What’s ノーマリゼーション?

福祉について考えるUMEMOTOのブログ

改正介護保険法の成立

2005-06-24 17:07:55 | 介護保険
22日に改正介護保険法が成立した。これまで何度も話題になってきた介護保険法の改正が、これでひとつの山場を越えたことになる。まだまだ決まっていないことも多く、話し合いの余地は残されているが、方向性は明確になった。
今回の改正は、“筋トレ”というキーワードに象徴されるように、「介護予防サービス」が重要なポイントになっている。介護保険がスタートして5年が経ち、利用者が急速に増えたことにより、財源不足が深刻な問題となっていた。そのため、今後制度の適切な運用を主眼に置き、これまで介護保険法の中で位置づけられてはいたが機能していなかった介護予防に焦点を当て、制度を見直したのが今回の改正法である。
改正の方向性は納得できるが、具体的なことが決まっておらず不透明だったことと、“筋トレ”という一瞬高齢者にはそぐわないように思える言葉が先行してしまい、不安の声と反対論が多かったし、現在も状況はあまり変わっていない。

不安な点として挙げられているのが、新しく創設された「介護予防サービス(新予防給付)」に該当する高齢者。これまでの要支援(要支援1に相当)に該当する人と、要介護1の中から要支援2になる人は、これまでの「介護給付」から「新予防給付」に切り替えられることになる。その数は全国で約200万人程度といわれ、要介護認定を受けている人(約400万人)の半数にのぼる。その人たちが、これまでのケアプランセンターなどから地域包括支援センターに移行することになる。今回の改正で新たに創設される地域包括支援センターに、それだけの人数が移行したところで大きな混乱が予想されるのは必至である。また、これまでのケアマネとの関係性は途切れ、新たに地域包括支援センターに常駐する保健師と主任ケアマネージャーの手に委ねられることにもなる。これでは、利用者が不安に思うのも当然といえる。
ただ、現実的には、それだけの人数を地域包括支援センターで受け持つのは不可能に近いため、これまでのケアマネと協力しながら進めていくことになるだろう。
また、利用者によっては、これまでのサービスが受けられなくなってしまうのではないか、という不安が多くあるが、これに対しても、無理矢理筋トレや予防ホームヘルパーのサービスに移行することはない、と厚労省も回答している。当然といえば当然である。では、地域包括支援センターの役割とは何であろうか。

“介護保険制度のお目付け役”と表現できるのではないだろうか。つまり、これまで問題とされてきたケアマネの質や新たな介護予防がきちんと運営されるかどうかを、監視・サポートしていく役割を大きく求められることになるだろう。地域包括支援センターは市町村が運営することになっている。実際ほとんどがこれまでの在宅介護支援センターのように委託し、市町村が運営協議会を設置し運営に当たることになる。そこで、介護予防を受け持つということは、介護予防は市町村で責任を持つということである。これまで多くの民間事業者が参入してきたが、5年経った今、もう一度市町村が責任をもち、介護保険の運営に力を注ごうということなのである。
地域包括支援センターには、新たな役目も具体的に任されることになっている。それは、高齢者の虐待防止や成年後見制度などの権利擁護事業である。近く議員立法で提出される高齢者虐待防止法案には、発見者の通報義務や市町村の立ち入り調査権などが盛り込まれる見通しだが、成立すると地域包括支援センターが児童相談所のような役割も担うことになるかもしれない。どうなるにしても課題は山積である。期待が大きいだけに、負担も増大することが考えられる。

しかし、改正法が成立した今、不透明な部分は残っているとはいえ、いかに運用していくかは各市町村の手に委ねられたといっても過言ではない。「介護予防サービス」は来年の4月から準備の整った市町村から順次始まり、08年度には全市町村で利用できるようになる。カウントダウンは始まっている。これからの数年間は、市町村の意識の差によって大きな差が出ることにもなるだろう。私たち高齢者福祉に携わる者は、利用者の代弁者として、市町村の動向に目を光らせるとともに、必要なら一定の働きかけをすることが求められてくるのではないだろうか。

九州発!育児保険構想

2005-06-20 17:22:15 | 福祉雑記録
『1.29』という合計特殊出生率(女性1人が一生涯に産む子どもの数の平均)を受けて、一昨年から九州知事会で「育児の社会的支援」の議論が進められてきた。その中で、特に力を入れてきたのが『育児保険構想』だという。議論の結果が昨年10月に知事会報告書の中にまとめられた。
その『育児保険』とは何なのか。詳しく見ていきたい。

年間約80兆円の社会保障費のうち、育児関係の費用の割合は年間3.2%(02年度)。年金に5割、医療に2割、福祉に3割の配分の中で、ほんの隙間に存在しているかのようだ。少子化問題が何年も前から叫ばれてきた割には、育児に対する保障は限りなく少ない。社会保障費の6割弱が高齢者関係に使われているのが現状だ。
確かに、年金や医療費の問題など、給付費が伸びる一方で財源の不足はかなり深刻な状況だが、このまま少子化が進んでしまうようでは、社会保障自体が成立しなくなる可能性があり、本末転倒になってしまう。

