What’s ノーマリゼーション?

福祉について考えるUMEMOTOのブログ

在宅介護の暗い側面

2006-04-22 11:10:24 | 福祉雑記録
4月20日付け朝日新聞の朝刊に、『在宅介護担う65歳以上 3割死にたい』の見出しがあった。

記事は、厚生労働省が実施したアンケート結果を示したもので、昨年6月に高齢者らを自宅で介護する介護者8,500人から回答を得ている。
質問の「死んでしまいたいと感じることがあるか」の問いに、65歳以上の介護者の29%~32%が「ある」「少しある」と回答している。64歳以下では17%~22%だった。

その後、記事は「老老介護」の厳しい実態が浮き彫りになった、と続けている。
今回のアンケートは、SDSと呼ばれるうつ状態の自己診断表を含めており、介護者の年齢が上がるとともにうつ状態である人の割合が高く、平均23%であったという。
記事も、アンケートを実施した教授のうつに対する取り組みを重要視した発言で締めくくられている。


今回のアンケートが、うつ状態の自己診断表を含めていたとはいえ、老老介護の結果3割の介護者が「死にたい」と思う現状は、老老介護の厳しい実態というよりは、在宅介護の厳しさを表している。

在宅介護をしようと決断をすることは、やはり勇気が必要なことである。介護者のうつで多いのが、最初の想いが強ければ強いほど、それが挫折したとき(要介護者の状態の悪化など)に自分を責めてしまう傾向がある。
それは、プロの介護者にも言えることで、真剣に介護に取り組む人ほど、ストレスが過重にかかってくるのが介護である。

2000年に介護保険法が施行され、それ以降「介護の社会化」が進められてきたが、利用者の生の声を聞いていると、まだまだ家族の努力の上に成り立っていることが多い制度であることが分かる。
今回の介護保険法の改正においても、介護予防という自助努力は促しても、現在本当に困っている人たちの状況を改善する施策は何もない。
福祉施策は、全体の8割が満足していても決して充分ではない。少数の2割の人が満足して、初めて意味がある制度だといえよう。

厚労省は、今回の調査結果をうつの問題だけで片付けることなく、介護保険の不備・不足がまだまだ多いことを自覚し改善してもらいたい。

自分の子供に介護をされたいか?

2006-04-08 14:17:31 | 福祉雑記録
自分の子供に介護をされたいか?

そう聞かれて、何人の人が「はい」と答えるだろうか?

最近のある調査結果では、25~49歳の子供を持つ既婚の男女の68%が「ノー」と答えている。つまり、子供以外の人から介護されたいということだ。

具体的な意見の内訳を見てみると、子供の負担を気兼ねするもの、介護はプロがするものという意見が目立つ。
また、子供の負担を気兼ねする一方、子供の介護により自分たちが気を使ってしまうといった意見もあるようだ。

少し前までは、子供が親の面倒をみるのが当たり前だったことを考えると、この“68%”という数字は時代の大きな変化である。
時代の大きな変化というのは、急激に伸びた平均寿命、そして家族観の変化である。

今回、子供からの介護を「ノー」と答えた世代は、介護を経験した最初の世代である。核家族化が進み、長生きする舅や姑を1人で介護するということを多くの人が経験した人たちが、今度は介護を必要とする年代になっているのである。
もちろん、それ以前から自宅で高齢者を介護してきた人たちはいるだろう。しかし、今ほど平均寿命は長くなかったし、家族の人数も多かったため支える人は多かった。
「介護が大変」という印象は、1人で高齢者を長く介護してきた人たちが作ったといっても過言ではないのである。

また、「自分の幸福」という気持ちが強い団塊の世代にとって、自分たちの介護をしてもらうことで子供の幸福を邪魔するようなことは望まないだろう。
これらが、子供たちからの介護を望まないという声が多くなった背景だろう。

もう一つ根が深い問題がこの調査から浮き彫りになっている。
それは、『介護』というものに対する誤解だ。

介護と聞いて、思い浮かべることは「辛く、汚く、臭い」という言葉ではないだろうか?そう思わなかった方は、読まずに飛ばしていただきたい。
これらの印象は、寝たきりの人のおむつ交換やお風呂に入れたり、ご飯を食べさせたり、という三大介護といった直接体に触れたりする介護からきている。これに認知症が加わってくると、これはもう大変!ということになってしまう。
これらの印象は、前にも述べたようにこれまで介護をしてきた人たちが作り上げたものである。
別に、これまで介護をしてきた人たちを非難するつもりはまったくない。そのような「辛く、汚く、臭い」介護をせざるを得なかったのは、日本の福祉政策の遅れとこれまでの日本人の価値観によるところが大きかったのである。

実際の介護は直接介護と間接介護の2種類に分けることができる。これは福祉を勉強した人なら最初に習うことである。
つまり、介護が必要な人と直接かかわりながらする介護を直接介護。そうではないものを間接介護というのである。
直接介護といっても、直に体に触れるものだけではなく、話をしたりただそばにいるだけでも直接介護になる。
間接介護とは、相手が心地よく過ごせるように掃除をしたり、料理を作ったりと生活の環境を整えること。
同じ掃除でも、相手と一緒にすれば直接介護になるのである。

「介護は家族でできる範ちゅうを越えるのでプロに任せたい」という意見が出てくるのは、間違いなく介護を直接介護(しかも三大介護)に限定して捉えているからだ。実際に介護の現場で働いている人にも、このような勘違いがよくあるのだから、一般の人がそう思っていても仕方がないのかもしれない。

これが北欧などの福祉先進国になると、「ケア(介護)は無理のない範囲で家族がする」ということになる。実際は、食事や入浴、排泄などの介護はプロが入り、家族は話し相手になるだけだったりする。かなり誇張して書いている部分はあるが、話し相手になることもしっかりケア(介護)と認識されていることが言いたいのである。

話を最初に戻すが、“68%”という高い数字は、日本人の介護に対する認識とそれに寄りかかってきた日本の福祉政策の甘さからものである。
家族同士が気兼ねし合ったり、いがみ合ったりするような『介護』ではない、ゆとりのある高齢社会に日本もなってもらいたい。