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福祉について考えるUMEMOTOのブログ

グループホームのあるべき姿 ―重度認知症でも受け入れ

2005-03-29 15:39:31 | 介護保険
高齢者グループホームに入居する対象者について、厚労省はこれまで著しい徘徊や混乱症状がある人が除かれていた規定を改め、認知症で日常生活に支障があれば誰でも利用できることにした。来年4月から緩和した運営基準を改正する。(asahi.com)

この対応は遅すぎるのか、早すぎるのか。
認知症高齢者を自宅で介護する家族にとっては、遅すぎた対応になるだろう。これまでも、「認知症介護の切り札」とされてきたグループホームにおいて重度認知症を対象外にしてきた結果、家族の負担は大きなものとなっていただろう。また、重度認知症高齢者自身にしてみても、家庭的な環境が整っているグループホームではなく、生活感のない特養や精神病院などその他の施設に入所せざるをえない状況であった。
そもそも、「徘徊がひどくなったから退所してください」という言葉がまかり通っていたのが信じられない。藁にもすがる思いでいた家族にとっては、どのような言葉よりも残酷であったはずである。現に、対応が難しいとされる前頭側頭型痴呆(ピック病)の高齢者を受け入れ、一生懸命ケアを行っているグループホームもある。また、激しい徘徊があっても、適切なケアをすることによって、次第に落ち着いてきたという例も多くあるだろう。

しかし、5年間で約6,000以上と急激に増えすぎたグループホームの中には、職員の質や量が確保されていなかったり、そもそもケアの理念すらないグループホームも多くなってしまっているのも現状だ。認知症に一番の薬は、ケアにあたる人の適切な対応だという。結局は、それができないグループホームに入居した高齢者の症状が悪化してきたと言うこともできる。このような状況で、あと1年後に控えた受け入れ拡大はうまくいくのだろうか。
まだ記憶にも新しいが、石川県のグループホームで夜勤中の職員が入居者を殺害してしまうという痛ましい事件も起きている。供述などから労働体制の不備もしてきされており、グループホームに働く職員にとってみれば、人事では済まされない状況でもある。

その中で、国は管理者、実務者に分けた研修の充実化をかかげている。しかし、グループホームは今後も増え続けていく予定だ。1日数ヶ所単位で増えていく中、研修の早期着手が望まれる。そして、研修だけでなく、労働条件の見直しも含めて検討していく必要があるだろう。グループホームは小規模という利点がある反面、小規模ゆえに職員の質に大きく左右されてしまうという指摘もある。認知症高齢者に正面から向き合っていくということは、とても大変であり、専門的知識も必要とすることを私たちも再度認識する必要があるだろう。

今後、介護保険の改正に伴い、グループホームも地域密着型サービスとして、地域に開かれた機能を期待されている。グループホームという単一の機能だけでなく、デイサービスやショートステイなど多機能化も求められていくだろう。すでに、グループホームに学童保育が併設されているところや、高齢者に限らず障害者も対象にしているところなど、様々な取り組みがされている。これから、大きな可能性があるグループホームだけに、今の段階での職員の質の向上や労働条件の見直しは重要な課題である。

地域支援事業とは何か。

2005-03-27 12:28:58 | 介護保険
介護保険改正に向けて、地域包括支援センター介護予防などが注目されている中、その根本理解のためには、地域支援事業(仮称:以下、地域支援事業)についても目を向けておく必要があるだろう。この地域支援事業も、今改正案に盛り込まれた新しいカテゴリーではあるが、その内容はこれまでの取り組みの再編である。

○ 総合的な介護予防システムの確立のためには、要支援・要介護状態になる前からの介護予防が重要

上記の考えのもと、これまで各自治体で取り組まれてきた老人保健事業や介護予防・地域支え合い事業を見直し、効果的な介護予防サービスを提供することを内容とするのが、この地域支援事業ということになる。
そもそも、今改正で介護予防が取り上げられる前から、各自治体では「~予防教室」などと題して様々な予防に取り組んできている。それは介護予防という明確なものではなくても、生活習慣病や、認知症、体力低下などゆくゆくは介護予防につながっていくものなのである。それ以外にも、各施設を回るオンブズマンのような組織を作ったりと、各自治体独自の取り組みがされている。それらは、老人保健事業や介護予防・地域支え合い事業という名のもとに行われているのである。
現在行われているこれらの事業は、介護保険料により実施されている。それらの事業を再編し、さらに被保険者の権利擁護事業を加えた事業が地域支援事業という位置づけになる。

