What’s ノーマリゼーション?

福祉について考えるUMEMOTOのブログ

介護保険施設の利益率がもたらすもの

2005-09-25 09:59:48 | 介護保険
厚生労働省のおこなった「介護事業経営概況調査」の結果で、介護保険施設の利益率が8~10%であることが分かった。内訳は以下の通り。
  ○ 特別養護老人ホーム 10.2%(補助金含む)
  ○ 老人保健施設     10.6%
  ○ 介護療養型医療施設  8.1%
それに比べて、民間病院の利益率は2.1%であることが大きく取り上げられている。介護施設への報酬改定は03年に約4%が引き下げられているが、まだまだ儲けている施設が多いことがデータとして明らかになった。
この調査結果を受けて、厚労省は来年の介護報酬改定に臨む考えのようだ。数字からみれば報酬の引き下げがおこなわれることが予想される。

介護保険の改正により、介護保険施設においては10月より食費と居住費が利用者負担になった。一見、施設に入るお金は増えるような印象を受けるが、従来型の多床室の施設や、経済的に苦しい人が多く入所する施設においては大幅な減収になる。利用者からの負担が大きくなることへの配慮からか、10月より介護報酬も軒並み下げられているのが現状だ。
そして、来年の介護報酬の改定である。問題は2つある。
まず1つは、調査がおこなわれたのが昨年の9月の1ヶ月間の収支であること。その間に介護報酬の変更があり、収支の状況も変わることを考えれば、昨年の状況を考慮しての改定はいささか強引である気がする。
2つめは、介護保険施設自身の問題である。調査結果でも示されているように、介護保険施設の利益率が高く、お金を溜め込んでいる施設があるのは事実なのである。そして、その数も未だに多いのだろう。一部の努力している施設が苦しい思いをしているのは、数字には反映されないのである。

さまざまなタイプの施設があり、介護報酬も施設のハードによりバラバラな中で、これまでのような画一的な介護報酬の改定はそぐわなくなっているように感じる。質の悪い施設の経営に合わせるような現状では、努力している施設のモチベーションを下げることにもなる。
そして、民間病院と単純に比べられないのが、従業員の給与水準の格差である。介護保険施設で働く職員の所得は、病院勤務のそれより大幅に低いのが現状である。その中で、施設職員は高い質を求められている。ぜひ厚労省には、そこまで踏み込んだところで考えてもらいたい。

早期診断と確定診断の必要性

2005-09-21 22:45:16 | 認知症
後期高齢者、特に85歳以上になるとその4人に1人が認知症になる可能性があるなか、認知症はもう他人事ではなくなってきている。
自分がならないにしても、自分の両親がなるかもしれないし、結婚相手やその両親がなるかもしれないことを考えると、誰もが認知症にかかわる時代がすぐそこまで来ている。

そんな中、先日、国立長寿医療センターの遠藤英俊医師の話を聞く機会があった。
講演の中で強調していたことは、認知症には早期診断がとても重要であるということだった。長谷川式などの心理学的テストからCT、MRI、SPECTといった画像診断や総合的な判断などさまざまな診断方法があるが、おかしいなと思ったらまずは病院に行ってみることが大切だという。
遠藤氏が言うには、70歳を過ぎてからの物忘れは病院に行ったほうがよい、とのこと。高齢になってからの物忘れはそれまでのものとは質が違うことが多いのだという。今は、画像診断で初期の段階からかなりの確立で診断が可能だということだ。
日本老年精神医学会のホームページに、認知症の専門医として認定された医師が紹介されているので、参考にするのもいいだろう。自分が認知症になったとしても、できれば専門の医師に一度は診てもらいたい。

また、早期診断とともに重要なのが確定診断である。認知症になったとしても、種類によっては治療できるものもあり、早期に分かればそれだけ回復も早まるのである。また、その病気に合わせたケアも必要になってくる。例えば、レビー小体病という認知症は、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症などとは異なり、後頭葉の血流が悪くなるためアルツハイマーの10倍は転倒の危険性がある病気である。いわばパーキンソンとアルツハイマーの中間のような病気で、それを知っていると知らないとでは、ケアの方法もその後のリスクもまったく違うものになってしまう。

