What’s ノーマリゼーション?

福祉について考えるUMEMOTOのブログ

療養病床廃止の先に

2007-06-20 23:43:01 | シリーズ 医療制度改革
医療法人が特別養護老人ホームを運営できることになる。〈日本経済新聞〉

これまで厚労省の「介護施設等の在り方に関する委員会」において、療養病床の廃止、削減が検討されてきたが、その議論を受けて、厚労省は一定の方向性を示したことになる。
当初から、委員より療養病床を利用している人の多くが要介護重度者であることが指摘されており、介護老人保健施設での受け入れが可能なのかという議論があった。厚労省の方向性としては、住宅系に転換していきたいというのがあったが、実際に利用している人をどうするのかという問いには、答えを出せないでいた。
確かに、老人保健施設は中間施設という位置づけであり、平成18年度の介護報酬改正で、在宅復帰を支援するような改正を行ったばかりである。いくら医療的には対応が可能とはいえ、本来の施設のあり方からは離れてしまう。

ここにきて、医療法人に特別養護老人ホーム運営を認めるのは、それらの批判に対して答えるものであろう。
そもそも療養病床廃止の計画には、あまり期間がない。平成23年度までに目標数まで減らすとしているが、次回の介護報酬改正(平成21年)までには、具体的な数値として決定し示さなければ、具体的に転換作業には移ることができない。

5月末には、医療法人に「高齢者向け優良賃貸住宅」や地域密着型の特定入居者生活介護施設の運営が認められたところであり、選択の幅は広がっている状態である。
しかし、結局はその市町村の介護保険計画や整備計画あってのことであり、勝手に作ってよいというものでもない。
また、これまでの議論は、療養病床が廃止された後、利用者の受け皿をどうするのかという物理的な問題しか議論されておらず、質の問題は置き去りにされてしまっている。医療法人が特別養護老人ホームを運営すれば、受け皿の問題は解消されるかもしれないが、質が確保されることとイコールではない。
特に注意しなければならないのは、病院から転換した場合である。これまで医療として入院患者の生活を支えてきたものが、生活の場として対応しなければならなくなり、職員にも大きな意識転換が求められる。経営者の方針、理念がより重要になってくるだろう。
質を求める議論がなしでは、不安である。

在宅療養支援診療所がネット検索可能に

2007-05-12 22:36:54 | シリーズ 医療制度改革
24時間体制で往診可能な在宅療養支援診療所が、独立行政法人福祉医療機構のインターネットサイト『WAM NET(ワムネット)』で検索できるようになった。
全国にある診療所は平成19年5月12日現在で、9,504ヶ所。所在地からも検索が可能になっている。
在宅介護支援診療所は、制度化されてからも所在地などのリストが一般に公開されていないため、患者は退院時などに病院に聞くしかなく、「情報の壁がある」といった声が出ていた。

来年度からの医療計画は都道府県が作成することになり、その地域特性に合わせた形で医療施設の整備が行われることになる。
また、75歳以上の高齢者(後期高齢者)向けに、公的な「かかりつけ医」制度を2008年をめどに創設するように検討されている。08年からスタートする後期高齢者を対象にした新しい保険制度は、介護保険をベースにしており、外来の診療報酬も月額の定額制にすることが決まっている。
今後ますます増加する医療費の抑制のための制度改正であるのは間違いないが、ながれとしては、より在宅での医療を推進していく形になってくる。

かかりつけ医制度がスタートすると、他の医療機関もさることながら、訪問看護や介護サービス事業者、ケアマネジャー等との連携をより一層強化する必要が出てくる。
これまで医療という聖域に胡坐をかいていた医師には、価値観の変換が求められてくる。また、介護業界にとってみれば新たなラインから利用者が来ることになる。連携をとっていくためには、医師との共通言語をある程度持つ必要があるため、のんびりはしていられなそうだ。

