What’s ノーマリゼーション?

福祉について考えるUMEMOTOのブログ

認知症治療に朗報か?!

2007-03-26 21:03:51 | 認知症
少し前まで、認知症とは治らない病気だと言われていた。アリセプト(塩酸ドネペジル)を服用しても、認知症(特にアルツハイマー病や脳血管性認知症)の進行を遅らせることはできても、治らないと言われている。

認知症は告知などの問題も含めて、癌と比較されることがある。両者とも進行が遅く(個人差がある)、介護する側に大きな負担を強いることになる。癌は進行とともに強い苦痛を伴うが、比較的最期まで意識は保たれている。しかし、認知症は進行とともに人格に変化をもたらしたり、最期には最愛の人までも認識できなくなる点では、癌よりも苦しい病気なのかもしれない。

しかし、その認知症治療に大きな光明が見え始めている。ワクチン療法である。
ワクチン療法には大きく分けて能動免疫療法、受動免疫療法、粘膜免疫療法とがある。
能動免疫療法はインフルエンザ予防接種と同じで筋肉注射をすると、体内で抗体が作られるというもの。2001~2002年にはヨーロッパで300人のアルツハイマー病患者に臨床試験を行ったが、うち6%にあたる18人に副作用として髄膜脳炎が発症したため、試験が中止になったのは有名な話である。
成果としては、ワクチンを投与されたうち3割程度に抗体が作られ、その人たちは認知症の進行が止まっているというデータが発表されている。

現在、開発が急ピッチで進められ、最も早く世に出てくると言われているのが、体内に直接抗体を投与する受動免疫療法である。マウスを使った実験では、投与後老人斑がきれいに消えて無くなっているのが確認されている。しかし、血管から体内に出血しやすくなるなどの副作用も報告されている。
また、1ヶ月に1回程度はワクチン投与を続ける必要があり、医療費にも影響してきそうだ。

現在、研究段階であるが、ウイルスベクター(治療用遺伝子)を体内に投与する粘膜免疫療法の臨床試験がアメリカで始まろうとしている。マウスや猿を使った実験では、脳炎などの副作用もなく、全例で抗体ができているという報告がある。また、老人斑もきれいになくなり、投与も1年に1回程度でよいとされている。

ワクチン療法が認証されると、治療すれば認知症の発症を止めることができるようになる。そうなると、いかに認知症を早期発見するかが鍵になってくる。乱暴な話をすれば、60歳になったらすべての人が認知症の検査を受けるようにすれば、確実に認知症の発症を抑えることが可能になるのである。
当然、認知症による介護や継続的な治療がなくなり、介護や医療にかかる費用が抑えられることになる。

しかし、ワクチン療法を待つことができない人たちが大勢いるのも事実である。ある専門家は「認知症は治らないという前提を捨てることが大切だ」と言っている。「どんな脳でも学習することができる。そのためには意志の力が必要だ」と。
脳の研究が進み、脳の細胞はある年齢以降壊れていくのみではなく、記憶を呼び起こす働きをする海馬(かいば)だけは神経細胞が新生されることが分かっている。適度な運動時には神経細胞を作るホルモンが発生するという。つまり、心地よく脳を働かせれば脳の機能が保たれるという。

また、食事や睡眠、運動などの分野でも認知症にならないための研究が進められている。すべてのことを実施するのは難しいかもしれないが、努力によって認知症になるのを防ぐことが可能になっているのである。

混迷するリハビリテーション

2007-03-15 22:05:51 | シリーズ 医療制度改革
この1年間、リハビリテーション(以下、リハビリ)に関する記事や報道が何度発表されただろうか。平成18年4月の診療報酬改定により、医療保険のリハビリを受けられる日数の上限が、脳血管の病気で発症や手術から180日、手足の骨折などで150日、呼吸器の病気で90日、心臓や血管の病気で150日までと制限された。
これからの疾患によるリハビリは、提示してある日数を超えると維持期のリハビリになり、漫然と続けるものではなく、効果が明白ではないと厚労省の研究会で指摘された。
リハビリ日数が制限された一方では、発症直後のリハビリは従来の1.5倍の時間できるようになっている。

ただし、厚生労働大臣が定める疾患又は症状があり、医療保険のリハビリを継続することにより状態の改善が維持できると医学的に判断される場合は、日数上限を過ぎても医師の判断によりリハビリを継続することが可能とされている。
その疾患をすべて紹介することはできないが、例えば、
・失語症、失認及び失行症
・高次脳機能障害
・重度の頸髄損傷
・関節リウマチ
・パーキンソン病関連疾患
・言語障害、聴覚障害又は認知障害を伴う自閉症等の発達障害
その他、難病に指定されている疾患などが除外されている。
また、回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者、つまりまだ若くリハビリをすれば回復する可能性が高い患者は日数上限から除外されている。

当初、平成18年4月から適用されるはずの制限だったが、公けにされたのが数ヶ月前と現場に大きな混乱をもたらしたため、半年間の経過措置がとられた。
さらには、現場の医師に改定の詳細が普及しておらず、疾患に関わらず一律にリハビリを打ち切られてしまうなどの問題が生じてしまった。そこで、厚労省は急遽通達を出すなど再度現場への理解を求めることになった。