早期診断によって、まだ認知症とは判断できないが、今後認知症になる可能性が高い状態をMCI(軽度認知機能障害)と言っている。今後は、このMCIのレベルの人の対応に焦点を当てた医療の方法に注目が集まっている。薬にしても、環境的な要因にしてもMCIの状態からの対応が重要になってくるのである。
早期診断も確定診断も、認知症になった人の周りにいる人が知っていればおこなわれる可能性が高くなる。福祉サービスの利用者が、または自分の家族が認知症になった後の人生をどのように過ごすかは、あなたにかかっているのかもしれない。

ほっと・安心(徘徊)ネットワーク

2005-09-05 22:11:36 | 認知症
8月31日にNHK教育テレビの福祉ネットワークという番組で、福岡県大牟田市のひとつの学区“はやめ”地区で取り組まれている「ほっと・安心(徘徊)ネットワーク」が紹介された。
認知症のある人が安心して徘徊できるまちづくりのため、7月に地域住民参加のもと「ほっと・安心(徘徊)模擬訓練」がおこなわれ、それが取材された。

このネットワークを主催したのが、従来の住民組織(老人クラブ、公民館など)を中心に組織された「はやめ人情ネットワーク」である。もともと人情の厚かった地域で、さまざまな活動を通して「誰もが安心して暮らせるまちづくり」を目指している。
今回は、住民組織に消防署、警察署、市役所、地域商店、民生委員、介護サービス事業者、介護支援専門員、社会福祉協議会、在宅介護支援センターなどが協力し、模擬訓練がおこなわれた。
徘徊する高齢者役の人が誰にも行く先を告げずに家を出た後、連絡を受けた地域住民が近所を探していく。今回が2度目の模擬訓練だったため、より充実した訓練にはなったがその分課題も多く見つかった。

ひとつは、連絡方法。電話連絡を基本とし、連絡網に沿って伝言ゲームをしていったが、時間がかかってしまううえに、その家の人がいなければ次に回らず、最後まで伝言が行く間に徘徊する人が遠くまで行ってしまう可能性もある。また、伝言が途中で変わってしまう可能性もある。
ふたつめは、可能性のある人が目の前を歩いていても声をかけられなかったことである。普段から地域の中で、声を掛け合えるような環境をつくっていなければ、なかなか他人に声をかけるのは難しい。「どこに行くんですか?」「どうしたんですか?」その一言がなかなか出てこないのである。まさに地域づくりの課題を突きつけられる結果となってしまった。

テレビの中でも言っていたが、人情ネットワークの人たちにとって衝撃的なことが4月にあった。それは、実際に徘徊した人が行方不明になり、なかなか見つけることができなかったのである。結局3日目に衰弱した姿で見つかり、後1日遅れていたら命にかかわる状態だった。
もし、徘徊のうえ行方不明になってしまったという相談が私たちの勤める福祉施設にきたらどうだろうか。福祉の専門職である私たちに何ができるだろうか?ぜひ考えてもらいたい。
実際に相談を受けた人は、何もできなかったという。もちろんなじみの場所などから徘徊しそうな場所を警察に情報提供したり、ネットワークに情報を流して捜索は続けたが、結果は芳しくなかった。そこで唯一できたのが、家族のサポートであったという。不安に思う家族の側にいて不安を和らげたり、逐一情報を家族のもとに連絡することに力を注いだという。結局、無事発見され事なきを得たが、地域住民にとっては大きな衝撃であった。

そんなことがあった後の模擬訓練ではあったが、課題や限界ばかりがクローズアップされる結果となってしまった。しかし、課題がみつかるということは、とても大きな前進である。何もしなければ課題もみつからないのだから。
その課題を糧に、次なる取り組みはすでに始まっている。徘徊死が問題になってきている今、国はモデル事業として全国10ヶ所の地域で徘徊模擬訓練をおこなうという。すでに取り組み始めている地域はいくつかある。その地域が少しずつ広がり、いつの日か日本全国どこでも安心して徘徊できるまちになっていることを願うばかりである。