療養病床の行く末

2007-04-09 22:54:42 | シリーズ 医療制度改革
平成18年2月に、介護療養病床の廃止を盛り込んだ医療制度改革関連法案が国会に提出され、4月には診療報酬・介護報酬の改定、7月には医療療養病床に新たな診療報酬体系が導入された。
その間、最大38万2千あった療養病床が6千あまり減少している。

これは、診療報酬の改定により医療ニーズが軽い利用者が多いと、医療療養病床では大幅な減収になることと、国の示す今後の方針についていけないと判断した病院・診療所がいち早く行動に出た結果であると推測される。
一方、厚労省が医療機関に対して行った療養病床の削減についてのアンケート結果では、老人保健施設へ転換するとした病床数は全療養病床の8.5%にとどまっている。理由としては資金面が大きいようだ。
医療機関の意向としては、「介護型から医療方への転換、あるいは医療方のまま存続」という回答が49.6%と最も多くなっている。「未定」は30%。「一般病床に転換」が5.2%という順になっている。

療養病床の転換の課題はどこにあるのだろうか。
各都道府県では県単位で病床数の整備を計画に基づいて行っている。現在の都道府県医療計画では、療養病床と一般病床の区分のない目標が設定されているため、療養病床が一般病床に転換することを妨げることは難しい。このような背景がアンケートの結果にも反映されているのだろう。
またもう一つ転換の足かせになっているのが、各市町村が策定する介護保険事業計画である。現在は平成18~20年度の計画となっており、老人保健施設等のベット数もそこで決められており、平成20年度までは老人保健施設等に転換したくても難しいという状況がある。
ただし、次期(平成21~23年度)の計画では療養病床の転換を踏まえた計画に見直されることになっている。
また、療養病床の約1割は診療所の病床であり、老人保健施設等への転換そのものが困難であることも忘れてはならない。

注意しなければならないのは、療養病床の転換が第一になってしまい、転換時に一定の期間減収となることに耐えられない医療機関が、医療区分が軽い利用者を無理に退院させるなどの行為に走ってしまうことである。
移行期には、一定の資金が必要になる。経営状態が悪く、その資金が調達できない医療機関もあるだろう。資金不足のために転換できないのであれば、ベットそのものが無くなってしまうことにもなりかねない。国はさまざまなケースを考え、どのように対応していくのかを考えておく必要がある。

反対に、資金が豊富にあり、老人保健施設等に安易に転換した場合も注意が必要である。施設形態を換えるということは、機能や介護の質が換わるということである。これまでと同じ処遇の仕方では、適したサービスを提供することは難しいだろう。
ぜひ、経営者は安易な転換に終わるのではなく、転換する施設に最も適した環境整備やサービス体制の構築、それに伴う職員の資質向上に取り組んでもらいたい。

混迷するリハビリテーション

2007-03-15 22:05:51 | シリーズ 医療制度改革
この1年間、リハビリテーション(以下、リハビリ)に関する記事や報道が何度発表されただろうか。平成18年4月の診療報酬改定により、医療保険のリハビリを受けられる日数の上限が、脳血管の病気で発症や手術から180日、手足の骨折などで150日、呼吸器の病気で90日、心臓や血管の病気で150日までと制限された。
これからの疾患によるリハビリは、提示してある日数を超えると維持期のリハビリになり、漫然と続けるものではなく、効果が明白ではないと厚労省の研究会で指摘された。
リハビリ日数が制限された一方では、発症直後のリハビリは従来の1.5倍の時間できるようになっている。

ただし、厚生労働大臣が定める疾患又は症状があり、医療保険のリハビリを継続することにより状態の改善が維持できると医学的に判断される場合は、日数上限を過ぎても医師の判断によりリハビリを継続することが可能とされている。
その疾患をすべて紹介することはできないが、例えば、
・失語症、失認及び失行症
・高次脳機能障害
・重度の頸髄損傷
・関節リウマチ
・パーキンソン病関連疾患
・言語障害、聴覚障害又は認知障害を伴う自閉症等の発達障害
その他、難病に指定されている疾患などが除外されている。
また、回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者、つまりまだ若くリハビリをすれば回復する可能性が高い患者は日数上限から除外されている。

