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福祉について考えるUMEMOTOのブログ

『介護支援ボランティア』が与える影響とは

2007-01-31 19:08:18 | 介護保険
東京都稲城市が提案する『介護支援ボランティア控除』という制度がある。
これは、元気な高齢者が、他の高齢者のために介護支援ボランティアを行い、地域社会で互いに助け合う高齢者の社会参加・地域貢献を奨励するというねらいがある。
介護支援ボランティアをした高齢者は、申請をすると年額5,000円の介護保険料控除を受けることができる。稲城市と千代田区は厚労省に対して平成17年8月制度創設を要望したが、今回の制度改正では見送られた経緯がある。

そこで、稲城市では「「介護支援ボランティア特区」の提案を内閣府に提案している。
介護予防の取り組みにも力を入れている稲城市が、何を意図して介護支援ボランティア制度を提案したのか。内容を一部紹介していきたい。

まず、最も賛否を分けているのが、ボランティアの対価として保険料控除を上げているところである。稲城市がボランティア関係者(105人)を対象に行ったアンケート調査にも、「本来のボランティア精神に反する」という意見が寄せられている。また、ボランティア控除で減額される分、ボランティアに参加していない人がこれまでより多く保険料を負担する必要があるのではないか、ということを危惧する声もある。
それに対して稲城市としては、現状から鑑みてボランティアに参加する人数は50~100人程度(高齢人口比0.5~1.0%)であり、大きな影響はないとしている。
また、控除は申請する必要があり、単純にボランティアの対価とはなりにくいという見解を示している。

具体的には、市が指定する高齢者施設や地域支援事業において、一定回数・期間ボランティアを行い、スタンプ帳に証明スタンプを押してもらう必要がある。
ボランティアの内容も決まっており、レクリエーションの指導や参加支援、食堂内の配膳・下膳の補助、外出等の補助、話し相手、洗濯物整理やシーツ交換等の補助的な活動などがある。
在宅の介護支援ボランティアは対象となっていない。

この特区申請が認められるかは分からないが、実施に至ればこれまでのボランティアのあり方や介護保険制度のあり方に対しても一石を投じる取り組みになるだろう。
現在、各市区町村は介護予防事業や地域支援事業として、特定高齢者や一般高齢者を対象として、筋力アップ教室や栄養改善教室、口腔機能向上教室などを取り組んでいる。
しかし、現実はその教室を担う人材が少なく、またサポートできる人材も不足している状態である。そこでサポート役にボランティアを募り、ともに運営していく取り組みはなされているが、多く集まらないという声も聞かれている。

保険料控除があるということは、当然介護支援ボランティアを自治体が主導で行うということになる。現在、各地域の社会福祉協議会ではボランティアセンターがあり、ボランティアのコーディネートをしているが、社会福祉協議会の役割が多様化しているなか、どれだけ実働性があるのか疑問の声もある。
社会福祉協議会の業務には、自治体が委託している業務も多く、その運営には一定の責任もあるが、実際は丸投げしていたり、打開策がない状態もあるだろう。
自治体が介護支援ボランティアの運営をすることにより、そこに生まれる相互作用も期待したい。

ボランティアに対する対価的な性格があるという批判もあるようだが、そもそもボランティアとは何かという定義は一律に括れないところがあり、ボランティアをしている人たちがよければ、それを外野からとやかく言う問題ではないと考える。
ただ、残念なのは、在宅を支援するボランティアが控除の対象にならないことである。それを証明する人がいないというのが理由なのだろうが、本人や家族が証明者となれるような工夫をすることで、活動の幅が広がることを期待している。

平成19年度の認知症対策等総合支援事業

2007-01-22 19:16:54 | 認知症
現在の全国で認知症高齢者は170万人いると言われている。20年後には倍の数になるという統計まである。
また、認知症とはいえなくても、その予備軍である軽度認知障害(MCI)の人は認知症と診断を受けている人の3倍(現在は400万人以上)はいると言われている。

65歳以上の10人に1人、85歳以上の4人に1人は認知症であり、認知症対策は目下の課題である。そこで、厚労省では認知症対策として『認知症対策等総合支援事業』を計画し、予算化している。
平成18年度の予算額が15億5千万円だったのに対し、平成19年度の予算案では20億8百万円と増額している。それだけ、国も認知症対策に力を入れているという表れであろう。

その中身は、これまでの医療体制の充実、認知症ケアの質の向上等を柱とした事業を継続して推進していくとともに、新たに「権利擁護に関する取り組みの充実」「地域における総合的な支援体制の構築・充実」を推進していく内容になっており、6つの事業に分かれている。
以下、6つの事業を簡単に紹介したい。

1.認知症介護実践者等養成事業
 認知症介護の質の向上を図るため、認知症介護指導者の養成や介護従事者等に対する研修を行う事業。認知症介護研究・研修センターで行われている指導者研修や、県単位で行われている実践者・実践リーダー研修等。
 実施主体:都道府県・指定都市
 負担割合:国1/2 都道府県・指定都市1/2