主な事業内容としては、以下の通り。
○ 介護予防関連事業(要支援・要介護者以外の被保険者に対する介護予防事業)
○ 費用適正化関連事業
○ 総合相談・支援事業、権利擁護関連事業 等

最期の項目はどこかで見たことがあると思われたかもしれないが、そう“地域包括支援センター”のことなのである。つまり、地域支援事業の一環として、地域包括支援センターがあり、介護予防につながっていくことになる。構図としては、各自治体が地域支援事業を行う上で、事業の内容を地域包括支援センターに委託していくことになる。事業内容の中には、介護家族支援事業や高齢者虐待防止事業などもあり、地域包括支援センターは文字通り包括的な役割を担うことになることになる。
費用の側面からみると、この地域支援事業は介護保険料により実施されるため、各自治体がこの事業に割り当てられる費用も定められることになる。その一定の費用の中から、各自治体でうまくやりくりしていかなければならない。当然これまでの取り組みを急にやめることもできないので、継続しながら、地域包括支援センターを創設ないし委託することになる。ただでさえ自治体の財政が厳しい上に、新たに自治体の職員を増やすよりは委託したほうがコスト負担も軽いため、ほとんどの場合が委託ということになりそうだ。
さらに問題として、今回地域包括支援センターに位置づけられた職員の配置基準が社会福祉士、保健師、主任ケアマネージャーと限定されており、なおかつそれなりの待遇を保障する必要がある職種のため、これまでの在宅介護支援センターよりも委託費用を負担する必要になりそうだということである。こでまでの在宅介護支援センターでは役職の兼任ということがなかば認められていたが、今回の職員配置は今のところ限定されている。そのため、在宅介護支援センターをそのまますべて地域包括支援センターに移行することは、費用の面からみても難しいのである。
それが、今回厚労省が出した数値目標5,000に反映されているように思われてしまう。つまり、現状約7,000ある在宅介護支援センターのうち2,000は委託取り消しということになる可能性があるということだ。在宅介護支援センターにとっては厳しい局面だが、見直しを図るいい機会になることは間違いない。各自治体には、適正な判断のもと、今後地域福祉の核となりうる地域包括支援センターへの移行をスムーズに行ってもらいたい。

地域密着型サービスとは何か。

2005-03-20 23:01:11 | 介護保険
介護予防の影に隠れて、あまり注目されていないが、介護保険改正の柱の一つに“地域ケア体制の整備”が挙げられている。高齢者介護研究会が2003年にまとめた『2015年の高齢者介護』でも自宅、施設の間に存在する第3のカテゴリー“新しい住まい”として、グループホームや宅老所などの小規模多機能施設を挙げている。

今回の改正案では、地域密着型サービスとして以下の6つを挙げている。
 ① 小規模(定員30人未満)介護老人福祉施設 (つまり特養)
 ② 小規模(定員30人未満)で介護専用型の特定施設 (老健や老人病院など)
 ③ 認知症高齢者グループホーム
 ④ 認知症高齢者デイサービス (改正案では、デイサービスを時間数で区別するのではなく、その機能ごとに区別しようとしている。例えば、認知症型、リハビリ型、日常生活型など)
 ⑤ 小規模多機能型居宅介護 (宅老所のこと)
 ⑥ 地域夜間訪問介護

その地域密着型サービスの事業所を認可するのが、各市町村ということになりそうだ。これまでは、各都道府県が行っていたが、それを市町村が担当することになる。それによって、その地域に必要なサービスを整備できることになる。つまり、グループホームが乱立することや、特養が少なすぎたりすることがなくなるということだ。指導、監査も市町村が行うことになる。
また、その市町村の住民しか利用できないという制限も検討されている。これは、その地域に住む人が、最期まで住みなれた土地で暮らすことができるようにする配慮であり、この制限が加わることにより、サービスの整備計画が立てやすくなるメリットもある。仕組みとしては、市民が払っている介護保険料を、そのまま市民が利用するサービスに使っていくことになり、これまで以上にお金の流れが明確になりそうだ。
いくつかの市町村の境界線付近にある事業所においては、隣の市からも指定を受ける必要が出てくる。また、自分の住む市町村以外のサービスを受けようとすると、全額自己負担とうことになってしまう。
現存する大規模施設に関しては、その施設が希望すれば例えば50床のうち20床を地域にサテライトとして出し、残り30床を個室ユニット型に改築することも可能で、そのための補助金も検討されている。小規模施設が注目される一方、大規模施設のあり方が問われていることも忘れてはいけないだろう。

