月光院璋子の映画日記

気ままな映画備忘録日記です。

震災後でもこれだけ映画を見ていたわたくし

2011年08月06日 | ★ご挨拶&その他
映画ブログの転居先を探すはずが、
そのまま放置状態になってどのくらいになるのか。
久々に、(ある意味、やっと)ログインした(出来た)ところ、
その後も、多くの方がこの拙ブログにお越しくださっていることを知り、
感慨深い思いになりました。
感謝に堪えません。(転居先、探さないと・・・)

この3月11日に発生した
東北太平洋沿岸部に激甚な被害をもたらした震災後、
我が家を避難所として開放した2ヶ月の後も、
しばらくは映画を見るどころではありませんでしたけれど、
3ヶ月を過ぎボランティア活動にも一区切りつけさせていただいてから、
やっと、映画を見始めたように思います。

眠れないまま、なんとなく見始めたり、
笑いを得たくて見始めたものや、
怒りを静めたくて見たものやいろいろでしたけれど、
ほとんど、覚えていません。

以下は、手元に残っていたメモ書きにあったもので、
震災後に見た映画。

●「二重スパイ」
●「セックスと嘘とラスベガス」
●「プライスレス」
●「レポゼッション・メン」
●「ジュリー&ジュリア」
●「ウソから始まる恋と仕事の成功術」

けれど、これらなど、どういう内容だったか、
思い出せません。

●「ニュートン・ボーイズ」
●「フローズン・リヴァー」
●「危険な関係」
●「ザ・ストレンジャー」
●「空軍大戦略
●「グラディエーター」
●「インセプション」
●「オーメン1」
●「オーメン2」
●「セックス・アンド・ザ・シティ2」

その他10本以上ホラー映画や邦画の時代劇を
見たように思うのですけれど、
タイトルは失念。

以下は、映画館で見ました。

●「川辺のほとり」
●「田舎侍」
●「ブラック・スワン」

手元の残っているメモを見るとこうなっているけれど、
この2倍は見た気がします。
こうして映画のタイトルを見ていると、
ラスト3本を除いて、
いずれも以前見たことのあるものばかり・・・
のような気がします。

でも、
映画の時間があったからこそ、
いま、こうして、元気でいられるのかもしれません。

8月
●「グレート・ディベーター 挑戦者たち」
●「クレイジー・ハート」
●「狼たちの午後」
●「プレデターズ」

コメントを付記したいのですけれど、
疲れているのか、気力が萎えていますので、
いずれまたの機会に、と思います。




ご挨拶・・・ブログ転居のお知らせ

2009年04月04日 | ★ご挨拶&その他

早いものです。もう4月。
2009年の3分の1が過ぎてしまいました。
星の瞬きほどもないと言われる人の人生の時間において、あと、どのくらいの映画が見られるのだろうと最近そんなことをぼんやりと思うわたくしです。

さて、4月に入ってからは時間が取れず、観た映画は2本ながら、とても感じ入りました。

   
http://movie.goo.ne.jp/dvd/detail/D111553750.html


http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD30288/index.html

特に、『パピヨン』にいたっては、好きな映画ベスト3に入る程なので、もう数え切れないくらい繰り返し観てきましたが、今般初めて自分の娘と一緒に観て大変感慨深いものがありました。
そして、昨夜観た『バウンド』、ウォシャウスキー兄弟の初監督作品ですが、これも実に面白い映画で、わたくしの知っている女性でこの映画を見た女性で「面白かった」と言わない女性はいないくらい面白い。男性には何故かあまり好評ではないみたいですが、以上の2作品を転居先のブログ巻頭にてご紹介したいと思います。

映画鑑賞の備忘録として始めたここgooブログですが、4月の映画鑑賞作品をアップするにあたり、カテゴリーに「4月の映画鑑賞」を追加しようとしたところ、これ以上カテゴリーを増やせないことが初めて分かった次第です。なので、転居することにいたしました。転居左記は改めてご案内させていただきます。

去年のちょうど春から始めたこのブログですが、備忘録としてブログ未公開のまま整理しかねている映画作品がこのgooブログに数え切れないくらいございます。公開をお約束していながらいまだに果たしていない作品もございますので、時間があるときにそれらの映画はこちらのブログでアップしていくことになるかと思います。ブログ移転後も、ここの映画ブログでご一緒に映画を楽しんでいけたら幸いに存じます。

1年間のご訪問とご愛顧に心から感謝申し上げます。

                             月光院璋子


★2009年3月末の映画鑑賞メモ

2009年03月30日 | ■2009年 3月の映画鑑賞

すでに2本が思い出せません。忘れないうちにメモ。

●「イングリッシュ ペイシェント」・・・http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD30115/

これを見るのは三度目だろうか。見るたびに砂漠の映像が胸に染み入ってくるのは撮影監督のジョン・シールの冴えた感性と腕だと感心させられますし、ラストのピアノが心に染み入るのも音楽を担当したガブリエル・ヤレドのおかげです。けれど、主演のレイフ・ファインズにイマイチ共感できないのは何故だろうと毎回思い、不倫関係にあった人妻の残した日記にもイマイチ共感できず臭さを感じてしまうのは、脚本が本やシーンを象徴的に扱い暗示性を盛り込むという凝り過ぎかなと思われる作りになっているからだと思います。
けれど、不滅の恋愛映画の1本となっているのは、主演のレイフ・ファインズとキャサリンを演じたクリスティン・スコット・トーマスよりも、看護婦役を演じたジュリエット・ビノシュの功績かなと今回改めて感じました。

●「リトル チルドレン」・・・http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD10406/

最近、見る映画がケイト・ウィンスレットが出ている映画が続いているので、それって偶然なのですけれど、面白い発見をしています。彼女のこの映画「リトル チルドレン」での役柄が新作の「レヴォルーショナリーロード」での役柄とほぼあまりに似ていることもあり、演技と同じなので驚かされました。先日見た「エニグマ」での彼女のふくよかさにも驚きましたけど。いつダイエットしたにせよ、すさまじくダイエットしたような変貌ぶりですよね。

