What’s ノーマリゼーション?

福祉について考えるUMEMOTOのブログ

障害者福祉のながれが分かる本

2006-08-29 20:26:07 | 読書感想文
措置から支援費、
支援費から自立支援法に。
そして、自立支援法から介護保険へ。

障害者制度は、この数年目まぐるしい変化を見せている。ほんの数年で制度のあり方が変わってしまう。それだけ柔軟であるということだが、反面無計画さが際立つ。
そんな障害者の制度の歴史やこれからのながれを分かりやすく掴めるのが、『施設解体宣言から、福祉改革へ 障害をもつ人への支援も介護保険で』2004年,ぶどう社,田島良昭著である。

著者である田島良昭氏は、長崎県にある知的障害者更生施設・コロニー雲仙更生寮での先進的な取り組みで知られ、その後、宮城県福祉事業団に転身している。田島氏を朋友と語る元宮城県知事浅野史郎氏と協力し、宮城県を福祉立国にするべく立ち上がった人である。役人や政治家との激しい応酬の末、宮城県の施設解体宣言を出したことはあまりに有名である。

この本では、介護保険制度の導入により大きく変わった高齢者福祉の側で障害者福祉がどのような変遷をたどってきたのかが、田島氏の熱い想いと共に分かりやすくまとまっている。
支援費制度がなぜすぐに破綻し、自立支援法になったのか。そして、なぜ3年後には介護保険と一緒にならなければならないのか。
氏は、介護保険は福祉の構造改革であったと言っている。それは、お金の流れが変わった(税方式から社会保険方式へ)ことで、利用者の権利意識が大きく変わったと同時に介護サービスにも規制緩和がなされたからである。
それと同じことを障害者福祉でも行おうとしたのが、支援費であった(そのため理念は同じになった)が、予算が税方式のままであったため、予算が限られており、すぐに破綻してしまったのである。税方式では、国が補助金という形でお金を分配するため、サービス事業所は昔ながらの社会福祉法人に限られ、新規参入が難しくサービスが充分に整わないのである。

まだまだ課題の多い自立支援法ではあるが、根本的な部分では一定の評価がなされている。障害者福祉が広く普及していくことにはつながるだろう。低所得の人への対応や雇用対策では、まだまだ課題は多い(多すぎる)が、これから修正をしながら制度を運用していくしかなさそうだ。
田島氏はこれまで障害者福祉の現場にいただけに、言葉には重みがある。それを理解できずに、田島氏の政治手法を批判する人も多くいる。しかし、福祉現場の人が忘れてはいけない想いがこの一冊の中には凝縮されている。

最近の認知症についての話題

2006-08-21 22:41:02 | 認知症
認知症の人が運転する車の4割が事故に合っていることが、高知大医学部の研究でわかった。
認知症で運転免許証を持つ83人のうち、41%にあたる34人が58件の事故を起こしていた。うち人身事故は14件。42人は運転免許の更新手続きを行い、全員が成功していることもわかった。
道路交通法の改正で、運転に支障がある認知症の人は公安委員会が免許を取り消すことができるようになったが、現在は自己申告制を元に判断しているため、処分は年間数十件にとどまっている。
認知症になると、赤信号とわかっていても「赤=止まる」という判断ができなくなってしまうことがある。時折、高速道路で逆走した車を運転しているのも認知症の人が多いという。

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長崎市にある病院で医師が認知症の患者から無断で採血をしたとして、家族から抗議を受けていたことがわかった。患者が認知症のため、意思表示ができない状態だった。
医師は大腿骨の骨折手術を受けた患者の回復状態を調査し、学会で発表する予定で、無断で採血をされた人も大腿骨の骨折手術を受けていた。
医師は「家族と連絡が取れなかった」と釈明している。

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認知症の進行を抑えることを目的に、簡単な計算や音読を中心にした『学習療法』に取り組む高齢者施設が全国で300施設になるという。
個々の能力に応じて、誰でも100点満点が取れるような問題を用意し、スタッフは目の前ですぐに採点し、「よくできましたね」などとほめる。それを1日10分~20分をできるだけ毎日取り組む。
効果として、認知機能に改善傾向がみられたり、笑顔や会話が増えているという。しかし、スタッフとの交流が効果として現れているのではないかと、学習療法の効果を疑問視する声もあがっている。