前項でも取り上げたが、地方分権が進むと地域格差が広がる可能性があるということだ。改正案が示す方向性はわかりやすく何の違和感もないように思えるが、各市町村の取り組みに大きく左右されてしまう恐さもある。自分が住む市町村の意識によっては、サービスの質の向上も低下もあるということだ。質だけならまだしも量も保障されなくなってしまえば、生活することすらできない人も多く出てきてしまうだろう。何らかのセーフティネットは張られると思うが、今後の動向を注目していきたい。そして、大いに期待もしていきたい。

三位一体改革 【地方分権=地域格差】

2005-03-17 19:20:03 | 介護保険
三位一体改革が進められている。今年で3年目を迎えており、これまで棚上げしてきた問題にも向き合わなければいけない、いわば決着の年となっている。
三位一体改革とは、①補助金・負担金を廃止、削減 ②税源を地方に移譲する ③地方交付税も見直す。この3つを同時に進めていくという改革である。簡単に言えば、国の無駄な支出を抑え、税源を地方に移すことで地方分権を進めていく、ということになる。

2000年にできた地方分権一括法により、地方分権は進められている。三位一体改革もその流れである。今見直し作業が行われている介護保険も、この地方分権の一角として定められ行われてきている。
今回の見直し案にある、地域密着型サービスにおいても小規模な施設(グループホーム、宅老所、30人以下の特養など)であれば、市町村の認可・指定を受ければよいようになるかもしれない。これまで、すべてが県の指定であったことを考えると、より地域に密着したサービスが可能になり、地方の責任も増してくることになる。介護保険上でも、地方分権は着実に進められていくのである。

三位一体改革の1つに挙げられている地方交付税においても、これまで総務省の意向で税金の振り分けが行われていたという問題点が挙げられている。また、無条件に地方交付税が各地方に振り分けれられることによって、自治体の努力が促されないこと挙げられている。つまり、何もしなくても一定金額のお金が自分の自治体に入ってくるため、努力せずに楽をしている自治体があるのである。
しかし、今後改革が進めば、自治体も努力に応じて交付金を得ることができるようになるかもしれない。介護保険では、「地域介護・福祉空間整備等交付金」という名目で、各自治体が整備計画を国に提出することによって得られる交付金が、見直し案に盛り込まれている。すでに審議されているため、承認が得られれば平成18年度から施行されることになる。
つまり、福祉に取り組んでいる自治体と、そうでない自治体との明暗がはっきりと分かれるということだ。現に、意識のある自治体はすでにこの状況に戦々恐々とし、必死に食らいつこうとしている最中である。大して福祉に関心のない自治体はあっという間に置いていかれてしまうことになる。

地方分権が進むということは、言い換えれば、地域格差を容認するとうことだ。これまで、日本全国どこにいても一定以上のサービスを受けることができたが、今後はそれもできなくなるかもしれない。最初のうちは、地域格差も大きくなる可能性もある。
あなたの住んでいる「まち」ではどうなるだろうか。自分の住んでいる自治体の取り組みが、そのままサービスに反映されるのだから、他人事では済まされない。自治体の取り組みに関心を持ち、積極的に参加していく姿勢が求められてくるのである。福祉のプロとしては、仕事をしていくうえで、今後市町村と向き合っていく必要がある。これまでのように文句を言うだけでは、何も進まなくなってくることが考えられるため、民間と行政が共に考えていく提案型の協力体制が望まれる。

なにはともあれ、地方分権がうまく進めば、民主主義も促進する効果もあるといえよう。私たちの社会への参加する姿勢も求められてくるのである。

スクールミーティング始まる

2005-03-14 19:17:18 | 教育について
スクールミーティングが各地の小中学校で行われている。スクールミーティングとは、文部科学省が掲げる義務教育改革を進めるために、文部科学省の職員が各地の小中学校に出向き、教員や保護者、生徒などと直接意見交換を行うための場である。
学力低下がOECDのランキングという形で指摘され、中山文部科学相が「ゆとり教育」を見直すと発言したことで、一気に義務教育論争に火がついた形となっている。