●「恋に落ちたら

ロバート・デ・ニーロがこんな役もやっていたとは・・・・いかに冴えない刑事役とはいえ、初心で冴えないそんな中年男役のデ・ニーロと彼が恋に落ちてしまうお相手のユマ・サーマン(マフィアのボスの情婦役)とのキスシーンでは、「デ・ニーロがこんな役をするなんて、気持ち悪い」と娘が顔をしかめておりました。まあ、確かに素敵でな夢を見させてくれるようなキスとは言えないようなもので、気持ち悪いといえば気持ちの悪さがありました。純愛路線のハートながら、高校生には目の毒だったかも。

●「エニグマ」・・・http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD34170/

MI:IIの敵役の彼が主演・・・ダグレイ・スコットの端正な顔立ちがいかにも戦前戦中の男性のお顔という感じでしたが、ケイト・ウィンスレットの体型には驚きました。
本作の見所は、戦争中ドイツが無敵を誇ったUボート攻略につながった、エニグマの暗号をどう解いたかということ以上に、戦争中行われたロシア軍によるポーランド将校数千人の殺戮を知りながらドイツに勝つためにそれを封印した連合国側の国際政治力の恐ろしさにあるかもしれません。内容は、暗号を解くチームに参加することになった天才数学者の主人公が、無線傍受班に勤務していた恋人が突然姿を消してしまった=殺されたと考えるミステリー要素を盛り込んだサスペンスになっています。

●「ボーン コレクター

ラストの音楽が染みましたので、その音楽についてブログで別立てでアップしました。

 

 

★これから観たい映画

●「シッコ」(「SiCKO」)・・・
http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tymv/id327926/

●「グラン・トリノ」(「GRAN TRINO」)・・・
http://wwws.warnerbros.co.jp/grantorino/

●「スクール オブ ロック」(「School of Rock」)・・・http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD36951/

 


「ボーン コレクター」(「The Bone Collector」)の音楽

2009年03月29日 | ◆ハ行&バ・パ・ヴ行

久しぶりに見ました。こういう上質のミステリーは、その内容を半分くらい、というか、結末は覚えていても大事なところを忘れてしまっているころに見ると、新鮮な感じが失われることなく観ることができて面白いですね。

ここのブログでは、映画の内容ではなくて、この映画の音楽を担当しているクレイグ・アームストロング(Craig Armstrong)のことをご紹介したいなあと思いました。
緊張した展開が続いたラストに流れる音楽は、まさにラヴソングであることでも分かるように、本作は惨い連続殺人事件で残される次の事件への予告、その手がかりを追う鑑識の天才との息詰まる攻防戦のミステリーではあるのですが、ある意味、主演のデンゼル・ワシントン演じる刑事、障害を負って寝たきりになっている天才捜査官と彼の配下となって働くことになる青少年課の女性刑事、アンジェリーナ・ジョリー演じるアメリア刑事との間に生まれる信頼と理解と尊敬をベースとした愛の物語でもあります。こういった感想を書いておられる方は、たぶん本作に関してはどなたもいらっしゃらないのではないかと思いますけれど、そのように観ることもできる映画だというのは、音楽で分かります。

そのような絆で育まれる愛情を、グレイグ・アームストロングは音楽で表現して見事でした。この音楽家は、ニコラス・ケイジ主演の「ワールド トレード センター」(2006年 オリバー・ストーン監督)の映画音楽も担当していましたが、本作でアメリア役を演じたアンジェリーナ・ジョリーをスターダムに押し上げたアクション映画『トゥームレイダー2』も彼が音楽を担当しているんですよね。『ハルク』でもそうだったかなと。
まあ、いろいろな音楽を作ろうと思えば作れるのが音楽家だとはいえ、彼の音楽は、作品をただのアクション映画やサスペンス映画では終わらせない構成力があって、主人公ばかりではなく出演者のハートや人生を誇り高いものにしていく壮大さと、私たち観客の心に染み入るリリックなフレーズが印象的だなあと思います。
彼が音楽を担当している映画をいつか、またご覧になられるような機会がありましたら、そういったことも思い起こしてご覧になっていただきたと思いました。

視聴版・・・・こちらで視聴できます。
  ↓
http://listen.jp/store/album_0724381190753.htm


「ウォッチマン」(「WATCHMAN」)

2009年03月24日 | ◆ア行

このところ、感動させたとはいえシリアスな映画ばかり続いたせいか、
肩が凝りました。なので、

 

こういう映画なら劇場で観てもいいなあという気分になりました。
アメリカのコミックにはまったく興味はありませんが、
「シンシティ」の映像が出たときにもそれなりに楽しめたことを思えば、
今度も面白いのではないかと期待してしまいます。

映画の楽しみの一つは、なんと言っても
異世界でひとときを過ごすということがあるので、
(少なくとも、私にとってはそうなので)
こうしたエンターテイメント映画も大歓迎です。
月末が楽しみ!