そこで、全国的にみても出生率の高い九州の特性を生かそうと考えられたのが『育児保険』というわけだ。
介護保険と同様に、一定年齢以上の国民と事業主から、子育て支援を目的に保険料を徴収し、税金と組み合わせて財源とする。税源は消費税の増税を検討する。受けられるサービスとしては、教育費の所得控除や奨学金の無料貸し付け、乳幼児医療助成の拡充など、家庭での子育て負担を軽くするメニューを想定している。
しかし、子どもを持たない人や、すでに子育てを終えた人からの保険料徴収は難しい、という根強い反対論もある。消費税の増税という、所得が少ない人にとっては重い負担を強いることにもなってしまう。

金銭的な保障をすることは、とてもわかりやすく、子育てをする側にとっては非常にありがたいものである。子育てにおいて最もお金が必要な教育費への補助は歓迎されるだろう。
保険料の負担に関しても、子どもが増えることで将来の年金制度が支えられることを考えれば、他人事とは思わずに払うことができるのではないだろうか。所得が少ない人や限定されている人には、保険料徴収を免除するなどの救済措置を検討する必要もあるだろう。
今年度の政府の規制改革・民間開放推進会議では、今年度の重点検討課題29項目に『育児保険』の導入も盛り込まれている。構想への関心の高さがうかがえる。ぜひ実現してもらいたい。

先に九州の出生率が高いと述べたが、02年度の統計では、1.51で全国平均の1.30を上回っている。最高は沖縄の1.76。また、鹿児島の離島「沖永良部島」では、2.3~2.4という高出生率が今も続いている。そこでは、主な産業は農業で、決して収入も多くはないが、島民全員で子どもを支える光景がみられるという。安心して子どもを育てられる環境があるのだろう。本当に必要なのはお金ではないのかもしれない。
ちなみに都道府県別で最低の出生率は、東京の1.02でダントツの最下位。

参照:朝日新聞

隣組(となりぐみ)からみる「まちづくり」

2005-06-15 21:11:05 | まちづくり
私の住む地域には隣組(となりぐみ)という制度がある。地区ごとに公民館があり、その公民館の下にいくつもの隣組がある。一つの隣組が20戸くらいからなっている。
地域の行事(運動会、草取り、清掃、ゴミ当番など)は隣組単位でおこなうため、自然と隣近所と顔を合わせる機会が多くなる。
このような制度は古くからあるもので、名前こそ違うがどこの地域にも同じようなものはあるだろう。マンションなどの管理組合も、その一つとしてあげられるかもしれない。ただ、近年都市部では参加しない世帯も多いと聞く。核家族化が進んだためもあるだろうし、人付き合いの仕方そのものが変化してきているのかもしれない。

先日、近くを散歩していると、老夫婦が道端に座っていた。近づくにつれ、女性のほうが大きな声、大きな動作で道を歩く人に声をかけていることがわかった。かなり有名な人のようで、近所の人は皆その人のことを知っているようだったが、知らない人は関わらないように通り過ぎていた。もしかしたら認知症をかかえているのかもしれない。
近所の人は立ち話で、大きな声を出して迷惑だ、という話をコソコソとしていたので、実際に困っているのだろう。しかし、確実にその地域には受け入れられているようにも感じた。隣組がこんなところにも活きているのかもしれない。

「隣近所にどんな人が住んでいるか分からずに恐い」と言っているのを聞くが、それは「どんな人が住んでいるか分からないから恐い」と言い換えることができる。つまり知ってしまえば、恐さもなくなるかもしれない。
そのためのツールが隣組だといえる。そして隣組は、その地域を支えている最少単位の自治組織なのである。まちづくりとして取り組む時、既存の自治組織をいかに活かすかを考えることが重要である。逆に、そこに手をつけずにまちづくりは成り立たないだろう。

今年初めにニュースになった、民生・児童委員の担い手が不足しているのも、近所付き合いの希薄さが大きく影響している。自治組織に参加しない世帯が増えている一方で、もしかしたら入れ替わる住民に対応できるだけの自治組織の運営ができていないところもあるかもしれない。そうであるなら、ぜひ各市町村は既存の自治組織の運営に協力してもらいたい。
市町村と自治組織の関係は、相互関係であることが望ましいし、今後はそのような関係がより求められてくるだろう。個人よりも自治組織のほうが、行政に対しての発言力があるのも事実である。そして、今叫ばれている行政改革でも、自治組織の存在は、監視役としても大きな役割を担うはずである。