これまでの詰め込み教育を反省し、総合的に物事を考えられる人材、そして「生きる力」を持った人間を育成するために、「ゆとり教育」「総合学習」が始まったが、学力低下が浮き彫りになったため、またすぐに「ゆとり教育」を見直そうと今回の義務教育改革に至ったのであろう。なんともお粗末な結果としか言いようがない。そもそも、「ゆとり教育」を始める前に議論が足りなかった、ということもすでに指摘されている。理念が評価される一方で、現場からも反対意見が多く出ているのも、見切り発車のせいだといえる。つまり、何も知らない子どもたちの周りで、大人たちが右往左往しているのである。

しかし、今回の義務教育改革までの経緯がどうであれ、文部科学省が行っているスクールミーティングという手法は評価したい。実際に現場の教員や、不安を抱えている父母らと直接対話することで見えてくるものが多くあるに違いない。
だが一方で生徒との対話がほとんどみられていないのが気にかかる。名目上は、生徒と共に給食を食べ話を聞くということになっているが、その給食を食べることもあまり行われていない。
本来、義務教育改革の主役は生徒であるはずである。生徒が意見を言えないというのであれば、それは適切な情報を事前に伝えておけばいいだけのはずだ。また、生徒を小中学生だけに限定するのではなく、これまで「ゆとり教育」を体験してきた現役の高校生などからも意見を聞くことも、経過をしるためには重要だろう。
これまでの失敗をまたここで繰り返してはいけない。子どもたちあっての教育である。まずは、子どもたちの声に耳を傾けることから始めてほしい。

高齢者福祉三原則

2005-03-09 21:55:23 | ノーマリゼーション
高齢者福祉三原則という言葉を聞いたことがあるだろうか。福祉の専門学校や大学で勉強したことがある人なら、一度は耳にしたことがあるかもしれない。

「継続性の維持」 「残存能力の活性化」 「自己決定」

どれも介護の分野では、大切なキーワードになっている。この言葉は1982年デンマークで生まれたものである。きっかけは、1970年代プライエム(特別養護老人ホームにあたる)が多く建設されたデンマークにおいて、「入所しているお年寄りがひどい目にあっている」という投書が新聞に載せられたことであった。それを目にした社会大臣(日本の厚生労働大臣)が、すぐにマスコミ関係者、医者、議員など15人前後のメンバーを集め、高齢者政策委員会を立ち上げたのである。
また、中央政府の仕事としてだけ取り組むのではなく、「住民の問題は生活の場で」という視点から、各市で高齢者によるワーキンググループを構成し、当事者が話し合いを行うようにした。その数はおよそ100。そこで出された意見を委員会でまとめたものが高齢者福祉三原則なのである。

ワーキンググループにより明らかにされたのは以下の3点であった。
①高齢者はケアされることを求めれているのではなく、むしろ社会的な交流や役割を持ち続けたいと望んでいる。
②約10万人の高齢者が、誰かの援助を受けなければ外出できない状況にある。
③住居に関する問題こそ、高齢者政策における最も重要で深刻な問題である。

この後、デンマークでは施設から住宅へと政策転換していくのである。民主主義が実践されているデンマークらしい展開であるといえる。高齢者問題(この言葉は適切ではないが)を、他人に任せることなく、また一部のケアが必要な人のみを対象とするでもなく、取り組んでる。そうした結果、全体像が浮き彫りになり、社会全体の問題として他人ごとにならずにいる。日本はまったく反対だが。
しかし、ケアの現場に携わる私たちには、少なくとも当事者つまり利用者本人の意思を確認することはできる。介護する側の思い込み、予想、おせっかいでケアをしていないか、もう一度自分のケアを振り返ってみたい。

ロビンフット税

2005-03-04 22:49:09 | 介護保険
先日、テレビを見ていたら介護保険の問題点を取り上げている番組があった。そこで強調されていたのは、各自治体で異なる介護保険料。自治体によっては、1,000円台のところから、7,000円台のところまで、実に最大格差6,000円以上。これで、多く払っているところが、よいサービスを受けることができるかというと、そんなことはまったくないのが実情。
これでは、住民としては納得できないのは当たり前のことだろう。しかし、今回の介護保険改正では、地域の保険料格差にはほとんど言及されていない。それもそのはず、今回の改正のポイントは制度が安定して継続できること、だからだ。つまり言い換えれば、お金がかかりすぎてるから見直します、ということ。利用者のためにはどうしたらいいか、高齢者全体を考えたらどうしたらいいか、は二の次で理念がないのである。せめて、建前だけでも理念を前面に押し出してもらいたかったと思う。現状の改正では救いがない。