 

 


★3月下旬の映画鑑賞 メモ

2009年03月24日 | ★ご挨拶&その他

●「私の小さなピアニストhttp://www.cqn.co.jp/mylittlepianist/

●「大脱走」・・・近所のコンビニでDVDが1000円で出ているのを見つけ、懐かしくてまた見てしまいました。ナチと戦った捕虜となった連合軍兵士たちの実話ですが、娘は小さい頃に見た記憶があったらしく、スティーヴ・マクィーンがスイスの国境を二輪で越えるべく走るシーンだけ覚えていたとか。 

 

●「ワルキューレ」・・・娘がいっしょに見たいと言ったとき、「第一次世界大戦とヴェルサイユ体制、そしてナチスドイツが誕生するまでのドイツ史と第二次世界大戦を勉強してからね」ということにしたところ、『世界史』の教科書と参考書を勉強したというので、いっしょに見ることになり、二回観ることになりました。なんだか、ナチスドイツの映画が続いているね、と語った娘。 
★ブログで別立てで取り上げています。 

●「愛を読む人」・・・予備知識なしで、レイフ・ファインズとケイト・ウィンスレットのラブストーリーかと思って見たら、ここでも、またナチスドイツ・・・娘と顔を見合わせて閉口しつつも、ケイト・ウィンスレット演じるハンナの生き様に深く胸を揺すぶられました。http://www.aiyomu.com/
★ブログでご紹介しています。

●「ミュンヘン」・・・http://munich.jp/

スピルバーグ監督の「ミュンヘン」ですが、これを見るのは私は三度目で娘は初めて。「またドイツだ!」と語った娘でしたが、見始めてしばらくしてから、「ミュンヘンオリンピックで、本当にこんなことがあったの?どこまでが映画なの?」と言うので、映画の中に出てくるTVで放映された内容は当時のもので、現実にあった事件だと教えましたら、非常に驚いていました。
その後、「イスラエルとアラブって、どうして殺し合いを続けているのか」と言うので困りました。「聖書を読んだらわかるかも」と言うのがせいぜいですね。ところで、ダニエル・クレイグが出ているのを見て、娘は驚いていましたが、私は、本作でルイという人物を演じていた彼マチュー・アマルリックが、「007 慰めの報酬」でパワーアップしていることに感慨深い思いを抱きました。無論、本作は、エリック・バナの熱演には拍手。

 


「愛を読むひと」(「The Reader」)

2009年03月23日 | ◆ア行

スティーヴン・ダルドリー監督。なので、あのキラリと光る映画、『リトル ダンサー』の映像と、映画『めぐり合う時間たち』のテイストが合わさったような印象の映画でしたが、扱われている内容が重いこともあり、実に心揺さぶられる映画でした。

時は1958年。
街で具合を悪くして嘔吐していた少年に声をかけ、その嘔吐物を片付け介抱する女性。


(マイケル15歳=演じるのは、新人デヴィッド・クロス)


(ハンナ36歳=演じているのは本作でアカデミー賞主演女優賞を撮ったケイト・ウィスレット)

少年は猩紅熱にかかっていました。自宅療養の数ヶ月を経て回復した少年は助けてくれたその女性のアパートに花を持って尋ねます。

ハンナに助けられたことから彼女に恋愛感情を抱く少年マイケル。まさに、ツルゲーネフの「初恋」を思い起こさせられる場面。



少年の年上の美しい女性に憧れる思いや直情、そして戸惑い、その視線が捕らえた女性の肢体の美しさとそこから立ち上ってくる色香が、粗末なアパートの一室に差し込む光の柔らかさと相俟って、この辺りの映像がとても美しかった。

少年は、家族に心を見せない厳格な父親と夫に従順で息子を溺愛する母親という家庭の長男だった男の子から、いま、大きな一歩を踏み出そうという年齢に差し掛かっていたとはいえ、思春期の”春の目覚め”をまさに迎えたわけです。

この意外な展開に驚きますが、少年の”春の目覚め”に対して惜しみなく我が身を与える年上の女性というのではなく、粗末なアパートに住み暮らしながら30台半ばの独身女性が一人で働いて生きている・・・・1958年に30台半ばなら終戦の1945年には20歳ころで、戦争中はまさにこの少年と同じ15歳だったことになります。



この女性は終戦後の焼け跡と化したドイツ、あるいは他のどこかであれ物資もなく混乱期の中をどうやって一人で生きてきたのか・・・・それを思わざるを得なかったですね。家族や恋人は戦争で亡くなったのか、あるいは収容所で亡くなったのかと。いま、電車の車掌という仕事について一人で必死に生きている・・・
戦争中何も失うことなく生きていられた人間はいないはず。そうした時代を生きてきた女性だから、まるで余裕はない。少年のまっすぐな視線を浴びて何かが緩んだのでしょうか。相手が少年だからこそ緩んだのかもしれない。

ほどなく二人は年齢差を越えて恋愛関係になるのですが、セックスの前になぜかマイケルに本を朗読してもらいたがる女。朗読してもらうといかにも幸せそう。もしかしたら、文字が読めない?と観客は思いますが、彼女に嫌われたくなくて何も聞かないマイケル・・・
マイケルを演じている若手は、デヴィッド・クロスという俳優ですが、とても良い。

名前も知らないまま逢瀬を繰り返す二人。ある日、マイケルは彼女の名前を尋ねます。名前を聞かれて驚きながらも、彼女は「ハンナ」と答える。そして、母親のように年上の彼女は、マイケルを”ボク”と呼ぶ・・・・こうして二人の奇妙な関係が続いていきます。



過去に何か大きな傷を持つらしいハンナは、自分のことを何も語らず、マイケルは彼女を一度怒らせてしまったことで、以後、二度と彼女が望まないことはしない。彼女を失ったらもう生きていけないと思えばこそ怖くて出来ないのです。
彼女が喜ぶ朗読に自分の務めでもあるかのように実直に行っていく・・・ある日、「チヤタレー夫人の恋人」を朗読したとき、「その本はいや」と朗読をやめるよう語るハンナ。顔を上げると、「その本は下品だわ」と答えるシーンが印象的。それからというもの、マイケルはハンナが喜びそうな本を賢明に探しては彼女にそれらの本を朗読していきます。そんなマイケルの表情は喜びであふれ、他の少年たちとはかなり違うけれど、まさに甘酸っぱくて夢のような青春。そして、ハンナにとっても初めての青春時代・・・であるかのようで、二人のショットはみずみずしい。
1958年という画面に出た年代とハンナというドイツ名からしてナチスやユダヤ人収容所での体験を持った女性だろうかと直感しますけれど、彼女は何も語りません。
いつも部屋の中での逢瀬ですが、マイケルは彼女をピクニックに誘い出します。躊躇しつつも出かけるハンナ・・・・立ち寄ったレストランで「お母様と一緒にピクニックだなんていいわね」と言われるマイケルは、「はい」と答えた後、その店員の見ている前でハンナに恋人としてのキスをするシーン、ここも印象的でしたね。