当初、平成18年4月から適用されるはずの制限だったが、公けにされたのが数ヶ月前と現場に大きな混乱をもたらしたため、半年間の経過措置がとられた。
さらには、現場の医師に改定の詳細が普及しておらず、疾患に関わらず一律にリハビリを打ち切られてしまうなどの問題が生じてしまった。そこで、厚労省は急遽通達を出すなど再度現場への理解を求めることになった。

しかし、混乱はそれだけでは収まらなかった。医療リハビリを受けていた患者の中には、身体機能を維持しながら仕事を続けている人もおり、自分の言葉でリハビリ継続を高らかに訴え始め、社会問題にすることに成功した。
その声と輪は大きくなり、何十万人という署名が集まり、厚労省も無視できなくなってしまっている。

なぜここまで混乱が大きくなってしまったのだろうか。一つは、医療費抑制ありきの改定であったことに原因がある。一部の研究者や現場の声を聞いただけで、綿密な調査や患者からの聞き取りが不足していたのだはないだろうか。
そしてもう一つは、リハビリの受け皿を介護保険のリハビリにしてしまったことだ。介護保険のリハビリは介護負担の軽減という側面が強く、集団で行うなど医療保険のリハビリを行っていた人には満足できないメニューであることが多い。また、介護保険事業所においてリハビリを行える専門職(理学療法士、作業療法士等)が不足している現状もある。そこに輪を掛けて、厚労省は3月、訪問看護ステーションに、理学療法士らの訪問回数が看護師の回数を超えてはならないと通知したため、リハビリを受けたい人は、同回数の看護師の訪問を受けるため、費用負担も多くなってしまう。さらに、介護保険の適用にならない40歳未満の人は、最初から介護保険の受け皿からはみ出してしまう。

当事者の声を無視できなくなった厚労省は、ここにきて日数制限から除外される疾患の範囲を広げることにした。しかし、医療費が増えることから、財政面でのバランスをとるためにリハビリの診療報酬を一部引き下げ、4月からの実施を目指している。
4月からの改正は以下の通り。
①急性冠症候群(心筋梗塞、狭心症など)、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)を新たに日数制限からはずす
②日数制限の対象となる病気でも、改善の見込みがあって医師が特に必要と認めた場合は医療リハビリが継続できる
③介護保険の対象とならない40歳未満の患者や、介護保険で適当な受け皿が見つからない人は、医療で維持期のリハビリが続けられる
④回復が見込めない進行性の神経・筋肉疾患(筋萎縮性側索硬化症=ALSなど)も医療リハビリを継続する
これで、大半の患者を救済できると厚労省は考えている。

また、介護保険においても新形態のリハビリ「個別・短時間型」を導入する方向で検討している。専門職が必ずつき、リハビリに特化するという内容だが、スタートは早くて2年後の予定だ。専門職も現状の4倍は必要という試算もあり、実現は不透明な状況。
現場の多くの声をうけ、動き出してはいるが、この混迷はまだまだ続きそうだ。

知ってる?在宅療養支援診療所

2006-10-28 18:36:48 | シリーズ 医療制度改革
在宅療養支援診療所がスタートして、7ヶ月が経過しようとしている。全国の一般診療所のうち、約1割が届け出をしているというが、その存在はなかなか実感することはできない。
それもそのはずで、地域によっては届け出をしている診療所がないところもある。都道府県別にみると、10倍以上の開きがあり、都市部に偏在していることがわかっている。

「最期を自宅で迎える」ことを支えるための診療所ができたものの、現状では、これまでの往診を大幅に増やすことは人員的にも難しいのが現状だ。
また、連携先の医療機関や訪問看護ステーションを設定する必要があり、新たに取り組もうとする診療所にとっては、これまでのネットワークの有無が大きく影響する。
実際に届け出はしたものの、条件の厳しさや患者への負担(診療報酬が上がる分、患者負担も上がる)のため、実際には行っていないところもある。
私たちが地域において、在宅療養支援診療所の存在を実感できないのは、この辺りに理由があるのだろう。

