろうか。
各都道府県では県単位で病床数の整備を計画に基づいて行っている。現在の都道府県医療計画では、療養病床と一般病床の区分のない目標が設定されているため、療養病床が一般病床に転換することを妨げることは難しい。このような背景がアンケートの結果にも反映されているのだろう。
またもう一つ転換の足かせになっているのが、各市町村が策定する介護保険事業計画である。現在は平成18~20年度の計画となっており、老人保健施設等のベット数もそこで決められており、平成20年度までは老人保健施設等に転換したくても難しいという状況がある。
ただし、次期(平成21~23年度)の計画では療養病床の転換を踏まえた計画に見直されることになっている。
また、療養病床の約1割は診療所の病床であり、老人保健施設等への転換そのものが困難であることも忘れてはならない。

注意しなければならないのは、療養病床の転換が第一になってしまい、転換時に一定の期間減収となることに耐えられない医療機関が、医療区分が軽い利用者を無理に退院させるなどの行為に走ってしまうことである。
移行期には、一定の資金が必要になる。経営状態が悪く、その資金が調達できない医療機関もあるだろう。資金不足のために転換できないのであれば、ベットそのものが無くなってしまうことにもなりかねない。国はさまざまなケースを考え、どのように対応していくのかを考えておく必要がある。

反対に、資金が豊富にあり、老人保健施設等に安易に転換した場合も注意が必要である。施設形態を換えるということは、機能や介護の質が換わるということである。これまでと同じ処遇の仕方では、適したサービスを提供することは難しいだろう。
ぜひ、経営者は安易な転換に終わるのではなく、転換する施設に最も適した環境整備やサービス体制の構築、それに伴う職員の資質向上に取り組んでもらいたい。

認知症治療に朗報か?!

2007-03-26 21:03:51 | 認知症
少し前まで、認知症とは治らない病気だと言われていた。アリセプト(塩酸ドネペジル)を服用しても、認知症(特にアルツハイマー病や脳血管性認知症)の進行を遅らせることはできても、治らないと言われている。

認知症は告知などの問題も含めて、癌と比較されることがある。両者とも進行が遅く(個人差がある)、介護する側に大きな負担を強いることになる。癌は進行とともに強い苦痛を伴うが、比較的最期まで意識は保たれている。しかし、認知症は進行とともに人格に変化をもたらしたり、最期には最愛の人までも認識できなくなる点では、癌よりも苦しい病気なのかもしれない。

しかし、その認知症治療に大きな光明が見え始めている。ワクチン療法である。
ワクチン療法には大きく分けて能動免疫療法、受動免疫療法、粘膜免疫療法とがある。
能動免疫療法はインフルエンザ予防接種と同じで筋肉注射をすると、体内で抗体が作られるというもの。2001~2002年にはヨーロッパで300人のアルツハイマー病患者に臨床試験を行ったが、うち6%にあたる18人に副作用として髄膜脳炎が発症したため、試験が中止になったのは有名な話である。
成果としては、ワクチンを投与されたうち3割程度に抗体が作られ、その人たちは認知症の進行が止まっているというデータが発表されている。

現在、開発が急ピッチで進められ、最も早く世に出てくると言われているのが、体内に直接抗体を投与する受動免疫療法である。マウスを使った実験では、投与後老人斑がきれいに消えて無くなっているのが確認されている。しかし、血管から体内に出血しやすくなるなどの副作用も報告されている。
また、1ヶ月に1回程度はワクチン投与を続ける必要があり、医療費にも影響してきそうだ。

現在、研究段階であるが、ウイルスベクター(治療用遺伝子)を体内に投与する粘膜免疫療法の臨床試験がアメリカで始まろうとしている。マウスや猿を使った実験では、脳炎などの副作用もなく、全例で抗体ができているという報告がある。また、老人斑もきれいになくなり、投与も1年に1回程度でよいとされている。

ワクチン療法が認証されると、治療すれば認知症の発症を止めることができるようになる。そうなると、いかに認知症を早期発見するかが鍵になってくる。乱暴な話をすれば、60歳になったらすべての人が認知症の検査を受けるようにすれば、確実に認知症の発症を抑えることが可能になるのである。
当然、認知症による介護や継続的な治療がなくなり、介護や医療にかかる費用が抑えられることになる。