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これらの話題は認知症というキーワードのもと、ここ1ヶ月程度で話題になったことである。どれだけ認知症という病気が理解されておらず、まだまだ研究が未発達な分野であるかが分かる。
それは兎にも角にも、「脳」自体の研究が発展途上の段階であることも影響している。脳の機能はまだまだ分かっていないことも多く、その上に立っている認知症ケアはまだまだ不安定な部分が多いとも言える。
しかし、脳が萎縮していようが、損傷を受けていようが、人間であることには変わりない。一人の価値ある人間として、医師や警察、研究者、そして看護師や介護士などの認知症に関わる人が向き合っているか。それだけのことでもある。

一人の変わらない人間として関わっている人がどれだけいるのだろうか。最近のニュースで虐待が取り上げられることが多いのも気になる。
とどのつまり、私たちは『人間』というものを理解していないだけなのかもしれない。

シリーズ 医療制度改革④ 「手探りの在宅療養支援」

2006-08-19 11:00:51 | シリーズ 医療制度改革
『病院ではなく、住み慣れた自宅などへ』

介護保険制度ではすでに馴染みの言葉になっているが、医療においても自宅療養を支援するための制度改正がされている。
しかし、その裏にあるのは「膨張する医療費の抑制」だ。理念と本心が噛み合わない制度改正はうまく行くのか?これから現場の手探りが始まる。

新しい診療所の枠組みとして登場したのが『在宅療養支援診療所』だ。その要件を簡単に示すと、
*患者や家族が24時間連絡が取れる
*患者の求めに応じて24時間往診や訪問看護ができる体制がある
*他の病院と連携するなどして、患者の緊急入院の受け入れ体制がある
その他、医療機関同士の連携のため、本人の同意のうえ、患者の治療計画を随時情報提供することなどが求められる。

夜間や緊急時の往診には診療報酬に加算がつき、自宅で看取った場合にもターミナルケア加算がつくことになる。これらの手厚い診療報酬の影にちらつくのが、2012年度までに15万床まで縮小する療養病床だ。
23万床減る分の受け皿の一つに自宅が加わる格好になる。しかし、自宅療養には同居の家族の支援が欠かせず、誰もが選択できるものではない。現状では、あまり浸透しないのではないだろうか。

2007年4月から認められる薬剤師の「薬宅配」も追い風になるかどうか。
薬剤師法の改正により、往診した医師が書いた処方箋を薬局にファックスで送ると、薬剤師が薬を調合して患者を訪問し薬を渡す仕組みができる。通院が困難な患者にとっては朗報だが、自宅療養の推進の手助けになるかは疑問だ。

平成18年5月1日時点では、全国で8,595ヶ所の診療所が『在宅療養支援診療所』の届出をしている。これは、全国の診療所数の約1割に及ぶ。
在宅療養支援診療所の医師は、特養や老健、ケアハウスなど自宅に限らず往診をし、看取り支援を行うことになる。医療費抑制という本心とは別にして、最期の場を自分で選ぶことができる環境が少しでも整ったことは評価したい。

増税・保険料増!あえぐ高齢者

2006-08-13 09:13:35 | ノーマリゼーション
将来介護が必要になったときに、安心して介護を受けることができるように国民の保険料で制度を運営する『介護保険制度』は、いくつかの課題はありながらも定着したと言っていいだろう。介護保険料の納付も一定の理解を得られている。

しかし、ここにきて保険料の増額が各地でみられている。それに加えて税制改正により、高齢者の住民税・所得税が増え、さらには国民健康保険料、介護保険料も大幅な増額になっている。なぜこのようなことが起きるのか。

まず、介護保険料は3年毎に見直すことになっており、平成12~14年度が第1期で全国平均が2,911円。平成15~17年度の第2期が平均3,293円。今期(第3期:平成18~20年度)が4,090円となっている。毎回、増額になるのは、介護を利用する人が増えていることもあるが、施設入所が多かったり、当初の見込み違いにより次期で増額せざるを得ないことなど理由はいくつかある。
第3期の最高額は沖縄県与那国町の6,100円で、離島や過疎地などが高額になる傾向がある。最低額は岐阜県七宗町の2,200円で、その差は3,900円(年間46,800円)になる。保険料が安い要因としては、介護サービスがあまり多くなく(施設がなかったり)、高齢化があまり進んでいないなどの要因が考えられる。