自宅での最期を望む人は多い。しかし、現状ではその人たちが安心して自宅での最期を迎える仕組みには至っていない。
在宅での看取りを支援する診療所を増やすために、手厚い診療報酬を設定したものの、その1~3割は患者の負担になる。当然、患者も満足できるような体制を取らなければならない。
地域の病院において医師不足が叫ばれている中、在宅医療を志す医師はどのくらいいるのだろうか。さらに、限られた空間、設備、人員体制の中で患者を看取るためには、医師の経験、幅広い知識が欠かせない。
それだけではない。在宅で最期を迎えるためには、さまざまな関係機関の協力が必要だ。往診のほかに、訪問介護や訪問看護などの介護保険サービス、それらをマネジメントするケアマネジャーの存在も欠かすことはできない。
医師、事業所の管理者、ケアマネジャーそれぞれが対等な立場で、役割分担のもと連携する必要がある。これまでの縦型の組織が当たり前と思っている医師では勤まらない。

療養型病床の縮小に伴い、一部の患者は在宅へ戻ることが想定されている。その鍵になるのが、この在宅療養支援診療所だ。
医療費抑制に端を発しているとはいえ、多くの人が望んでいる在宅での死を支える仕組みの第一歩でもある。しかし、その存在はまだまだ知られていない。
スタートして半年以上経つのに、これだけ知られていなければ、どこかに問題があるのかもしれないと考えてしまう。
ぜひ、大きな存在にまで育ってほしい。

シリーズ 医療制度改革④ 「手探りの在宅療養支援」

2006-08-19 11:00:51 | シリーズ 医療制度改革
『病院ではなく、住み慣れた自宅などへ』

介護保険制度ではすでに馴染みの言葉になっているが、医療においても自宅療養を支援するための制度改正がされている。
しかし、その裏にあるのは「膨張する医療費の抑制」だ。理念と本心が噛み合わない制度改正はうまく行くのか?これから現場の手探りが始まる。

新しい診療所の枠組みとして登場したのが『在宅療養支援診療所』だ。その要件を簡単に示すと、
*患者や家族が24時間連絡が取れる
*患者の求めに応じて24時間往診や訪問看護ができる体制がある
*他の病院と連携するなどして、患者の緊急入院の受け入れ体制がある
その他、医療機関同士の連携のため、本人の同意のうえ、患者の治療計画を随時情報提供することなどが求められる。

夜間や緊急時の往診には診療報酬に加算がつき、自宅で看取った場合にもターミナルケア加算がつくことになる。これらの手厚い診療報酬の影にちらつくのが、2012年度までに15万床まで縮小する療養病床だ。
23万床減る分の受け皿の一つに自宅が加わる格好になる。しかし、自宅療養には同居の家族の支援が欠かせず、誰もが選択できるものではない。現状では、あまり浸透しないのではないだろうか。

2007年4月から認められる薬剤師の「薬宅配」も追い風になるかどうか。
薬剤師法の改正により、往診した医師が書いた処方箋を薬局にファックスで送ると、薬剤師が薬を調合して患者を訪問し薬を渡す仕組みができる。通院が困難な患者にとっては朗報だが、自宅療養の推進の手助けになるかは疑問だ。

平成18年5月1日時点では、全国で8,595ヶ所の診療所が『在宅療養支援診療所』の届出をしている。これは、全国の診療所数の約1割に及ぶ。
在宅療養支援診療所の医師は、特養や老健、ケアハウスなど自宅に限らず往診をし、看取り支援を行うことになる。医療費抑制という本心とは別にして、最期の場を自分で選ぶことができる環境が少しでも整ったことは評価したい。