2.認知症地域医療支援事業
 地域における認知症発見・対応システムを充実するため、認知症の主治医(かかりつけ医)に助言等を行うサポート医を養成するとともに、主治医に対し、認知症の診断や相談等の対応の向上を図るための研修を行う。
 かかりつけ医に対して、適切な認知症診断の知識・技術や家族からの話・悩みを聞く姿勢を身に付けてもらい、認知症の早期発見・支援の体制をつくる。
 実施主体:都道府県・指定都市
 負担割合:国1/2 都道府県・指定都市1/2

3.認知症地域支援体制構築等推進事業(平成19年度新事業)
 各都道府県のモデル地域を選定し、認知症への対応を行うマンパワーや拠点などの「資源」をネットワーク化し相互に連携することができる体制をつくる。具体的には、地域包括支援センターと連携して地域資源マップの作成したり、認知症の専門的な相談に対して助言をすることができる体制、徘徊高齢者のSOSネットワーク等、専門知識のあるコーディネーターが中心となり構築していく。そのモデル地域の取り組みを分析・評価し、情報提供していく。
 実施主体:都道府県
 負担割合:国10/10 ※2年間限りのモデル事業

4.高齢者権利擁護等推進事業(旧:身体拘束廃止推進事業)
 介護施設・サービス事業従事者に対する権利擁護意識の向上を図るための研修を行うとともに、各都道府県内における、高齢者虐待を中心とした権利擁護に関連する専門的相談・支援体制を構築する事業。
 実施主体:都道府県
 負担割合:国1/2 都道府県1/2

5.認知症理解・早期サービス普及等促進事業
 認知症の理解を促進するための普及啓発や、認知症予防・早期対応等の先駆的な活動事例の収集・紹介。認知症の本人や家族が、認知症の本人や家族が地域の経験者等と交流を持つことができる相談窓口の設置や、家族向けの研修会・交流会の開催。
 実施主体:都道府県・指定都市
 負担割合:国1/2 都道府県・指定都市1/2

6.認知症介護研究・研修センター運営事業費
 認知症介護の質の向上を図るための研究や研修を行う「認知症介護研究・研修センター」(全国で3ヶ所(東京・仙台・愛知県大府市))の運営費。
 実施主体:各3ヶ所の法人
 負担割合:定額(10/10)

以上が、来年度の事業内容である。1の認知症介護実践者等養成事業以外は予算が増えている。
実施主体を見ても分かる通り、ほとんどが都道府県が行うため、まずは都道府県が手を挙げ取り組む意志を示す必要がある。そうして初めて市町村が取り組むことができる。つまり、いくら市町村にやる気があっても都道府県にやる気がなければどうしようもないのである。

近年、認知症の当事者が声を上げ始めたことで、認知症に対する関心が高まっている。これを気に、少しずつでも認知症の人が地域で暮らし続けることができるような支援体制が構築されることを願うばかりである。

高齢者の検挙率が高まる背景には

2007-01-12 23:29:28 | ノーマリゼーション
65歳以上の高齢者が加害者になる犯罪が増加しているという。ある県では、謙虚された65歳以上の高齢者が10年前の6倍、全検挙数に占める割合が2.8%から8%まで増加しているという。

内容はさまざまで、夫婦間の殺人事件もあれば、老人ホーム内で入居者の男性が別の入居者をナイフで刺してしまった事件、介護疲れによる介護殺人・・・。
それらを伝える記事は、「長く勤めた職場などに代わる『自分の居場所』が見いだせず、閉塞感から突発的に罪を犯す人が多いのでは」と伝えている。
果たしてそうだろうか。

冒頭で示した数字では、数としては6倍なのに対して、割合(%)としては、2.5倍程度の増加でしかない。
この10年間で高齢者数もかなり増加しているし、全人口の20%程度が65歳以上であることを考えると、高齢者の検挙数が増えるのはおかしいことでもなんでもない。
年齢別の検挙率データがないので何とも言えないが、『自分の居場所』という問題で片付けてしまっては、物事が見えにくくなるおそれがある。

高齢者の犯罪件数が増えたことを問題にするのではなく、その理由を問題にすべきだろう。例えば、老人ホーム内の死傷事件が目立つのは、今までそのような事件があまりなかったことが原因の一つである。
なぜあまりなかったのかというと、老人ホームの数が少なかったからである。近年、元気なうちから入居する有料老人ホームが増えたことで、身体的にも精神的にも元気な高齢者が一つ屋根の下で生活する環境が生まれている。
いくら個室になっているとはいえ、一つずつが家として独立しているわけではないので、食堂などで顔を合わせる機会も多いだろう。折り合いが悪くなったり、ぶつかり合うのも不自然なことではない。

介護疲れが原因の介護殺人は、その根本的な理由を取り除くことが先決であり、『介護殺人』として社会問題化していかなければならない問題である。
認知症の理解や支援する体制、正しい介護の仕方や適切な情報提供など課題は山積みである。

また、高齢者が交通事故の加害者になるケースも増えているだろう。車社会の中で、運転する高齢者も増えており、高齢者が安全に運転できる環境づくりも待ったなしの状態である。

一言で高齢者の事件と言っても、さまざまなケース・原因があり、並べて論ずることはできない。一つずつ解決していくのが、早道になるだろう。