しかし、ワクチン療法を待つことができない人たちが大勢いるのも事実である。ある専門家は「認知症は治らないという前提を捨てることが大切だ」と言っている。「どんな脳でも学習することができる。そのためには意志の力が必要だ」と。
脳の研究が進み、脳の細胞はある年齢以降壊れていくのみではなく、記憶を呼び起こす働きをする海馬(かいば)だけは神経細胞が新生されることが分かっている。適度な運動時には神経細胞を作るホルモンが発生するという。つまり、心地よく脳を働かせれば脳の機能が保たれるという。

また、食事や睡眠、運動などの分野でも認知症にならないための研究が進められている。すべてのことを実施するのは難しいかもしれないが、努力によって認知症になるのを防ぐことが可能になっているのである。

混迷するリハビリテーション

2007-03-15 22:05:51 | シリーズ 医療制度改革
この1年間、リハビリテーション(以下、リハビリ)に関する記事や報道が何度発表されただろうか。平成18年4月の診療報酬改定により、医療保険のリハビリを受けられる日数の上限が、脳血管の病気で発症や手術から180日、手足の骨折などで150日、呼吸器の病気で90日、心臓や血管の病気で150日までと制限された。
これからの疾患によるリハビリは、提示してある日数を超えると維持期のリハビリになり、漫然と続けるものではなく、効果が明白ではないと厚労省の研究会で指摘された。
リハビリ日数が制限された一方では、発症直後のリハビリは従来の1.5倍の時間できるようになっている。

ただし、厚生労働大臣が定める疾患又は症状があり、医療保険のリハビリを継続することにより状態の改善が維持できると医学的に判断される場合は、日数上限を過ぎても医師の判断によりリハビリを継続することが可能とされている。
その疾患をすべて紹介することはできないが、例えば、
・失語症、失認及び失行症
・高次脳機能障害
・重度の頸髄損傷
・関節リウマチ
・パーキンソン病関連疾患
・言語障害、聴覚障害又は認知障害を伴う自閉症等の発達障害
その他、難病に指定されている疾患などが除外されている。
また、回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者、つまりまだ若くリハビリをすれば回復する可能性が高い患者は日数上限から除外されている。

当初、平成18年4月から適用されるはずの制限だったが、公けにされたのが数ヶ月前と現場に大きな混乱をもたらしたため、半年間の経過措置がとられた。
さらには、現場の医師に改定の詳細が普及しておらず、疾患に関わらず一律にリハビリを打ち切られてしまうなどの問題が生じてしまった。そこで、厚労省は急遽通達を出すなど再度現場への理解を求めることになった。

しかし、混乱はそれだけでは収まらなかった。医療リハビリを受けていた患者の中には、身体機能を維持しながら仕事を続けている人もおり、自分の言葉でリハビリ継続を高らかに訴え始め、社会問題にすることに成功した。
その声と輪は大きくなり、何十万人という署名が集まり、厚労省も無視できなくなってしまっている。

なぜここまで混乱が大きくなってしまったのだろうか。一つは、医療費抑制ありきの改定であったことに原因がある。一部の研究者や現場の声を聞いただけで、綿密な調査や患者からの聞き取りが不足していたのだはないだろうか。
そしてもう一つは、リハビリの受け皿を介護保険のリハビリにしてしまったことだ。介護保険のリハビリは介護負担の軽減という側面が強く、集団で行うなど医療保険のリハビリを行っていた人には満足できないメニューであることが多い。また、介護保険事業所においてリハビリを行える専門職(理学療法士、作業療法士等)が不足している現状もある。そこに輪を掛けて、厚労省は3月、訪問看護ステーションに、理学療法士らの訪問回数が看護師の回数を超えてはならないと通知したため、リハビリを受けたい人は、同回数の看護師の訪問を受けるため、費用負担も多くなってしまう。さらに、介護保険の適用にならない40歳未満の人は、最初から介護保険の受け皿からはみ出してしまう。