シリーズ 医療制度改革③ 「決断を迫られる療養病床」

2006-07-23 18:28:28 | シリーズ 医療制度改革
今回の医療制度改革の大きな目玉の一つに、療養病床の再編がある。少し前からメディアでも報道されていたので、ご存知の方も多いだろう。

現在、全国に約38万床ある療養病床のうち、医療保険の適用となっているのが25万床。介護保険の適用となっているのが13万床となっている。
それを医療保険のものを15万床に減らし、本当に医療が必要な人が利用することにし、残りの23万床を老人保健施設やケアハウス、有料老人ホーム、在宅療養支援拠点などにしようという計画になっている。期限は平成24年3月である。
今回の制度改革が、医療費の抑制を第一目的にしていることは前項でも記載したが、医療保険の療養病床を減らし、さらに、介護保険の療養病床もより安価な施設への転換を図る意味では一石二鳥的な考えである。

厚労省の示したデータによると、現在療養病床の平均在院日数は172.6日。全国平均の在院日数36.3日のおよそ4倍となっている。
また、入院患者のうち医療の必要がない患者は全体の5割に及び、医師が直接治療をするのが週1回程度の人を含めると8割になる。
これらの数字をみると、療養病床の必要性は限られてくるのがわかる。

療養病床は、今決断の時期を迎えている。

これまで療養病床の多くは、施設に入ることができない高齢者の受け皿になってきた経緯がある。現在のように、特別養護老人ホーム、老人保健施設、ケアハウスなどが整備される前は、病院がその役割を担ってきたのは、まぎれもない事実である。
しかし、その中で充分なケアが提供されてきたのかを振り返る必要があるだろう。医療という名のもとに、高齢者を縛ったり、安易にバルーンを挿入したり、訴えが多い高齢者を“うるさい患者”と片付けたりはしていなかっただろうか。
患者のプライバシーを保護していただろうか、自分たちの言うことを聞かない患者は“問題”というレッテルを貼ってはいなかったか。医療の場という言い訳とともに。

すべての療養病床がそうではなかっただろうが、環境面ひとつとってみても、多くの療養病床がまだ無機質の病院であることは間違いない。
在院日数が半年程度であれば、そこで過ごす時間は治療だけではなく生活である。
これまで患者のケアや生活、アメニティなどに注意を払わずに、ここにきて金銭の問題だけで療養病床の再編に反対と唱えるのは筋が通らない。

しかし、厚労省も言っているように、今後高齢者施設に転換していくにしても地域差を考慮に入れる必要は充分ある。
高齢者が今後も増加する都市圏はよいが、高齢者数の横ばいが予想される地方においては、療養病床の数も適切に判断する必要がある。また、団塊の世代が利用することも考慮に入れ、快適な空間を整備する視点も必要かもしれない。

ここにきて、国は再編に関する補助金を整備したり、中医協が有料老人ホームやケアハウスへの計画的な訪問診療を認めるなど金銭的にも再編を後押しするようになっている。
療養病床を再編する環境は整いつつある。あとは、経営者がいかに利用する人の立場を考えた転換ができるかに大きな期待がかかっている。

シリーズ 医療制度改革② 「増える負担」

2006-07-17 17:50:25 | シリーズ 医療制度改革
今回の医療制度改革によって、最も大きな変化と痛みを伴うのが高齢者になるだろう。

これまで70歳以上の高齢者が病院などの窓口で支払う患者負担は、一般的な所得の人で1割。現役並みの所得がある人は2割負担となっている。

この昭和58年に導入された老人保健制度が平成20年度に廃止になり、新たに広域連合(県単位で組織された)が運営する75歳以上を対象とする『後期高齢者医療制度』が導入される。

平成20年度からすべてがガラリと変わるのではなく、今年の10月からまず70歳以上の現役並み所得者の窓口負担を2割から3割に引き上げる。
現役並みの所得とは、現在は夫婦世帯で年収621万円(単身者では484万円)となっており、現在は約120万人が対象になっている。
しかし税制改正により、平成18年8月からは夫婦世帯で年収520万円(単身者で383万円)に引き下げられる。
そのため、新たに現役並みの所得になる人は約90万人おり、10月からはこれまでの1割負担から3割負担への急に負担が増えることになる。