このピクニックに二人で出かけるシーン、二人の人生の中で一番幸せで輝いていた日だったかもしれないですね。

いつもいっしょに過ごしていた二人でしたが、マイケルに新しい季節がやってきます。新しいクラスメイトたち、同年齢の女の子、友人たちが祝う彼のバースディ・・・・けれど、マイケルはハンナのアパートに駆けつけます。けれど、朗読の声の調子で彼の心がそこにないことを悟ったハンナ。「今日は、僕のバースディなんだ」と泣きそうな顔をして語るマイケルに、毅然とした声で「友人たちの祝うパーティに戻りなさい」と語るハンナ。
若いマイケルの今後・・・・彼の将来を考えハンナは彼の元から姿を消します。マイケルは衝撃を受けますが、探す術はありませんでした。



やがて大学生となり法学部に進んだマイケルは、少人数しか受講しない教授の講義を受講することに。その教授を演じているのは、なんとブルーノ・ガンツ!ドイツの誇る名優ですね。



彼は、教室で講義する代わりに学生たちを引き連れて戦後に長年続けられたナチスドイツの戦犯裁判に出かけます。

そこで、マイケルは思いもかけないハンナの名を耳にし衝撃を受け体が動かせなくなる。法廷に立たされていたのは、ナチスの収容所で監視員をしていたがためにその罪を告発されている女性たちでした。法廷で、収容所のことが次々に告発されていく中で、罪を否定し収容所での罪を擦り付け合う女性監視員たち。そんな中にあって、ただ一人良心の苦悩を抱え良心に基づいて正直に過去と向き合おうとして法廷に立っているのがハンナでした。

収容所で生き残った証人が女性監視員たちを告発を続ける中、あるユダヤ人の女性は、ハンナだけは他の監視員たちとは違ったと語ります。


(裁判で原告側の生き証人となる女=演じるのはレナ・オリン。彼女は、母娘の親子二世代を演じていますので、それも見ものですね)

けれど、この証言でハンナは他の元女性監視員たちから憎まれる。彼女たちは殺人共謀罪として裁かれようとしますが、ハンナこそが一番の責任者だったと罪をなすり付けられ、ハンナは窮地に立たされます。事実をありのままに語ってきたハンナはもとより自分の罪を認めています。ほかにどうしようもなかったとはいえ、囚人たちの”選別”をし、”選別された囚人たちはアウシュビッツに送られたのだ”から。けれども、”選別”の責任がハンナにあったと叫ぶ元同僚たちの挙げた証拠の文書と署名を見て、なぜかハンナは彼女たちの言い分を認めることを選びます。それは、死刑かよくて終身刑を意味する選択でした。

傍聴していたマイケルはハンナの状況を直感します。その書類は偽造だと。なぜならハンナは文字が読めず書けないからだと。マイケルは教授に、「被告の一人のことで有利な新証拠があります。彼女の減刑につながるような新証拠です」と相談すると、「君はその被告を知っているのか」と訊ねられ、思わず、「知らない人ですが」と答えるマイケルに教授の言葉は意味深でした。
やがて、マイケルはハンナの減刑をかけて証人として立とうとしますが、直前になって一人裁判所を後にします。



僕の行為を誇り高い彼女は喜ばない・・・・・それどころか、彼女は僕を憎むだろう。彼女は良心の声に従い他の人間はどうであろうと自分の犯した罪に対して贖罪の人生を送ることを選んだのだから。やがて、判決が言い渡される日がやってきます。傍聴席で見守っていたマイケル=デヴィッド・クロスの表情には、心が揺さぶられました。クラスメートや教授がいることも忘れて涙を流すシーン・・・・ヒース・レジャーに似ていると感じたのは私だけでしょうか。
そこのシーンは、是非映画をご覧いただきたいと思います。判決のその日、ハンナはかつての収容所での仕事だった囚人たちの監視員の服を来て法廷に立ちます。ナチめ!という罵声の中、判決が言い渡され、ハンナだけが殺人罪で裁かれるのです。

それから月日は流れ・・・



大人になったマイケルを演じているのがレイン・ファインズですが、はまり役のように見えて、実はハンナのような女性を愛した男性としてはイマイチ違和感が残りました。あまりに繊細すぎるせいかもしれません。


(大人になってからのマイケル=演じるのは、レイフ・ファインズ

輝かしい人生を送るはずだったマイケルの人生・・・・法学部でいっしょだった女子学生と結婚し娘をもうけていました。

けれど、結婚生活を破綻させ離婚し、誰にも心を開けないまま人生の時を重ねていたのです。

そんなマイケルが海外に留学していた成人した娘と再会し、両親の離婚と母親の生き方に否定的なために心を開けないままだった娘の苦しみを前にして、自分こそが心を誰にも開かずにきたのだと悟るのです。


(後年のマイケルの娘を演じているのは=ハンナー・ヘルツシュプルング)以前ここのブログでもご紹介しましたが、あの映画『4分間のピアニスト』の主演女優です)

「パパがずっと私と向きあってくれないのは、わたしのせい」と語り、愛を得られないできたのは自分が悪いからだと自分を責め続けてきた娘の孤独。だからこそ親から離れたところに行きたかったと語る娘を前にして、「悪いのは私の方だ。これまで自分の心を誰にも開かないできたパパの方だよ」と。数十年経って、初めてマイケルは自分の父親のように家族に心を開かなかった父親と自分が同じであったことに気づくのです。そして、どんなに娘を愛していたか。そして、ずっとずっと忘れられないでいた女性を思う自分の心を、マイケルは解き放っていく・・・・そうして、マイケルはあることを決心します。