ただ、これらの介護保険料は基準額(非課税世帯が対象)で、収入に応じて増減がある。住民税課税世帯になると、課税額に合わせてさらに何千円かずつ増していくことになる。
そこで影響してくるのが、2004年の税制改正だ。2005年1月から
①公的年金等控除の上乗せ廃止
②老年者控除全廃
などが決まり、今年度の住民税から課税額が変わってきている。

例えば、高齢者夫婦二人暮しで年金収入が年間277万円の場合。
・公的年金控除が144万円から120万円に縮小されるため、所得額の計算が133万円から157万円にアップ。
・老年者控除が廃止になり、48万円が控除になっていたのが控除なしになる。
その他の控除などの結果、前年度の課税対象額が0円に対し、今年度が59万円となり、
*住民税は4,000円から31,100円に増額
*所得税は0円から42,000円
*国民健康保険料は21万円から24万5千円
*介護保険料は5万円から7万円
年金額は変わらないのに、納める税金が多くなるため、生活に大きな影響を受けることになる。

小泉内閣が高い支持率のもと、痛みを伴う構造改革を断行した結果、今になって高齢者など社会的立場の弱い人たちに大きな負担が重くのしかかってきている。
今回の税制改正で多くの増税を余儀なくされた人たちも、その当時の内閣を支持していたのかもしれない。大した国民的な議論もないまま、勢いに乗って改革をしてきたつけは国民が払わなければならない結果となっている。
もうすぐ、自民党総裁選があり、首相も変わることになる。その時にはぜひ社会保障や年金・税のことも議論の場に上げてもらいたい。私たちはその意見を吟味して、今後の行く末をしっかりと見守りたい。

介護施設の新しい経営理論

2006-08-01 21:15:55 | 福祉雑記録
株式会社が介護の世界で活躍している。

介護保険制度スタートと同時にコムスンが福祉業界に参入し、注目を集めたのは記憶に新しい。
その当時のコムスンは、ヘルパー事業所と居宅介護支援事業所を全国津々浦々、すみずみまで整備し、数の論理で経営を行ってきた。
それにより、コムスンのブランドイメージは一気に顧客に定着し、今でも第一線を走っている。当初の計算とは違い、撤退した事業所も数多くあったが。

そのコムスンが、関東を中心に35ヶ所の有料老人ホームを経営する日本シルバーサービスを買収した。買収額は62億円。これでコムスンの所有する老人ホームは50ヶ所となった。
コムスンとしては、老人ホームのブランド『桜湯園』が欲しく、経営がうまくいっていないところを買収した形になる。

福祉業界は社会福祉法人しか参入することができない閉ざされた世界であった。閉ざされた世界の中で、必ずしも健全とは言えない発展の仕方もしてきている。
社会福祉法人のこれまでの役割を批判するつもりはないが、税金が免除され、お上(国や県)の顔色を伺いながら運営してきた社会福祉法人に「甘え」はなかっただろうか。いつまでも自分たちがアンタッチャブルな存在であるという・・・

昨年、外食産業大手のワタミが介護事業に参入したことを覚えている方は多いだろう。若い社長がメディアの前で明確なビジョンを語っていた覚えがある。
そのワタミの介護施設は昨年度末で17拠点。2009年度末までに2.5倍の45ヶ所に拡大する方針を出している。建物は新築ではなく、既存の建築物を改装し投資額を抑えるという。
来月(8月)からは介護教育事業に参入する。まずは、ケアマネジャー育成の講座を開設し、来春には介護事業の教科書を出版する。2008年度までに学校法人として登録する計画のようだ。2011年には大学院を設立する計画を立てているという。

コムスンもワタミも「経営」戦略のもと、事業の拡大を目指している。そして、それだけではなく、理念も兼ね備えているように思われる。それが末端まで浸透しているかはまた別の話だが。
それに比べ、社会福祉法人はさまざまな合議を経て「運営」をしてきた歴史を持つ。そのため、社会福祉法人のトップに経営感覚を備えている人は少なく、お金儲けを「経営」と勘違いしている法人も少なくない。
規制緩和が進み、株式会社が福祉業界に入ってきた今、社会福祉法人が同じ土俵の上で戦っても勝てる見込みはかなり低い。
「経営」という言葉、姿に踊らされることなく、地域における社会資源としての役割を忘れることなく「運営」をしていくことが社会福祉法人の生き残る道だろう。顧客の絶対数は減ることはない。新たな住み分けの中で、現在の顧客に逃げられないようにすることが社会福祉法人における急務の課題である。