さらに、10月からは慢性病などで医療型療養病床に長期入院する70歳以上の患者の居住費・食費が原則全額自己負担になる。平成20年からは65歳以上に引き下げられる。
それにより、現在自己負担が6万4千円の患者が、9万4千円に跳ね上がるケースもある。
また、高額療養費の自己負担限度額が4千円程度引き上げられることになる。低所得者は据え置かれる。

平成20年4月からは、75歳以上の一般所得者(低所得者も含む)は、これまで通りの1割負担のままだが、75歳未満の負担は2割へと増加する。

これだけ自己負担額が増えれば、医療を受けることができなくなる人が出てくることを考えなければならない。
その時に、医療や福祉はどのように対応するのか、モラルも問われることになるだろう。医療費を払えないからといって、無条件に医療の提供を拒むのか。
行政は、その状況をどう捉え、低所得者に対して向き合っていくのか。

先日示されたデータとして、全国の医療機関における治療費の未払いが100億円を超えた。1病院あたりにしても4,200万円になり、1.5倍増になっている。
理由に挙げられるのは、低所得世帯の増加や医療費の自己負担の増加があるだろう。支払う側の意思が低下していることも挙げられる。つまり、医療の責任に寄りかかり、患者側のモラルも低下しているのである。

低所得者やモラルの低下した患者に対して、どのようなフォローをしていくのか。
医療関係者のみならず、行政にとっても大きな課題である。

シリーズ 医療制度改革① 「なぜ今なのか?」

2006-07-07 11:20:35 | シリーズ 医療制度改革
『高齢者に重荷次々』
『高齢者 重い自己負担』

6月14日に成立した医療制度改革関連法を紹介する新聞見出しには、上記の言葉が並んでいる。
今年に入って、さまざまな形で診療報酬の引き下げが行われており、医療の分野でも大きな混乱がみられている。
特に整形外科病院では、術後180日以上経過した後のリハビリについては、医師の指示がなければ診療報酬が出なくなってしまう。一時期、病院側の不満、患者の不安がメディアを賑わせていたのを記憶している方も多いだろう。

13万床ある老人病院(療養型病床群)を今後6年間で全廃し、25万床ある医療型の老人病院も10万床削減、という目標値も示され、今から高齢者の行き場所や財源についての議論がされている。

大きな注目を集めているメタボリックシンドロームに照準を当て、2008年4月からの40歳以上の健康診断を義務付けたのも今回の制度改革の一面である。
その他にも、薬剤師による「宅配」を可能にしたり、訪問診療の見直しも図られている。

今回の一連の医療制度改革は、すべての面で抜本的な見直しが図られているが、同時に多くの痛みを国民、特に日々の生活も苦しい弱者に向く形になっている。

なぜ今なのか?
厚生労働省は、医療給付費の増大を挙げている。すべてはお金がない、という話からきている。
75歳以上の高齢者に新しく保険制度を創設するのも、お金がないからだ。

厚労省は、制度改革がなければ、2025年には、医療給付費が現在の倍以上の56兆円まで膨れ上がるとしている。
今回の改革で、それが48兆円に抑えられるという計算だ。

しかし、なぜ今制度改革をするのかという違和感を拭い去ることはできない。それは、この改革が、医療の制度内だけでのものでしかないからだろう。
少子高齢化は誰もが分かりきっているはずなのに、その対策と連動するわけでもなく、三位一体の改革により歳出削減を義務付けられ、決められた範囲内だけでの数字合わせをしているだけではないか。
そのしわ寄せをくっているのは、社会的弱者である。

それでも、医療制度改革は着実に進み、私たちの生活に大きな影響を及ぼすものである。
これから、改革の中身をひとつずつ見ながら、今後のあり方も含めシリーズで探っていきたいと思う。