それは、監獄の中にいるハンナに向かって本を朗読したテープを送ることでした。

彼は失った人生を取り戻すかのようにハンナにテープを送り続けます。何年も何年も・・・・・



刑務所の中のハンナはそのテープが誰から送られてきたものかを察し、何度も何度も聴きながら年を重ねていきます。そして、ある日、刑務所の中の図書室から借り出し、テープの音を聞き取りながら一音一音指で数え、本の単語の文字と照らし合わせ、これが文字なのだと発見していく・・・・



文盲(もんもう)だったハンナの世界に光明が差してきた瞬間でした。

この場面、胸が熱くなりました。文字が読めるということが人間にとってどんなに大きな意味をもつか思い起こさせられる場面です。三重苦のヘレン・ケラーが、water という言葉を発見した瞬間を思い出させられますね・・・・

そうして月日は流れ、ある日、テープに日々本を朗読し録音していたマイケルの元に一通の手紙がきます。



それは、たどたどしい文字で書かれたハンナから”ボク”へのお礼の手紙でした。
さらに驚くべき電話がマイケルの元にかかってきます。
その電話はハンナの釈放の知らせでした。

原作を読んでいないので、この映画のテーマをどう考えていいのか悩んだのは、本作のこの後の展開に違和感を感じさせられたからかもしれません。なので、本作のご紹介はここでやめておきます。


★2009年3月中旬の映画鑑賞メモ

2009年03月22日 | ■2009年 3月の映画鑑賞

見終えた順にどんどんアップしていきますが、個人的な備忘録(目安としては3/9~3/20までに見た映画のメモ)なので、内容及び感想は別立てで順次アップの予定です。

●『28日後』http://info.movies.yahoo.co.jp/detail/tymv/id241372/

ウィル・スミス主演、監督フランシス・ローレンスでのゾンビ吸血鬼の出てくるSF映画『I Am Legend 』は、この映画のパクリじゃないかと思ってしまったほど。ゾンビ吸血鬼よりずっとスリリングで、面白かったです。R-12映画なので、お子様には見せてはいけませんね。

●『28週後』http://movies.foxjapan.com/28weekslater/

子供の姉弟が出づっぱりで出ているけれど、R-15指定映画なので、こちらも中学生は見てはいけません。大人になってかたの楽しみに取っておきましょう。ロバート・カーライルが主演級で妻にはキャサリン・マッコーマックといった二人をはじめハロルド・ペリノー・ジュニアも重要な役で出演しているのでびっくりしてしまいました。ホラー映画がお好きな方にはかなりおススメの映画かも。

●『マッケンナの黄金』http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD8436/

グレゴリー・ペッグとオマー・シャリフが出ているので、懐かしさのあまり、というか、つい見てしまいました。西部劇としては全然面白くないけれど、あの時代によくこれだけの地震映像が撮れたものだと改めて感心のラストですね。

●『ファイナル ファンタジー』(『Final Fantasy:The Spirits Within』)
好意的広報サイトhttp://kodansha.cplaza.ne.jp/broadcast/special/2001_08_29/content.html#02

技術にはびっくりでした。出演=人造人間映画といってもいいくらいで・・・・この映画は画像を満載してお届けしたいと思います。

●『ドレスデン 運命の日』http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD10437/

ナチスのロンドン空襲を思えば、イギリス空軍によるドレスデン空爆はその復讐。アメリカ軍による日本の各都市に対する無差別空爆もそういう意味では「リメンバーパールハーバー」という理由がある。けれども、この英米軍によるドレスデン大空襲と東京大空襲はどちらもジュネーブ条約違反のジェノサイドであることを今更ながら想起させられます。けれど、戦争は勝った方が官軍。英米共にジェノサイドを行った罪はいまだに不問にされたままです・・・

●『この道は母へと続く道』http://eiga.com/official/konomichi/

いい映画でした。ブログで別立てで取り上げたいと思います。

●『City By The Sea』(邦題『容疑者』)
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD34003/index.html

久しぶりにまた見てしまいました。ジョーイを演じているジェームズ・エドワード・フランコ、凄まじい役作りだと何度見ても思いますが、デ・ニーロと相方のフランシス・マクドーマンド、存在感が大きいと改めて感じますね。ラストのジェームズ・フランコを見ると泣けますが、彼がショーン・ペンと共演したアカデミー賞受賞の映画『ミルク』(原題『Milk』)、まだ見ていないんですよね。

●『The Score』(邦題『スコア』)
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD33808/

ロバート・デ・ニーロの特集が組まれていたのかもしれません。深夜映画を見ようと思ったら、たまたまデ・ニーロの出演作が続いていた次第です。この映画、何回観たか分からないくらいですが、5回は観ているかなと。忘れた頃に観ると、やはり面白い。

●『チェンジリング』(『Changeling 』)
http://www.changeling.jp/



PC不調が改善されましたなら、アップいたします。

●『ワルキューレ』(『Valkyrie』)
http://www.valkyrie-movie.net/

個人的には、なぜ、いまこの映画なのかと首をかしげてしまいました。邦画で「2・26事件」が製作されるたびに感じたときの思いと似ています。(無論、双方の内容はまるで違いますが)
別立てでアップいたしますので、いましばらくお待ち下さい。

●『ダイアナの選択』(『The Life Before Her Eyes』)
http://www.cinemacafe.net/official/diana-sentaku/index_pc.html

かなり面白く見ました。別立てでアップいたしますので、いましばらくお待ちいただきたいと思います。

●『博士が愛した数式』http://hakase-movie.com/

すでに多くの方がご覧になっていらっしゃる邦画だろうと思いますので、好きなシーンを主にアップしてゆっくり味わってみたいと思っています。

●『江島生島』
(1971年東京12チャンネルTVドラマ・有馬稲子・片岡孝夫主演)

