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「中正空港」ついに「台湾桃園空港」に改名!

2006-09-03 02:39:06 | 台湾その他の話題
台湾行政院は、「中正國際機場(Chiang Kai-shek International Airport、中正国際空港)」を「台灣桃園國際機場(Taiwan Taoyuan International
Airport、台湾桃園国際空港)」に改名する方針を固め、来週水曜日にも行政院会(閣議)で承認、成立される見通しとなった。8月12日に陳水扁総統が演説で改名を主張したことを受けた措置。
中正空港は、英語名を直訳して日本語で「蒋介石国際空港」と呼称することもある。
もともと同空港は設計建設段階では、所在地をとって桃園空港と呼ぶ予定だった。ところが開港直前に、蒋介石の個人崇拝を進めてきた当時の国民党政権が、蒋介石(尊称としては蒋中正)の名前を冠すことにしたものだった。
ヒトラー、スターリンなどと並ぶ20世紀の独裁者、虐殺の下手人として世界的に悪名が高い蒋介石の個人名を冠した空港名は、国民党独裁時代の残滓であり、台湾人の間では不評だった。実際台湾人が台湾語で会話するときには「Tho5-a2-hng5 ki-tiuN5(桃園空港)」と呼ぶのが普通であって、「中正空港」と呼ぶことはあまりない。
しかも国際的な空港略称コードは台北からとった「TPE」が使用されている。
陳水扁総統の主張は「台北空港」への改名だった。これに対して、馬英九国民党主席は反対し、中正に固執したが、国民党所属で外省人ながら理念的には本土派に近いとされる朱立倫桃園県長が中正空港の改名に前向きで、「変えるなら所在地名を使って桃園空港」と事実上の「入れ知恵」までしたことを受けて、今回の改名となった。
行政院では「地元桃園からの要望もあった」とちゃっかり朱県長の「援護射撃」に便乗している。
国民党や反動派のメディアなどは例によって「イデオロギー的立場だ」として反対論を展開しているが、改名をイデオロギー的だとするなら、そもそもの命名こそがイデオロギー的でドグマ的だった国民党自身のおかしさを暴露しているようなものだ。
聯合報は2日つけで、米国やフランスの空港で、大統領などの名前を冠したものが多いと指摘して、「中正の名前を冠するのは国際慣例としておかしくない」と強弁しているが、これはおかしい。
だったら、今のロシアでスターリンやブレジネフ、ドイツでヒトラー、日本で東条英機の名前を冠した空港があるのか?
米国やフランスで大統領の名前を冠しているのは、民主的に選ばれて、実績が高いことを評価されたことであり、しかも民主体制が永続している中でも顕彰である。
これに対して、蒋介石の場合は独裁者であり、しかも台湾の中華民国は総統直選などの民主化を果たしてから、蒋介石時代とは事実上決別し、蒋介石時代の独裁は否定されているのである。
もし「蒋介石の名前を冠するのは国際慣例」というなら、日本で東条英機、ドイツでヒトラーを冠するというのだろうか?
あまりにも馬鹿馬鹿しい議論というべきだ。

ところで、ここで注目されるのは、朱立倫の発言と立場だ。
「台湾桃園空港」への改名に対して、朱立倫は「台湾桃園を冠することは本土化の流れから大賛成だ」としつつも、いちおう国民党所属であるという立場もあってか、「中正の名前を除くことはイデオロギー的だという誤解を受け勝ちだから反対」と主張している。
ただ、ここで「中正を除くことは反対」の理由が、馬英九など典型的な外省人保守派の「絶対反対」論とニュアンスが違う点に注意しよう。
朱立倫は人格的には学者タイプでわりと頭が高いとして嫌う人も多いようだけど、外省人保守派の反対を退けて桃園神社の保存事業をやってのけたり、日本の保守系人士ともたびたび会ったりするなど、外省人ながらきわめて台湾意識が強い政治家とみられている。
当初陳水扁の主張にも「桃園空港ならいい」と入れ知恵か援護射撃ともいえる発言をしたことを考えても、朱立倫の立場は面白いと思う。そういう意味では、国民党が本当に台湾社会で生き残りをかけるなら、それを担うのは、馬英九のような「大中国主義」がちがちの反動派ではなくて、朱立倫のような人物かも知れない。彼なら外省人の血統から外省人の感情も理解しつつ、的確かつ穏健に本土化を推進できるだろうから。


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