生活大国スウェーデンではどうしているかというと、「ロビンフット税」なるものを設けている。日本と同様に各自治体でも税金を徴収しているが、自治体によって徴収金額に格差が生じサービスに偏りが出てしまうため、国が徴収した税金の中の一部を分配する制度である。これにより、地域によるサービスの格差をなくそうという仕組みなのである。
そもそも、スウェーデンでは地方分権が確立されているため、限りある予算の中で必要なところに必要なだけ予算を組む努力をしていることを忘れてはいけないが…。

新しいリハビリテーション 人間「復権」への挑戦

2005-03-02 00:01:57 | 読書感想文
リハビリテーションと聞くと、難しい専門知識が必要な分野と思い、敬遠してしまうこともあるかもしれないが、本書はその心配はまったく必要がないほどわかりやすく書かれている。
著者は大川弥生さんといって、リハビリテーションを専門とする医者である。
かなり著名な方なので、テレビや新聞などで目にした人もいるかもしれない。2002年2月に放送された『NHKスペシャル 車いすから立ち上がれ~脳卒中のリハビリ革命~』では、車椅子に座らせきりになっている患者を、リハビリにより歩行可能に取り組んでいる病院で、指導にあたっている姿が描かれていた。

リハビリテーションとは、一般に知られている「機能回復訓練」や「社会復帰」という狭い意味だけではなく、「人間の権利・資格・名誉の回復」という全人格にかかわる意味が本来のものである。つまり、障害をもった人が人間らしく生きる権利の回復、「全人間的復権」であることを念頭に置く必要がある。
そのうえで、本書はわかりやすくリハビリテーションとは何かを教えてくれる。言葉も分かりやすく、専門用語を羅列するようなこともないので、最初に読むリハビリの本としてはよいのではないだろうか。

テレビの放送でも同じような場面があったが、本書においてもリハビリ計画を立てる経緯は他の職種でも参考になる部分が多い。
テレビで印象に残っているのは、男性の患者を車椅子から歩くようにリハビリするため、当初担当PTは「~くらい歩けるようになる」という目標をかかげてた。しかし、男性患者は歩行に前向きではなく、リハビリもなかなか進まない状態が続いていた。その計画書を見た大川さんが一言、「なんのために歩くのか考えないと!」。それから、そのPTは本人や家族に話を聞き、男性患者が畑仕事が生きがいであったこと、土いじりが好きなこと、家に帰ってもう一度畑仕事をしたいと望んでいることを知る。さらにPTは家にまで足を運び、畑仕事をするためにはどのような道を通らなければならないのか、家に帰るためにはどのくらいの段差の階段を何段上る必要があるのか、などを確認し、それをリハビリに上手に活かしていた。男性患者が積極的にリハビリに取り組むようになったのは言うまでもない。
目標を本人の視点で考えること、基本的なことだが間違えると大変なことになってしまう。

高齢者の医療・福祉現場において、少し前までは“寝かせきり”ということが問題になっていた。それが今では“座らせきり”が問題になっている。施設などでは、一日中ベッドで寝かせきりにされている高齢者の姿は見なくなってきたが、一日中車椅子に座らせきりにされている姿は非常によく見かける光景である。その中には、何のクッションも引かずに、何をするでもなく座らせられている高齢者も少なくない。自分でもやってみればわかるが、苦痛で拷問以外の何ものでもないことがわかる。
また、安易に車椅子で移動してしまうことによって、まだ残っている機能が衰え、歩けなくなってしまうことが多いのが現状としてある。人手不足などの問題はあるだろうが、大川さんはこう指摘している。車椅子に座らずにすこしでも歩ける可能性のある人にリハビリをすることにより、最初は手間も時間もとられるかもしれないが、最終的な介助の負担(歩けるようになれば移動介助は不要になる)を考えると大したことではない、と。つまり、最初は大変かもしれないが、車椅子が不要になれば、その分介助の必要はなくなるということ。何より本人の行動範囲も広がり、自分で自由に動くことができるのである。

それだけではないが、本書ではまさに新しいリハビリテーションの考え方と出会うことができるだろう。

『新しいリハビリテーション 人間「復権」への挑戦』大川弥生/著、講談社、2004年2月発行