 

DMMでレンタル中ですが、連続ドラマなので長いのです。いま、第八話まで観終えましたが、続きがまだ届きません。全て見終えましたら、アップしたいと思っていますが、カメラの調子も不調のため、画像がアップできるかどうか・・・・・


『ワルキューレ』(『Valkyrie』))・・・(2)

2009年03月22日 | ◆ワ行

お待たせしました。(1)に失念していたケネス・ブラナーの画像を追加して更新しましたので、そちらを眺めていただいてから、この(2)をお読みいただければ幸いです。 

この映画に限りませんが、ヒトラーのナチス映画をご覧になる場合、やはり押さえておかなければならないのは、どうしてこのような人物が独裁者になれたのか。世界一平和主義的な憲法と称されたワイマール憲法を持っていた当時のドイツで、どうして独裁体制が合法的に生まれたのかという歴史を踏まえないと当時のドイツ国民やドイツの軍人の心理や行動を理解できないのではないかと思います。
映画をご覧になる方は(特にお若い方は)、世界史の中における第一次世界大戦とその後のヴェルサイユ体制というものを思い出してほしいです。いま、学校でどのように教わっているのかわかりませんが・・・・ヒトラーは合法的に第一党の党首となり、ヒンデブラント大統領亡き後はその権限を合法的に委譲されて総統となり、若者を中心に熱狂な支持を受けて権力の頂点に上ったわけです。そして次から次と出された彼の多くの政策は多くの国民から支持されていくわけです。どうしてなのか、是非第一次大戦の戦後処理として締結されたベルサイユ条約の中身とその後のドイツの状況を勉強してほしいと思います。このような未曾有の死者を出した歴史を繰りかえさないために・・・・

さて、映画「ワルキューレ」のご紹介の後編です。

ワルキューレ作戦・・・・、それは、ヒトラーの親衛隊であるSSの中から造反者が現れてヒトラーが暗殺され(死亡し)たという状況を作り、その直後に放送網を押さえ、ベルリンに無傷のまま残っているベルリン防衛のための軍隊を掌握してヒトラーの側近たちを一網打尽にするというクーデター作戦です。
それが、いよいよトム・クルーズたちによって始動します。

そのためには、ヒトラーたちのいる後方の参謀本部に誰かが出かけて爆発物を仕掛けるわけですが・・・万一爆発する前に露見したら、その者の命はありませんし、その人物は、ただ処刑されるのではありません。当然SSによって仲間の名前を吐かせられるべく拷問されるわけです。そのような使命を果たせるのは、軍人しかいない・・・・なぜなら、そもそも、ワルキューレ作戦というのは、政治が背後にあっての軍事行動作戦だからです。そして、ヒトラーの作戦会議に同席できるのもまた高級軍人です。

ということで、片腕片目の体の不自由なシュタウフェンベルク大佐=トム・クルーズと彼の副官である青年、ヴェルナー・フォン・へフテン中尉=ジャイミー・パーカーが厳重な監視体制化の参謀本部に爆発物を仕込んだ鞄を持っていくことになるのですが・・・

後方に大佐の指示通りに動く人物がいなければならない。臆病風に吹かれて決断が鈍るような人物や臆病風に吹かれて行動に踏み切らない人物がいたら、このワルキューレ作戦は失敗する。トム・クルーズに新任されたこの人物、メルツ・フォン・クヴィルンハイム大佐はそのことを誰よりも知っていた。彼を演じているのは、クリスチャン・ベルケルという俳優で、映画『ヒトラー最後の2日間』にも出演していた俳優で、寡黙ながら存在感が凄い。

緊張した面持ちで検問を通過して作戦本部に来たはずの大佐たちが、会議もそこそこに、「総統の密命を受けたたので、急ぎ出発する」と語って検問を後にするも、そのような大佐たちの行動を訝しく思うSSの隊員・・・・直後に作戦会議室が爆発する!

一方、ベルリンでは、爆破成功の知らせが届くも、ヒトラーの死が確認できない限り行動は起さないという面々が出てきて、一人窮地に立たされるメルツ・フォン・クヴィルンハイム大佐。

ワルキューレ作戦は、そもそも、総統に万一のことがあったときにその作戦を指導させることが出来る権限を有する立場の人物も特定されている作戦です。その作戦をクーデター用に書き換えたのが、トム・クルーズ・・・・
クヴィルンハイム大佐は、その発動権を持つ(1)で紹介したフロム将軍に代わって作戦を始動させます。

待機命令を受けたベルリンの予備隊の隊長は、その命令を訓練か何かだと判断しつつ、隊員を集めます。この命令に対して非常に忠実で有能な軍人を演じているのは、トーマス・クレッチマン。ドイツを代表する俳優の一人ですね。

まるで、テレビで放映されるピョンヤン前の北朝鮮軍みたいです。

ヒトラーの作戦本部が爆破されたという知らせを受け、あの総統が・・・と愕然とするオルブリヒト将軍・・・・

あの連中、とうとう本当にやってしまったのか!
しかも国内予備軍の総司令官であるフロム将軍に代わって、自分の部下のクルヴィンハイム大佐が指導命令を発令したことを知り、恐れおののくオルブリヒト将軍・・・・俺は関係ない!俺はこの暴挙に関わってなど
いない!本当にヒトラー総統の死が確認されるまでは何もしないぞ!と口にします。金縛り状態です。

ヒトラーのカリスマ性というか、いかにヒトラーが軍人たちにさえ恐れられていたかということですね。

急ぎベルリンに戻ったトム・クルーズは、こうしたことで、作戦に狂いが生じていたことに驚愕します。ワルキューレ作戦を5時間から3時間に短縮させたというのに、何も行動されていなかったのですから、無理もありません。けれど、勝負はまさにここから!まだ間に合う!

