むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

話題の映画「海角7号」は確かに面白い! 日本との絆を描いた映画・ドラマがブーム

2008-09-29 03:10:34 | 台湾その他の話題
今台湾で話題の映画といえば、「海角7号」。台湾語を主体に、日本語と北京語を混ぜ、さらにホーロー人、客家人、原住民、日本人の間の恋愛も絡め、ウイットとエスプリをきかせたもの。
実は日本に戻る前の8月下旬に封切られていて、ちょっとごぶさたの友人がわざわざ電話で「これは良い映画だ。絶対見たほうがよい」と知らせてくれていたので、気になっていた。それが日本から戻った翌日の22日にたまたまタダで見る機会にめぐまれたため、見に行った。
最初は台湾語の掛け合いなど(会場は爆笑、私も笑えた)、普通の台湾連続ドラマと同じような展開。それにところどころ60数年前の日本統治時代末期に離れ離れになった日本人男性が台湾人女性に送った恋文を混ぜる場面もあって、いまいち意味がわからず、どこがすごく良いのかわからなかったが、結末部分になってそれまでの流れが一気に一つにまとまり、見終わった後にはジーンと来る良い映画だった。さすがご無沙汰の友人がわざわざ電話で「これは良い!」と力説しただけのことはある。
特に、台湾の映画やドラマには滅多に無い「伏線」と脈絡があって、台本(監督:魏徳聖氏自身がつくった)が優れている:また、台湾語を主体にした掛け合いの絶妙さと言語選択の自然さ、音楽の良さ、日本との絆の深さなど、台湾の歴史と現実をリアルに描いたところも素晴らしいといえる。また、報道などではあまり言及されていないが、映画に出てくる「国宝級の民謡歌手」は明らかに陳達へのオマージュだ。舞台を恒春にしたところといい、そういう意味ではきわめて台湾本土色が色濃い作品なのである。
だからこそだろう、時間を追うごとに話題を呼び、台湾映画としては20年来最高の売り上げ(2億元近く)を記録し、大手各紙の投書欄でもここ1週間くらいこの映画について批評や感想がにぎわしている。27日夜11時には東森ニュース51チャンネルも監督と日本人ヒロイン役田中千絵を出して特番を組んでいた(ちなみに、田中千絵だが、いろいろ検索すると有名なデザイナーの娘で、美形のはずだけど、劇中ではメイクや役柄もあってか、ブサイクに見えた)。

私が見た回は貸切で監督も来ていたが、実はこの魏監督は見覚えがあった。というのも5月に今度封切られる客家人の抗日闘争を描いた映画「1895乙未」のロケをやっていた際にロケ現場に「見学」に来ていて少しく会話を交わしたのだった。しかしここまでこの監督がメジャーになるとは思わなかった(同様の体験はその昔、陳明章の家を訪ねたときに、陳がおらず、代わりにまだ無名だった伍百こと呉俊霖と話したことか)。

それにしても、日本との関係や絆を描いた映画やドラマが今台湾ではぶームになっている。私が関わった映画「1895」、ドラマ「風中緋桜」「浪陶沙」のように純粋に日本統治時代の過去を描いたものが多いが、この映画のように、日本統治時代末期の日本人男性教師と台湾人女性の結ばれなかった恋が、60年後に恒春で開かれたコンサートをきっかけに今度は日本人女性と台湾人男性の間で結ばれるという形で過去と現在を結びつけたものもある。そういう意味では、在台日本人には稼ぎ時かも知れない。しかも、これが「反日親中」の馬政権の成立以降にもかかわらず、こうした動きが強まっているところが逆説的で面白い。いや、むしろ政権が反日的だからこそ、民間がそれに反発しているのかもしれない。

ちなみに、大手紙やテレビでは、「海角7号」ブームは概して好意的に取り上げられているが、これを「日本帝国主義への郷愁で、おかしい」というそれこそくだらない批評が統一派系統から出てくるかも、と思っていたら、聯合報9月25日付けに

http://www.udn.com/2008/9/25/NEWS/OPINION/X1/4532323.shtml 海角七號…殖民地次文化陰影

という投書が載っていたので、友人の間で爆笑を誘っていた。
投書の主は例の許介鱗。エセ原住民族による反日運動を煽っていることで有名な藤井志津枝の旦那だ。やっぱりといったところだ。ただ、許は以前、台湾大学教授時代には台独聯盟の黄昭堂とも親しくしていたり、指導した修士博士論文は本土色が強いテーマのものが多かったりと、それなりにマトモなところもあったはずだが、退職して「台湾日本総合研究所長」に納まってからは、統一左派雑誌「海峡評論」を舞台にしたり、完全にイっちゃっているw。
そもそも、イマドキの台湾で、日本の植民地支配だけを「けしからん、排除すべきだ」という思い込みで批評しても、誰もついていかないだろう。
だからこれまた案の定というべきか、翌日の聯合報に反論二つ、中国時報にも許の文章を意識したと思われるまったく異なった趣旨の投書が載っていた。自由時報は言うに及ばず。
で、この反論の中で、中国時報26日付けに載った

http://news.chinatimes.com/2007Cti/2007Cti-News/2007Cti-News-Content/0,4521,110514+112008092600153,00.html 孫瑞穗 觀念平台:開放的本土想像

が一番気に入った。
この人の主張は許とは正反対だ。いわく、日本も国民党もともに植民者であるが、日本は海洋型近代性、国民党中国は大陸型近代性をもたらし、いずれも台湾の多様性と寛容さを形成する要素になっている。それをこの映画は開放と多元という視点から描いたものである、とする。
ここで興味深いのは、国民党中国の支配もまた植民者とすることで、許介鱗ばりの統一派による大中国主義の視点による反日ドグマとは一線を画す一方で、国民党中国を日本の植民地主義とも同列において台湾の寛容性と多様性の要素と見る点で、中国化を徹底的に排除しようとする一部の独立建国派とも一線を画していることだ。いや、この視点のほうが、実はイマドキの台湾の主流であり、正しいのであるが。しかもこの人、ちゃんと陳達について言及しているのはエライ。

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