福岡県大牟田市では、既存の自治組織を活かした地域ネットワーク『はやめ南人情ネットワーク』というものがある。これは、地区の地域住民を中心に、老人会や小学校、福祉施設、商店などが「地域の中で安心して徘徊できるまちづくり」をめざすために協力しており、実際に徘徊模擬ネットなどの取り組みもある。子どもたちにも積極的にかかわってもらうなどして、高齢者だけではなく子どもたちの安全にも大きな役割を果たすネットワークになりつつある。
まだ2年目の新しい取り組みではあるが、その根底をささえているのは、これまであった既存の自治組織なのである。『はやめ南人情ネットワーク』については、別に詳しく記すことにする。

“介護福祉士”の犯罪

2005-06-09 23:17:21 | 福祉雑記録
京都の介護福祉士の男が、UFJ銀行コールセンターに数ヶ月の間で計4000回以上の無言電話をした疑いで逮捕された。容疑者の男は「日々の平凡な暮らしと老人介護という仕事上のストレスを晴らすためにやった。若い女性の声を聞きたかった」などと供述している。【毎日新聞】

犯行の理由に「老人介護という・・・」という特殊な言葉がでてきたため、男の職業が会社員ではなく、『介護福祉士』として報道されたように思われる。しかし、よく理由をみてみると、「日々の平凡な暮らし」と「老人介護」と「若い女性の声」には何の関連性もなく、多分に個人的な動機があったように思われるが、言葉にするとこうなってしまうのかもしれない。
理由の意味不明さと、稚拙な犯行自体にはあまり興味は惹かれないが、『介護福祉士』という言葉が当たり前のように使われていることにはかなり驚かされた。
少し前まではほとんど認知されていなかったはずの言葉が、今回は当たり前のように使われている。各社さまざまな報道機関が同じように使っているということは、警察からの発表時に『介護福祉士』となっていたのだろうが、それにしても『介護福祉士』という言葉が一般市民の耳にも馴染み始めているのだろう。それだけ、高齢者介護のことが注目されているのかもしれない。

今回は、思いもかけず『介護福祉士』という言葉が全国に向けて報道されたが、次回は犯罪ではなくよいイメージのもと広がることを願いたい。また、私たちも改めて自分自身の行動を見直し、エリを正したい。

福祉問題は人口問題

2005-06-04 16:27:54 | 福祉雑記録
6月1日に厚生労働省による人口動態統計の発表があった。
その結果は、子どもの数が減り、死亡者が増えているという人口減少がまた一歩進んだことを示すものであった。

人口動態統計によると、04年の出生数が過去最少の111万人となり、合計特殊出生率も1.29と昨年と同じであることがわかった。合計特殊出生率とは、日本人女性1人が一生涯に産む子どもの数の平均を示すもので、2.1を切ると人口が減少していくといわれている。昨年は初めて1.2台になったとして『1.29ショック』などと騒がれ、大きな社会問題となった。それまで何年もかけて徐々に下降してきたのだから、急に大騒ぎするのもおかしなものだけど、今年の発表後は慣れてしまったのか大きな問題とはなっていないのだから不思議なものである。
原因の大きな1つに挙げられているのが晩婚化・晩産化である。平均初婚年齢は夫が29.6歳、妻が27.8歳と前年より0.2歳ずつ遅くなっている。そして、近年大幅な増加をみせているのが生涯未婚率である。女性は1995年の5.1%から2000年の5.8%まで5年間で0.7ポイントの増加であるのに対し、男性は1995年の8.9%から2000年の12.5%まで3.6ポイントと大幅な増加をみせている。少し前にニュースに取り上げられていた、市町村主催の合コンパーティなどは、目の前の数字だけをみた結果、まずは結婚させようという取り組みだったのだろう。しかし、結婚しない人が増えているのには、結婚にメリットを見いだせなかったり、生き方の多様化、不況、不安定な社会状態など、さまざまな要因があるため、そもそも簡単な解決方法はない。いかに安心できる社会をつくっていくかにかかっている。

一方、死亡数も着実に増えている。前年より1万3千人増えて102万8千人。2年連続で100万人を超え、出生数から死亡数を引いた自然増加数は8万2千人となり、初めて10万人を切った。死因の6位である自殺3万277人という数字も、不安定な社会状態を反映しているといえる。98年から3万人前後という状態が続いており、不況との関連性も否定できない。このままの状態が続けは、50年後には人口が1億人弱、100年後には6千万人強になってしまうとされている。さらに状態が悪化すれば100年後には、4千万人強という試算まである。

これらの数字は、主要先進国ではそれほど珍しくはない数字ではあるが、高齢者を現役世代が支える社会保障においては大問題であることには変わりがない。まずはしっかりとこの数字を受け止める必要があるだろう。そして、国には縦割りな対応ではなく、横断的かつ総合的な対策を期待したい。私たちにできることは、現状を理解し、真剣に受け止めることだろう。そうすることが、国の対策の理解につながり、支援にもつながっていくに違いない。