彼は勝負に出ます。ヒトラーが死亡しワルキューレ作戦を始動すると職員たちに発表し、皆で力を合わせてワルキューレ作戦に取り掛かります。このとき、臆病風に吹かれて行動しなかった政治家の同士だけではなく、同じ職場で働いていた末端の部下たちの中にドイツの未来を託して行動しようとする同士たちがこんなにもいたのかとトム・クルーズは驚かされるんですよね。まさに、クーデターを成功させるには、一般の人たちの支持と協力があってこそなのだということでしょうか。

こうした一般の声なき声を持っている職員たちが「羊」ならば、高級官僚たるSSは、まさに「狼」となりましょうか。不気味な表情を浮けべていたSS・・・これまでも同様のクーデターを未然に防止してきた彼らは強敵です。

SSは、本当に怖いです・・・ベルリンで指揮を取るトム・クルーズ、次々と作戦を成功させていきますが、そこに入った情報は、トム・クルーズたちの反逆の知らせ。そして、ヒトラーは無事であるという一報でした。まさに「情報を制するものが戦いを制する」となる。

ヒトラーは死んだという知らせと、ヒトラーは無事だという知らせが二つ入った広報部は驚愕しますが、「どちらであれ、正しい側につくべきだ」と語る部下たち・・・・。当時の「正しい側」というのは、ドイツの救世主として政治に腕を振るった第三帝国の総統、ヒトラーの側に付くということに他ならなかった、そういう役人たちがどこの部署にもいたわけです。そして、往々にしてこうした小さなところで歴史の歯車は向きを決定される・・・・

かくして、実戦部隊を束ねるオットー・エルンスト・レーマー少佐の下にも、二つが同時に届くのでした。

「ヒトラー総統は死んだ。ただいまよりワルキューレ作戦を始動せよ。造反したSS本部を押さえ、それに手を貸した大臣と高級官僚たちを一網打尽にせよ」

「ヒトラーは無事である。生きている。爆破を仕掛けた実行犯シュタウフェンベルク大佐と首謀者一味を一網打尽にせよ」

 


『ワルキューレ』(『Valkyrie』))・・・(1)

2009年03月22日 | ◆ワ行

3月11日にアップする予定が今日になってしまいました。その間お越し下さった方へのお詫びとして画像を多めにサービスさせていただきます。

赤に白抜きの円形の中に黒のカギ十字・・・・わたくしなどこの旗を目にしただけでぞっとする一人ですが、それは心あるドイツの方達も同じだろうと思います。第二次世界大戦後に東西に分断されたドイツがたゆまぬ忍耐と忍耐強い巧みな外交戦術によって再び統一されたのは1990年。実に55年もの歳月を要したわけです。最近になってやっとドイツでもヒトラーのナチスを歴史的に検証することができるようになってきたように思われますが、それでもドイツの国民にとって”ナチスドイツ”と”ヒトラー”は民族的タブーになっているのではないでしょうか。

この映画は、そのナチスドイツ支配下におけるドイツの状況、ゲシュタポを始めとしてヒトラー総統の下に展開された官僚組織の恐ろしさを理解しないとよく分からないかもしれません。恐ろしいのは、独裁者個人ではなくその独裁者の下に形成される官僚組織や軍組織に組み込まれた人間たちであり、人間をそのように退化させる独裁国家の組織というモノなのだと思わずにはいられない映画でした。

監督:ブライアン・シンガー
主演:トム・クルーズ

なので、実にサスペンスフルな映画で、アクション映画と呼んでいいのかという思いがあります。いわゆる娯楽性としてのエンターテイメント性は決して高くはない映画。何と言っても実話なので結末は分かっているのですから。
★⇒http://www.valkyrie-movie.net/

以下、ドイツで歓迎された本作「ワルキューレ」を眺めていきたいと思います。時代は、終戦となる2年前頃のドイツですが、映画冒頭はいきなりアフリカ戦線。英米空軍の猛反撃に対して前線を知らないベルリンのお馬鹿官僚たちの作戦で苦戦するドイツ軍・・・・

トム・クルーズが演じるのはシュタウフェンベルク大佐。彼は、ヒトラーに忠誠を誓った全てのドイツ軍人の一人ではあるけれども、いまやヒトラーのドイツ国家のためではなく、愛する祖国ドイツのために戦っている兵士の命を一人でも救いたいと思う軍人でした。
映画のこの冒頭で彼が、そういう考えの持ち主であるためにアフリカ戦線に左遷されたたこと、彼の「自分は祖国のために戦っているのだ」という思いが示されれます。ヒトラーやその側近の太鼓持ちで保身に汲々としているベルリンの官僚たちとは違うという思いがここで言下に語られているわけですが、彼のそうした考えに対し上官である将軍が理解を示すところから、映画は始まりますが、そこにいきなりの敵機来襲!激しい銃撃戦で、トム・クルーズはご覧のような状態に・・・・

やがて、本国の病院に運ばれるも、彼は片方の視力と片腕を失った名誉ある軍人となります。

そんな軍人の凛とした妻ニーナ役を演じるのは、映画『ブラックブック』で同じナチスドイツの恐怖の中で生き残ったユダヤ人女性を演じたカリス・ファン・ハウテンで、ほとんど男性ばかりが出てくる中での紅一点。緊張感を増すのに大いに存在感を示したと言えると思います。最初は、『ブラックブック』と重なって見えましたが、あの当時よりははるかにしっとりした大人の女性でした。



大佐たちのヒトラー暗殺クーデター計画を知りながら、どっちつかずの態度で勝ち組に乗ろうと考える性格のフロム将軍(ベルリンの国内予備軍を統括する将軍。立場上も実にスリリングでキャラクターもスリリング。演じているのは、トム・ウィルキンソンではまり役でした。

彼の副官のオルブリヒト将軍もまたスリリング!

