こちらの(2)では、映画「ランダムハート」のストーリーの中で演じられたクリスティン・スコット・トーマスの演技、その表情を中心に見ていきたいと思います。ハリソン・フォードも熱演でしたが、彼女に比べたら、まだまだ大根役者だと思えましたものね。
出張に行くと言って出かけた妻の乗った飛行機が墜落したかもしれない・・・・不安におののくハリソン・フォードの表情、熱演でした。妻が乗ったと思われる搭乗者名簿に妻の名前がない。代わりに知らない男の妻として乗っていた・・・・・というシチュエーションは、映画的設定というだけでここでは問題ではない。
衝撃を受けて狼狽する愛妻家のハリソン・フォードは、やがてその男の妻が政治家と知り真実を知りたくて訪ねていきます。それが、冒頭の画像ですが、
夫が知らない女性と夫婦として搭乗しいっしょに死んだ。あまりのことにピンと来ない妻。それに政治家というレアな仕事にとって最大の選挙が目前で超多忙・・・・思わず「それどころじゃない」と言いたくなるはず。そんなときにその相手の女性の夫と名乗る男が訪ねてくる。政治家ならずともいったいどういう顔をすればいいのか。
そのときのクリスティン・スコット・トーマスの表情をご覧アレ。
とぼけているわけじゃない。選挙という現実に追われながら、実はもう一つの現実、「夫が他の知らない女性と夫婦として搭乗した飛行機で墜落して死んだ」という現実と向き合うゆとりもなく、自分のこころと向き合っていないがゆえの予防線バリバリの顔だ。
けれど、妻としてそれで何とか体裁を保っても、
母親としてはそうはいかない。
娘から「パパは浮気してたの?その女の人を愛してたの?」なんて聞かれて答えられる母親がいるだろうか。自分のこころと向き合っていない状態で。
政治家としてスキャンダルが漏れる事を恐れ、そのことで娘が傷つくことを恐れ、良妻賢母として愛するものを守ってきたつもりだったのに、娘の問いに言葉を失う
あまりのことに思考停止・・・・・
けれど、こんな状況下で、先に娘にこんな顔をされて
動揺しない母親がいるだろうか。
大好きな尊敬する頼もしい父親の突然の死・・・それだけでもダメージが大きいのに、その父親が他の女性といっしょだったと知ったとき、世界がぐらりとゆがむほどの衝撃をこころに受けたに違いない。娘が傷ついて平気でいられる母親などいない。
葬儀でも涙が出なかった彼女が、部屋に閉じこもってしまった娘の傷心を前にして、ここで初めて心がはじける。
やがて涙も乾くが、けれど、
何をどう考え受け止めればいいのか。
なんていったって思考停止状態なのだから。
彼女は、ハリソン・フォードに電話する・・・・
妻が他の男と不倫していたことが分かっても、
その現実を受け入れられない夫と、
自分を愛し支えていてくれていたはずの夫が他の女性を愛していたかもしれないという現実を前にして思考停止したままの妻、
二人は、ただただいっしょにいて、
虚ろな暗闇に視線を投げかけるだけだった。
いくら聞きたくても答えは、返ってこない。
相手は、もうこの世にいないのだから・・・・
けれど、その現実を現実として認めて受け入れるには、
自分の知らない(知らなかった)妻を知らなければならない。
動き出したのは、男の方だった。
妻の職場の同僚たちや上司に妻の事を聞き、妻の友人たちに妻の本音を、彼女たちの語る話(離婚、不倫、浮気などの体験)を聞かされていく男・・・・それでも妻に限って、という思いが夫を混乱させ苦しめる。そう、彼は妻を愛していたから苦しいのだ。
男は、女に語る。「ぼくは、それでも、妻を愛していた」
その男の真実に撃たれる女・・・・
クリスティン・スコット・トーマスのこのときの表情も、
実に秀悦です。
やがて、真相を、亡き妻と見知らぬ男との関係を探るべく、妻が出張で出かけていた先のホテルやそこでの妻の様子を自ら調査しようとします。刑事ですもんね・・・
そんなハリソン・フォードの後を追うように彼女も飛行機に飛び乗り夫の旅先に出かけていきます。
けれど、妻には男関係の影が浮かんでは来ないことに疑心暗鬼になっていく男と、夫には自分の知らない一面があったことを悟る女。
いつしか二人は同じ立場にいる男と女としてお互いに引かれるものを感じあっていく・・・・
選挙の資金集めのパーティ。主役は支持者からの協力支援に謝意を表し挨拶回りで忙しい。そこへ思いがけず姿を見せたハリソン・フォードは彼女に近寄ってきて「選挙のカンパもしたよ。選挙に勝て」と励まします。
どうです。そのときのこの彼女の表情・・・・
最初の予防線バリバリのときの表情と見比べてみて欲しいですね。
けれど、二人は故人のキーの中に見知らぬキーがあることを発見します。 これは、亡くなった二人の「愛の巣」の部屋の鍵・・・・ではないのかと男は妻のこれまでの自分との生活は何だったのかと信じられない思いにのた打ち回ることになる。
映画では、男のその思いが犯人追跡の異様な執念に向けられ、犯人への憎悪となって爆発し、相棒への信頼が不信感に切り替わっていく中で高まっていくわけですが・・・
やがて、ハリソン・フォードは妻と男の愛の巣だったアパートにたどり着きますが、そこには部屋を黙々と片付けているクリスティン・スコット・トーマスがいた・・・・
そこにあった電話の留守録には、
飛行機墜落のあった朝の二人の通話でのやりとりが残されていた。まぎれもなくそれは懐かしい妻の声・・・けれど、その内容は男にとっては残酷極まりないものだった。
妻と男が取り交わした会話に衝撃を受けアパートを出たハリソン・フォードだったが、その姿を冷徹な眼で捉えている男がいた。
ずっと追跡してきた例の殺人犯だった。
サスペンスなのでこのくらいにして、
ハリソン・フォードの妻と自分の夫が不倫関係にあったことをマスコミに嗅ぎつかれ部屋を出たところでいきなり記者団に囲まれるクリスティン・スコット・トーマス、フラッシュを浴びせられ、あまつさえ自分とハリソン・フォード扮する刑事との関係を下賎な関心で問われたときのクリスティン・スコット・トーマスの表情こそが、この映画のクライマックスと言えるのではないかと思います。
彼女のこのときの表情が、実に素晴らしい・・・・・。
「間」を演じることのできる数少ない女優だと感心させられます。
メリー・ストリープのような女優も素晴らしい役者ではあるけれど、メリル・ストリープのように台詞と身体演技がリンクして初めて味わい深さが出てくる女優と違って、クリスティン・スコット・トーマスのこの静止したまま陰影のある表情だけで演じて魅せてくれる味わい深さはどうでしょう・・・・たまらないですね。
やはり私は、こちらの方が好きです。
ということで、
映画のストーリーのご紹介ではありませんでしたが、
それをお知りになりたい方は、ネットでご検索くださいね。
★ご参考までに⇒http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD31804/