しかし、混乱はそれだけでは収まらなかった。医療リハビリを受けていた患者の中には、身体機能を維持しながら仕事を続けている人もおり、自分の言葉でリハビリ継続を高らかに訴え始め、社会問題にすることに成功した。
その声と輪は大きくなり、何十万人という署名が集まり、厚労省も無視できなくなってしまっている。

なぜここまで混乱が大きくなってしまったのだろうか。一つは、医療費抑制ありきの改定であったことに原因がある。一部の研究者や現場の声を聞いただけで、綿密な調査や患者からの聞き取りが不足していたのだはないだろうか。
そしてもう一つは、リハビリの受け皿を介護保険のリハビリにしてしまったことだ。介護保険のリハビリは介護負担の軽減という側面が強く、集団で行うなど医療保険のリハビリを行っていた人には満足できないメニューであることが多い。また、介護保険事業所においてリハビリを行える専門職(理学療法士、作業療法士等)が不足している現状もある。そこに輪を掛けて、厚労省は3月、訪問看護ステーションに、理学療法士らの訪問回数が看護師の回数を超えてはならないと通知したため、リハビリを受けたい人は、同回数の看護師の訪問を受けるため、費用負担も多くなってしまう。さらに、介護保険の適用にならない40歳未満の人は、最初から介護保険の受け皿からはみ出してしまう。

当事者の声を無視できなくなった厚労省は、ここにきて日数制限から除外される疾患の範囲を広げることにした。しかし、医療費が増えることから、財政面でのバランスをとるためにリハビリの診療報酬を一部引き下げ、4月からの実施を目指している。
4月からの改正は以下の通り。
①急性冠症候群(心筋梗塞、狭心症など)、慢性閉塞性肺疾患(肺気腫など)を新たに日数制限からはずす
②日数制限の対象となる病気でも、改善の見込みがあって医師が特に必要と認めた場合は医療リハビリが継続できる
③介護保険の対象とならない40歳未満の患者や、介護保険で適当な受け皿が見つからない人は、医療で維持期のリハビリが続けられる
④回復が見込めない進行性の神経・筋肉疾患(筋萎縮性側索硬化症=ALSなど)も医療リハビリを継続する
これで、大半の患者を救済できると厚労省は考えている。

また、介護保険においても新形態のリハビリ「個別・短時間型」を導入する方向で検討している。専門職が必ずつき、リハビリに特化するという内容だが、スタートは早くて2年後の予定だ。専門職も現状の4倍は必要という試算もあり、実現は不透明な状況。
現場の多くの声をうけ、動き出してはいるが、この混迷はまだまだ続きそうだ。

無届け施設の存在をいかに掴むか

2007-03-09 19:40:06 | 福祉雑記録
千葉県浦安市の無届け有料老人ホーム「ぶるーくろす癒海館(ゆかいかん)」で入所者への虐待の疑いが持たれている問題で、毎日新聞が、全国47都道府県に調査を実施した。
その結果、34都道府県が実態調査をして計625件の無届け施設を把握していたことが判明した。その後の指導で届け出ていたのは、3分の1強の243件にとどまっているという。

今回の問題では、虐待行為そのものも問題にすべきことで、虐待(拘束)をした職員やその職場環境をきちんと調査し、原因を検証する必要がある。そうすることで、今後同じような被害に合う人を少なくすることができるだろう。
別の側面では、どのように虐待行為を発見するのかという大きな問題もある。平成18年4月に施行された高齢者虐待防止法では、虐待を受けている高齢者を発見した者には、高齢者の状態に応じて通報の義務もしくは努力義務が課せられている。しかし、施設内の虐待は外部には見えにくく、雇用されている職員や家族を預かってもらっている家族にとっては訴えにくい力関係が存在している。
さらに、届出を行い行政が把握できている施設かそうでないかによって、さらに虐待行為の発見や事実確認が遅れる可能性が指摘されている。届出がされていれば、行政は指導という形で内部に入ることも可能になる。

そもそも何をもって『有料老人ホーム』というのだろうか。有料老人ホームの定義は、老人福祉法の第29条に「老人を入居させ、入浴、排せつ若しくは食事の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な介護の供与を行う施設(後略)」とされている。つまり、高齢者が生活するように便宜をはかり、そのための職員もいれば有料老人ホームであるということだ。
そして、「有料老人ホームの設置運営標準指導指針について(厚労省老健局通知)」では、上記の定義に当てはまるものは届出義務がある、とされている。
届出をした施設は、正式に『有料老人ホーム』と名乗ることができる。その反面、行政の監査・指導を受けなければならなくなる。

今回のように無届け施設が出てくる背景には、需要が多く『有料老人ホーム』という看板を掲げなくても利用者が集まってくる状況がある。
また、何を持って『有料老人ホーム』とするのかという定義の解釈が、各都道府県によって異なる現状もある。そのため、一度届出をしても、都道府県から「それは有料老人ホームにあたらないから届ける必要がない」と返される例もある。
一時、厚労省の指針でも「高齢者以外が入居できる施設は有料老人ホームにあたらない」などと都道府県に対して説明をしている経緯もあるという。

今回の毎日新聞の調査でも、調査していない13都県においても、「定義が難しく調査の手法も検討がつかいない」、「無届け施設があるかどうかも分からない」という理由が挙げられている。
現実問題として、市町村単位で把握し、都道府県に情報を提供していくしか方法はないだろう。市町村には各種情報が入ってくるはずである。いかにアンテナを張り情報を掴んでいくかが今後の鍵になるだろう。