演じているのは、ビル・ナイ。実にはまり役で最後の最後までハラハラさせてくれる人物の一人を確かな演技で好演していました。

この映画が実にサスペンスフルに仕上がっているのは、ドイツの敗戦が濃厚になってきた時期が背景のためもありますが、登場人物達がどっちに転ぶか分からないような人物を俳優たちが実に見事に演じていたからだろうと思いました。本作が成功しているとしたら、キャスティングの見事さだと言っていいのではないかと。

ベルリンに戻ったシュタウフェンベルク大佐は、名誉の負傷で出世しますが、敗戦濃厚な祖国の未来を真剣に憂える気持ちもまたいよいよ強くなっていく中で、彼はある秘密の集まりに招かれます。



そこで、今度こそ成功させなければこの国に未来はないとヒトラー暗殺のクーデター計画を知らされるのですが、気持ちは同感でも彼らに計画実行に必要な勇気が本当にあるのか!?
イマイチ懐疑的なシュタウフェンベルク大佐に、テレンス・スタンプ演じる陸軍参謀総長のルードヴィッヒ・ベックは彼に失敗しない計画を立てるよう要請します。クーデターが成功した場合、彼が新国家元首代行となり、連合軍と停戦の合意をするために尽力すると誓うベック。
これまで何十回と計画されたヒトラー暗殺計画は全て失敗に終わっているだけにメンバーの危機感は相当なレベルにまで達しているのでした。

映画冒頭でトム・クルーズがアフリカ戦線で負傷した頃、ベルリンに帰るヒトラーとその取り巻きの側近たちの乗る飛行機を爆破させる作戦が遂行されますが、

冒頭から、緊張の連続と言っていいでしょう。

観ているこちらも否が応でも緊張させられる場面が多い中で、こうした同志たちが集う場面は一番緊張させられました。

こうしたクーデターの密談の場面というのは、やはり緊張させられます。祖国を憂え、ヒトラー以外のドイツ人がいること(いたこと)を世界に示そうという思いとはいえ、クーデターというのは失敗すれば命を奪われるだけではなく反逆者の汚名を着せられるぎりぎりの選択だからでしょう。

飛行機を爆破させる閃光作戦が失敗し、仲間たちから批判されるトレスコウ小将という人物を演じていたのは、ケネス・ブラナー

彼はこの作戦が失敗した後、前線に送られますが、彼の場合は時期が偶然重なったものですが、この時期のドイツでは少しでもヒトラー体制に対して批判的な思いを持っていると嗅ぎ付けられると、SSによって捕らえられたり、証拠がない場合は左遷(前線で死亡することを期待)されるのですから、独裁者の下での官僚ファシズム体制と、それを支える権力中枢にいる秘密警察というのは、実に恐ろしい・・・・

帰国し我が家に戻ったシュタウフェンベルク大佐の邸宅と家族たちをシーン・・・ここを見ていると、彼がドイツ貴族の名門の出であるがゆえに正真正銘の愛国者であり、また人間的にも優れた教育を受けてきた人物であることが彷彿させられます。良き軍人にして良き夫であり良き父親であり良き家庭人でもあるシュタウフェンベルク大佐・・・・家族とのシーンはワンシーンだけですが、

5人の子供たちの中で一番年少の娘のこの無辜な様子は痛々しいほど・・・・

なぜなら、もしクーデターが失敗した場合、自分だけではなく家族の命もない・・・銃殺されないまでも収容所送りとなるだろうことをおもえば、心が恐れに慄かないはずがありません。
けれど、決心を妻に伝えたとき、



妻ニーナの短い返事は見事な返事で・・・・全てを理解し受け入れるものでした。夫を愛し尊敬し信じればこその強さを垣間見させられました。戦前の日本女性同様に戦前のドイツ女性も強かったんですね。貴族という立場にあった女性たちの全てがこうだったとは思わないけれど、本当のエリートというのは、このように常に死を覚悟できる強さがある男性と女性の事をいうのだと改めて思いました。
そのときに流れるのが、ワーグナーのワルキューレ・・・・

SP盤のこのレコードが画面に大写しになったとき、トム・クルーズ=シュタウフェンベルク大佐の中で、ヒトラー暗殺の失敗が許されない計画が進んでいくのでした。

シュタウフェンベルク大佐の副官として、
赴任してきたのはこの若きヴェルナー・フォン・へフテン中尉。

演じているのはジェイミー・パーカーという俳優ですが、なかなか良かった!です。トム・クルーズの思い込みの激しい熱血漢ぶりとは対照的ながら、そんなヴェルナー・フォン・へフテン中尉を好演していたと思います。へフテン中尉もまたも貴族の出身で、副官としてオフィスに着任早々の彼を凝視して語ったシュタウフェンベルク大佐の挨拶がふるっていました。

「わたしはヒトラーを暗殺するつもりだ」

といきなり語る場面・・・・

これにはへフテン中尉ならずとも度肝を抜かれるでしょう。
けれど、ここで出来た信頼関係で、以後へフテン中尉は最期までシュタウフェンベルク大佐と行動を共にしますが、映画は実にテンポが速い。

観終えたときに、敗戦間際のナチスドイツでこうして命がけで国の未来のために勇気ある行動に殉じた青年がいたことに胸が熱くなりました。彼の行動は信じられないほどの勇気がないと出来ないものですが、その行動がどれだけ勇気を必要とするものか、それをジェイミー・パーカーはしっかり演じて見せてくれたように思います。へフテン中尉の行動は見事なほどに静かでした。さすがに貴族として育った青年で道徳的に優れた心性を持つ青年なのだと。きっと実際の副官中尉もこうだったのでしょう。
同類はお互いに分かり合うといった場面です。

日本の2.26事件というクーデターが、貧しい東北出身の将校達だったことと対照的だと思わざるを得ませんでした。

かくして、敗戦間際にヒトラーを暗殺するしかドイツの未来はないと考えて行動を起す「ワルキューレ」作戦が始動しました。
続きは、(2)でアップしたいと思います。

以下はご参考までに。
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