当事者の声を無視できなくなった厚労省は、ここにきて日数制限から除外される疾患の範囲を広げることにした。しかし、医療費が増えることから、財政面でのバランスをとるためにリハビリの診療報酬を一部引き下げ、4月からの実施を目指している。
4月からの改正は以下の通り。
①急性冠症候群(心筋梗塞、狭心症など)、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)を新たに日数制限からはずす
②日数制限の対象となる病気でも、改善の見込みがあって医師が特に必要と認めた場合は医療リハビリが継続できる
③介護保険の対象とならない40歳未満の患者や、介護保険で適当な受け皿が見つからない人は、医療で維持期のリハビリが続けられる
④回復が見込めない進行性の神経・筋肉疾患(筋萎縮性側索硬化症=ALSなど)も医療リハビリを継続する
これで、大半の患者を救済できると厚労省は考えている。

また、介護保険においても新形態のリハビリ「個別・短時間型」を導入する方向で検討している。専門職が必ずつき、リハビリに特化するという内容だが、スタートは早くて2年後の予定だ。専門職も現状の4倍は必要という試算もあり、実現は不透明な状況。
現場の多くの声をうけ、動き出してはいるが、この混迷はまだまだ続きそうだ。

無届け施設の存在をいかに掴むか

2007-03-09 19:40:06 | 福祉雑記録
千葉県浦安市の無届け有料老人ホーム「ぶるーくろす癒海館(ゆかいかん)」で入所者への虐待の疑いが持たれている問題で、毎日新聞が、全国47都道府県に調査を実施した。
その結果、34都道府県が実態調査をして計625件の無届け施設を把握していたことが判明した。その後の指導で届け出ていたのは、3分の1強の243件にとどまっているという。

今回の問題では、虐待行為そのものも問題にすべきことで、虐待(拘束)をした職員やその職場環境をきちんと調査し、原因を検証する必要がある。そうすることで、今後同じような被害に合う人を少なくすることができるだろう。
別の側面では、どのように虐待行為を発見するのかという大きな問題もある。平成18年4月に施行された高齢者虐待防止法では、虐待を受けている高齢者を発見した者には、高齢者の状態に応じて通報の義務もしくは努力義務が課せられている。しかし、施設内の虐待は外部には見えにくく、雇用されている職員や家族を預かってもらっている家族にとっては訴えにくい力関係が存在している。
さらに、届出を行い行政が把握できている施設かそうでないかによって、さらに虐待行為の発見や事実確認が遅れる可能性が指摘されている。届出がされていれば、行政は指導という形で内部に入ることも可能になる。

そもそも何をもって『有料老人ホーム』というのだろうか。有料老人ホームの定義は、老人福祉法の第29条に「老人を入居させ、入浴、排せつ若しくは食事の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な介護の供与を行う施設(後略)」とされている。つまり、高齢者が生活するように便宜をはかり、そのための職員もいれば有料老人ホームであるということだ。
そして、「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について(厚労省老健局通知)」では、上記の定義に当てはまるものは届出義務がある、とされている。
届出をした施設は、正式に『有料老人ホーム』と名乗ることができる。その反面、行政の監査・指導を受けなければならなくなる。

今回のように無届け施設が出てくる背景には、需要が多く『有料老人ホーム』という看板を掲げなくても利用者が集まってくる状況がある。
また、何を持って『有料老人ホーム』とするのかという定義の解釈が、各都道府県によって異なる現状もある。そのため、一度届出をしても、都道府県から「それは有料老人ホームにあたらないから届ける必要がない」と返される例もある。
一時、厚労省の指針でも「高齢者以外が入居できる施設は有料老人ホームにあたらない」などと都道府県に対して説明をしている経緯もあるという。

今回の毎日新聞の調査でも、調査していない13都県においても、「定義が難しく調査の手法も検討がつかいない」、「無届け施設があるかどうかも分からない」という理由が挙げられている。
現実問題として、市町村単位で把握し、都道府県に情報を提供していくしか方法はないだろう。市町村には各種情報が入ってくるはずである。いかにアンテナを張り情報を掴んでいくかが今後の鍵になるだろう。